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第三十二話 「いや、この年で迷子はないだろう」―ユキヤ編その①―

 注意

 今回はユキヤ視点です

「えっと、ここどの辺?」

 僕は今、洞窟内で迷っている。

 同じ名前の殺人鬼と別れてから数時間、僕は貰った地図に載っていた洞窟まで辿り着いた。そして、すぐに抜けられると思ってろくに目印も付けずに適当に進んだ結果、洞窟内で迷子になった。

「クソ、この年で迷子とか情けなさすぎだ」

 今では入り口に戻る道順すらわからない。引き返すことも進むことも出来ない状況。そして、魔物まで出る始末だ。『体力切れ=死』の等式が成り立つ、まさに絶体絶命の状況。おちおち休んでもいられない。

「方向音痴というか運が悪いというか、どっちにしろろくな状況じゃないもんな」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ」

 僕がそんなくだらない事を呟いた瞬間、後ろの方から悲鳴が聞こえた。僕はすぐさま悲鳴の聞こえた方へ向かった。そこにはピンクの髪の一人の少女が、五体の巨大なコウモリみたいな魔物に囲まれていた。僕はそれを確認した次の瞬間には一気に抜刀の間合いまで詰めて二体を一閃で仕留めた。そして抜刀の勢いのまま絶風閃を放ち残り三体も倒した。

「キミ、大丈夫?怪我とかない?」

「は、はい。大丈夫です。助けて頂きありがとうございます」

 僕は少女の安否を確認した。怪我とかなくて本当に良かった。

 少女は多分、僕やレミアあたりと同じぐらいの年だと思う。服装はセーラー服っぽいものに髪留めだけだ。武器は手に持ってる弓らしい。

「ところで、キミってこの洞窟ってよく通るの?」

「はい。よく通りますね。普段は二人以上でなんですけど」

「僕、迷っちゃったみたいでさ途方に暮れてたんだ。出来れば『サンローズ』方面の出口を教えてもらえると助かるんだけど」

 このタイミングで言うと恩着せがましいけど、このチャンスを逃したらまたしばらく洞窟を彷徨う事になりそうだし。もしもよく通るのなら案内してもらいたい。

「私も丁度『サンローズ』に用があるんで、良かったら一緒に行きませんか?」

「え!?良いの?」

「勿論、構いませんよ。えっと?」

 彼女は快く案内を承ってくれた。そして僕のことを呼ぼうとしたみたいだけど、名前がわからなくて首を傾げていた。そういえば、まだ名乗ってなかったな。

「ユキヤ・ワイエルだよ。キミの名前は?」

「シノン・トレスです。ではユキヤさん、行きましょうか」

 こうして僕は彼女に、シノンに案内してもらって無事に洞窟を抜けられた。入る前はまだ日が高かったのに今ではもう、地平線に沈んでいくところだった。どれだけ長い時間迷ってたんだよ、僕は………。方向音痴過ぎるだろ………。

「案内してくれてありがとう。お陰で無事に抜けられたよ」

「いえいえ。ついででもありますし、助けて下さったお礼でもあります。気にしないで下さい」

「じゃあ、僕は『サンローズ』に行くからこれで…」

「あのっ、私も『サンローズ』に実家があってこれから帰るんですが、一緒に行ってはダメでしょうか?」

 僕はシノンに案内してくれたお礼を言って彼女と別れようとしたが、彼女は『サンローズ』に実家があり帰るらしく、一緒に行きたいと言ってきた。僕としては目的地も一緒ならここでわざわざ別れる必要もないし、一人よりは二人の方が心強い。それに今の洞窟での迷子で、自分の方向感覚に自信がなくなってしまったから助かる。問題はないどころかむしろメリットの方が多い。

「別に良いよ。目的地は一緒だったなら、先に言ってくれれば良かったのに」

「最初にそれらしきことは言ったと思うのですが」

「……そうだっけ?」

「そうです」

 僕は自分の記憶力すらもアテにならないことに、今気付いた。…何だろう、僕には欠点しかないような気がする。方向音痴だし、忘れっぽいし、仲間内で一番弱いし。……ダメダメだな、僕は…。

