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転生令嬢は初恋を貫く!  作者: 尾木 愛結
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 楽しい時間はあっという間に流れる。


 クレージュ公爵領に滞在している間に、工場となりそうな空家を探して工場に改造。これは無属性魔法だけではなく、土魔法と闇魔法を混合したもので建物を新しくする上で頑丈に作り直した形だ。


 完成した商品を保管する氷室らしき場所と、時間経過無効のアイテムボックスも設置。ハムは塊肉の状態なので冷所にじっくり乾燥させるのが重要。ソーセージとビーフジャーキーをアイテムボックスで保存し、出荷する際に取り出す形の方が管理しやすい。魔力を注げば在庫数が表示されるので、管理者には助かるはず。


 作業台や燻す場所も作り直した後は、工場の周りの整備と人員を確保。当分の間はクレージュ公爵家の執事補佐と料理人が主導権を握り、二人がいなくても責任者となる人材を育てる計画まで順調に進む。

 工場長と呼ばれる責任者は必要だし、それぞれのチームのまとめ役となる適任者を選びたい。


 工場長となる人物は責任感が強いタイプで、チームのまとめ役は人望のある人物が理想である。これはスタッフ同士で決めた方が団結しやすいだろう。


 私は工場のスタッフとなった人たちにソーセージの作り方を教える流れで、二種類のハムとビーフジャーキーも伝授しておいた。クレージュ公爵家の料理人には先に教えていた為、彼らは段取りよく作業を進めていく。

 風魔法が使えるスタッフを多目に雇って貰えたので、この保存食事業は成功するだろう。


 たとえ属性魔法がなくても、生活魔法を扱える者なら風魔法の使用は可能だ。

 単純に乾燥をさせる室内に風を通すのが目的なので、魔法で風が起こせる人なら採用したいと添えた事もあり、工場には風の使い手が多く揃ったのである。


 それぞれソーセージ班とハム班に仕分けされ、風の魔法を使える者はビーフジャーキー班に集めた。

 彼らは味を沁み込ませた肉を風魔法で乾燥させるのが仕事だ。この工場の中では特に作業の過程は少ないが、乾燥をさせ過ぎて干し肉になってしまうので神経を使う。


 工場の作業が安定した後、クレージュ公爵に頼まれていた騎士団へ支給するベルトポーチを作成。

 一つにつき金貨一枚!

 めちゃくちゃ太っ腹なクレージュ公爵に、冷風機とは真逆の暖房機をプレゼントした。今は夏で暑いけれど、クレージュ公爵領は最北に位置しているから冬場は極寒となる。


 まずはクレージュ公爵が暖房機を試してみて、それが必要だと思ったら商品化にしても良い。


 私とレベッカはクレージュ公爵領を観光し、夏の休暇を楽しんだ。

 クレージュ公爵の方は公務と執務に、新たにソーセージやハムの産業を興した事により多忙となってしまった。その収益の僅かだがマージンとして払ってくれるらしい。


 魔道具が好評なので個人資産は潤っているが、増える分には困らないのだ。この先、何が起こるか分からないし、実家を捨てて一人立ちしたい気持ちは強くなっている。


 前世と同じく生きていくには、お金がないと無理なのだ。


 拠点となる家は必要だし家賃が発生する。

 それと同じく食事をするにもお金がかかるし、移動するにもお金が必要。将来の不労収入を目標に、私は魔道具で特許を取得していくのが一番早くて楽なのだ。


 クレージュ公爵領で初めて冒険者ギルドを目にしたけど、冒険者になるのも惹かれる。主に素材採取や魔獣の討伐が仕事で、爵位を継げない次男以下の子女や庶民が生活をしていく為の職業だ。

 貴族籍なら騎士団への入団も有り得そうだが、冒険者を選ぶタイプは三つに分かれる。大雑把に言えば集団行動が苦手な一匹狼タイプと、常にトラブルを起こして騎士団の規律を乱すタイプ。


 最後は家の資産状況によるもの。裕福ではないのに父親が愛人を複数持ち、子だくさんでいる為に生活が苦しいといった理由で、長男を筆頭に冒険者になる者が多い。兄弟のパーティも割と多くいた。


 私が冒険者に惹かれたのは、自分が作る魔道具の素材を集めてみたいから。

 魔石や魔鉱石は簡単に手に入るけど、魔物の皮や鱗は以外と高値で取引されるので悩みの種なのだ。


 そこでクレージュ公爵領の冒険者ギルドに登録させてもらい、それを活用するのはクレージュ公爵令息と結婚した後になるだろう。冒険者登録は八歳から可能だが、クエストが限られるので報酬額も少ない。

