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転生令嬢は初恋を貫く!  作者: 尾木 愛結
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 本日は晴天。


 午前中に冒険者ギルドへ赴き、受付で確認したら低層のダンジョンが存在している事が判明した。これにはレジス侯爵令息のテンションが爆上がり。


 ダンジョンの詳細を聞くと、地下十階までの小規模なものらしい。


 そして最下層のボス的な存在が熊型の魔獣なので、危険度は低いもの。冒険者だと中級レベルの難易度だ。さすがに初心者には厳しいが、私たちにとっては軽い運動に丁度良い規模である。


 クレージュ公爵令息を筆頭に、レジス侯爵令息、コンサル侯爵令息、ベイロン伯爵令息、アンダーソン侯爵令息の五人が冒険者登録を済ませた。ダンジョンは冒険者登録をしていないと入れない。

 誰がいつ入ったのかを管理しているのだ。


 私たちの装いも冒険者スタイル。


 全員がシャツにロングコートを重ね、ボトムスもスラックスに膝まであるロングブーツ。それぞれ色は違うが似たようなコーディネイト。所謂、冒険者が身に着けている物だ。


 それに付け加えるなら、ロングコートの下には防御用の胸当てを装備し、更にスラックスの上には膝当てを装着。手には革製の手袋を嵌めている。傍から見れば若い冒険者のグループにしか見えないだろう。


 私は髪をポニーテールにして、白いレースアップの長袖のシャツにビスチェ型の胸当て、ボトムスはスラックスの上に腰巻とベルトポーチをつけている。巻き型のミニスカートだが収納用のポケットが複数ついているので、ギルドへ向かう時に必ず装備している一枚。


 彼らもベルトポーチを装備していた。


 クレージュ公爵が内密で作成して欲しいと依頼してきたのである。公爵領の騎士団が身に着けている備品でもあり、一人息子の友人の願いを叶えたかったのかもしれない。


 ーーそういう優しい所も良き!


 まず先に革製のバッグを扱う店舗に個人で考えたデザインを伝え、職人たちがプロの技で刺繍や装飾を施してベルトポーチを作成。私は魔道具や料理を作れても、ミシンのない世界での裁縫は無理だ。

 こういう事はプロに任せるのが一番である。


 最後に私が時間停止と収納無制限の拡張、ベルトポーチの破損と劣化を阻止する形状維持を付与。ついでに所有者以外の使用も禁止しておく。


 こんなに盛りだくさんにしている理由は、クレージュ公爵令息は婚約者であり、私の未来の夫となる相手だからだ。


 そして彼の幼馴染で兄貴分たちは、私にとっても大切な存在になっている。ポーチ自体はクレージュ公爵領で手に入れた物なので、彼らにだけは特別仕様のアイテムにしておいた。

 店舗に下ろしたら目が飛び出るほどの金額になっていただろう。


 私たち一同は冒険者ギルドを出て裏手に回る。


 結局クエストの確認をしなかった。

 この冒険者ギルドへ何度も訪れていたのに、ダンジョンがある事に気づかなかったのは不覚である。


 少し歩くとダンジョンの入口が見えて来た。


 ダンジョンの入口付近にはギルドの出張所みたないな建物があり、その建物はダンジョンから出て来た冒険者が持ち込んできた素材を換金したり、足りなくなった食料やアイテムが入手可能な店舗も充実。


 魔獣の攻撃で怪我をした冒険者を保護する救命隊員の待機場、そして二十四時間体制でいるギルドスタッフの仮寝所といった役割がある。ダンジョンの利用が二十四時間と聞いて驚いたが、ギルドスタッフの勤務体制は六時間ごとに交代しているらしい。


 ギルド出張所の隣には冒険者が利用する宿と酒場が並ぶ。


 ダンジョンに入る冒険者は、その近くにある宿を拠点にする事が多いそうだ。低層のダンジョンは危険性が薄く、運が良ければ高額査定のドロップ品が出る事もある。何よりも安定した収入源となるので、妻子持ちの冒険者は家族を養う目的でダンジョンを選ぶ。



「ドロップ品は主にどういった物が多いですか?」



 ダンジョンの入口に待機しているギルドのスタッフに声をかけた。



「肉ですね」



 即答である。


 このダンジョンは肉しか出ないのだろうか。

 前世のゲームみたいにダンジョン内で魔獣を倒したら、ドロップ品を残して塵となって消えるわけではない。


 ダンジョンにいる魔獣を倒すとドロップ品は出現する。


 しかし、魔獣の遺体は残ったままだ。薬や魔道具の素材になるので、魔獣の遺体は高値で取引されるのだ。前世のゲームみたいに塵となって消えてしまうと、ダンジョンに入った意味がなくなってしまう。