「あはははっ」

「どうしたのですか?いきなり乾いた声で笑い出して」

「いや、僕ってダメだなと思ってさ」

「どういう意味でしょうか?」

「いや、こっちの話だから気にしないで」

 シノンは僕の笑いと呟きに怪訝な顔をしたが、僕が気にしないでと言うと特に詮索もせずに歩き出した。僕はそれを慌てて追いかけた。

 その後しばらく、僕らは一言も喋らないままに黙々と歩いていた。聞こえるのは僕らの足音と息遣いと魔物の遠吠えだけだ。それらも僅かに聞こえるだけで殆ど無音に近い状態だ。現状はかなり息苦しい状態だ。沈黙だけが支配している気不味い状況だ。何か話してこの空気を一蹴したいが、何を話したらいいのかが全然わからない。あんまり入り込みすぎた話題なんて出せないし、それ以前に僕の話に興味を持ってくれるかどうかが既に怪しい。それでも、何か話してみよう。

「「あの…」」

 しまった!?タイミングがかぶった。よけいに気不味くなってしまった。

「ユ、ユキヤさんがお先に…」

「いや、シノンが先でいいよ」

「い、いえ。ユキヤさん、どうぞ」

「だから、シノンが先でいいって」

 不味った!!よくあるパターンに嵌ってしまった。この場合ってどっちかが折れない限り、埒あかないよな。しょうがない、僕が折れるか。

「じゃ、じゃあ僕から言うよ。え、えぇっと………」

 しまった、何を話すか考えてなかった。と、とりあえず何か喋んなきゃ………。

「もしかして、何も考えないで話しかけてきたんですか?」

「あはははっ。実はそうなんだ…。……ゴメン」

 僕は図星を疲れてバツが悪く、苦笑いするしかなかった。その様子が可笑しかったのか、シノンはクスッと笑らいを漏らした。

「実は私も何も考えずに話しかけたんです。私たち、同じ事をしようとしたんですね。何か可笑しいですね」

 どうやら、彼女も気不味い空気を何とかしたかったらしい。それでも何か、僕だけが空回りしていたような気がする。何でだろう?

「ところで、ユキヤさんはどのような人間関係をお持ちですか?」

「………ゴメン、なんて答えればいいのかよくわからないんだけど…?」

 僕はシノンの聞いてきたことが理解出来なかった。人間関係って言うと、友人関係とかでいいのか?

「友人との関係、恋人との関係、家族との関係、仕事での関係、肉体の関係、師弟間の関係。何でも良いんですよ、私は他の人の人間関係を知るのが好きなんですよ」

 彼女は嬉々と語った。その表情はうっとりとしていて目まで輝かせていた。そしてそのまま立ち止り、動かなくなった。

「あ、あのー。………シノンさん?」

 彼女の目の前で手を振って見せても何の反応もなかった。いや、どれだけ好きなんだよ。

「おーい、戻って来ーい」

「…はっ、私は何を?」

「何処か遠い世界に飛び立っていたよ」

 僕はようやく戻ってきたシノンに出来るだけオブラートに包んだ表現で説明した。………包んでるよなぁ?

「お見苦しいところを見せて、すみませんでした」

「いや、うん、気にしてないから大丈夫だよ」

「そうですか。……よければ、お話を聞かせてもらえますか?」

「へ?あぁ、人間関係の話だね。別にいいよ。そうだなぁ、まずは………」

 こうして、僕は『サンローズ』に着くまでの道中、レミアたちとの関係を話していた。流石に、『ブレイカー』の事や殺人鬼との交流は話さないし、レミアとの事も一部、話さなかった。それを聞いてるシノンの顔は本当に楽しそうだった。