 冒険者の登録だけは出来るので、出来るうちに済ませておく。


 レベッカも登録したいと言い出したが、さすがに第一王女殿下の希望でも国王の許可がなければ無理な話。彼女とペアを組んで冒険したら楽しそうではある。


 夏の休暇を残す所あと三週間になった頃、私とレベッカはクレージュ公爵領を去ったのだった。

 クレージュ公爵に転移門を提案したら、即了承されて設置したのである。転移門を繋げたのは王都にあるクレージュ公爵邸の一室。


 転移門を作成する時、私とレベッカの血も一滴垂らして通過登録を済ませた。

 クレージュ公爵は元より、転移門は登録した者しか使用できない仕組みにしておかなければ、不法侵入が簡単に出来てしまう。それを避ける為に血の登録は不可欠なのだ。


 クレージュ公爵の血が登録されているので、彼の息子であるクレージュ公爵令息もギリギリ可能となる。ギリギリと言うのは、登録した人間の血を受け継いでいる子や子孫が、稀に血が薄くて血紋が反応しなくて侵入者と判断して通れなくなるのだ。


 クレージュ公爵令息は見た目もそうだが、魔力量がクレージュ公爵と異なっている。

 その為、ギリギリ通過できるかといった判断だ。


 王都のクレージュ公爵邸でレベッカと別れ、私は実家へ戻ってそのまま転移門で領地へ向かう。

 夏の休暇の半分以上もクレージュ公爵領で過ごしたが、長期休暇でしか祖父母に会えないので残りの休暇はアグレッサ侯爵領で過ごす事にしていた。


 両親は王都の邸に残ったままのようで、私だけアグレッサ侯爵領へ出向く形である。



「ジュリエンヌ!」



 転移門のある部屋から顔を出すと、祖母がぎゅっと抱きしめてくれた。



「祖母様、ご無沙汰をしております」


「顔を見せてくれただけで嬉しいわ」


「先にクレージュ公爵領へ観光に出かけたので、休暇が残り少なくなってしまいました」


「クレージュ公爵令息と婚約したのですもの、婚家先の領地の事を学ぶのは当然の事よ。わたくしの事を思っているなら、貴方の幸せな顔を見せて?」


「祖母様、とても楽しく過ごさせて貰ったのです。第一王女殿下もご一緒でしたが、彼女も素晴らしい休暇だったと言っておりましたわ」


「サロンでお茶をしながらお話を聞かせてくれる?」


「はい、祖母様」



 祖母と共にサロンへ場所を移し、お茶を飲みながら会話を続ける。



「わたくしは十六歳のデビュタント後に、このアグレッサ侯爵家から縁を切って出る予定でいたのですが、クレージュ公爵令息に婚約を申し込まれたので受けました」


「そう……ダーレンは相変わらずなのね」



 祖母には幼い頃から姉に殺意を向けられている事を話した。

 当時の乳母やメイドが両親に訴えても無駄だと悟り、祖父母が王都に訪れた際に箴言したらしい。その話を聞いた祖母は父に詰め寄って説明を促すも、母に「姉なりに妹を思っているだけです」と言われて強く出られなかったようだ。


 それとは別に姉の魔力量と魔法の技術に、祖母は頭を悩ませていたと言う。


アグレッサ侯爵家の長女として生まれながら、姉のハリエットは魔力量が乏しく属性魔法を持たなかった。学力も特に伸びる事はなく芳しい結果のままである。家庭教師と母が姉を不憫に思って、祖父母や父に勉学の経過を隠していたらしい。


 そういった事もあって祖母は姉ハリエットに対し、厳しい目で見るようになったようだ。祖母の見解では姉のハリエットは、妹の能力にに嫉妬しているのではーーというもの。


 生後数か月で魔力を暴走させる程の膨大な魔力を持って生まれた妹ジュリエンヌ。

 四歳になった長女の方は、脆弱な魔力量しか持たない。


 祖母の見解は半分だけ合っていると言えるだろう。

 ただーー姉が私に対する逆恨みの一つだけは訂正しておこうか。



「お姉様は外見にコンプレックスをお持ちのようです。そしてお父様が大好きなのですよ」


「ハリエットがダーレンを?」


「はい。わたくしの髪色に瞳の色、そして魔力はお父様と同じ。お姉様はお父様の事が好き過ぎて、自分の髪色や瞳の色が父と同じでない事が悔しいのです。そして……お父様に似て生まれたわたくしを憎み始めた」


「まさか!」


「わたくしは生まれた時からの記憶を覚えているのです。一番古い記憶は生後二日目ですね」



 姉が母の目を盗んで私を殺そうとした事を告げる。


 その後も姉からの殺意を躱し続け、命の危機を察して魔力が暴走した話をした。この暴走で乳母とメイドが姉に不信感を抱き始め、両親に訴えた事も付け加える。



「そう……そういう事だったのね」



 祖母は自分の息子に対して不甲斐なさを噛み締めている。

 それと同時に、私が幼い頃から祖母に懐いていた事に納得したようだ。まだ言葉が話せなかった頃、両親と姉が近くにいる時にギャン泣きをし、祖父母が顔を出すと笑顔を振りまく。


