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第四十五話「わからない訳がないだろ!!だけど…」

「あ、暑い…。喉…渇いた………。死に、そう……」

 僕は今、『リミック』という街を目指し砂漠を飛んで横断している。

 空には雲一つなく、晴れ渡っている。今ほどそれを忌々しく思ったことはないだろう。周りを見ても岩と砂と空だけ。日陰もオアシスも見当たらない。照りつく日差しに体力を奪われ、肌を焼かれる。実は体質的に強い日差しはダメだったりする僕だが、もう限界…。

 一向に街らしき物は見えてこないし、そもそも人が住んでいそうな集落があるとは思えない……と思いきや、前方に街らしき物が見えてきた。

 僕はそれを見るなり、限界まで力を振り絞って速度を上げてそこへ向かった。

 僕は街門付近に着地すると、それを潜って街に入った。そして、ある場所に向かおうとして一時停止した。

 今回、僕がここに来たのはレミアを迎えに来たから。でも、僕はそもそもレミアがこの街の何処にいるのかを知らない。これじゃあ、この前の二の舞じゃないか。どうすればいいんだよ!?

 僕はふと、違和感を感じた。おかしい、おかしすぎる。この街、静かすぎないか?誰一人外に立ていないかのように、道には誰もいない。

 その異常さを感じながらも、とりあえず様子見も兼ねてレミアを探すために街の中を歩き回ることにした。

 歩き回ること三十分。本当に人の姿を確認できなかった。

「異常だ。異変だ。てか、ホントに誰かいないのかよ!?」

 僕は誰に言うでもなく呟いた。

 ふと、近くの路地からすすり泣く様な声が聞こえた。僕はすぐにその路地に入り込んだ。そこには五、六歳位の女の子が座り込んで泣いていた。髪は黒に近い緑で長い。

 ……ようやく見つけたのが泣いてる小さな女の子って、どういう事だよ!?一つ間違えたら犯罪者扱いじゃねぇかよ!?だからって放っておくわけにもいかないし…どうする?とりあえず声をかけてみ…。

「お兄ちゃん、何ジロジロ見てるの?変態なの?」

「やめてくれぇ、変態じゃないから!!ただ単に泣き声が聞こえて来たから来てみただけだけど!?」

 いきなり泣いてた本人に変態扱いされたよ!?酷くない、この対応?てか、最近の子供は言動が辛辣過ぎるな、おい!?いきなり過ぎて咄嗟に子供相手に全力でまじめにツッコんじゃったしさ。

 少女が涙を拭きながらそんな事を言うから、僕は子供相手に大人げない行動を取っていた。いや、僕も大人じゃないけどさ……。

「なぁんだ。少女の私に欲情してきた変態なのかと思ったんだけど?」

「年の割には言ってる事が物凄い大人なんだけど!?てか、君は誰?」

「それは親のせいだよ。父親は眼鏡鬼畜で母親は変態な人だったから。で、私はクロロだよ」

「……凄い両親だな、うん。僕はユキヤだ。で、何で泣いてたの?」

 相変わらずの言動にツッコミを休ませてくれる間も与えてくれない。てか、名前も知らない少女相手に翻弄されるのも嫌だったから、名前を訊いてみた。これで立派な知り合いだ。言いくるめられても恥ずかしくない…筈だ。……いや、結局馬鹿にされてるのと一緒か。

 少女は少女で、とてつもない(キャラ的な)家族構成をさらりと言ってからクロロと名乗った。

 ……眼鏡鬼畜といわれると、どうにもあの男の顔が頭の中を過る。まさか、クロロの父親…な訳ないか。まだ、あの男は二十五だし。結婚してるなんて聞いてないし。

 僕はそんな考えを一度振り払って自分の名前を名乗ってから、そもそもクロロと関わる事になってであろう理由の彼女が泣いていた訳を訊いてみた。その途端、彼女の目からは再び涙が流れだした。ヤバい、地雷踏んだ!!

「さっき話した、変態な母親の親戚の友達の従兄の嫁の弟の子供の友達の母親の親戚の叔父さんのお婆ちゃんが死んじゃったんだ」

「遠すぎるうえにもはや血縁のない他人じゃん!?てか寧ろ、面識有るのかよ!?」

「まぁ、家族構成の時点でもはや嘘だし」

「騙された!?こんな子供相手に本気で騙された!?」

 さっきの僕の同情心を返してくれッ!!そもそも他人事で同情も何もしてないけど、それでも返せッ!!

 クロロの口から出た言葉は、丸っきり関係のない人の死だった。てか、六歳児のくせによくそんなに舌が回るな、オイッ!!

 そんな僕の様子を見て面白そうに笑っているクロロを横目に、僕は溜息をつくしかなかった。何でこんな貧乏くじを引いちゃうかな?

「人の事を貧乏くじとか言わないで欲しいな」

「……なんで読心術使えるんだよ?」

「両親の使える技術(テク)ぐらいなら、遺伝で使えるようになるよ」

 ……そんな簡単に使えるのかよ、読心術。今度、勉強してみよう。身につけられたら、レミアとか雪菜の心読みまくりだし…。……いや、やめておこう。なんか黒い物を見たときに隠し通せる自信がない。

「とりあえず、私の家に来てもいいよ。今はいそーろーが一人いるけど…」

「じゃあ、ちょっとだけお邪魔させてもらうよ」

 僕がそう言うとクロロは僕の手を引っ張って走り出し僕もつられて走り出した。といっても、本当に走ってるのではなく六歳児にペースを合わせた走りだ。つまり、どちらかというと早歩きだ。

ふーん、初めて年相応の喋り方を訊いた感じがする。彼女に先導されて街外れの家の前まで連れて行かれた。

「ただいまー。いそーろーのお姉ちゃんいる?おやつない?」

「てか、居候って女の人だったの!?それより、親は?」

「いないよ。そもそも両親の顔すら知らないし。親切なお姉さんに引き取られたんだけど、その人も昨日殺されちゃったし…。ここ一か月は近所の人に預けられてたけどね」

 何か今、衝撃の事実をさらっと言ったよね、この娘。なんか重苦しい過去とかそんな簡単にカミングアウトしないで欲しいよ、本当に。

 そんな感じで一人どんどん家の中に入って行くクロロ。いや、この娘の住んでる家なら良いんだろうけど。てか、僕は玄関で待つしかなくない?

