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転生令嬢は初恋を貫く!  作者: 尾木 愛結
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 レベッカから送られてきた書状により、私は大手を振ってクレージュ公爵領の地を踏みしめている。


 アデレード王国の最北にクレージュ公爵家の領地があり、その敷地面積は国内でもトップクラスだ。領地の敷地面積の広さは最南に位置する王領が国内随一であり、次に王族の血筋であるクレージュ公爵領が続く。


 そしてーー貴族家の筆頭であるアンダーソン侯爵領とヴァソール侯爵領が並び、コンサル侯爵領にアグレッサ侯爵領といった順番が妥当かもしれない。

 この国では侯爵家が辺境伯の役目をしている形なので、どの領地も国境沿いに面している土地がある。


 ヴァソール侯爵領に関しては、国内の内側に広がっている土地を有している。

 どの侯爵領にも領地が隣接している為、自然と交流が生まれる環境かもしれない。


 王都からクレージュ公爵の領地まで馬車の移動だと約五日。


 馬車での移動中はクレージュ公爵とレベッカの三人で楽しく過ごした。

 私とレベッカの荷物が少ない事に驚いていたが、それは勿論アイテムボックスのおかげである。


 レベッカと異世界あるあるの便利アイテムの話で盛り上がった時、「アイテムボックスと鑑定は必要不可欠だよね!」という結論となり、手提げバッグとベルトポーチに容量拡張の付与を試したのだ。


 私はチートな父のおかげで無属性魔法が使える。

 無属性魔法は空間魔法と付与魔法が可能なので、それを私物に付与するだけ。


 それを説明したらクレージュ公爵が驚き、そのまま彼のベルトポーチに拡張機能を付与した。ついでに鑑定機能付きの眼鏡をプレゼントしたら、クレージュ公爵にとても喜んで貰えたらしい。


 この鑑定眼鏡はバレッタのお礼を兼ねている。


 眼鏡に魔力を注ぐと対象の物が鑑定可能となり、毒が盛られる可能性がある場所には必要なアイテムになるだろう。

 それだけではなく、相手に気取られずに素性が分かるので、敵対心を持つ人間を区別する事が出来るのだ。国境沿いに領地があると、敵国の侵入も多い。



「貴方たちといると退屈しないな」


「伯父様、それは褒め言葉ですの?」



 クレージュ公爵は鑑定眼鏡を気に入ったのか、それをずっとつけたままでいる。眼鏡をかけているクレージュ公爵は、更に知的さが引き立つ。眼鏡のフレームはシルバーと黒縁で迷ったが、やはりクレージュ公爵の髪色にした方が良いと思って黒縁にした。


 ノンフレームも候補に入れていたのだが、意外とノンフレームを愛用している年配の紳士が多く、そうなると特別感が消え失せてしまう。

 結果として、悩んだ末に敢えて黒縁にしたのだ。


 レベッカの眼鏡のフレームはシルバーで私とお揃い。



「さすがに私も無属性魔法は扱えないからね。無属性魔法の特徴や使用できる魔法の種類も、まだ詳しく解明されていないのだ。それを十歳の子供が簡単に使いこなしている」


「ジュリーは才能の塊ですわよ」


「レベッカの言う通りだな」


「お二人のお話は終わりました?」


「ジュリー! 待ちくたびれたわ!」



 レベッカが私に向かって笑顔を浮かべる。


 私はクレージュ公爵領に着いた早々、養鶏所が目に入ったので寄り道をして貰って見学させて頂いたのだ。そこでダチョウくらいの大きさの鳥と卵を見て驚いたのである。


 養鶏所の人から卵と〆た雄鳥の差し入れを、私が嬉しそうに受け取っているのを見ていたレベッカが「唐揚げ食べたい」と言い放ち、領地にある公爵邸に到着するや否や厨房へ放り込まれた。


 大きな鳥肉を捌いた事がないので、厨房にいた料理人に鳥を捌いて貰ってから唐揚げを作り、卵があるのでついでにマヨネーズと卵サラダにオムレツを作っていたのである。


 卵一つで大量のマヨネーズと卵サラダが出来た。


 その余った分でオムレツ三人分を作り上げ、それをワゴンに乗せて運んで来たのだがーー二人の会話が楽しそうだったので中断させるのも申し訳なく思い、話が途切れるタイミングを計っていたのだ。