 その肝心のドロップ品が「肉」らしい。


 

「肉ですか……鉱石や魔道具に使えそうな素材は出ませんか?」



 階層によってドロップする物が違うのだ。



「それなら七階層から最下層の十階が出やすいですよ。稀にアダマンタイトも報告が上がっております。魔道具の素材が目当てなら、七階層から下を目指すのが良いかもしれません」



 ギルドスタッフの説明では、七階層の地層や壁から鉱石が発掘できるらしい。また甲殻類の魔獣の背を拠り所に、魔鉱石や希少な鉱石が生えている個体も確認されている。


 甲殻類の魔獣の素材は武器や防具だったり、装飾品や生活用品といった幅広い分野に必要な素材だ。

 魔道具の素材としても活用できるので、それらを是が非でも入手したい。



「ダンジョンは初めてですか?」


「国立ヴァソール学園の野外授業で経験はあります」



 最年長であるレジス侯爵令息が質問に答える。


 国立ヴァソール学園の名前を上げただけで、ギルドスタッフが驚いた顔を浮かべた。国内で最も偏差値が高い子女が通う学校なのだから、その名を知らない者は一人もいない。



「皆さんは国立ヴァソール学園の生徒さんですか?」


「はい、そうです」


「俺は王立ノヴェール学院だけど、同じく野外授業では経験済み。王都と難易度の差はあるのか?」



 クレージュ公爵令息が自分の通っている学校名を告げ、ダンジョンの難易度について質問を返す。


 ダンジョンの性質は地域によって異なり、また同じ性質を持つダンジョンは現時点で確認されていない。ギルドスタッフが分かりやすく説明してくれた。


 イメージ的に王都付近のダンジョンの方が難易度は低く、国境付近に存在しているダンジョンの方が難易度は高いという認識は違うらしい。地方の方が難易度の低い魔獣が生息し、人間が多く集まる王都では強い魔獣じゃないと生き残れないようだ。


 それでも共通して深層数十階に及ぶ大型ダンジョンは難易度が非常に高く、数年から数十年といった周期にスタンピードが発生している。それらの統制は貴族が行う。


 前回のスタンピードの時は前クレージュ公爵と前アンダーソン侯爵の二人が指揮を執り、前衛に私の父であるアグレッサ侯爵を筆頭に、クレージュ公爵とアンダーソン侯爵が配置され、三人は数多の魔獣を瞬く間に瞬殺していったらしい。


 スタンピードで溢れた魔獣が全滅した時間は、過去最短記録を叩きだしたようだ。


 当時の三人は国立ヴァソール学園に通っていた現役の学生である。

 クレージュ公爵が言う「アグレッサ侯爵の足元にも及ばない」発言は、この事を指しているのだろう。母とイチャイチャしている父の姿しか見ていないので、本当に実話なのか信じられないのだ。

 

 父の魔力量が膨大というのは気配で分かるので、チート能力を持っているのは予測できる。



「王都のダンジョンの方が難易度は高いと聞いております」



 そしてギルドスタッフが言葉を続けた。


 王都のダンジョンに生息している魔獣は、単独行動を好み群れを作らない魔獣なので攻撃力が強い。その代わり王都から外れていくに従い、群れで行動する魔獣の種類が増えてくる。個々は弱いけれど数が多いので、ソロの冒険者では歯が立たないようだ。


