第十二話 「今回からはレイネス視点でお送りします。」
「初めまして。わたしはリア・アーティスて言います。こう見えて、ロアさんの右腕なんです~。結構、期待しちゃって下さい。いろんな意味で。」
僕は目の前にいる少女がロアの右腕だという事実を認めたくなかった。その少女-リアは、どこからどう見ても幼女にしか見えなかった。
「ロアお前、とうとう犯罪にまで手を染めたのか。今まで、いろんな事ができる奴だとは思ったが、こんな幼い少女に手をかけるとは。」
「レイネス、勘違いしないで下さい。私にそんな趣味はありません。」
「だがしかし、ギルドの取り決めで十五歳未満のものは入れないはずだろう。」
「この子の場合は、魔力が大きすぎるんです。親御さんから「力のコントロールができるようにしてくれ」、と依頼を受けているので、ついでにうちのギルドのメンバーにしてしまいました。」
「上の奴らはそれで良いと言ったのか?」
「ええ。いろいろなコネを使いましたから♪」
僕らはリアに聞こえない程度の声で、そんな会話を交わした。
「あの、お兄さん。お名前教えて貰ってもいいですか?」
そういえば、まだ自己紹介をしていなかった。僕としたことが、目の前の現実から逃げているなんて、なんと滑稽な様だろう。
「これは済まない。挨拶が遅れた。僕はレイネスという。よろしく頼む。」
「あ、はい。こちらこそよろしくです。あのレイネスさん、お名前はレイネスだけなんですか?」
「………そうだが。何か問題でもあるのか?」
「いえ、そう言うワケじゃないんです。ただ、気になっただけです。」
この娘、何でそんな事を聞く?お陰で少々、いやな記憶が思い出された。……母上………、
「さて、お互いの自己紹介も終わった事ですし、そろそろ行きますよ。」
「そうだな。ところで何処へ向かうんだ?」
「ちょっとした知り合いがいるんで、その人の元へいこうと思います。場所は港町『アルヴァン』です。」
「確かそこって、ここから南の方へ向かって半日で行けるところです。」
「ええ、その通りです。では、向かいましょう。」
僕らは港町『アルヴァン』を目指した。途中、何回か魔物に遭遇したがロアによって、全て一撃で葬り去られた。リアは幼いながらも、弱音を吐かずにしっかりと遅れずに着いてきている。
「だいぶ歩いたので一度、この辺りで休憩しましょう。リアも疲れたでしょう。」
「わたしはまだ大丈夫です。まだ歩けます。」
「いいから休んでおけ。常に万全の状態にしておかないと、後で何が起こるか分からないから、何かあったときに後悔するぞ。足手まといなら、僕は切り捨てるからな。」 酷いことを言ったようだが本当の事だ。後で倒れられたら、こっちが迷惑だ。
「わかりました。そこまで言われるのなら、しっかり休んでおきます。レイネスさんって優しいんですね。」
「勘違いするな。僕は優しくしたつもりなどない。そんなくだらないこと言っている暇があったら、武器の手入れでもしておけ。」
「はい。わかりました。そうすることにします。」
この娘といると、こっちの調子が崩れるのは何故だ?そんな事を考えていると、ロアがいやな感じの笑みで、こっちを向いているのに気付いた。
「何の用だ?」
「いえ、ただ単にあなたたち二人を微笑ましく見ていただけです。」
「何故そんな事をする必要がある。」
「面白いので。」
この男、何を考えているんだ。気持ち悪い。僕はあんな小娘、どうでもいい。僕はそれよりも………。ハッ、僕は何で流れに流されているんだ。クソ、僕はこの男の事は苦手だ。
「おや、気付かれてしまいましたか。あなたの苦悩する姿は見ていて面白いんですがねぇ。ではそろそろ行きますか。リア、そんな所で寝ないで下さい。」
この男、何年も顔を合わせているが未だに喰えない。何者なんだ?
僕らは移動を再開したが、休憩後は魔物も出てくることなく、無事に港町『アルヴァン』に辿り着いた。
「それでは、私は知り合いに会ってくるので二人で聞き込みをしていて下さい。夜になったら宿屋で落ち合いましょう。」
こうして僕は、リアと行動することになった。
「あの、レイネスさん。聞き込みってどういう事をすればいいんですか?わたしデスクワークと戦闘はできるんですが、こういうのは初めてで…。」
「簡単なことだ。通行人に声をかけて話を聞けばいい。ただそれだけのことだ。」
「そうなんですか。教えてくれてありがとうございます。」
「フン。無能な部下に教えるのは上官の仕事だからな。」
「……やっぱり、わたしって無能ですよね。ご迷惑かけて、………すいませんでした。」
さっきまで、それなりに明るかった顔が急にしゅんっとなった。僕の胸が何故か締め付けられた。何故だ?
