第三十九話 「迫りくる危機と雪原の戦闘―ゼロ編その③―」
注意
今回はゼロ視点です
明日は奴が、クロアが俺の元にもう一度来る日だ。
何時に何処に来るかはわからない。だが、そこで奴を撃退出来れば、とりあえずは当面の危機を脱せられるだろう。
夜、俺は割り当てられた部屋のベッドの上に腰をかけ、双剣の手入れを念入りにしている。
勝つつもりだが、出来るだけ勝率は上げておきたい。
相手は生半可な相手じゃない。強敵だ。油断したら一瞬で負けるだろう。
ブーツに鉄板を仕込んで、服の裏に鎖を少し縫いつけた。
俺は純真ではあるが、悪知恵や小細工は欠かさない。まぁ、中々に嫌な野郎だな、俺って。
一通りの準備を終えてベッドに寝転び、天井を仰いだ。
「ふぅ。しっかしなぁ、本当に来んのかよ?」
そう溢した次の瞬間、俺の顔のすぐ横に矢が突き刺さった。
俺は一気に血の気が引いて、それを確認した。
ベッドの傍の窓はほんの少しだけ開いている。そこから入ってきたのだろう。矢には紙が括り付けてあった。矢文かよっ!?
紙には短く、こう書かれていた。
『明日の深夜に一人で東の雪原に来い』
「けっ、こんなラブレターじゃ、女の子は落とせねぇぞ?」
俺はその文面を確認すると、魔力を使って紙を燃やした。まぁ、『燃やせ』とは書かれてなかったが、念のためだ。あのリストがわざわざ尾行してくるとは思わねぇけど。
その夜は矢を始末してからそのまま眠った。
そして、次の日。
リストの厳しい過ぎる修行をこなし、それなりの悪くない状態で奴との戦闘に望むこととなった。
リストにはこの事を秘密にしているから、アイツが手加減してくれる筈もなく、いや、知ってたとしても手加減なんかしなかっただろう。
出来れば、しっかり休んで体力を回復して万全体勢で臨みたかったが、これはしょうがないだろう。
リストが眠りに付くのを待ち、俺は外に出るために裏口のドアのノブに手をかけた。
「おい、何処に行くんだ青二才?」
「散歩よ、散歩。気分転換にちょっと、な?」
背後には何時の間にかリストが立っていた。
俺は振り向かずに平静を装いそう答えた。
チッ、ばれちまったか。なんとかはぐらかさねぇとな。
「散歩って割には無駄にコソコソしてるじゃねぇか?」
「美しいレディの睡眠を妨害したくなかったんでねぇ?」
「ハン、言うねぇ?」
そう言ってニヤリと笑ってから、疑り深く俺をジロジロ見て、そして諦めたように溜息をついた。
「まぁいいさ。好きにしな」
そして、あくびを噛み殺しながら部屋へと戻って行った。
俺はそれを見届けてから、指定された東の雪原に向かった。
「おやおや、遅かったな」
「生憎、デートには遅れて行く主義で」
そこには、相変わらず黒い鉄仮面をかぶったクロアがふてぶてしく立っていた。
俺は奴の言葉に軽口で返した。ここで奴にペースを奪われたら、何かと厄介だ。
「ふーん、この前さんざんやられたくせに、まだ懲りずに粋がってるな」
「それが俺様のアイデンティティだからな。許してくれよ?」
俺は肩をすくめて、わざと困った様な表情を作った。
奴は気に入らなそうに鼻を鳴らした。
そして奴は俺に近づきながら、聞いてきた。
「それで、答えは?俺たち『ブレイカー』に付いてくるか、そのまま『ギルド』に残るか。しっかり決めたか?」
俺は両手を軽く前に突き出し、待ったをかけた。そして、こっちからも近づきながら語りかけた。
「まぁまぁ。まずはお互いをよく知ろうじゃねぇか?親睦を深めながらよぉ」
「おぉ。それじゃあ……」
「まぁ生憎、俺の考えは全く変わってねぇが…」
クロアの台詞を途中で遮り、俺は言いきる前に腰の左側の剣、つまり右手の剣で奴の胴体を一閃した。
「なぁ?」
奴の腹を浅く斬りつけ俺はもう一方の剣で奴の鉄仮面を斬りつけた。
だが、奴もそこまで甘くない。すぐさまバックステップで二撃目を避けた。そして更に距離を取りつつ、断続的にナイフを投げてきた。
「チッ、ナイフを弾膜の代わりにしようってか?」
「残念だ。妖刀の持ち主をここで殺さないといけないなんてな」
「ここで死ぬのはテメェだけだ」
俺は、魔力で火の玉をいくつも作り出して、ナイフと相殺させた。そして、その合間をくぐって一気に奴に接近し、左の剣で突きを見舞った。
