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転生令嬢は初恋を貫く!  作者: 尾木 愛結
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 本日は十二歳になった私が参加する、最後の園遊会である。


 園遊会への参加資格は、最年少は六歳で最年長が十二歳。

 この六年の間に気の合う友人を見つけるのを目的としている子供だったり、婚約者を探す過保護な親も存在していた。


 これまで園遊会で子供同士の交流をしてこなかったが、最後くらい知り合いに声でもかけてみようか?


 両親と共に庭園を歩いていると、いきなり見た事もない少女が体当たりをする勢いでぶつかてきた。



「ジュリエンヌ」



 父が倒れそうな私を咄嗟に引き寄せる。

 初めて父に抱きしめられてしまったせいで、私の頭が真っ白になった。



「わざと娘にぶつかってきた君は誰かな?」



 父の冷たい声に我に返る。


 そろりと視線を少女の方に向けると、やはり見た事もない顔だった。身なりから察するに伯爵家の者だろう。淡いブルーのドレスは子供らしいデザイン。これでもかといったフリルとリボンの数に引いてしまいそうになる。


 そういえばレベッカが趣味の悪いドレスが多いと、初対面の時に愚痴を零していた事を思い出す。


 私にぶつかってきた少女は栗色の髪に空色の瞳を持つ、それなりに容姿は整っているが性格は良くないタイプだ。


 外面は非常に良いが、敵と見なした相手に容赦しない。

 そういった雰囲気を持っている。あながち私の予想は間違っていないはずだ。


 ぶつかってきた本人は勢い余って前倒れになったのか、地面に両手と膝がついている姿でいる。そのまま顔だけを父の方に向けて驚いた表情を浮かべていた。



「あ……アグレッサ侯爵様」



 父の顔を見た少女は顔を真っ赤に染める。


 超絶イケメンな父の顔を見た女性は同じ反応をするのだ。魔力量が膨大なので見た目も若い。実年齢も三十六歳と若い方だが、外見だけで言えば二十代前半ギリギリ辺り。


 父の外見に惑わされない人間は非常に少ない。

 しかし父は娘を転ばせようとした少女に、かなりご立腹のようだ。



「どこの家の者か知らないが、後で調べて抗議の文を送っておく」



 少女は立ち上がって慌てて言い訳を口にする。



「そんな! ちょっと躓いただけなのに……酷いです」



 そんな言い訳は父に通用しない。



「わざとぶつかってきたのに躓いた? 私は娘に悪意をぶつける者に対して容赦はしない」



 父からそんな言葉を耳にする日が来るとはーー。

 それなりに家族に対して愛情を抱いているという事なのか?


 そういった素振りは、父から微塵も感じられないのだけど。



「慣れない靴を履いていて足元が安定していなくて……」



 ふるりと肩を震わせて瞳に涙を浮かべている。


 どうやら自分の見た目に自信があって、涙一つでも浮かべれば自分の思い通りになると信じているようだ。相手が父では無理な話である。


 私の父は感情に動かされない。



「旦那様、そんな娘は放っておいて先を進みましょう」



 母がのんびりした口調で言葉を放つ。

 それに対して父も頷き、私の態勢を整えてから先を歩き出す。



「ジュリエンヌ、お前の知り合いか?」


「いいえ、初めて見る顔でした。身なりから伯爵家の者だと分かるのですが、家名までは存じません」


 あの少女の顔は見た事もないが、身に着けているドレスを見れば大体の家格は予想がつく。ドレス生地の質を見るのが一番分かりやすい。素材は麻から高級シルクまで幅広いが、上位貴族はシルク地を好む。


 あまり裕福ではない家の令嬢のドレスは麻の素材が多い。麻といっても種類は豊富だ。麻と言えばゴワゴワしたイメージが強いが、糸の織り方によっては柔らかい生地となる。そしてサテン地は伯爵家が圧倒的に多いだろうか。