 乳児なりのサインだ。

 


「貴方はダーレンが抱こうとすると大泣きをしていたわね」


「ええ、わたくしを守ってくれない役立たずの父親ですもの。そんな相手に笑えないわ」


「あの子は最初ーー死産で生まれたの。その場にいた医師が必死に蘇生して息を吹き返した事もあって、わたくしは過保護に育てたかもしれない。それ以前にダーレンは感情に乏しくて無表情。おかしいと気づいたのは生後半年くらいかしら? 他の子は表情豊かなのにダーレンは笑いもしない」


「それはーー」



 あれは生まれ持った性質だったのか?



「言葉を発したのも他の子より後からよ。ただ物覚えだけは異常に早く、一度目にしたものは記憶に残るみたいで、そのおかげで学問は首席だったの。魔力量は旦那様を凌駕するほどだし、氷魔法も四歳の時に取得したのよ。それに喜んだ旦那様がダーレンの教育に熱を持って、あらゆる専門家の方を招いて学ばせたの」


「お父様が博識なのは、それが理由ですか?」


「ええ。ダーレンに教える教師も賛辞の声を上げるほど。わたくしから見るとダーレンに自主性がなく、相手に求められるがまま受け入れているだけ。表情も乏しいというより無表情の極致ね。感情はわたくしの腹の中に置いてきたのかしら。それくらい人間味のない子に育ってしまったのだけど、結婚に関してはダーレンがメグさんを連れて来たのよ。その時は相思相愛って感じじゃなく、一方的にダーレンがメグさんを慕っている感じに見えたわ」


「それは何となく分かります」



 父が母に向ける視線は優しい。



「他人に興味を示さないから、ダーレンの結婚を諦めていたのだけど。メグさんのおかげで孫が三人も出来た。ダーレンが選んだ相手だし、メグさんは嫁として十分に尽くしていると思っているわ。だけどね、ハリエットに対する教育には苦言を言わないと治まらない」


「弟のレイモンが生まれてから回数は激減しましたが、それでも命を狙われているのは変わらないけれど。母が姉ばかりの肩を持つ理由は分かりますか?」



 アグレッサ侯爵家では父ダーレンに決定権がある。

 その裏で母に弱い父が意見を変える事も少なくない。



「ダーレンが選んだ女性なら間違いはないと思うけれど、アグレッサ侯爵家の嫁に相応しいか調査は行っているから、それなりにメグさんの情報を持っているわ」


「姉の肩を持つのは母の生い立ちに関係あるのですか?」


「わたくしはそう見ているの」


「お聞きしても良いのですか?」


「そうね……貴方はメグさんの娘だから知っておいた方が良いかもしれないわ」



 祖母は話をする前にお茶で喉を湿らす。



「メグさんはタイペイ伯爵家の長女として生まれたの。そのタイペイ伯爵家も水魔法が得意の家系で、上位魔法である氷魔法は扱えないけど水魔法では国内で随一かもしれないわ。タイペイ伯爵家の特徴は二属性を扱える事よ」


「二属性ですか……それはまた凄い家系ですね」


 大体の家は特化した一つの属性持ちが多い。

 二属性も扱えるなら、タイペイ伯爵家の血筋は魔力量も多いだろう。そんな家に魔力の少ない母が生まれたのなら、当時の当主にとって隠したい存在だった?


 私は祖母の話に耳を傾ける。


「タイペイ伯爵家の特徴である水と風の魔法。その家の長女として生まれたのに、メグさんは魔力が乏しい上に生活魔法ーーしかも初歩の初歩魔法しか使えない。属性が一つも発現しない子供が生まれたのは、タイペイ伯爵家の歴代の中ではメグさん一人だけだったそうよ」


「タイペイ伯爵ではなく、その夫人の魔力はどうなのですか? お母様は夫人の血を受け継いだのでは?」



 祖母は首を横に振ってから言葉を続けた。



「当時のタイペイ伯爵夫人は、土属性の魔法の使い手なのよ。どちらの血を濃く受け継いでも属性を持つ子は産まれる。メグさんはそのどちらも当てはまらなかったのね。さすがに妻の不貞を疑う真似はしなかったようだけど。血筋に誇りを強く持っているタイペイ伯爵家の当主は、属性を一つも持たずに生まれた娘を早々に見切りをつけた。メグさんは伯爵令嬢なのに家庭内では粗末な扱いを受けて育ったみたいなの」



 ーー異世界あるある!


 家族に疎まれて育つ令嬢ーーまさか母がソレだったとは!


 

 


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