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翌日、蜜愛はいつもどおり通学路でゆゆと合流、「おっぱ~!」の挨拶とともに胸を揉まれたあと、ブログの小説についての話をした。
前日の夜にアップした小説を、ゆゆも珍しくすぐに読んでいたらしく、「あんた、やっぱおかしいって! 小説の『私』って自分のことでしょ? 自分の取り合いで争うだなんて、アホ丸出しね!」などと散々笑われたりもしたのだが。
そのあと、実際に出会った三人の外国人と思われる男女の話をすると表情は一変、ゆゆは鬼のような形相で睨みながら蜜愛を怒鳴りつけた。
「ちょっと、そいつら、どう考えても怪しくない!?」
「え……? そんなことないと思うけど~……」
「だいたいなによ、最初にワイルドな男とやらに襲われそうになったのって、事実ってことじゃないの!」
「いや、べつに襲われたとかじゃなくて、誇張も入ってるし、小説のほうは基本的にフィクションだから……」
「だけど、ミッツの話を聞く限りじゃ、絶対におかしいとしか思えないって! そりゃあ、あんただって充分おかしな人間だけどさぁ!」
「わ……私って、そんなにおかしい……?」
「おかしいに決まってるでしょ!」
「……朝の挨拶と同時に胸を揉んでくるゆゆだって、おかしな人だと思うけど……」
「なんか言った!?」
「いえ、なにも……」
蜜愛が知り合った三人に対し、ゆゆはかなりの不信感を抱いているようだ。
なお、蜜愛は知り合った三人を外国人だと思っている。
その蜜愛が話し手だったのだから、不信感を抱いているゆゆにしてみても怪しい外国人と考えているだけで、実は小説の中に書いてあるとおりの宇宙人だなどという真実には、まったく届いていないのだが。
それから数日のあいだ、宇宙人たちは何度も蜜愛の前に姿を現した。
放課後だけでなく学校のない土日も含めて、蜜愛は頻繁に散歩へと出かけているのだが、そういった時間に宇宙人たちは接触してきた。
蜜愛は毎日散歩に出かける、というわけでもない。
それなのに、散歩へと出かけた日には必ず、あの三人組がどこからともなく現れて声をかけてくる。
二回目に顔を合わせた際、アレンジしたとはいえブログで勝手に名前を使ってしまったことを、蜜愛は素直に謝った。
対する宇宙人たちは……というか沙羅双樹は、爽やかな笑顔を伴って、「べつに構わないよ」と承諾の言葉を伝えてきた。
それだけに留まらず、蜜愛は調子に乗って、「これからも、みなさんをモデルにしてお話を書いちゃっていいですか?」などと随分と失礼なことまでお願いしていた。
そのお願いにも、沙羅双樹は嫌な顔ひとつせず、「構わないよ。是非僕たちを小説に登場させて、素敵なお話を書いてね」と、乗り気な発言を返した。
小説内で少々ひどい扱いだった獅子春人は怒りをあらわにしていたが、すぐさま瑠璃月が蹴りを入れて黙らせていた。
ともかく、何度も顔を合わせることになった宇宙人三人組と蜜愛だが、基本的には他愛もない話をするだけだった。
場合によっては喫茶店に入って、飲み物やスイーツ類なんかを蜜愛がご馳走になるといったこともあったが、これといって大きな事件が起こったりはしなかった。
蜜愛のほうも、三人がいろいろと話してくれることもあり、一緒にいる時間が長くなるに従って、徐々に気を許していった。
……いや、蜜愛の場合は最初からほとんど警戒せず、完全に心を開いているようなものだったかもしれないが。
蜜愛がさらに二回分、宇宙人三人をモデルとして『かこまれたちきゅう』を更新したのちの、とある平日のこと。
昼休みになると同時に、蜜愛はゆゆとともに手早くお弁当を広げ、お喋りの時間を開始していた。
その会話内容は、ブログにアップしている小説のこと、そして最近会いまくっている三人についてのことだった。
蜜愛から提供する話題は、もうほとんどそれだけと言ってもいいくらいに固定化されている。
すでに飽き飽きしているゆゆではあったが、おとなしい性格の蜜愛がこれほどまでに自分から喋ってくれるのを嬉しく思い、口を挟まずにニコニコと作り笑顔で聞くことにしていた……のだが。
あまりにも偏りすぎな内容に、いつしか堪忍袋の緒が切れる。
「だぁ~~~っ、もう! いくらなんでも、ハマりすぎでしょ、ミッツ!」
「えっ? ハマりすぎ……?」
キョトンとゆゆを見つめ返す蜜愛。
「他に話題はないのか、あんたは!」
「え……でもぉ~……」
「デモもストもない!」
「その言い方は、今どきの高校生らしくないよ~?」
「うっさい! だいたいね~、その三人組、最初から言ってるけど絶対に怪しいって! なにか企んでるに決まってるわ!」
「えっ? どうして~? そんなことないよ~。沙羅さん、すっごく優しいよ~?」
「その人はそうかもしれないけど、レオさんだっけ? ワイルドとか言ってるけど、めちゃくちゃ気が短くて手も早そうじゃない!」
「ん~と、手が早そうというか、実際に早いけど……」
「余計悪いわ!」
「でも、必ず瑠璃月さんが止めてくれるから大丈夫だよ~?」
「だったら、その人がいなかったらどうするの? たまたまレオさんって人だけしかいなかったら、ミッツ、絶対なにかされちゃうでしょ!?」
「なにかって……どんなこと~?」
「それはっ、そのっ、相手は男の人なんだから、つまり……」
ゆゆは真っ赤になってしどろもどろになる。
なにもわかっていなさそうな蜜愛も少々おかしいが、ゆゆはゆゆで意外にも純情な面があるようだ。
「とにかくっ! ミッツひとりじゃ、やっぱり危ないわ! あたし、今日はあんたの散歩につき合ってあげることにする!」
「え~、いいよ~。ゆゆちーがいたら邪魔だし、アイディア出しの妨げになっちゃう~」
「邪魔とか妨げとか言うな! そもそも、その三人組と会ったら、長いあいだ喋ったりしてるんでしょ!? それこそ邪魔されてるようなもんじゃない!」
「え~? でも、沙羅さんたちはモデルになってもらってるわけだし~」
「問答無用! 今日はあたしもついていく! 決定ね!」
ビシッとゆゆが人差し指を突きつけた瞬間、これにて話し合いは終了とばかりに、チャイムの音が鳴り響いた。
すぐにドアが開き、先生が教卓に着く。
「はう~、お弁当食べ終わらなかった……。まだ半分以上残ってるよ~」
「うぎゃっ、あたしもだ! それもこれもミッツのせいだ!」
「ええ~? ひどい~……」
こうしてふたりは、お弁当の半分以上を食べ損ねてしまうのだった。




