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日陰に咲くふたり  作者:


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3/6

失敗は笑いのもと

 中学一年の五月、生き物係が交代になった。


 最初に立候補していたのは藤井臨と門前小絵の二人だった。




 藤井臨はクラスで一番声がでかくて、なんでも「面白そう!」と言って手を挙げる子。露悪的で、ザリガニのハサミを無理やり動かして遊んだり、うさぎの耳を引っ張って「かわいいー!」と叫んだりする。


 門前小絵は外面が良くて、先生の前ではにこやかだけど、裏で人の悪口を小声で言い合うのが得意なタイプ。


 二人とも「生き物係やりたーい!」と自分から手を挙げて、先生にアピールしていた。


 ところが一ヶ月も経たないうちに、二人は「習い事が忙しくなっちゃって……」と辞退した。代わりに指名されたのが、放送係の安島笑子と、図書係の原賀暦だった。




 二人とも、特にやりたいと言ったわけではない。むしろ、クラスの誰もがやりたがらない地味な係だったから、空きが出た瞬間に押しつけられた形だ。笑子はすぐに察した。


「あー、なるほどね…」


 理由は三つあった。




 一つ、学校で飼っているうさぎの世話は、実はほとんど回ってこない。うさぎ小屋は校舎の裏で、鍵がかかっていて、先生か上級生が主に面倒を見ている。


 クラスの生き物係がやるのは、たまに餌を補充したり、掃除を手伝ったりする程度。




 二つ、クラスのメインはザリガニとメダカのはずだった。


 ただ、藤井と門前が「混ぜたら面白いんじゃない?」と軽い気持ちでザリガニとメダカを同じ水槽に入れてしまい、一晩でメダカが全滅した。「メダカ殺し」のザリガニは今も水槽の底で威張っている。その罪悪感か嫌悪感か知らないが、二人は水槽に近寄るのをあからさまに嫌がっていた。




 三つ、植物の水やり。教室の隅や廊下に置いてある観葉植物や朝顔の鉢に、毎日水をやる。地味で、忘れるとすぐ枯れる。誰にも感謝されない。つまり、生き物係は「面倒くさいだけの係」になっていた。




 笑子は苦笑しながら、原賀に声をかけた。


「まあ、しょうがないよね。二人でやろうよ、原賀さん」




 原賀はいつもの無表情で、小さく頷いた。




「……うん」




初日の放課後、二人は生き物コーナーの前に立った。水槽の中では、ザリガニが一匹、威風堂々とハサミを振り回している。メダカはもういない。植物の鉢は土が乾いて、葉が少ししおれている。笑子は大きなジョウロを持って、まずは水やりから始めた。




「しかしさ、藤井と門前ってほんと無責任だよねー。やりたいって言っといて、すぐ投げ出すんだもん。


 私の顔よりひどいよね!」




自分で言って、自分で笑った。原賀は黙って、ザリガニの餌を準備している。沈黙が続く。笑子は少しだけ声を落とした。




「……あのさ、原賀さん。私、別に嫌々やってるわけじゃないから。二人でやるなら、悪くないかなって」




原賀は手を止めて、ちらりと笑子を見た。




「……私も、嫌じゃない」




 短い言葉だった。でも、それだけで十分だった。地味な仕事が始まった。毎日の放課後、二人は黙々と水をやり、ザリガニに餌をやり、たまにうさぎ小屋に行って先生の手伝いをする。笑子は時々冗談を言って、自分で笑う。原賀は、ほとんど口を開かない。


 でも、二人きりの生き物コーナーでは、妙に居心地が良かった。少なくとも、誰にも笑われることなく、ただ黙々と生き物を世話する時間。それは、二人にとって、大切な「居場所」だった。





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