 私と同行してくれたのは、クレージュ公爵家に古くから仕えている家政婦長のアニエス・テーヌ夫人。

 彼女は私を先に席へ促してから、運んできた料理の給仕を始める。



「ジュリー、さすがね! 料理も得意だったなんて、本当に素晴らしいわ!」



 レベッカは転生してから初となる唐揚げを目にして興奮気味だ。

 余程それが食べたかったのだろう。



「先に頂くわね」



 そう言った直後に唐揚げを口にする。



「コレよコレ! ああ……なんて美味しいのかしら」


「レベッカはこの料理を知っているのか?」


「ええ、当然だわ」



 レベッカは二つ目の唐揚げを口に含む。

 クレージュ公爵は目の前の料理に視線を戻し、唐揚げを小皿に移し変えた後にカトラリーを使って口に入れる。



「これは!」



 どうやらクレージュ公爵のお口に召したらしい。



「伯父様、その白っぽいソースをつけて食べると味が変わりますわよ」


「この白いソースか?」



 レベッカに言われた通り、クレージュ公爵がマヨネーズを小皿に分けると、新たな唐揚げにマヨをつけて食べ始めた。



「そのままでも旨いが、このソースをつけると味が深まるな」


「お気に召して下さり有難うございます」


「この料理のレシピを騎士団の宿舎にある厨房に教えて貰えないか?」


「伯父様、レシピは非公開にして欲しいわ。わたくしも王宮の料理人に作ってもらう予定ですが、レシピに関しては秘匿するつもりですのよ」


「約束する」



 クレージュ公爵の食べっぷりは見ていて気持ちの良いものだった。

 豪快に食べるのではなく、あくまで優雅に上品でいながら食欲が旺盛で、その姿を見ているだけでも飽きない。唐揚げだけじゃなく卵サラダとオムレツも口に合ったのか、給仕された分をぺろりと平らげていた。


 現在は食後のお茶を楽しんでいる。



「ああ、そうだ忘れていた」


「何か言いたい事でも?」


「いやーーアニエス、そしてアレン。此方にいる令嬢はジュリエンヌ・アグレッサ。アグレッサ侯爵家の令嬢で、息子ダニエルの婚約者となった。彼女はまだ十歳という若さだが、レベッカ第一王女殿下と同様に大人の女性として扱って欲しい」


「お坊ちゃまの婚約者様でしたか」


「ジュリエンヌ嬢、彼は執事頭のアレン・テーヌ。その隣に控えているのが、家政婦長のアニエス・テーヌだ。この二人は夫婦で家名を呼ぶと紛らわしいから、ファーストネームで呼ぶと良い」


「ご紹介に預かりました、ジュリエンヌ・アグレッサと申します。今後とも宜しくお願い致します」



 席から立ち上がって淑女の礼を交わす。



「素晴らしいレディですな」


「お坊ちゃまの方が年下に見えますわね」


「ダニーは見た目も精神的にも幼いわ」


「第一王女殿下はお坊ちゃまに対して厳しいですね」


「ダニーに付き合えるのは、弟の面倒に慣れているサミーしかいないわ。それと、ここにいる間は第一王女殿下ではなく、レヴィと呼んで貰えるかしら?」


「かしこまりました、レヴィお嬢様」



 レベッカが執事頭へニッコリと笑みを浮かべる。

 そのままの表情で今度はクレージュ公爵の方へ体を向けた。



「伯父様、本日のスケジュールは?」


「今日は一日空けている」


「農場へ行く事は可能かしら? 食用の肉と動物の腸が欲しいのよ。腸は羊型か猪型のものが理想だけど、その二つがどうしても欲しいの」


「レベッカ、まさか?」


「ジュリー、貴方が言ったのよ。パリッと音が鳴るソーセージ。ビーフジャーキーは干し肉と違って噛むほどに味が染みわたる。早く口にしたいわ」



 今日はレベッカの食べたい物を作る事になりそうだ。

 クレージュ公爵は邸から距離の近い農場へ向かう事に決めたらしく、その段取りを侍従に指示している。公務ではなくオフ日という事もあり、クレージュ公爵は白いシャツに黒のトラウザーズという軽装姿。


 トラウザーズの腰部分にはベルトポーチが装備されている。


 ーーラフな姿のクレージュ公爵も良き!


 父よりもドストライクなクレージュ公爵を眺めているだけで、意識を保たないと顔がにやけてしまう。彼に変顔を見られたくない。ささやかな乙女心だ。



「その前にーージュリエンヌ嬢、我が公爵領の騎士団にコレと同じ物を二十ほど作って貰えないか?」



 クレージュ公爵は拡張バッグをご所望らしい。



「理由をお聞きしても?」


「すまない、先走ってしまたようだ」


「伯父様らしくないわね」


「この付与魔法に驚くばかりだ。我が領の各地にいる騎士団の代表が二つずつ持てば、魔獣を討伐した時に回収しやすい。これまでは持てる分だけを解体していたが、これがあれば討伐後に回収して戻ってから解体が出来る」


 魔獣を討伐する時は、その場で解体して持てる分だけを持ち帰っていたようだ。

 その場合、単独行動をする魔獣であれば問題ないが、群れで行動する魔獣だった場合は全てを持ち帰る事が出来ず、諦めて他の魔獣の餌として残していたらしい。


 この拡張バッグがあれば全て持ち帰る事が可能となる。



「そうね」


「クレージュ公爵、容量は如何ほど?」


「容量の大きさかーー大型の魔獣を五体くらいが妥当だな」



 大型の魔獣と言えばドラゴンしか思い浮かばない。

 牛型も熊型の魔獣も二倍から三倍の大きさなので大型の部類に入るだろう。


 クレージュ公爵が言う大型は、更に格上のランクの魔獣を意味している。私がこれまで目にした魔獣は熊型が最大の大きさだが、騎士団が集団で討伐するくらいだろうからドラゴンを基準にする事にした。



「分かりました」



 そのくらいの容量ならすぐに作れる。


 ーー騎士団が使う物ならベルトポーチが妥当か?


