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転生令嬢は初恋を貫く!  作者: 尾木 愛結
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 ようやく七階層まで辿り着いた。


 地下一階層から三階層まで何の変哲もない洞窟のまま。ただの洞窟であれば明かりがないと暗闇で何も見えないが、洞窟型ダンジョンの特徴は明かりがなくても歩けるのだ。何より足元に青々と茂る雑草。


 そして雑草を糧としている魔獣は、数十規模の群れをなす草食の魔獣。


 個体の強さは低いが群れで動く性質なので、初心者は数名のパーティで挑まないと怪我は必須。地下一階層と二階層は角が生えた兎型魔獣しか出現しないので、ある意味チュートリアル的な役割の階層だと思われる。


 この額に角がある兎は草食だが、非常に攻撃的な性質を持つ。


 角を武器に襲うので当たれば致命傷を伴う怪我になるが、きちんとした装備をして防具を纏っていれば問題ない。角は皮の盾でも防ぐ事は可能だ。しかし初心者は装備が十分ではない為、怪我を負う事もあるらしい。

 主に弱い魔獣と侮って装備を怠った者なので、怪我を負うのは自業自得。


 そして三階層は少し難易度が上がって狼型魔獣が生息していた。


 狼型も群れをなす魔獣で兎型の魔獣より体が大きい上に肉食である。鋭い牙と爪で人間を襲うが、兎と違って狼はボスが存在するので統制された動きだ。初心者でも魔法を扱える者がいれば、難易度はグッと下がる魔獣の一種だろう。


 地下一階層から三階層までクレージュ公爵令息の独壇場だったが、魔法を連続で放った事で彼の魔力量を温存させる為に、四階層からは二人一組になって倒していったのである。


 王立ノヴェール学院で彼は本当に努力していたのだろう。兄弟のように育った幼馴染がいない中、誰にも頼る事もせず魔力操作を繰り返し、剣に魔力を流す技だけじゃなく属性魔法まで目覚めたのだから。


 王立ノヴェール学院から息子の様子を受け、クレージュ公爵も誇らしく思ったに違いない。


 四階層から出現する魔獣の種類が変わった。

 魔獣と呼んで良いのか分からないが、虫型は非常に面倒臭いと思い知る。個体が小さいものから大型までいるが、小さいものは集団で攻撃してくるのだ。


 ーーそれとトンボくらいのサイズの蚊! 


 生物を吸血するのは前世の蚊と同じだが、その大きさが尋常じゃない。前世では数億年前に生息していたらしいメガネウラという名のトンボ。どこかの国で化石が発見され、昆虫学者が騒めいていた記憶がある。

 それもそのはず、体長六十五センチもある巨大トンボだ。

 

 目の前にいる蚊も、それと匹敵する大きさである。蚊は生物の血液を吸うものだ。


 こんな巨体な蚊に血を吸われたらどうなる?


 血液を吸うストローみたいな器官も、体の大きさに比例しているはず。

 それに刺されたら痛い所では済まない。


 他は爬虫類なのか両生類なのか区別はつかないが、カエル型に蛇型ーーイグアナ型が特に狂暴で最悪。まだ蛇型の方がマシに見えた。巨大なアナコンダではあるが、ただ大きいだけなので急所を狙えば瞬殺。皮も高級品なので仕留められたら高額ゲットだ。


 イグアナ型はイリエワニの三倍くらいの大きさな上、頭脳派と思わせるほど魔法の流れを予測して攻撃を躱すのと、巨体なのに俊敏な動きで襲ってくる。この種は雑食なので、視界に入ったもの全てを食用と認識して狙ってくるのだ。

 もう二度とイグアナ型の魔獣に遭遇したくない。


 途中のセーフティエリアで食事休憩を入れ、腹ごしらえが済むと再び地下へ降りて行く。


 そしてーー魔道具の素材の宝庫!