 ツルツルした感触と生地の軽さ。

 リボンにも良く使用される事から、サテン地の人気は意外と高い。


 彼女が身に着けていたドレスもサテン地で作られていた。



「ハリソン伯爵家だろうな」


「あら、ハリソン伯爵家って新興貴族でしたわね。元は子爵家だったと記憶しているのだけど」



 母の交流している場にいない家名のようだ。


 元が子爵家なら伯爵に授爵してから五年以上が経ったのだろう。園遊会には新興貴族になってから、五年以上経たないと参加資格はない。


 今回こうして参加している姿を見ると、ようやく園遊会への参加が許されたのだろう。

 私は今回で最後の参加になるが、両親は来年六歳になる弟がいるので保護者としての参加は続く。



「メグの記憶は正しい。伯爵に授爵して以来、当主の評判は悪いものだ。ハリソン伯爵家と親しくするのは危険だと思って近づかないで欲しい」


「ええ、旦那様の予想は当たりますもの。わたくしからは絶対に近づかないわ」


「メグに何かあったら心配で眠れなくなる」


「旦那様は心配性ね」



 両親のイチャイチャを見せられるって拷問だろうか。

 この二人は全く変わらない。


 父は母にしか興味を持たないし、母も父の言葉に従う。姉が関係する事については例外ではあるが。ここまで仲の良い夫婦は見た事がない。

 これを基準にしてはいけないと分かっているけど、どうせなら愛し愛されるような結婚生活に憧れてしまう。




「わたくしは人と待ち合わせておりますので、ここで失礼いたします」


「第一王女殿下に失礼のないようにするんだ」


「はい」



 どうやら父には全てお見通しのようだ。

 園遊会の度にレベッカと一緒に過ごすのは、もはや毎年恒例となっている。


 父の言葉に頷いた後はレベッカの待つ方向へ歩き出す。


 園遊会で保護者同士の交流場となっているエリアというか、腰を落ち着けて会話が出来るテーブルや椅子がある場所から、私は少し外れた道を通って王族のプライベートエリアへ向かう。


 ざわめいた雰囲気から徐々に静寂な空気が辺りを包む。

 ようやく一息つける。



「ジュリー」


「第一王女殿下」



 私は王族に対する敬意を示す礼を向けた。


 まだ王族のプライベートエリアの入口である。誰が見ているか分からないので、レベッカに対する態度は公的なものにする必要があった。


 更に奥の方へ歩き進めると、王族が許可した者しか入れない場所に辿り着く。

 


「ここはプライベートエリアよ。いつも通りにして頂戴」


「分かったわ、レベッカ」



 いつものベンチへ二人並んで腰を降ろすと、レベッカは好奇心いっぱいの眼差しを向けてきた。



「それより、さっきの女は何だったの?」


「相変わらず情報が早いわね」



 私は溜息を漏らす。



「王宮内は人の目と耳があると教えたじゃない」


「それを聞いてゾッとしたのを思い出したわ……」



 王族を守る影が存在しているのだ。


 その数は分からないけれど、レベッカの言うように目と耳で情報を集め、それを迅速に伝言ゲームのような形で対象者の動きを見張って状況を知らせる。


 大いに役立っているのは通信機だろう。

 その場にいながら仲間へ状況を知らせる事が出来る。



「お父様の話ではハリソン伯爵家の者らしいわ。わたくしは家名を聞いてもピンとこないのだけど」



 同級生の中に伯爵家の者はいるが、彼女みたいなタイプはいない。

 私に近づく相手は旧家の伯爵家か侯爵家の人間ばかりで、新興貴族の存在は知っていても知り合いが一人もいないのである。



「ああ、新興貴族ね。当主の伯爵が野心家なのよ。子爵だった時は事業も波に乗って裕福だったけれど、伯爵へ授爵してから税収が芳しくなくて……そろそろ潮時かしらね?」


「没落へ向かっているのかしら?」



 彼女からそういった気配は感じなかった。


 身に着けていたドレスも真新しいものだったと思う。

 それに髪飾りも精巧な物が使われていた。土台に金が使われていたし、小ぶりだが宝石が散りばめられているので結構な額のものだろう。宝石は彼女の瞳の色と同じブルーサファイア。


 とても没落の道を辿っているように見えなかったが、レベッカの観点では違うのだろう。



「爵位の税収は子爵の時の倍額になるから、生活に余裕がないのかもしれないわ」



 爵位によって国へ納める税収の額が違う。

 国へ納める税収は爵位を保つ意味が含まれているのだ。


 最下層である準男爵は税収の額も少ないので負担は軽い。元は平民で領地を授かっていない一代限りの爵位という理由から、税収の額は低い設定にしているようだ。


 男爵家から税収の内容ががらりと変わる。ピンからキリまである男爵家だが、領地を持っていない所は準男爵と税収の額は同様。しかし領地を持つ所は領収の所得額によって、国へ納める金額に差が出る形だ。


 それは子爵家も変わらない。


 子爵家から伯爵へ授爵した場合、これまで国へ納めていた税収の額は倍か、それ以上の金額に跳ね上がる。授爵前は余裕で支払えた税収も、授爵してから税収が跳ね上がって生活に困窮するケースも多いらしい。


