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記念作品シリーズ

チャレンジング

作者: 尚文産商堂

はぁ~、と細く長い息が出る。

外は寒い、いや寒すぎる。

玄関から一歩踏み出すごとに、どうしてこんな日に、と思わずにはおれない。

でも、行かなければならない。

「あ、こっちこっち!」

ぴょんぴょんと跳ねているのが見えているが、あれが俺の彼女だ。

大晦日、初詣にいくために俺は彼女と待ち合わせをしていた。

「うーす、元気だなぁ」

こっちといえばシャツにさらに上着2枚、その上からダッフルコートを着て、カイロも両手に装着してポケットにしまい込んでいる。

みっちり防寒をしているのに、彼女のその様子は寒そうの一言だ。

長袖長ズボンなのは理解できるが、カーディガンでマフラーと、毛糸で編まれたニット帽。

帽子の頂点に君臨しているポンポンが飾りとして揺れているのがかわいらしかった。

「寒くないのか?」

「うん?大丈夫だよ?」

キョトンとした顔をしているが、そういえば、と思い直す。

彼女は昔からこんなのだった。

小学生の時から半袖半ズボンは当たり前。

時によってはどこから見ても寒いだろうと言わんばかりの恰好で歩いていることだってあった。

「行こうよ」

「ああ」

横並びになりながら、俺は寒さに凍えつつも、それでも彼女と一緒に歩いていく。


初詣に向かう寺は、家のすぐそばにある大凡寺という寺だ。

剛東温泉という手野市にある温泉地の温泉寺であり、この温泉街に泊まっている人も多くがここをお参りする。

ということで普段も結構にぎわっているところであるが、特に年末年始ともなるとどこから集まったのかわからないぐらいの人達でいっぱいいっぱいになる。

それでもここが毎年恒例で初詣にきているところだから、今年もやってきた。

ちなみに歴史的経緯とかなんとかで、本尊が薬師如来、副本尊が大日如来となっているらしい。

寺の説明をしてくれている看板では両本尊とか書かれている。

詳しいのは知らないけども。

思いながら歩いていると、彼女はふらふらと右へ左へ、参道にある屋台街で歩き回っている。

「こーら。ふらついてちゃ、あぶねぇだろ」

思わずポケットから手を取り出して、それでもなおカイロは持ちながらも、彼女の腕をつかむ。

「え、あ。ごめんね。おいしそうだったからね、ついね」

確かに屋台で売られているたい焼きは、買ってほしそうにこっちを見ている。

「ダメだって。高校でもちゃんと話しただろ、屋台を買うのはお参りのあと、じゃないといつまでたっても食べ歩き観光ツアーが終わらないんだから」

「そうだったね、ごめんね」

それでもなお、ジィッとたい焼きを見ている彼女を、どうにかして腕を引きつつ屋台から引きはがした。


参道の石畳を歩いていると、そこかしこで笑い声や楽しげな声が聞こえてくる。

俺だって彼女といろんな話をしながら歩いているわけだが、それでも寒さが身に染みてくる。

「なぁ」

「ん?」

「寒くないのか」

待ち合わせの時間からは1時間はしっかり過ぎて、周りもすっかりと暗くなってしまった。

だから思わず俺は彼女へと尋ねた。

「えー、寒いのは寒いよ」

はっきりと言ってのける。

「じゃあちゃんと服着て来いよ、寒いんならさ」

さっきと違うじゃないかという言葉はぐっとこらえる。

「でもね、これでいいの、私は」

「なんでさ」

「だって、これのほうがはっきり体温感じれるでしょ」

言いながら俺の頬を彼女は両手でむぎゅっと触ってきた。

「ほら、はっきりわかる。たーくんのあったかいの」

言われると気恥ずかしいやらなんやら、頭の中もぐちゃぐちゃだ。

といっても怒る気力もわいてこない、これが好きだっていう感情なのかもしれない。

歩いているからすぐに離れたものの、それでもあの時の彼女の微笑みは忘れれなかった。


遠くに感じていた本堂も、今や目の前だ。

その直前ではあるものの、ここにきてみんな立ち止まっている。

初詣をするためにいろんなところからラジオの声やスマホの光が見えていた。

「もうちょっとだって」

俺たちだって、そんなスマホを見て時間を確認しているメンバーの一組だ。

カウントダウンの声だって聞こえてくる、残り1分を切ったようだ。

「そうか」

テンションは少しずつではあるけども上がっていく。

ここにいる全員が、同じ時を、同じようにして共有しているという事実に、わずかな興奮を覚えていた。

「何をお願いするか決めてるの?」

「もちろん」

いつのまにか、息は白さを失っていた。

周りから暖かさすら感じて、気づいていたら手を外に出している。

「どんなこと?」

「そうだな……」

いうかどうかを悩む。

そして思い切り、彼女の手を、指を絡めてぎゅっと握る。

驚く彼女の顔、それをやや上から下に、身長差のままに、俺は覗き込んでいた。

「いつも変わってないさ」

残り20秒切ったよ、という遠くの声。

「なに?」

じゅーごー、という間延びをした声。

「いつまでも、一緒に居るれるようにって」

じゅー

「私も」

きゅー

「同じ」

はち、なな、ろく

「知ってた」

俺は思わず笑っていた。

ごー、よん

「ねぇ」

彼女の声、それをただ世界に閉じ込めるようにして。

さーん

気づいたら目の前。

にー

驚く彼女の顔、決意を固めた俺の気持ち。

いーち

そして声は聞こえず、年越しは俺と彼女は一つになって。


唐突のこと、周りには気づかれていないだろう。

あけましておめでとうございます、という現実の声といっしょに、俺は彼女の顔を覗き込む。

光がなくたって明確に、彼女は真っ赤になっている。

「……ごめん」

「今年最初の言葉は、そうじゃないでしょ」

まんざらでもないという顔をしている、幸せそうな彼女ははにかんで。

それでいて、とてもきれいで。

だから俺は彼女に告げた。

「明けましておめでとうございます、今年も来年もずっとずっと一緒にいてな」

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