「ユキヤさんは楽しい方たちと関係を持ってるんですね。羨ましいです」

「ハハッ、そんな事ないよ。ところで、シノンはどういう人間関係を持ってるの?」

「………それは、言わなければならない事なのでしょうか?」

「い、いや、言いたくなければいいんだけれども………」

 彼女はニコリとはしているが感情のない目でそう聞いてきた。

 疑問形ではっきりとは言わなかったが、これは僕の問い掛けに対して完全に拒絶していた。まるで、触れてはならない傷に触れられたみたいに。そりゃ、会ったばかりでこんな事を話してもらえるとは思わないけど、僕だって話したんだから話してくれてもいいじゃないか。………とは言えないよなぁ、この様子じゃあ。なんか、暗い物が見えるし。

「え、えーっと、ま、まぁとりあえず行こうか?」

 僕は急いで話題を変えるように、進むように促した。だって気不味いし、何よりも感情のない目で見られるのにこれ以上耐えられない。

「そうですね。行きましょうか」

 彼女は表情を変え、感情のある目でそう言うとニコリと笑って歩き出した。僕はそれを見て安心し、思わず胸を撫で下ろしたくなった。けど、寸前でそれを止めて掌を見る振りに慌てて切り替えた。

 それからは、内容のない話を繰り返して歩き続けて『サンローズ』に辿り着いた。

「ふぅ、やっと着いたな」

「それでは、私はこれで。一緒に連れて行って下さって、ありがとうございました」

「別にいいよ、気にしないで。それじゃあね」

 こうして、僕とシノンは別れた。そしてその後、僕は『コリエ』という人を探して歩いた。しかし、それは一向に見つからなかった。いや、方向音痴の疑惑のある今、見つからないのはしょうがない様な気がするけど、名前以外に手掛かりがないのが特に痛い。どうしろってんだよ、あの鬼畜眼鏡ェ………。

「だあぁぁぁ、どうしろってンだよっ。手掛かりねぇじゃねぇかよ」

 僕は街の中央の広場で無意識のうちに叫んでしまった。周りの人の目が痛い。みんながみんな、白い目でこっちを見ている。そんな目で見ないでくれ。

 僕は逃げるようにその場から全速力で走り去った。

「ハァ、ハァ、全力で走ったら疲れた…。……ん?」

「ユキヤさんは一体、何をしてるんですか?」

 立ち止った僕の横には大きな家が、目の前には何故かシノンが立っていた。いや、何で?

「私の家の前で何をしてるんですか?」

「え?あぁ、そっか。実家はこの街だって言ってたっけ」

 そういえば、そうだったな。だったら、探すのをちょっと手伝ってもらうか。土地勘のある人間の方が何かといいしな。

「ちょっと、人を探しててさぁ」

「私でよければ探すのを手伝いますが?」

「本当?助かるよ、ありがとう」

 彼女は快く引き受けてくれた。本当に助かる。今日は見つからなくて、明日とか明後日とかに見つかるのが長引くところだった。

「で、何方を探せばいいのですか?」

「うん、『コリエ』って人を探してるんですけど」

「それは多分、私の父です」

「へ?」

 僕は咄嗟の事に理解が出来なかった。『コリエ』とか言う人がシノンの父親?

「父に用という事は、ギルドのロア・クルセイドさんの紹介ですね」

「うん、そうなんだよ」

 ロアの名前が出てくるという事は、多分あってるんだと思う。これで違ったら洒落になんないけどね。

「では、こちらにどうぞ」

 僕はシノンに案内されて、家の中に入って行った。


 ようやく出来ました。風宮です。

 はい、一週間ぶりの投稿です。自分でもまさか、休んだ直後にさらに時間を空けてしまうとは思ってませんでした。すみません。

 今回はユキヤ視点です。そして最近、新キャラしか出てきてません。他のメインメンバーの登場は何時になることやら…とか自分で言ってたら世話がありませんよ。

 次の話はゼロ視点でその後に居残り組の様子もチラホラ入れてきたいです。やるとしたら、ユキナかリアですね。この辺はまだ頭の中の会議で決まってませんから、もしかしたら全然違うキャラになるかもしれません。

 そんな感じでグダグダな感じですが、ここまでですね。それではっ。

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