奴はそれを何時の間にか握っていた、二本の短刀を交差させて防いだ。俺は左手を軸に、勢いをつけて右の剣で外側から斬りつけた。
それをまたバックステップで躱と、奴は一瞬体勢を崩した俺に右の短刀で突きを繰り出してきた。
俺は、それをわずかに体を逸らして躱して、奴を蹴りつけて距離を取った。蹴りは奴の腹に入り、奴は軽く吹き飛んだ。
「ゲホッ、ゴホッ。ハァ、短期間でだいぶ腕を上げたな」
「ケッ、そりゃどうも」
俺は奴の言葉にふてぶてしく答えた。
そして、俺はかなりの威力を持つ魔法を唱え始めた。
「燃え盛る焔。猛る爆炎。その……」
奴は俺の詠唱の邪魔をしようともせずに懐から不思議な箱を取り出して、こう呟いた。
「おっと、報告を忘れていた。今すぐに、ユキヤ・ワイエル、レミア・フルール、レイノート・ミアネス、そして現在キラとメアを追っているリア・アーティス、ユキナ・ワイエルそして、ユーノ・レーシアを各自始末しろ」
「……了解」
「ボクに任せてよ」
「わかった」
「わかりました」
そして、その箱からは大音量でそれらの声が聞こえてきた。
俺はその行動に詠唱を止めて奴に聞き返した。
「テメェ、何だそれは?」
「これはトランシーバー、わかりやすく言えば遠隔会話装置とでも言うべきか?」
「………ッッッ」
奴はそれを懐にしまいながら、ひょうひょうと答えた。そして黒マントの中からショットガンに刃が付いた物とマシンガンを取りだし、接近してきた。
俺はそれに対応するように駆けだして、奴との近接戦闘に持ち込んだ。
カンッ、カ、カンッ。
剣と銃のぶつけ合いの音が響く。
「おやおや、だいぶ気迫が落ちたな。大丈夫か?」
「っるせぇ、黙れ」
「今頃、お前の義弟とかがお前の仲間を殺し終わってるんだろうなぁ」
「うるせぇ、黙れ、黙れェェッッ」
奴は完全に俺の『心』を弄んでやがる。
俺は完全に奴のペースに呑まれてる。
このままじゃ駄目なのはわかってる。だが、今の俺は冷静になれない。俺の判断で仲間の死期を近づけてしまったからだ。
「ボディがガラ空きだぞ?」
「がっ、はっ!?」
奴は俺の胴に三発蹴り込んできた。
揺さぶられた俺はまともにガードできずに受け身も取れないまま、無様に地面に叩きつけられた。
「残念だが、ここでお別れだ」
そう言って、ショットガンとマシンガンを同時に撃ってきた。
大量の弾丸が俺に向かって飛んできた。だが、俺に避ける気力が湧かなかった。
そしてそのまま、弾丸が俺を撃ち抜いた……筈だった。だが、俺は痛みも衝撃も感じないままだった。何故なら……
「おい、おにいちゃん。なーに諦めてんだよ?テメェの仲間はそんなに軟なのか?」
「何で……ここに?」
「おいおい、読心術相手にはぐらかせる訳ないって、最初に言ったよなぁ?」
そこには、炎の壁で弾丸を全て溶かしてるリストが立っていたからだ。
リストは弾丸を全て溶かしきると、俺の方を一瞥してクロアの方を睨んだ。
「どうも、アタシの可愛い教え子が世話になったみたいだなぁ?」
「部外者には消えてもらいたいな」
「あぁ、消えるさ」
そう言ったリストは一瞬でクロアの前に行くと腹に弾丸並みの蹴りを放った。
「アンタを倒してなぁ!!」
「ッッッ~~~~~~ッ」
クロアは空高く打ち上がった。
そして、落下地点にファイティングポーズを取ったリストが、落ちてきた奴の顔面にアッパーを叩き込んだ。そして、一緒に飛び上がり、空中で踵落としを奴の背中に見舞った。
奴は物凄い勢いで落下した。
そして、ようやく立ち上がれた俺の横には既にリストがいて、立ちあがった俺の頬に思いっきり平手打ちをしてきた。
「っ痛ッ」
「馬鹿かアンタは?」
平手打ちの勢いで倒れ込んだ俺にさらに慈悲のない蹴りを腹に数発入れてきた。
「アンタは鬼かよっ!?」
「テメェみたいな仲間を信じられないような野郎にはいい薬だ、ボケェェェッッッ」
そして、トドメに俺の頭に拳骨を喰らわしてきた。
「テメェは強がっちゃいるが、一番メンタルが弱いんだよッ。ったく、あの鬼畜野郎の言ってた通りだ」
「………」
そして、俺に手を差し伸べてきた。
俺はその手を握り、立ちあがった。
そして、礼を言おうとした。その時、リストが突然膝をついた。
「り、リスト!?」
「クソ、毒ナイフ、か……」
「これは俺たちの戦いだ。手出ししないでくれよ」
