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転生令嬢は初恋を貫く!  作者: 尾木 愛結
3/11

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 空は快晴で新緑の季節が到来。


 王都には地方から集まって来る貴族たちがチラホラを増え始め、社交界シーズンの幕開けとなる王宮の園遊会の日がやってきた。これに参加できるのは伯爵家以上の家格の子女と両親。


 私は初めてのディドレスに身を包み、母の侍女の手によって髪を結われたのでる。

 両サイドの髪を垂らした状態にして、長く伸ばした髪は二つに分けて三つ編みにしてから、耳の上あたりの高さで三つ編みにした髪をクルクルと巻いてシニヨンにして貰った。


 その上にはハンカチの大きさの布で覆って、リボンで布と髪をおさえる。鏡で確認したら六歳の子供らしい髪型になって、思わずテンション爆上がりだ。

 オシャレをするのは子供でもワクワクする。


 ドレスも私の想像を遥かに超える仕上がりで、とても気に入っているのだ。濃淡の白い刺繍糸で飾られたカスミソウに葉の模様。袖と裾周りとピンタックの切り替えの部分には、縁取りのレースが申し訳ない程度にある。

 子供用にしては地味な仕上がりだが、昼間の園遊会には目立たない地味な方が良い。



「ジュリエンヌ、そろそろ馬車に乗りましょう」



 母親の声の方へ駆け寄る。

 姉のハリエットとお揃いの色のドレスのようだ。侯爵夫人らしい上品な仕上がりのドレスに、姉は子供らしさを前面に押し出したフリルとレースが飾れたもの。


 父の方は私と同じ素材の生地のフロックコートとベスト、そして薄茶色のクラバットでアクセントをつけている。襟と袖には薄茶色の刺繍が施され、落ち着いた印象のスタイルだ。背中まで伸びている長い銀髪は後ろで一つにまとめ、フロックコートを同じ素材のリボンで結ばれていた。


 普段のラフなスタイルも眼福だが、父が着飾るとその美貌が際立つ。

 姉も父の姿に見惚れている。



「メグ、時間に遅れる」


「ええ、旦那様」



 父は母をエスコートして馬車の方へ進んで行く。

 子供を残して先に向かうとは、父の母に対する行動もブレない。


 両親の後に続いて馬車の方へ向かうと、父が抱き上げて馬車に乗せてくれた。さすがに従者に娘を任せる事をしなかったのは褒めてあげたい。


 馬車の中では両親は横並びとなり、私と姉は両親と対面する方へ着席した。御者が馬車の扉を閉めるとゆっくり動き出す。振動は思っていたより少ないが、スプリングがないのでお尻が痛くなる。

 クッションを持ってくれば良かった後悔した。


 私にとって馬車に乗るのは初めての事で、その前は母の膝の上に乗っていたり、寝ている間に移動していたせいで気づけなかったのである。


 王都の邸から王宮まで約十五分ほど。

 これは高位貴族の特権で王宮に近い土地は、公爵家と侯爵家が占めているのが理由だ。その次に旧家の伯爵家と子爵家が続き、王宮から離れて郊外の方は男爵家と準男爵家の邸が並ぶ。


 領地に至っては広大な敷地面積の関係で高位貴族になれば遠く、国境あたりは公爵家から辺境伯が占めているはず。その中間に伯爵家と子爵家の領地がある形。


 王族が所有している領地も同じ理由で、王都から外れた場所に幾つか点在している。

 避暑地として他の貴族に解放している場所もあれば、不可侵領域の場所もあるらしい。解放している場所では狩猟大会が行われるようだが、今の所は両親しか参加していないので機会があれば行きたいと思っている。


 いよいよ初めての王宮。

 馬車が外門を抜けて奥へ進んで行く。城壁の中は意外と殺風景なものだ。馬車で通る道だからそういった造りなのだろう。すると馬車が急に止まり、扉が開いた。


 目の前には見事な庭園の入口。

 木製のアーチに蔦が絡み、薔薇が彩っている。

 その奥に見えるのは旬を迎えた花々。


 父が先に馬車から降りると、手前にいた姉から降ろされていく。

 次に私を降ろしてから母に手を差し出し、スマートなエスコートで馬車から降ろす。その動きに無駄がなく、上流階級の男性は完璧なエスコートをする為に学ぶのかも。


 父は母をエスコートして歩き始め、私と姉は二人に続く。



「アグレッサ侯爵夫妻だわ」


「侯爵は相変わらず麗しいお姿ね」


「彼らの後ろにいらっしゃるのは……ハリエット様と妹君かしら?」


「ごきげんよう、皆さま」


「アグレッサ侯爵夫人、ごきげんよう。あの令嬢は二番目の娘さんかしら?」


「ええ、今回の園遊会が初参加になりますの。次女のジュリエンヌですわ」


「まあ! 侯爵にソックリね。将来が楽しみだわ」


「ハリエットにジュリエンヌ、お前たちは子供が集まっている場所へ移動するんだ」



 父が名前を呼ぶのは珍しい。

 社交の場だから父親らしい事をしていると、他人に見せたいのだろう。


 この場にいても退屈そうなので、父の言葉に従って子供が集まっている方へ向かった。姉の方は父と離れたくないのか、父の袖を掴んだまま動かない。


 私は姉が傍にいない方が助かるので、さっさと向かう事にした。



「ねえ、あなたのドレス素敵ね」



 不意に話しかけられて首を傾げる。

 私に話しかけてきたのは同じくらいの年齢の、私と同じ銀髪に青灰色をした瞳の少女だった。


 彼女は黒い色のドレスに赤紫色の刺繍糸で彩られたドレス姿である。黒い色のドレスは王族か公爵家の縁のある者だと仕立て屋が言っていたので、彼女はレベッカ・アデレード第一王女殿下だろう。