 数分後、クロロがトレーの上に飲み物の入ったコップを三つ運んできた。

「はい、どうぞ。飲んでいいよ」

「てか、マジで何歳?六歳には見えないんだけど?」

「酷いね、お兄さん。私、こう見えても十四だよ?背はかなり低いけど」

「見かけで判断してごめんなさい」

 僕はクロロの実年齢を聞いた瞬間即、土下座した。僕とした事が全く持って失礼なことをしていた。人は見かけによらないのは当たり前じゃないか。

 ふと、上の階の方から足音が聞こえてきた。多分、クロロの言ってた居候のお姉さんだろう。どんな人なんだ?あっ、降りてきたみたいだ。

 僕は階段の下り口の辺りに目をやった。そこから見えたのは長い金の髪だ。そして、現れたのは……。

「へ?なんで、レミアがここに?」

「………」

「レミアは僕の姿を見るや否、おびえた表情を浮かべてすぐに階段を駆け上がって行ってしまった。僕はこの事にかなりショックを受けざるを得なかったんだよ、ホントあはははは……」

「なに、馬鹿なこと言ってるのお兄ちゃん。ショックが大きいのはわかるけど現実逃避は文字通り、ただの逃げだよ」

 正直、ショックを隠せない。うん、普段なら僕がと目を合わせれば可愛らしく笑ってくれるのに逆に怯えてたもん、今。

 とりあえず、クロロのツッコミで冷静になれたけどどうしよう?約束を守りに来たのに、あの具合じゃなぁ。

「なぁ、今の娘の部屋って何処?」

「うわっ、凄いよお兄ちゃん。いそーろーのお姉ちゃんの部屋に行くなんて。まさにチャレンジャーってやつだよ」

「ふざけてないで教えろ。こっちは冗談抜きでやってんだよ」

「わかったって。怒らないでよお兄ちゃん。私って怖い物は嫌いなんだから。えっと、確か……」

 クロロに教えてもらった部屋に急いで向かい、その部屋のドアを乱暴に勢い良く開けた。そこにはベッドの上でシーツに包まったレミアがいた。その顔は何かに怯えているようだ。いや、十中八九僕に怯えてるんだろうけど。

 とりあえず、レミアに話しかける事を試みた。

「レミア…だよね?…ぼくの事わかる?」

「……」

 無視か。距離がいけなかったかな?流石にドアのところで話しかけること自体あまり上品な事じゃないしね。

 僕はベッドの傍まで近づいてみた。だが、それに対応するようにレミアも僕から離れて行った。だが、流石に狭いベッドの上、すぐに移動限界に達した。僕はレミアに手が届くほどの距離まで詰め、そして再度話しかけた。

「なぁ、レミア…。どう、したんだよ?」

「………来な…いで…」

「僕だよ、ユキ…」

「…来ないでよ…ユキヤ……」

 絶句するしかなかった。もしかしたら赤の他人かもしれないという線はこれで消滅した。この娘は確かにレミアだ。だけど、レミアから発された言葉は拒絶だった。それ以上でもそれ以下でもない。唯それだけ。だけど僕は言葉より、発された声が異質だった。何というか、感情のない無機質で力のない声だ。僕と離れていた間に何があったのかわからないけど、何があったんだ?

 ふと、僕はさっきクロロが言っていた言葉を思い出した。たしか、「親切なお姉さんに引き取られたんだけど、その人も昨日殺されちゃったし…」…だったけ?昨日殺された?誰に!?この家がその親切なお姉さんの家なら、そもそも何でレミアがここにいるんだ?

 ここから導き出されるのは、一番最悪なシナリオ。僕がロアの知り合いに修行してもらったんならレミアも同じ様にしてもらっていた筈。ローグの言い残した言葉の意味がこのときようやくわかった。多分、レミアだけじゃなくてレイとゼロのところにも『ブレイカー』が襲撃してきたんだろう。そして、その戦闘で…か。

「おい、レミア」

「来な…ッタイ!?」

 僕はレミアの頬を思いっきり叩いた。レミアはいきなりの事で避けきれず、そのままベッドの上に倒れ込んだ。僕はレミアの包まっていたシーツを無理矢理剥ぎ取って、強引に肩を掴んでこっちを向かせた。

「なぁ、大体の事は予想できたよ。目の前で殺されたんだろ?でもさ…」

「ユキヤにわかるわけない。目の前で無惨に殺されるところなんて見たことないでしょ!!」

「っざけんな!!僕だって目の前で止められたかもしれない妹の自殺を見せつけられたんだ!!自分だけ不幸とか思ってるなよ!!」

「違う、怖いの、恐いの。目の前で好きな人が殺されるのが嫌なのっ!!だからユキヤ、これ以上わたしと関わらないでよ…。………辛すぎるもん…目の前でユキヤが死んじゃうのは……」

 ……何も言えない。レミアの思いが、想いがわかる分尚更に。

 これから、どうすればいいんだよ……。僕にはわからないよ…。

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