 賢い家の当主は税収の事を見据えて授爵を辞退するが、野心を持つような短絡思考の当主は受けてしまいがちのようだ。目先の事しか考えない当主が、周囲に身をもって転落人生を証明してくれる。



「そうなの? 彼女は仕立ての良さそうなドレスを着ていたわよ」


「言ったでしょう? 父親が野心家だって。その娘も業突く張りで見栄っ張りなのよ」



 父親が野心家で、その娘は業突く張りで見栄っ張り。


 他家に困窮していると思われたくないから、常に流行のドレスを身に纏い、虎視眈々と資産家の息子を狙っているという意味だろうか。



「なるほど?」


「なぜ疑問形なのかしら?」



 レベッカが噴き出す。



「彼女の事を知らないから?」



 私もレベッカにつられて笑みを浮かべる。



「近づく価値はないわね」



 レベッカには他の情報が届いているのだろう。

 他人に向けて攻撃的というか、特定の相手を排除するような態度は珍しい。



「接点がないから近づくのは無理ね」


「分からないわよ。彼女は王立ノヴェール学院へ入学する予定なの。業突く張りが目指すものと言えば?」


「……身分が上の相手との結婚?」


「正解」



 私の回答にレベッカが満足気な表情を浮かべる。



「わたくしと関係があるとは思えないのだけど」



 レベッカが心配するような事は有り得ないだろう。


 筆頭侯爵家のアンダーソン侯爵令息は人格者でもあり、普段から火種になるような行動は取らない。更に付け加える事があるとしたら、特定の令嬢に勘違いをさせるような接し方をしない事だろうか。


 私が考えていた事は意味がなかったらしい。



「今は無関係でも王立ノヴェール学院へ通う事になったら、彼女はどうすると思う?」



 その一言でレベッカが懸念していた意味を察する。

 王立ノヴェール学院に通うなら高位貴族はクレージュ公爵令息しかいない。



「まさか?」



 クレージュ公爵令息は十二歳で入学し、九月の新学期から三期生となる。十四歳となった彼は元から地頭は良く、一緒に勉強をしているうちに賢い少年に育っていた。

 表情も引き締まってきたせいか、たまに父親のクレージュ公爵を思わせる瞬間があって心臓に悪い。


 ーーその彼が惑わされる?


 クレージュ公爵令息は根は真っすぐで誠実な所は好ましいのだ。



「あり得ないわ」



 私は思わず否定の声を漏らす。

 レベッカの方がクレージュ公爵令息との付き合いが長いので、彼の性質が手に取るように分かるのだろう。



「その可能性がありそうなのよね」


「クレージュ公爵令息は思っていたよりも誠実だわ」


「ええ、ダニーの良い所は素直な所ね。でも本人が自覚していない悪い所があるのよ」


「え?」



 レベッカの言葉に驚く。



「ぶっちゃけると……女性に騙されやすいのよ」



 その言葉を聞くと頷いてしまいそうになる。

 レベッカは肩を竦めながら、更に言葉を続けた。



「女性に対する経験値不足というか……欲にまみれた女性に近づかれると、ダニーでは太刀打ちできない可能性があるわね。ダニーはある意味、直情型ではあるけど根は優しいから人を疑う事はしない」


「確かに……」


「彼の周りは精神的に大人の人が多いから、ダニーは知らずに周りに守られているのよ。でも、彼を守ってくれる存在は別の学園にいる。そこを突かれたら免疫のないダニーはころりと騙されてしまうわ」


「……納得だわ」



 クレージュ公爵令息は一人っ子であるが故に、誰かに慕われると弱い所がある。普段の彼は周囲にいる親しい人間たちに弟のような扱いをされる事が多い。

 祖父母との関係は聞いた事がないので、彼の家族は父親のクレージュ公爵のみ。


 父親は公務と執務で多忙でいる為、クレージュ公爵令息の幼少期は邸で孤独に過ごす事が多かったと聞く。その反動なのか、社交シーズンの期間は王都で幼馴染の邸に身を置いている。


 クレージュ公爵令息は父親に甘えられない部分を、幼馴染や彼らの兄弟と共にいる事で紛らわせているのだ。

 良い意味で純粋培養に育ったクレージュ公爵令息は、欲にまみれた相手を躱す方法を知らない。


 その令嬢が王立ノヴェール学院へ入学したら、クレージュ公爵令息が狙われる。

 私は傍にいられないので、クレージュ公爵令息を信じるしか術はない。









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