 事前に調べたので公爵家に令嬢がいない事は把握している。

 私と同じ年齢の令嬢がいないだけで、年上や六歳以下の令嬢は存在している。


 彼女は王族の色を示す髪と目の色をしていないが、エロイーズ・アデレード王妃陛下の色だ。銀色の美しい髪と青灰色の瞳を持つ王妃陛下の姿は、当時まだ王太子だった国王陛下を魅了したらしい。


 レベッカ・アデレード第一王女殿下に話しかけられたので、私は王族に向ける淑女の礼をとった。


「お声をかけて頂いて光栄に存じます、レベッカ・アデレード第一王女殿下」


「まあ! まだ名乗っていないのに凄い洞察力ね」


「その色のドレスを見れば一目瞭然かと」


「貴方! ちょっと此方へいらっしゃい」



 いきなりレベッカ・アデレード第一王女殿下に腕を掴まれ、人気のない方へ連れて行かれる。

 その先は王族のプライベートエリアなのか、人影一つも見当たらない。


 低木に隠れた場所にベンチがあり、そこへ横並びで座らせられた。



「ねえ、貴方……地球って言葉を知っている? もしくは日本とか東京は?」


「え?」


「その顔は心当たりがあるのね。わたくしは生まれた時から前世の記憶があるの。もしや、貴方もそうじゃなくて?」



 レベッカ・アデレード第一王女殿下の言葉に声が出ない。

 まさか突然こんな出会いがあるとは思っていなかった。



「わたくしも……その、前世での名前は憶えていないのですが、東京の郊外に住んでいたのは覚えています」


「ああ、やっぱり! そのドレスのデザインを見て、もしやと思っていたのよ」


「ドレスのデザイン?」


「わたくしが知るドレスのデザインは、無駄にフリルとレースでゴテゴテに飾った動きにくいものよ。だから貴方のように機能性を重視したデザインのドレスを着ている子供は一人もいないの。それと髪型も同じよ。この世界でシニヨンの髪型をしている同世代の子を初めて見たわ!」



 レベッカ・アデレード第一王女殿下は興奮気味に捲し立てる。

 髪型とドレスを見て転生者と分かる能力も凄いと思う。



「あの……レベッカ・アデレード第一王女殿下、わたくしはジュリエンヌ・アグレッサと申します」


「アグレッサ侯爵家ね! 貴方の父親って美形すぎない? 作り物の人形みたいに顔が整い過ぎているというか……まだ母親の方が人間味があって好ましいわ」


「父は表情筋が乏しい上に言葉も足りないんです。ただ……父の顔は眼福ではありますが、わたくしの好みとは違うので特に何も感じません」


「貴方も父親にソックリよ?」


「そうですね、よく言われます。この顔が理由で姉から殺されそうになっているので、母親似で生まれたかったですね」


「え? 姉に殺されそうって……確かハリエット・アグレッサよね? あの地味顔が?」



 姉の顔は他人でも地味顔と認識されているようだ。



「生後二日目で殺されそうになって、そこから六歳になった現在まで自力で回避して生き延びてきたんです」


「ちょ……何そのハード人生」


「わたくしの顔が父親似で姉のコンプレックスを刺激したようです。その事については魔力暴走を起こすまで気づかずにいました。どうして姉に殺意を抱かれるのか、その理由が全く分からなくて。おかげで魔法の腕が上がったのは不幸中の幸いです」


「顔? 地味顔にコンプレックスを感じるのは分かるけど、それだけで殺意を抱く? それより親は気づかないの?」


「以前は乳母やメイドが両親に進言していたんですが、母がそれを信じてなくて。姉は妹と仲良くしたくて試行錯誤しているから、邪魔せず見守ってあげてと……それきり何の対処もされないままです」


「うわ……姉もイカレているけど母親も一緒ね。ヤバいわ」


「将来は家を捨てて独立したいなって思っています。それまでは実家の特権を生かし、今のうちに知識を詰め込んでいる最中ですね」


「娘に家を捨てるって思われているなんて、貴方の両親は考えてもいないんでしょうね」


「おそらく」


「わたくしも転生者に会ったのは、貴方が初めてなのよ。他にも絶対いると思うのだけど、世代によってバラつきがあるのかしら?」


「多くの人に接する機会のある王族でも見つけられないなら、わたくし達のような存在は少ないのかもしれません。それか他国に散らばっている可能性もありますね」


「確かに!」



 二人で話に夢中になっていたら、不意に視界に影が映って顔をあげた。

 そこには漆黒の髪に赤紫色の瞳をした好みドストライクな男性が視界に飛び込む。園遊会に訪れた客人なのは確かだろう。黒い生地のフロックコートに赤紫色のクラバット。


 袖と襟には赤紫色の刺繍で薔薇が刺されている。

 何より彼の体のラインが素晴らしい!


