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放課後となり、いつものように散歩に出かける蜜愛の姿があった。
ただ、いつもと違う部分がある。
それは隣にゆゆが並んでいることだ。
「んじゃ、行きまっしょい!」
「う……うん……」
気のない返事を返す蜜愛に、ゆゆは不満顔。
「なによ、元気ないわね! そっか、パワーが足りないのね、わかった! えい、おっぱ~!」
ゆゆはすかさず背後に回り、毎朝の行動と同じように蜜愛の胸を揉みしだく。
「あんっ! ちょっと、ゆゆちー! 朝じゃないのにその挨拶はおかしい~!」
「だったら……こんにちくび!」
「ぎゃうっ、攻撃力が上がった!?」
朝だけでなく、昼間でもおかしなふたりだった。
「それにしても……」
散々胸への攻撃を繰り返したあと、いつものように飽きたゆゆが、少し離れて蜜愛の全身をじとーっと眺める。
「な……なに……?」
「ひらひらした可愛らしいワンピースにフレアスカートなんて、気合い入りすぎじゃない? 完全になんとかさんとやらを誘惑する気満々でしょ」
「そ……そんなことないよ~! っていうか、なんとかさんじゃなくて、沙羅さん!」
「もうひとりのワイルドなほうかもしれないのに、そっちの人の名前が出てくるなんて、意識してる証拠でしょ?」
「違うよ~!」
「どうだか!」
なにやら、やけに突っかかってくるゆゆ。
友人である蜜愛が奪われてしまうとでも思ったのだろうか。
「そういうゆゆちーは、どうしてジャージなの?」
「そりゃもちろん、にっくき外国人三人組を撃退するためよ!」
「ちょ……ちょっと~! 絶対やめてよね、そんなこと! とくに沙羅さんには!」
「ほほ~う? やっぱりそいつだけ特別?」
「違うってば~! 瑠璃月さんはゆゆちーなんかに負けないと思うし、レオさんはべつにどうでもいいってだけよ~!」
「……あたしは、逆にそのレオさんって人が気になり始めてきたわ」
「えっ!? ゆゆちー、ワイルド好き!?」
「そうじゃなくて! 瑠璃月さんにも足蹴にされるって言ってたし、どんな扱いなんだそいつ、って感じよ!」
「ありていに言って……筋肉バカ?」
「それはひどすぎだろ……」
そんな会話を続けているあいだに、今日は近所にある小学校のそばまでやってきた。
ここで満を持して、というのもおかしいだろうか、まるで待ち構えていたかのように、くだんの三人が姿を現す。
「やぁ、ゴッド……じゃなくて、蜜愛さん、こんにちは! ……あれ、そちらは?」
沙羅双樹はいつもながらの爽やかさを伴って挨拶の声をかけ、続いて隣にいる見知らぬ女の子へと目線を移した。
他のふたりも、ゆゆを訝しげに見つめている。
「あぁん? なんだ、このジャージ女は!」
「ちょっと、初対面の人に対して失礼でしょう?」
ゆゆを睨みつけながら怒鳴り声を上げる獅子春人には、当然のごとく瑠璃月からの尻蹴りが飛んでいた。
とはいえ獅子春人の失礼な言葉は、当人の耳に届くことはなかった。
というよりも、届いても完全に耳から耳へと抜けてしまっていたと言うべきか。
見れば、ゆゆは明らかに好奇の視線をある一点――沙羅双樹の顔へと向けていた。
両手を胸の前で乙女チックに組み、目もランランと輝いて、マンガならハートマークになっているような感じだった。
「ゆゆちー……もしかして……」
「はう~ん、なんてカッコいい殿方♪」
「殿方って……」
蜜愛は呆れを含んだため息をこぼしながらも、ゆゆがいきなり三人に殴りかかったりしなくてよかったと安堵していた。
ともあれ、状況的にはどうしても普段とは変わってしまう。
ここ最近はいつも、沙羅双樹たち三人といろいろお喋りをしてイマジネーションを高め、小説に書く内容を想像してきたわけだが、今日はそうもいかなかった。
ゆゆは沙羅双樹に積極的に話しかけ、激しくスキンシップを繰り返している。
手を握ったり腕やら肩やらにタッチしたりなどはまだ可愛いもので、必要以上に体をくっつけ、腕を絡めたり足まで絡めたり。
豊満な胸すら惜しげもなく押し当て、意識的になのか無意識なのかはわからないが、女の武器を存分に発揮していた。
さらには顔も異常なほど密着させ、喋るたびにゆゆの吐息が沙羅双樹の前髪を揺らす。
ふとした拍子に唇同士がくっついてしまうのではないかと、見ている蜜愛のほうが顔を真っ赤にするほど、至近距離からの吐息攻撃を繰り広げていた。
ゆゆが相手にしているのは、完全に沙羅双樹ひとりだけ。
ならば蜜愛は他のふたりと話せば、いつもとさほど変わらずに小説のアイディアを生み出す会話を楽しめるはずだ。
しかし、目の前で友人のゆゆとイケメン男性である沙羅双樹とのラブラブなシーンが展開されていては、そちらに目が行ってしまうのも当然と言えるだろう。
もっとも、ゆゆと沙羅双樹の状況をラブラブと呼んでのか、はなはだ疑問ではある。
確かにゆゆは、完全に沙羅双樹に惹かれていると断言できる。
だが沙羅双樹のほうは顔を赤く染めることすらなく、なにがなんだかわからないといった感じで首をかしげるばかりなのだから。
蜜愛やゆゆは外国人だと思っているが、この三人は実際には宇宙人なのだ。
精神構造がまったく違っていたとしても、なんら不思議はない。
沙羅双樹と獅子春人が男性で、瑠璃月が女性だというのは事実のようだから、恋愛感情的なものは持ち合わせていると考えられる。
それでも今の姿は、おそらく地球人に合わせて変身しているだけの仮の姿。
ゆゆがいくらモーションをかけようとも、胸を高鳴らせることなどないのかもしれない。
そんな様子を、蜜愛は黙ったまま眺めていた。
そして手帳に次々と文字を書き連ねていく。
どうやら次の小説の更新分は、目の前で繰り広げられている友人の状態をもとにイメージされた内容になりそうだ。