 リュックみたいなバッグの方が良いのか悩む所だ。魔獣を討伐したり、領地の見回りの際に手に持つような物は邪魔になるだろう。


 騎士服の邪魔にならないのは、ベルトポーチが無難で使い勝手は良さそうに思える。騎士団の騎士服と装備品は支給している物で、家の都合や年齢による体力の衰え等で退団する時は、全て返却するのが規則らしい。

 その代わり、騎士服や装備品が破損した場合は新しいものが支給されるのだ。


 勿論、破損した物は返却するのが決まりで、その後は別の物にリサイクルされたり、ボタンや肩章といった物は外されて使い回す。この無駄のなさが好ましい。


 レベッカの要望で近場の農場へ赴き、搾りたてのミルクとチーズを頂いた後、そこの主人に羊型の魔獣の腸が手に入る場所を尋ねた。農場から移動して市場へ向かう。


 クレージュ公爵は娘二人の父親に見えるのか、「娘さんにどうかね」と良く声を掛けられる。



「お父様、アレが欲しいわ」



 レベッカが周りに便乗して指を指す。


 クレージュ公爵はレベッカの従兄弟であるが、年齢差が開いているので親子に近い。見た目なら私とレベッカの髪色が同じなので姉妹に見えるだろう。


 市場で必要な物を揃えると、時刻は夕方に差し掛かる頃だった。

 これからソーセージを作るのは手間がかかりそうだが、風魔法で時短する。


 私の調理法を見物している料理人たちの視線が気になるものの、このソーセージはクレージュ公爵領の特産にすると自分が提案したのだ。今は時短で作っているが、改めて正しい作り方を伝授した方が良いだろう。


 風と火魔法を駆使して作業を時短していく。

 腸は予め塩漬けされていた物があったので、別の作業をしている時に塩抜きをしておいた。肉塊を細かくミンチにして貰って、レモンやハーブ類の種とニンニク黒胡椒の種の二種類を準備したら腸詰めにしていく。


 本来は別の用途に使う道具をミンサーに作り替えて使用している。

 これがないと上手に詰められない。


 腸に種を詰め終わったら、同じ長さになるように捩じりを入れる。その作業が終わったら大鍋に水を入れていく。まだ火をかけていない水の状態の中に、生のソーセージを入れてから改めて鍋に火をかける。


 大体三十分くらい茹でて火を通してから氷水で冷やす。


 その後は風魔法で乾燥をさせ、次は燻す過程に入る。

 ソーセージが長い状態なので厨房ではなく、別の場所で燻しを行う。一時間もあれば十分だろうか。


 思い切り魔法に頼って時短で作業したが、正しい作り方は一つの過程に時間がかかるのだ。燻しを行っている間に、次はミルクを使ったクリームシチューの準備に取り掛かる。

 シチューは大量に作っておく。


 使用人たちも賄いで食べるようなので、寸胴二つ分の量を同時進行だ。

 野菜を切り分けているのは料理人たちで、私は指示を出すだけで良いらしい。ふと目に入った大量のジャガイモに、何か摘まめる物を作っても良いだろうか。



「クレージュ公爵は食事の時にお酒を飲まれますか?」



 近くにいた料理人に話しかけると、「旦那様はワインを嗜まれます」と答えが返ってきた。ワインならチーズ焼きの方が合うかもしれない。


 ワインを飲むならチーズの方が良いが、まだ酒を飲めないレベッカならポテトチップスを好みそうだ。ジャガイモの皮を剥いて貰い、スライサーがないので包丁を使い薄切りに切っていく。


 スライサーとミンサーは必要に迫られそうなので、王都に戻ったら早々に商品化を決めなくては。

 クレージュ公爵領にいつでも行ける転移門があれば便利だ。


 問題はどこに繋げるか。


 転移門は出発点と終着点を繋げなければ作動しない。私の住む王都の邸には、アグレッサ侯爵領との転移門が設置されている。これは馬車移動が辛くて設置したと言っても過言ではない。


 祖父母に提案して転移門の場所を決めたのだ。

 

 いつでもクレージュ公爵に会いに行けるなら、私の部屋に作りたい所だがーー今後もレベッカと同行する事になれば、第一王女殿下が部屋に訪れる言い訳が必要になる。


 普通に考えて転移門の設置場所としては、王都にあるクレージュ公爵邸が相応しい。そうなればクレージュ公爵も王都と領地の行き来が簡単になる。


 この場で私が悩んでいても仕方ないので、この件は夕食の席で相談しようと思う。



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