 ほどよく鍛えられたスタイルに、少し翳りを帯びた美貌。父親は彫刻や人形を思わせるタイプの美貌だが、彼は人間らしく命の息吹を感じる美貌だ。



「あら、伯父様。こんな所まで来ているなんて、女性避けですの?」


「君こそ珍しいね、同世代の令嬢と楽しそうにしているのは」


「彼女とは親友になりましたのよ。ええと……こちらは伯父のアルカード・クレージュ公爵。わたくしの父の姉の嫡男だから、本当は従兄弟という関係なのだけど、この通り年齢の差が離れているから伯父様と呼ばせて頂いているの。そして伯父様、わたくしの親友のジュリエンヌ・アグレッサ侯爵令嬢よ」


「初めまして、ジュリエンヌ・アグレッサと申します。アグレッサ侯爵家の次女になります」



 淑女の礼をすると、感心したように微笑まれた。

 ますますドストライクな方!



「改めて、私はアルカード・クレージュ。息子の付き添いで参加したものの、場に馴染めなくて避難してきた。二人の邪魔をしたようなら、私は場所を移動するから安心してくれたまえ」


「いえ、大丈夫です。せっかく避難されたのなら戻るのは悪手ですわよ」


「ダニーも来ているの?」


「息子はレジス侯爵家の息子と、コンサル侯爵家の三男といるはずだ」


「あら、アンダーソン侯爵令息とご一緒でないのは珍しいわね。それよりも試験の話を聞きたかったのよ……話が聞けなくて残念だわ」


「試験?」



 私が首を傾げて見せると、第一王女殿下が「国立ヴァソール学園の入学試験よ」と教えてくれた。

 彼に話を聞きたいという事は、目の前の男性の息子は二つ上という事だろうか。


 ーーそれよりもドストライクな彼は既婚者で子持ちだった!


 一目惚れをしたのもつかの間、即座に失恋。

 しょんぼりと項垂れていたら、第一王女殿下は何かを察したのかクレージュ公爵に話しかけた。



「伯父様は再婚の予定はないのかしら?」


「最初の結婚で懲りた。もう二度と結婚はしたくないな」



 彼は子持ちだが独身のようだ。


 ーー出会ったばかりの親友よ、ナイスアシスト!


 私にも希望が見えて笑顔に戻る。



「わたくしの姉も国立ヴァソール学園の入学試験には落ちたの。当時のわたくしは四歳だったから、入学試験の話をして貰えなかったわ」


「君たちも国立ヴァソール学園を目指しているのか。入学試験の筆記内容は基礎が出来ている者にとって、そこまで難しいもではないはずだ。学園の卒業生からのアドバイスとして一つ。魔力操作を重点的に学ぶ事が否決だ」


「魔力操作を重点的に学ぶ」


「学力は特に重点におかなくても良い。君たちは幼い頃から家庭教師がついているのだろう。そういった基礎が出来ている者は簡単にクリア出来る。問題は魔法の実技試験だが、これは魔力操作が十分に行えない者にとっては大きな壁となっているはずだ」


「なるほど……魔法に関しては満点を取る自信がつきました」


「え? 本当に?」


「それと学問の授業も既に終了して、五歳から独学で勉強しているの」


「凄いわ……わたくしは他国語が苦手なのよ」


「あら、アルファベット式で考えたら意外と簡単に覚えられるわ。ただ発音に関しては現地の人間に確認して貰わないとダメかもしれないけど」


「アルファベット! その存在が抜けていたわ……」


「勉強不足で恥ずかしいのだけど、クレージュ公爵領は何が盛んかしら?」


「地理の勉強だね」


「はい」


「私の所は魔獣が生息している森に面している地域があって、その魔物の素材を生かした織物が有名だ」


「もしかしてドレス生地ですね」


「正解」


「あと農業と酪農は国内でも有数ですよね。特に麦は国内の四割がクレージュ公爵領産だったと記憶しています。トウモロコシも多く出荷されていて、わたくしも美味しく頂いておりますの。酪農はチーズとバターが有名でしたわね」


「勉強家だね」


「知らない事を学ぶのが好きなんです。いつか自立した時に知識は役に立ちますから」


「まだ六歳なのに立派な考えだ。私の息子も見習って欲しいと思うよ」


「伯父様、わたくしの親友は素晴らしいでしょう?」


「王女殿下の親友は才女となる未来しか見えないな」


「そうでしょう!」



 私たち三人は時間の許す限り話に盛り上がった。

 それにしてもアルカード・クレージュ公爵は、私の理想そのもである。優雅な身のこなしだったり、丁寧な口調もそうだが、何より体のラインが素晴らしい。


 園遊会が終わって自宅へ戻っても、私の頭の中はアルカード・クレージュ公爵の事でいっぱいだった。








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