すぐ後ろに無傷のクロアの奴が手に何本もナイフを持って立っていた。
「無傷ってどういう事だよ」
「俺の二つ名は『再生』つまり、傷だろうが、骨だろうが、皮膚細胞だろうが、体力だろうが、壊れたものだろうが何でも再生できるんだよ」
反則じゃねぇか、それ。リアのいない今、こっちは体力も精神力も武器も有限だ。いや、リアがいたところで、こればっかしはどうにもならねぇ。
そっちに多少気が向いてる間にリストは荒く息を上げていた。
「お、おい、リスト!?」
「その女、その内毒がまわって死ぬよ」
「ッッッッ!!?」
「ハハハッ、絶望したか?」
「………」
「じゃあ、そのまま死ね」
奴は目の前に現れて、俺の首元を狙ってナイフを振るってきた。
だが俺はそれを指で挟んで止めた。
「な、に?」
「……出せよ」
「は?」
「解毒剤出せって言ってんだよッ」
俺は感情のままに奴の腹を、光系統の魔力を溜めた蹴りを無数に放った。
そしてそのまま吹き飛んで行ったクロアに追いつき更に炎を纏った双剣で縦と横の斬りを繰り出した。
「おらおらおらあぁぁぁぁっ」
そして奴を空中に打ち上げて共に飛び上がり、いつか、父さんに教えてもらった技を繰り出した。
「絶火襲閃ッ」
絶火襲閃―――空中に打ち上げた敵と共に飛び上がり、そして目に見えない速度の斬りを無数に繰り出し、そして炎を纏った剣で急降下状態で斬り落とす。そして、その斬り傷からは発火し、敵を燃やしつくす。
「さっさと死んで、灰になれえぇぇぇぇぇ」
俺は怒りのままにクロアを攻撃しまくった。
短い付き合いとはいえ、リストには散々世話になった。修行までつけてもらった。
そんな恩人が死にそうだってのに黙ってられるかってんだ。
そして着地と同時に飛び上がってバク転し距離を取った。
「テメェは骨すら残さず、滅っ死ね」
そう言った後、俺の足元に小さなビンが転がってきた。
「フフフッ、アハハハハハッ。今の君に負ける筈もないが、まぁ、無関係の人を巻き込んだ上、この厄介な炎が中々消えてくれないからな。解毒剤くらい渡してやる」
ふらつきながらも立ち上がり、大笑いしながらそう言った。
「決して君に負けた訳じゃない。これは戦略的撤退だ。今頃、他の連中が君の仲間を殺した事を喜んでるさ」
そして最後に捨て台詞を吐いて消え去った。
俺はそれを確認すると急いでリストの元に走っていった。
「リスト、リスト大丈夫か?」
「う…るせぇ、ハァハァ、聞こえ…てんだ…よ」
とりあえず無事なようだ。
その事に胸を撫で下ろすと、リストの傷に解毒剤を塗り込んだ。
軽く、顔色は良くなったように見える。
「どうだ、楽になったか?」
「ハァ、あぁ。だいぶ…マシになった」
リストは服の内ポケットを探って何かを取り出した。
そして、神妙な顔つきで俺の掌にそれを滑り込ませた。
「とりあえず、合格で良い」
「え?」
「とりあえずだが、アタシの修行はこれで終わりで良い」
リストは穏やかな顔付きでそう言った。
俺は掌の物を見るとそれは『炎のガーネット』があった。
ロアの依頼書に書いてあった、合格の証。
本当に、これで終わったのか?
「今は緊急事態だ。これ持ってサッサと、仲間と合流しな」
「あぁ、わかった。色々とありがとな」
「そうは言ってもまだケツの青いガキなんだ。修行つけてやるから何時でも来な」
「あぁ、気が向いたら、な」
俺はリストを立たせ、家に向かいながらそう言った。
家につき、俺は荷物をすぐにまとめ、発つ準備をした。
「それでは、麗しのお姉様。次の機会では貴女と甘い時間を過ごしたいです」
「アタシを落とそうなんざ百年速いんだよ」
「そりゃ、残念。ではまた」
俺はそう言ってニヒルに笑って見送るリストを背に、『ミアネス』の街を目指して出発した。
更新ペースが限りなくおかしくなってます。風宮です。
ようやくゼロ視点三作書けて、ようやくこの辺りでキャラが固まってきたような気がします。
次は雪菜視点で、キラとメア追跡です。途中、あるキャラと合流しますがそこは秘密で。
えっと、多分、次回の更新は…………………未定です。すみません。この三日間ハイペース更新してきましたが、本当に次の更新が何時になるかわかりません。
早い内に上げたいんですけどね。
それではっ。




