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第二十一話 「雪菜救出(中)―魔剣と仮面と覚悟―」

 ユキヤたちと別れてしばらく歩くと、そこには苔まみれの墓石があった。

「『救世主メシア・クロウラ、ここに眠る』か」

 その墓石にはそう刻まれていた。この墓石が本物だとすると、この辺りに『魔剣』があってもおかしくないな。僕がそんな事を考えていると、ロアが腑に落ちないという表情を浮かべて言った。

「おかしいですね。私が以前ここに入った時は、このような場所に出たことはなかったはずですが…?」

「えぇぇ?ここって一本道でしたし、道に迷うこともないと思うんですけど?」

 リアが素っ頓狂な声を出してそう言った。

「あぁ。一本道の『道に迷うことは』、な。だが、ここの構造を誰かが変えてしまえば、そもそもここは新しい通路になる。一つおかしい点があるとしたら、人の手が入ったように見えないところだ」

 ここまで自然に見せられるとなると、一体誰がこんなことが出来るんだ?

「と、とりあえず、引き返しましょうよ。って、えっ?み、道がないですよ!?」

 リアの言う通り、今まで僕らが通った筈であろう道がなかった。それどころじゃない、この部屋には通路という物が一つもなかった。

「………!!そういう、事ですか。どうやら私たちは魔法により、この部屋に転送されたみたいですね」

 ロアのいった言葉は衝撃的だった。…成程。構造を変わるとか以前に、僕らは飛ばされていたのか。それなら知っている道がなくなるのも頷ける。しかしすると、違う疑問が沸き上がってくる。何故、ロアが以前ここに来たときは飛ばされず、今回は飛ばされたんだ?

―ようこそ。『魔剣』に選ばれし者よ―

「!?今、何か聞こえなかったか?」

「いえ、何も聞こえませんでしたが」

「私も聞こえなかったですね」

 ………空耳か?今、「『魔剣』に選ばれし者」とか何とか聞こえた気がしたが………?

―御主以外に聞こえることはないぞ。選ばれし者―

「誰かいるのか?答えろっ」

 僕は声の主に声を張り上げ、聞いた。空耳でも、幻聴でもない。確かに聞こえる。誰の声だ?

「レイさん?どうかしたんですか?」

「レイネス、様子がおかしいですよ。」

 二人はいきなり声を張り上げた僕を心配したのか、声をかけてきた。だが、それに構ってる暇はない。誰なんだ?

―私は、メシア。メシア・クロウラだ。選ばれし者よ―

「メシア、だと?『魔剣』の所持者だった、あのメシアなのか?」

―その通りだ。そして、次の所持者の資格を持つのは御主だ。選ばれし者―

「何!?僕が『魔剣』の所持者の資格を持っている、だと?」

 僕は言われた言葉に動揺を隠せなかった。なぜ僕なんだ?

「どういう事ですか、レイネス!?」

「わからない。ただ、不思議な声が聞こえる。そしてそれはメシア・クロウラを名乗っている」

 僕はとりあえず混乱する状態を避けるために、二人に今の状況を説明した。二人とも信じられないと言った顔で僕のことを見ている。信じてくれるとしたら、恐らくはユキヤやレミア位だろうな。こんな突飛な話。

―さぁ、選ばれし者。私の墓石に手をかざすがよい。さすれば道は開かれん―

 僕は仕方がないので、声の言う通りに墓石に手をかざした。すると墓石は二つに別れて、その下からは隠し階段が現れた。どうやら、声の言うことはまんざら間違いでもないらしい。

「レイネス、本当に声が聞こえたんですか?」

「あぁ。本当のことだ」

 ロアが僕に確認を取るようにそう聞いた。今更何を確認するんだ?

