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日陰に咲くふたり  作者:


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1/6

先手必笑

友情物語です。

 安島笑子あじま えみこは、自分の顔を「武器」に変えることで生きてきた。


 幼い頃、近所の子供が彼女の顔を見て吹き出した時、笑子は悲しかった。


 けれど、数日後、悟った。


 自分は笑われる側ではなく、笑わせる側に立てばいいんだ、と。痛みを逆手に取る。醜さをネタにすれば、誰も自分を傷つけられない。


 相手に怒ったところで無駄だ。


 相手の心と自分の顔を変えることは出来ないのだから、意識を、態度を、表情を変えるしかない。


 彼女は鏡の前で何度も表情を練習した。目を大きく見開いてみたり、口を大きく歪めてみたり。笑われる前に、自分から笑わせる。それが彼女のルールになった。強い女になった。少なくとも、表面上は。


 中学に上がると、クラスに原賀暦はらが れきがいた。


 原賀は笑子ほど極端ではなかった。顔立ちは地味で、眉が太く、唇が厚くて、髪はいつもぼさぼさ。


 でも、普通に化粧して、普通に笑っていれば、目立たない程度には収まったはずだった。なのに彼女は笑わなかった。


 いつも口をへの字に結んで、視線を床に落としている。誰かが話しかけても、短く答えるだけ。すぐに会話が途切れる。


 ある日、休み時間に誰かが唐突に聞いた。




「なんで原賀さんって笑わないの?」




 クラスが一瞬静まり返った。原賀は少しだけ顔を上げて、淡々と言った。




「……笑う理由ないから」




 それだけだった。その日から、原賀は完全に孤立した。誰も近寄らなくなった。


 話しかける価値がない、とみんなが判断したのだ。原賀自身も、それを望んでいるように見えた。


 一人でいることを選んでいるように。笑子は遠くからそれを見ていた。




ーもうちょっと上手くやればいいのに。


 笑えばいい。


 冗談の一つでも言えばいい。


 自分の欠点を少しだけ笑いものにすればいい。




 笑子はそう思った。笑子はそうやって生きてきた。痛みを受け入れて、笑いに変えて、みんなの輪の中に入った。


 原賀はそれができないのか、それともしたくないのか。




 ある日の体育の時間だった。準備体操の最中、クラスの男子が転んで尻餅をついた。みんながどっと笑う中、笑子はふと原賀を見た。原賀の口元が、わずかに震えていた。笑おうとして、堪えている。頰が微かに赤くなり、目を細めて、唇を噛んで。でも、結局、笑わなかった。ただ黙って視線を逸らした。笑子は不思議だった。


 何で我慢してるんだろう。笑うのが、そんなに嫌いなのか。それとも、笑ったら何か壊れてしまうとでも思ってるのか。




 笑子には、わからなかった。ただ、原賀のその表情が、なぜか胸に引っかかった。自分とは正反対の、頑なな沈黙。それが、笑子の仮面の下の何かを、かすかに揺らした。



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