「そんな事でいちいち気を落とすな。そんな事をしていても、何も変わらないぞ。無能だと思うのなら、学べ。」
「はい。わかりました。今後、気を付けます。」
「わかったのならそれでいい。サッサと始めるぞ。」
「はい。」
その後、僕らは二時間程度聞き込みを続けたが、特に成果は上げられなかった。こうなってくると、ロアの知り合いの情報だけが頼りだ。
「そろそろ宿屋に行くぞ。これ以上続けても、成果は上がらないだろう。」
「じゃ、じゃあ最後にあの人に聞いたらお終いにします。」
「わかった。ならサッサと終わらせるぞ。」
僕らは、日に焼けた船乗りの男に声をかけた。
「すいませ~ん。わたしたち、チョット知りたいことがあるんです。いいですか?」
「ん、俺に答えられる程度のことだったらいいが、何が聞きたいんだ嬢ちゃんたちは?」
「『ブレイカー』という組織を知らないか?」
「ん。何だ、そんな事か。なんか胡散臭い宗教団体みたいな連中の集まりだろ?それなら海を越えた先にある、『フォード』って町に行くといい。そこの方が、いろいろ分かるぞ。何なら、今から船を出してやるが、どうする?」
「気持ちはありがたいが、他にも連れがいるんでな。後日頼みにいくかもしれないから、その時は頼む。」
「そうか。それならいいが、その時は俺に声をかけてくれ。俺の名前はジェフだ。この名前を出せば、三割引にしとくからよ。」
「ジェフさん。ありがとうございました。」
「いいって事よ。じゃあまた会ったときはよろしくな。」
そう言ってジェフは去っていった。僕らは最後の最後で、有力な情報を得られたのだった。
「では、戻るぞ。そろそろロアもきている頃だろうからな。」
「はい。わかりました。って、待って下さい、置いてかないで下さい。」
僕はリアのことを気にせず歩を進めていたら、後ろから怯えたようなリアの声が聞こえ、僕の手を握ってきた。コイツ、何に怯えてるんだ?
「……………いで。」
「何か言ったか?聞こえなかったのだが。」
「一人にしないで下さい。」
そう言ったリアの声は涙声だった。よく見ると、目も涙目になっていた。
「どうしたんだ、急に。」
「一人は嫌なんです。怖いんです。嫌いなんです。だから、だから、一人にしないで下さい。」
リアはもう、泣きそうになっていた。僕はその表情を見たとき、とてつもない罪悪感と、自らの嫌な記憶が沸き上がってきた。あぁ、そうか。この娘は僕と違って、僕と同じなのか。何故コイツといると調子が狂うかがわかった。自分と同じなんだ。理由はどうであれ、根っこの部分では何も変わらない。なら、僕みたいな人間をこれ以上増やす必要はない。
「何があったのかは知らないが、そこまで怯えるということは相当の事なのだと思うからこれ以上は聞かない。だが、できるだけお前を一人にすることはしないと約束しよう。」
僕はそう言って、リアの肩を抱いてやった。リアは驚いたようだが、何か安心したような表情に変わっていった。
「あ、ありがとうございます。も、もう大丈夫ですから。」
「そうか。」
僕はリアがそう言ったのでリアの肩を離した。その時何故か、リアが名残惜しそうな表情をしていた。何故だ?
