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聖獣、其は心美しき獣なり

運命の日まで、あと半日




チチチ、チュンチュン。


窓から朝日が差し込み、鳥形のモンスターが朝の訪れを告げた。


「…レイ、どこだ?」


『ここだよ。』


レイはすでに起きていたのか食堂から持ってきた二人分の朝食を器用に持ち、ドアを開け入ってきた。


ラスはすぐに着替え、レイの手伝いをすべくテーブルの上に置いていた地図や小物を道具袋の中に素早く直していった。空いたスペースにレイが朝食と新鮮なセキルのジュースを置き、早めの朝食を食べた。




「それじゃあ、俺はこのままノルドレインに行くから、後でまた会おうぜ。」


絶対来いよー!


叫びながらライカはノルドレインへの道を遠ざかっていった。


「レイ、モンスターを喚んでいいか?」


レイは杖を取り出し、ラスに向ける。


「な、何?」


『ハァ、アホか、こんな国の近くで喚んだら騒ぎになるだろうが。

一時間ほど向こうに行ったところにひらけた場所があるそうだ。

そこで喚ぶぞ。』


ラスは頭を庇っていた。どうやら条件反射のようだ。


道を行く人々は北の国の服装や袴を穿いた東の国の人など、実に多様である。

レイもラスも有名なので顔が売れているためか話しかける人も多い。


「おぉ、レイ殿、ラス殿、拙者は肘笠と申す者。以後お見知りおきを。」


「ラスさん! あなたと勝負を……。」


「レイ様!サインくださ……。」


多い。


それも一時間も森の方へ歩けば人もまばらになり、遂には途切れた。


『ここなら、人もいないし、喚んでいいぞ。』


ラスは剣を抜き、地面と水平に構えた。


「…スゥ、……ハァ…よし」


ラスの集中力が高まってゆくにつれ、合わさるように周りの木々がザワザワとざわめく。

しかしレイは微動だにせず静かにレイを見続けた。


「我に倒され、服従を誓いしものどもよ。

我の言葉に耳を傾け、速やかに契約に従い、この場へ顕現せよ。」


ラスが紡ぐ言葉一つ一つに魔力が宿り、辺りに満ちていった。


やがていつの間にか地面に現れていた光り輝く魔方陣から出てきたモンスターは喚び出したラスではなく、なぜか傍観していたレイに擦り寄った。


『…ん?

セレナータ、またか、お前まだラスのこと嫌いなのか。』


ユニコーンであるお前が男嫌いなのは分かるが私も男なんだが、と言うレイに

レイは別なのー、とばかりにセレナータと呼ばれたユニコーンは鼻先を寄せつつ、ラスを牽制する姿はとても清浄な生き物には見えない。


実はこのユニコーン、セレナータは意外と古い付き合いである。

月の王を始めてから半年ほどして、とあるイベントにレイがハイエルフとして巻き込まれたときに、報酬としてラスが受け取った召喚用モンスターである。


通常ユニコーンは深淵の森に棲み、めったに目撃されない。

ユニコーンという種族は一般的に処女を好み、その膝で眠ることで知られている。

セレナータもその例に漏れず、男であるラスを毛嫌いしているが、レイになついているところを見るに、ハイエルフには男女の性差があまり無いのかもしれない。


どういう訳にせよ、セレナータはいつも主であるラスを背中に乗せるのを嫌がっているのだが。


『セレナータ、ラスを乗せてあげてくれないか。お前が嫌なのは分かっているがラスにもきっと考えがあってのことなんだ。』


レイはセレナータに乗り、目の前にある豊かなたてがみを撫でつつ懇願する。

セレナータはラスに鼻息を吹きかけてから了承の意を伝えた。


レイの後ろに跨り、手綱を持ったラスは出発するように指示を出した。



『それで? 結局何の意図があったんだ?』


風を切って飛ぶ翼の音に負けないように声を張り上げながらレイは問う。

実はこのセレナータ、飛ぶときにはペガサスのような羽を広げる、

開発者曰く、手っ取り早くユニコーンとペガサスを混ぜてみたとのこと。


ラスはわずかに逡巡したのち


「べ、別に意味は無いぜ。一番害が無さそうに見えるのを選んで…

はい! 白状します!


ただ単に一番レイに似合うと思いました。」


ラスは途中からのレイの冷たい視線に耐え切れず、すぐに自白してしまった。


「だってレイとユニコーンだぜ、絵になると思ったんだよ、セレナータの種族を無視した腹黒さを除けばさ。

“一角獣を連れた貴婦人”みたいなかんじで。」


そう言うラスに注がれるレイの視線の冷たさはいや増すばかりだった。



そんな空の旅も二、三時間もすれば目的地に着いた。

森から百メートルほど離れた場所に下ろされた二人はセレナータを戻し、昼食を食べながら作戦を練る。


「この辺りから見ても特に異変は見受けられないな。しいて言えば、モンスターが多いような気がするが、どうする?」


スキル、《千里眼》を駆使して辺りを窺ってみるレイだがめぼしい発見はないようだ。


『しかたない。このまま森に入ってみよう。』


ラスは《サーチ》を使って探査し、レイは木々の声に耳を傾けながら森の中に入っていった。



それが始まりだと気づかないままに。




鬱蒼とした木立の中、ちょうど森の中心付近に来たころだろうか、他の木より一回りも二回りも圧倒的に大きな大樹が、まるで森の主のように鎮座していた。



……待っ…いた、我…が至高の…王よ……



『………え?』


大樹の周りに木々は無く、まるで広場のように拓けていたが、思わず跪いてしまいそうな神聖な空気が辺りを漂い、何となく声を潜めてしまう。


『多分、この木が異変の原因なんだと思う。何かを呼んでいるように感じられないか?』


レイはこの大樹から不思議な求心力を感じ、引き寄せられる気がした。

ラスは何も感じないのかしきりに首を傾げている。


「いや、オレには全く何も感じられないが。

しいて言えば、神聖な空気を感じるが、それだけだな。」


捉え方の違いに戸惑う二人。

その時


ザワッ


沈黙を守っていた森が騒めきだした。

そう、沈黙を守っていた。


可笑しいと思わないだろうか、前情報と遠目で見たときにはモンスターは通常より多かった。しかし森に入ってからは二人はモンスターに一匹も出会っていないのだ。


このことに二人が気付いたときにはもう遅く、退っ引きならない事態に追い込まれていた。


森はいよいよ勢いを増し、大樹だけが依然として静まり返っている。


チャキ……


「どうする、明らかに可笑しいぞ。引き返してみるか?」


いつでも剣を引き抜けるように剣の柄を握りながら用心深く辺りを見渡す。


レイはまだ大樹を見つめていたが、ラスに声を掛けられ、はっとしたように退却することを伝えようとする。


『そうだな、これは可笑しい。とりあえず一旦……ッ!』


…パアァ……


レイが言い始めた瞬間、これまで何事もなかった大樹に異変が起こった。


急に光りだした大樹とは反対に、今度は森が平静を取り戻した。


すると突然レイが引き寄せられるかのように光る大樹に近づいていった。そのことに驚いたラスがその腕を掴んだ。


刹那、大樹の光が大きく瞬き、光は次の瞬間には儚く消えた。


二人と共に。



至高……の王よ…

……ぶりの…司……。




その後、異変を調べに来た者が同じように消えたのだが。


それはまた、別の話のことになる。

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