 ギルドスタッフの言葉をまとめれば、ダンジョンが存在する地域と人間の数によって、その場に生息している魔獣の難易度が変わってくるーーという事らしい。


 目の前にあるダンジョンの難易度が低いのであれば、このメンバーだと瞬殺で終わってしまいそうだ。



「じゃあ、日帰りで突破できそうね」



 目指すは七階より下の層のドロップ品である。



「ご武運を」



 ギルドスタッフの言葉を合図にダンジョンの中へ入っていく。


 洞窟タイプのダンジョンのようだ。

 まだ入り口なので中を見渡せるが、奥へ進むにつれて薄暗くなっていくが、壁と地面一面にヒカリゴケが生えているので足元は明るい。



「奥か地下へ進まないと魔獣はいないかもしれないな」



 レジス侯爵令息が得意の探索魔法を使用して、周囲の気配を探っていたようだ。


 私も真似して探索魔法を使う。

 辺りには魔獣の気配は感じられなかった。この階層は地下へ向かう通り道といった所か。王都のダンジョンも入口のある階層に魔獣は出没しない。


 それでも初めてのダンジョンなので油断は禁物だ。


 洞窟の中は左右に狭い通路らしきものが見えるが、確実にトラップだろう。不意に足を踏み込めば別の階層に飛ばされる。転移陣のトラップは鉄板だ。



「あの突き当りに地下へ続く階段がある」



 レジス侯爵令息の言葉に全員が頷く。


 さすが元生徒会長を務めていただけに、レジス侯爵令息はリーダーシップに向いている。先頭にはレジス侯爵令息とコンサル侯爵令息の二人。

 その後ろにはクレージュ公爵令息とアンダーソン侯爵令息が並び、最後列には私とベイロン伯爵令息の二人だ。前方と後方に戦闘力の高い人材を置く。


 中央は守るべき存在を置くのは、国立ヴァソール学園の野外授業での経験があってこそ。


 私たちは地下一階へ降り立ち、辺りを見回す。

 探索魔法では複数の魔獣の気配を感知しているので、魔獣の数は把握している。その魔獣の魔力は微弱だが、数が約六十体なので群れで動く魔獣だろう。



「フィル先輩、数は約六十体ほどいますね」



 ベイロン伯爵令息の言葉にレジス侯爵令息が、「そうだね」と答える。


 この魔獣の難易度は初心者レベルだろう。

 数は多いが充分に倒せる範囲だ。



「運動したい者はいるか?」


「やってみたい!」



 レジス侯爵令息の言葉に、クレージュ公爵令息が声を上げる。



「ダニー、無理するなよ?」


「無茶はしないよ。魔力は父上に及ばないけどさ、王立ノヴェール学院で魔法の実技は上位まで伸びたんだ」



 クレージュ公爵令息の努力が実ったのか、魔力量が増えているらしい。


 王立ノヴェール学院へ入学する前までの彼は、生活魔法が使える程度だったのだ。それが王立ノヴェール学院での野外授業で、クレージュ公爵令息は火属性魔法を発眼したらしい。

 それをきっかけに他の属性魔法まで使えるようになったので、私が冒険者ギルドへ行くのを理由に魔法の練習がしたかったようだ。



「それじゃ、この階層はダニーに任せよう」



 いつでもクレージュ公爵令息の援護が出来る状態で待機し、彼が魔獣を討伐する姿を見守る。


 クレージュ公爵令息は剣に魔力を込めて魔獣と向き合う。そして剣先から薄い緑色の魔力が迸った。この階層にいる魔獣は一瞬で事切れたのである。


 ーー風魔法の応用?


 弱い魔獣相手でも六十体の数を瞬殺するとは、さすがクレージュ公爵の血筋だ。



「凄いよ! ダニーが瞬殺!」



 アンダーソン侯爵令息が満面の笑みで、クレージュ公爵令息に抱き着く。




「俺は皆よりも魔力は劣っているけど、大切な仲間や家族を守っていきたいんだ」



 照れくさそうに呟く姿は、初めて出会った十二歳の頃と変わらない。


 当時は私より二つ上の十二歳なのに子供っぽい所が気になり、彼の本質を見ようとしなかったけれど。アンダーソン侯爵令息を始め、彼らがクレージュ公爵令息を可愛がる気持ちが良く分かる。


 クレージュ公爵令息の素直で誠実な人格は、彼を取り囲む仲間たちと一緒に育ったから自然と育まれたものだろう。このまま変わらずにいて欲しい。



「男らしくなったな、ダニー」



 レジス侯爵令息がクレージュ公爵令息の肩を軽く叩く。



「感激するのは分かるけど、ドロップ品と魔獣の遺体を確保するのが先だ」



 ベイロン伯爵令息の放つ言葉に、一瞬で現実に引き戻された。



「そうだった!」



 本当に魔獣の遺体の傍に肉の塊が落ちている。


 倒された魔獣は額に角がある兎だった。この額の角は魔道具にも使える素材である。冒険者ギルドでも安定した額の金額で取引されているらしい。


 そこら中に倒れている魔獣の遺体とドロップ品を回収し、私たちはこの階層を後にしたのだった。


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