「あ、あのレイネスさんって呼び方、長いのでレイさんって呼んでいいですか?」
「勝手にしろ。行くぞ。」
僕はそう言って歩き出した、ただしリアの手を引いてだ。流石にもう、泣き顔は見たくないからな。数分後、僕らはロアが来ているかどうか確かめてから部屋を取り、その中でロアを待った。
「あの、レイさん。一つ聞いていいですか?」
「何だ。」
「何で、そんな仮面着けてるんですか?」
「どうでもいいだろ、そんな事は。」
「どうでもよくないです。わたしはもっとレイさんのことを知りたいですから。」
「何故だ?」
「わたし、レイさんのこと、す、す、す、好きになってしまったみたいなんです。」
「僕は笑えない冗談が嫌いだ。」
僕は何の感情も込めない表情で答えた。答えた筈だ。内心ではかなり驚いたが、それは顔に出なかった筈だ。そう信じる。
「冗談じゃありません。本気です。」
「僕はお前の事を何も知らないんだが?」
「わたしもレイさんのこと殆ど知りません。」
「なら何故だ?」
「理由はあれです。軽く言えば、レイさんのツンデレ具合にグッと来ました。」
「そんな理由で、軽々しく好きだなんて言うんじゃない。」
人をバカにしているのかコイツは………。
「軽く言えばです。今のは単なる照れ隠しです。気にしないで下さい。最初見たとき、レイさんは冷たい人だと思ってました。ですけど、今日一日でそれは違っていたと、わかりました。レイさんは強がってるだけなんです。強がっている故に、そうわたしには見えたんです。」
「何を根拠にそう言っている。」
「わたしがさっき、レイさんに縋ったとき、レイさんの目を見ていてわかりました。レイさんの瞳が揺らいでました。何があったかは知りませんけど、昔に悲しいことがあった人がする目に見えました。その時思ったんです、「あぁ、この人もわたしと同じで、わたしと違うんだ。」って。何が違うって聞かれたら、レイさんは変わろうとして、わたしは変わろうとしなかっただけなんですけど。」
彼女は自虐的に笑った。
僕は驚いた。彼女がそこまで見抜いていたことを。そして、僕と同じ事を感じていた彼女自身に。
「わたしが選べなかった道を選んだであろうレイさんに恋しちゃったみたいなんです。そして、レイさんがいつか折れてしまいそうで、それが心配になったんです。そして、支えてあげたいと思ったんです。傷の舐め合いをするつもりはありません。ただそれだけです。」
僕はそんな事を言った彼女を見れなくなった。僕は強がってるんじゃない、逃げてるだけなんだ。お前の思っているような、人間ではない。
「すまないが、お前の想いには答えられない。」
「今じゃなくていいんです。でもいつかは分かって欲しいです。」
「………そろそろ出てきてもいいんじゃないか?覗きと立ち聞き趣味の、眼鏡鬼畜。」
「おや、失礼ですね。人を変態呼ばわりして。」
「ろ、ロアさん。い、いつからいたんですか?」
「あなたがレイネスの仮面について聞いたところからです。」
「さ、最初からじゃないですかぁ。酷いですよぉ~。」
僕は、リアが混乱しているのを放置して外へ出た。ロアが居るし、たぶん大丈夫だろう。アイツも本当に食えないやつだ。そう、アイツは最初から僕らの会話を聞いていた。だから僕は本音を話さなかった。だが、今はアイツが立ち聞きしてくれて助かった。と思う自分がいる。あの調子じゃ、下手したらあの事についても話しそうだった。少なくとも、まだ話す時期じゃない。ユキヤやレミアが居るところでないと意味もないからな。
僕はふと、会って間もないのに、ユキヤ相手だと僕が丸くなるのかが不思議になった。でも、それは多分どうでもいいことなのだろう。アイツはアイツだ。気にすることはないんだ。僕は、満点の星空を見てそう思った。
新キャラ紹介のコーナーです。
リア・アーティス
ピンク髪でツインテールの髪型をした、幼児体型の少女。背も138センチしかない。
こう見えても一応13歳。力が強すぎ、未知の力を持つために親からロアに預けられ、ギルドに入れられた。
料理は得意。昔、ある事件に関わり深いトラウマを持つ。喋り方は一番年下なので敬語
一人称は「わたし」
使用武器はチャクラム、投げナイフ
適応属性???
服装は白いワンピースにしましまニーソ、頭には小さな花飾りの付いたヘアゴムを二つ
今回は、レイネス視点ということで、かなり難しかったです。
レイネスのキャライメージが崩れたらごめんなさい。
ここからこの話を入れて三話、レイネス視点になる予定です。
レイネスの昔話はまだ公開しません。
次回は多少、血生臭いと思います。
この作品の初死人が出ます。
この作品の人たち、今のところ誰も殺してませんから。(魔物を除く)
ということで、次回もまた初めてをいくつか入れるので、チョットヤバくなっちゃうかもしれません。
その辺はご了承下さい。
こんな駄作を読んでくれた方々、本当にありがとうございます。
これからも投稿を続けてこれだけでも、完結させたいと思います。
完結までまだまだかかりますが、それでも読んでくれる方がいるのならよろしくお願いします。