「だとすると、ここに飛ばされたのも頷けますね」

「どういう事ですか、ロアさん?」

 ロアの言葉にリアが反応した。

「仮定の話で断言は出来ませんが、恐らくは合っていると思います。私が以前来たときには飛ばされることはなかった。ですが今回はレイネスがいました。貴方が本当に『魔剣』に選ばれたのなら、貴方の存在を感知して、何らかの転移魔法が発動し、ここに来た。という訳だと思います」

 成程。確かに筋は通ってるし信憑性も無くはない。転移魔法についてはリアが既に証明済みだからな。僕はロアに感心した。

「それなら、この階段を降りてみるか?恐らくは奥に『魔剣』があるんだと思うんだが?」

「そうですね。ユキヤたちには悪いですけど、この階段以外ここから出れなそうですしね。行きましょうか」

「確かにここにずっといても意味ないですもんね。怖いのは嫌ですけど、レイさんと一緒なら大丈夫だと思います」

 こうして、僕らは地下に降りることとなった。階段は思いの外に長く多少、疲れも溜まってきた。十分程度だろうか、ようやく広い地面についた。そこには、一枚の血で汚れた、若草色のドレスがあった。

「クッ、何でこんな物が置いてあるんだ?」

「レイさん、何言ってるんですか?何もありませんよ」

 今度は僕にしか見えない物か。それに、これを僕は知っている。このドレスは母上が死の間際まで、…突き殺されるまで着ていたドレスだ。嫌なことを思い出したな。思い出して気付いたが、最近は目的が揺らんできてるような気がする。僕の目的は『復讐』だ。

「とりあえず、進もう。『魔剣』があるかもしれない」

 僕はそう言って、一人で歩き出した。………一人で、だと?僕は直ぐ様後ろを向いた。しかし、そこには誰もいなかった。あの二人、何処に行ったんだ?………二人とは誰のことだ?何も思い出せない。いや、思い出せることはある。母上が死んだ日のことと、それ以前のことだけだ。何故、それしか思い出せないのだ?

―御主には資格があるが、覚悟が足りない。なので試させてもらうことにした。そのために記憶の一部分を一時的に消させてもらったぞ―

「メシア、どういう事だ?僕に覚悟が足りないだと?」

―御主は何のために剣を振るう?―

「決まっている。それは………」

 言えなかった。僕は何のために剣を振るっているのかが答えられなかった。

「それは………、それは………」

―それが今の御主の覚悟だ。覚悟ない者は何も成し遂げられん―

「ふざけたことを言うな。なら戦ってみろ。僕の覚悟を見せつけてやる」

―よかろう。だが、私は既に朽ちた身。よって御主の相手は御主自身だ―

 声がそう言ったかと思えば、僕の影からもう一人僕が現れた。いや、これは僕じゃない。『僕』だ。

―自身を越えて見せよ。選ばれし者よ―

「上等だ。僕が自分に負ける訳がない」

 僕はそう言うが早いか、既に『僕』に斬りかかっていた。それは容易く盾でガードされた。僕が盾で殴りつけようとすると、それを剣で防いできた。僕が土の槍を魔法陣から出現させると、土の盾で防いできた。

「クソッ。埒があかない」

 僕は一旦、『僕』から距離を取った。すると『僕』は魔法陣を僕の真上に展開させて、そこから岩石の雨を降らせた。僕は咄嗟に魔法でドームを作るとそれで岩石を防いだ。そこに『僕』は突っ込んで来て、攻撃を繰り出してきた。どうやら、思考は同じ程度らしく攻撃を回避するのは楽だった。暫くはこの拮抗状態は続いた。だが時間が経つにつれて僕の体力が無くなってきて呼吸も乱れてきた。対する向こうは疲れを微塵にも感じさせなかった。そして、アレ意外には未だに何も思い出せない。何を忘れたんだ、僕は?そんな事を考えながら戦っていると、『僕』の一撃を避けきれずバランスを崩し、そこに盾での一撃を喰らい背中から倒れてしまった。

「グハッ。…ク、クソッ。こんな所で、倒れるわけには………」

 僕は体を起こし、ふらつきながら立ち上がった。………僕は何故、こんなにもムキになっているんだ?たかだか馬鹿にされた程度だろう。なのに、何でこんなにも勝とうとしてるんだ。誰の為でもなく、こんなどうでもいいことに時間を割いてるんだ?そもそも何で戦いが始まった。『魔剣』の事だったか?手に入れて、僕は何がしたいんだ?僕の目的は『復讐』だ。母上の無念を晴らすための………。………違う。僕は何て思い上がった事を考えてたんだろう。母上が『復讐』を望んでいるかなんてわからないじゃないか。

