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現れ、現れる者たち  作者: アズ
見える、聞こえる
3/24

3話

 あれからスマホで成仏出来る方法を調べまくった。だが、どれもインチキそうでこれといったものは見当たらなかった。それでも色んなことを試したが、やはり効果はなかった。

 既に空はオレンジ色になって鳥達が電線遥か上を飛び回っている。

「どうしたものか……」

 そろそろ私も帰りたい頃なのに、少年はずっと私から離れようとはしなかった。どこかに置いて走って逃げようにもなんだか気が引ける。

「あのさ、これからどうする? 流石に私の家には連れてこれない」

「嫌! 離れたくない!」

 がっしりと私の足に掴まる。

「そうは言っても私にはどうしようも」

 と言いだしたところで少年は泣き始めてしまった。

 私は困り果てた。周りは相変わらず少年の泣き声に見向きもしない。単に見ないように遮断しているのとは違う、本当に認識出来ていないんだ。

「そうだ、自分の家に帰るのはどう?」

「嫌」

「どうして? 私の家よりいいでしょ?」

「お姉ちゃん逃げる気でしょ? 嫌」

「そういうわけじゃ」

 察しの良い少年だ。

「でも、私が困る」

「どうして?」

「どうしてって」

「お姉ちゃん以外に僕は見えないんでしょ? なら、お姉ちゃんの家族の人に気づかれることもないよね」

「……」

 賢い少年だ。

「お姉ちゃんとこ行く!」

 嘘だと言ってくれーーー!!!






 電子レンジのチンという音が鳴る。

 母親が電子レンジを開けてスーパーで買ってきた惣菜を取り出す。コロッケだ。それをリビングから眺めていた少年は「コロッケだー!」とジャンプをして喜んでいる。

「幽霊のあんたが食べれるの?」

「え?」

 私はハッと母親と目線が合った。

 母には少年は見えていないんだ。

「なに?」

「いや、なんでもない」

 私は逃げるように自室へと向かった。

 結局、あの少年は私の家までついてきてしまった。玄関に塩を置く儀式が通用しないのはこれで証明された。

 少年は自室に向かう私の後をついていった。

「ついてこないで」

「なんで?」

「女子の部屋よ」

「いいじゃん」

 少年は気にせずずかずかと入っていった。

「へぇーこれが女子の部屋か」

 低学年の言うセリフか。

 少年は私の部屋を見渡した。たいした広さもない部屋に感じるのはベッドと勉強机があるからだろうか。その机は小学生の頃からずっと使っていて、ところどころ表面には傷がついている。その横にある棚には高校の教科書とノートが一番上の段に入っていて、残り下は小説かCDが入っている。

「漫画がない」

「買ってないからね」

「なんで?」

「なんでって」

「勿体ないよ! 沢山面白い漫画があるんだよ。お姉ちゃん何も読んだことないの?」

 私は頷いた。それを見た少年はあり得ないみたいなショックを見せた。目を大きく開き口を開け、マジ? と顔が言っている。

「別にいいじゃん」

「絶対読んだ方がいいよ。面白いよ」

 それから少年は漫画のタイトルを次々とあげていった。どれも少年誌のようなタイトルばかりで自分が読まなさそうな感じがした。

「アニメとか見ないの?」

「アニメは見るよ。サザエさんとかちびまる子ちゃんとか」

「え、他は?」

「それぐらいかな」

「え……それかなり時代遅れてるよ」

「煩いな」

「だったら僕が言った漫画をとりあえず読んでみてよ」

「えーわざわざ本屋行くの?」

「別に電子書籍でもいいじゃん」

「あー成る程。今どきだねぇー」

「お姉ちゃんはそれじゃなんなのさ」

「……ぐうの音も出ません」

 というか本当に小学生か?

 スマホを取り出し、とりあえず一番オススメだという漫画を課金して読んでみる。





「どう?」

 少年は訊いた。

「うん、面白い」

「でしょ」

 少年は笑顔になった。

 ふと、思い出す。現実を。

 フラッシュバックのようにネットで見た画像が浮かびあがる。救急車と警察の人達が集まるシーンが。

 こんな子がねぇ……

 私は少年のサラサラした髪をくしゃくしゃに撫でた。

「なんだよ」

「別に」

 ふと、視線を感じ部屋の外を向く。すると、そこにエプロン姿の母が部屋に入らず廊下で突っ立っていた。

「あんた大丈夫?」

 母は本気で私を心配した。自分の娘が突然独り言を始め、おかしくなったのを見りゃそういう反応も分かるけど、いつからそこにいたの?

「ノックくらいしてよ」

「いくら呼んでも来ないからよ」

「え?」

「夕飯、出来たわよ」


 




 遠くからサイレンの音が鳴り響く。

 リビングの窓にはカーテンが掛けられ、テレビではニュースが流れていた。最近は株価や物価の話しばかりでつまらなかった。

 食卓にはコロッケにサラダ、それから具沢山の豚汁に昨日の煮物の残りが並んでいた。

「いただきます」

 挨拶したのは二人の声だ。母と私。父は今日遅くなるから先に食べることになった。あの少年は食べれないのでテレビを観ている。

「なんかさ、番組変えない?」少年はそう言った。勿論、聞こえてるのは私だけだ。

 流石に子ども向け番組を見せるわけにはいかない。

 だが、少年は駄々をこね始め煩く喚き出した。

 あーもう煩い。本当に黙って。

 そう言いたい。でも、言えない。また、独り言だって思われてしまう。だからといって親に霊が見えるだなんて言ったところで信用してもらえるとは思えない。

 見えるのに、聞こえるのに、それを無視するのがこんなに大変だなんて初めてかもしれない。

 ああ、本当に不幸だ。

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