 魔獣をあらかた片づけてしまった後に、エリア内の様子を伺う。この階層は草木が生えていない乾いた地面に、岩がゴロゴロしている場所だった。探索魔法の反応では、小さいが鉱石と思われる気配を幾つも感じる。


 転がっている岩には反応がないので、地面と壁に埋まっているのだろう。



「これをどうやって取り出そうかしら」



 物理的な道具を持参してきた方が良かったのか。


 私が考えあぐねている所に、コンサル侯爵令息が横に立つ。



「ジュリエンヌ嬢、甲殻類の魔獣を狙った方が早そうだ」



 ダンジョンの壁や地面は魔法が無効化される事が多い。


 これは王都のダンジョンで学んだ事である。強力な魔法を放ってもビクともしないのだ。物理的な道具だと壁は簡単に削れるので、ダンジョン内の壁や地面を掘る場合だとスコップやつるはしが必要となる。


 コンサル侯爵令息の言葉に素直に従う。



「そうね……道具を持って来なかったのは、わたくしの落ち度だわ」


「ダンジョンの存在を知らなかったんだから仕方ないよ」



 そして八階層へ進む事にした。


 この階層は真冬のような寒い場所で、地面は氷り天井から雪が降り注いでいる。甲殻類の魔獣がのんびりと動いている景色がシュールに見えてしまう。

 その背には色とりどりの鉱石や原石が生えていた。


 ただ甲羅に生えているものを取るのか、魔獣を狩って良いのか分からない。

 ダンジョンにいる魔獣は時間が経つと再び出現するが、甲殻類の魔獣の背にある鉱物に関して不明なのだ。



「この魔獣を狩っても良いの?」


「もしかして背の鉱物を心配してるのかい?」


「ええ……ここで倒してしまったら、その鉱物が生えるまで時間がかかるのか分からなくて」


「背の鉱物は倒さない限り外れないよ」



 コンサル侯爵令息の言葉に驚く。



「そうそう、ダンジョンに生息している魔獣は全滅させるのがマナーさ」



 レジス侯爵令息がコンサル侯爵令息の補足をする。



「そうだね。下手に倒し忘れるとスタンピードを起こす原因になりかねない。この種の魔獣は鉱物が生えた状態で出現するはずだよ。鉱物狙いの冒険者は欲しい鉱物が取れるまで狩り続けるようだ」


「それは知らなかったわ」


「それにーーこの魔獣の素材は鉱物ナシでも高額なんだ。甲羅は防具になるし、本体の皮は装備の素材になる。更に身は美味しく頂ける。一言で言えば捨てる所がない魔獣さ」



 レジス侯爵令息とコンサル侯爵令息からマメ知識を教わった。


 そうと分かれば魔獣を全滅するのみ。

 私は自分の視界に入る魔獣を瞬殺していく。これは風と闇魔法を重ねたオリジナル魔法である。出来るだけ破損のない殺し方を考えて編み出した魔法だ。


 魔獣の遺体に破損が少なければ高額で買い取って貰える。


 初心者は倒すのに精いっぱいで傷だらけにしてしまうが、中堅冒険者からは魔獣の破損を気にするようになり、ベテランの域に達すれば傷を与えずに倒す事が可能になるらしい。

 これは冒険者ギルドを訪れた時に、見ず知らずの冒険者が教えてくれた事だ。


 私たちは寒さに負けて早々に九階へ移動する。


 九階層は鬱蒼と茂る熱帯雨林みたいな場所で、今度は湿度の高さに眩暈を感じた。この場も早く立ち去りたいが、やはり甲殻類の魔獣を目にすると鉱石が欲しくなってしまう。



「フィル先輩、わたくしが魔法をぶつけますので距離を取って頂けますか?」


「分かった。ジュリエンヌ嬢が大技を披露するみたいだから、避難してくれ」



 レジス侯爵令息の言葉を聞いた四人が大袈裟な仕草で距離を取っていく。


 クレージュ公爵令息だけは私の魔法を知らないので、きょとんとしている。それに気づいたアンダーソン侯爵令息に腕を引かれ、ダンジョンの壁側へ移動していくのが見えた。


 充分に距離を取っている事が分かると、私はこのエリア全体に闇魔法を放つ。


 この魔法は瞬時に命を奪うもの。一瞬で九階層にいた全ての魔獣の息の根を止めた事に、レジス侯爵令息が口笛を吹く。



「相変わらず、えげつない魔法だ」



 レジス侯爵令息が辺りを見回しながら声を漏らす。



「闇魔法だっけ? 俺も使えたら良かったのにーーこの魔法って本当に便利だよな」

 