「クククッ。ハハハハハッ」

 僕は大切なことに気付いた。それと同時に今までのことを全て思い出し、一つの答えに辿り着いた。

「僕はもう、過去に囚われたりしない僕の覚悟を、『レイネス』としての覚悟を見せてやる」

 僕は覚悟を決め、仮面を脱ぎ棄てた。僕はもう『レイネス』以外の名前を使うことはない。だが、今はそんな事はどうでもいい事だ。

「僕の覚悟は、剣を振るう理由は『仲間のため』。それだけだぁ」

 僕は渾身の一撃を『僕』に叩き込んだ。それは『僕』の盾を打ち砕き、その身を斬り裂いた。それにより『僕』は悲鳴を上げながら、僕の影に戻っていった。

―もう一度聞こう、選ばれし者よ。御主は何のために剣を振るう?―

「何度でも答えてやる。僕は『仲間のため』に剣を振るう。それが僕の覚悟だ」

―復讐はもういいのか?―

「いいわけではない。ただ、母上がそれを望んでいるかは別だ。望んでないのなら自己満足にしかならないわけだからな」

 それに、過去に囚われたままではあの連中と向き合えないからな。

―よかろう。御主の覚悟、しかと受け取った。『魔剣』は御主の覚悟を貫くことに役立つだろう―

「あぁ。礼を言う、メシア。大事なことに気づかせてもらった。この恩は忘れない」

―それでは、選ばれし者よ。さらばだ―

 僕はその声を聞いた途端、意識を失うのが自分でわかった。次に目が覚めたのはリアの太股の上だった。何で僕は、膝枕をされているんだ?

「あっ、レイさん。気が付きました?」

「僕は一体、どうしたんだ?」

「貴方はこの部屋に入ってスグ、気を失ったんですよ」

 あれは、夢だったのか?そう思って僕が起き上がり、自分の剣を見て驚いた。剣が二本ある。一つは僕の普段使っている剣だ。だがもう一本は?

「レイネス、その剣は?」

「恐らくは、『魔剣』だと思う」

「これが、その『魔剣』なんですか?」

 そう、これは『魔剣』だ。柄を握っただけで、凄まじい力を感じる。見た目は普通の両刃片手剣なのだがな。

「では、これでこちらも二本ですね。向こうとこれで互角でしょう」

「あれ?見てください、二人とも。向こうに明かりが見えますよ。行ってみましょうよ?」

 リアの言う通り、確かに明かりが見えた。そして、微かに剣のぶつかり合う音も…。

「急いだ方が良さそうですね」

「急ぐぞ。恐らく、ユキヤたちと『ブレイカー』が交戦している」

「ま、待ってくださいよ~。置いてかないでください」

 僕らは光の方へと走り出した。『仲間を』 助けるために。


 今回はレイネスが勝手に過去と決別してしまいました。風宮です。

 レイネスの過去は詳しくはもっと後でわかるんですが、次回は少し衝撃の事実が暴かれる予定です、多分。

 レイネスには『魔剣』の試練があって何故ユキヤにないのかは、アレです。レイネスの方は、実際に声は本当ですがドレスの方はレイネスの思い込みで見えたもので、それによって覚悟がぶれたんで受けることとなり、ユキヤの方はユキヤの心に既に『大切な人を傷つけさせない』という覚悟が確立してたからです。これは倖枝の自殺の影響ですね。二人とも大切な人を亡くしてるのは同じなのに、『復讐』に生きるか、『守る』為に生きるかじゃ全然違いますもんね。

 という訳で、次回は雪菜救出の最後です。一応、救出には成功する予定ですがその後どうなるかはわかりません♪本当に。こんな作者ですみません。

 少し次回のネタバレしたところで、時間ですね。それではっ。 

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