 ベイロン伯爵令息がレジス侯爵令息に続いて告げる。



「それよりも魔獣のドロップ品と遺体を回収して移動しよう。蒸し暑くて気持ち悪い」



 アンダーソン侯爵令息の言葉に全員が頷く。


 私も蒸し暑くて早く移動したかったのだ。ドロップ品と遺体を拡張バッグの中へ収納し、そのまま最下層の十階へ向かう。この階層が最終地点なので、地上へ戻る転移陣があるはずだ。


 最下層は普通の草原みたいな場所で、貴重な薬草でもあるのか探索魔法で探ってみる。


 しかしこれといって貴重な薬草が見当たらなかった。この階層に生息しているのは熊型の魔獣。大型魔獣のせいか数は意外と少ない。ざっと見て五頭のみだろうか。


 手分けして熊型の魔獣を倒していく。

 数が少ないので五分もかからずに全滅させてしまったようだ。


 このダンジョンで苦戦したのは四階層のみ。昆虫と爬虫類のセットではなく、せめて別々であれば楽に進めたのにと思う。こっそりソロで来ようと考えていたが、あの四階層があるならソロでは無理だ。

 蛇の皮は欲しいが諦めるしかないだろう。


 この階層のドロップ品は嬉しい誤算だった。


 ーー高級蜂蜜!


 市場では滅多にお目にかかれない最高品質の蜂蜜である。

 それがなんと二キロの瓶に入っている上、五個も手に入れられたのだ。

 ちょうど五人いるから一人一つずつ。


 私たちは遺体を回収して全員が揃った所で転移陣に集まった。



「じゃあ、地上へ戻ろう」



 私たちのダンジョン攻略は終了となる。


 初めてのダンジョンだったが、野外授業と違って冒険した気持ちになれた。地上へ出て買い取りして貰う素材と、解体だけお願いする物を査定する。これは大事な事だ。



「蚊とイグアナみたいなのは必要ないと思います」


「蛇と鉱石はジュリエンヌ嬢が欲しかった物だろう?」


「肉はダニーに全部渡そう。蜂蜜は一人一つで良いか?」



 全員が納得した所で、冒険者ギルドの方へ足を運ぶ。

 ダンジョン前の出張所が混雑していた為、待ち時間が長引きそうだったのだ。査定額に文句を言う冒険者もいて、その対応にオロオロしているギルドスタッフが不憫すぎる。


 冒険者ギルドで買い取りと解体をお願いしたのち、私たちは公爵邸へ戻ったのだった。


 クレージュ公爵令息から蜂蜜の瓶を渡され、「これで旨いものを作ってくれ」とぼそりと呟いた時、彼の耳が赤く染まっていた事に気づく。



「お任せください、ダニエル様」



 蜂蜜は料理にもお菓子にも使える。


 レジス侯爵令息とベイロン伯爵令息を中心に、留守番組だったレベッカとアンダーソン侯爵令息の弟ステファヌにダンジョンの話をしていた。

 レベッカは興味なさそうだったが、ステファヌの方は目をキラキラさせて聞きいっている。男の子は冒険やダンジョンの話が好きなのだろう。


 思いがけないダンジョン攻略で、私たちは懐が温かくなった。


 総額かなりの金額になったので、全員が平等に割った分の配当となり、一人金貨三十二枚ずつ。割り切れなかった分は、留守番組の二人へのお土産を購入。これで不平不満はない。

 そもそも全員が高位貴族で常識ある人たちだ。

 中途半端な端数については誰も文句は言わなかったし、彼らは世話になっているからとクレージュ公爵令息へ端数を渡そうとしたのである。


 クレージュ公爵令息はそれに困っていた様子だったので、私が「それではレベッカ達へのお土産を買いましょう」と、焼き菓子と瑞々しいフルーツを買って戻ったのだ。


 ダンジョンに味を占めた彼らは、「また行こう!」と乗り気である。


 この年の夏季休暇は、仲間たちと楽しく過ごす事が出来て楽しい思い出となった。













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