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現れ、現れる者たち  作者: アズ
死と時間
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21/24

21話

 メラメラと燃え続けている人らしきそれはコンビニの方へとゆっくりと右足をかばうように歩いて近づいてきた。

 あの状態では可能性はない。つまり、火事で亡くなった霊。現象が起きる前、消防車のサイレンがした。その後で起きたとなると、もしかするとその火災で亡くなられたばかりで、霊として現れたばかりなのかもしれない。となると、時計が止まった理由も、そのメッセージ性も想像がつく。その霊が肉体が亡くなった時刻なんだろう。

 燃える人に男女の区別がつかない。それに頭の皮膚も焼けてしまい、その人が長髪だったのかスキンヘッドだったのかもこれでは分からなかった。

 燃える人はコンビニの出入り口付近まで来た。すると、コンビニの自動ドアが反応し開き始めた。入店を知らせるメロディーが流れる。どうやら照明が落ちただけで完全に停電になったわけではなかったみたいだ。

 私は気づかれないよう忍び足で裏に入り、防犯カメラ映像が流れるモニターを見ようとした。だが、パソコンやモニターに明かりはなく、それらは全て電気が消えていた。

 仕方なく私は裏からカウンターをそっと覗いた。燃える霊はまだ此方に気づいていないようで店内を回るように歩き始めた。

「あぁ……あぁ……あぁ……」

 なにか低いうめき声が聞こえてきた。それは男性のような声だった。この霊は男の人だったかもしれない。炎は天井スレスレまで立ち上がる。しかし、火災報知器は何故か反応しなかった。商品に触れるわけでもなく、店内を回っている。あの霊のせいで店内が燃えないか心配したが、何故かあの霊が歩いたところの床には焦げた足跡が残るだけで燃え移るようなことはなかった。

 だが、あの霊が入ったことで煙臭いのと焦げた嫌な臭いと熱が伝わってきた。私はこの霊の動きを見計らって外に出ることを思いついた。

 霊は入り口から店の奥の方を歩き、飲料の方へと向かっていた。その横には裏に入る入り口がある。それは施錠出来るようなタイプではなかった。今思えば、コンビニは店の裏に簡単に出入れできてしまう。防犯上は通報のボタンとか防犯用カラーボールとかそんなようなものしかない。

 あの霊は裏に入ろうとしているのか?

 私はその隙を見てカウンターから出ると出口へと向かった。だが、さっき開いた筈の自動ドアは全く反応せず開かなかった。


 何で!?


 その時、入店時のメロディーが流れ始めた。自動ドアは開いていないというのに。

「ああ!!」

 今ので気づかれた。最悪最悪最悪最悪。

 私は自動ドアの上にあるスイッチのオン・オフを切り替えたが、自動ドアは全く開こうとしなかった。その間もメロディーは煩く鳴り続いた。

「嫌! なんでよ! 開いてよ!」

 私は自動ドアの隙間に指先を入れようとし、力を入れるも全然びくともしなかった。

 その間にも霊が此方へ向かっているのがどんどん熱くなることで分かる。

「もう!」

 私は遂に自動ドアに蹴りを入れた。それでもびくともしなかった。

 私は振り返り霊を探した。すると、奥からカウンター前へ現れ、そして此方へ振り向いた。

「ああ……」

 赤く燃え続けている霊が歩き出した。一歩、一歩と。

 私は逃げるように店の中を回り、追いかけてくる霊の前に棚を掴み、それを一気に傾けそのまま勢いよく倒した。

 ガシャンと今まで聞いたことがないような酷い音がすると、霊は手前で立ち止まった。

「ああ……あぁ……」

「何言ってるのか分からないけど、こっちに来ないで!」

「ああ……たす……たすけて……」

「え」

 霊は手を伸ばし、助けを求めるかのように息を漏らすと、刹那、照明が急につき、その一瞬で霊も消えていなくなっていた。

「どうしましたか?」

 前田がそう言ってやって来た。

「あ! なんですこれ!?」

 倒れた棚を見て前田は驚愕していた。

 私は前田を見た。私の額から汗が流れ落ちた。

 現象はおさまったようだった。

 見ると、店内の壁掛け時計の針が進んでいた。




 その後、店長が防犯カメラ映像で錯乱した私が棚を倒したみたいな映像が流れた。勿論、そこに霊の姿はなく、私はバイトをクビになった。

 親がそれを知ったのは数日後のこと。シフトの曜日を把握していた母が、その日の曜日に家にいたのを不審がって問い詰めてきたのでクビになったことを伝えた。

「なんでコンビニのバイトでクビになるわけ? 何をしたの」

「いや……ちょっと仕事で失敗して」

「コンビニの仕事もあなた出来ないわけ?」

「またバイト探すよ」

 そう言って私は求人雑誌を見せるように開くと、親は呆れたのか鼻息を漏らした。

「嫌になっちゃうよ。本当に社会人になれるの?」

 親の心配は子がちゃんと自立出来るのか、そのことばかりだ。確かに自分自身も不安はある。それが親にとっては重大なことだった。勿論、私のことだから私もうかうかしてられない。それでも私には危機感が、将来というものがどうも足りないらしい。

 母親がうんざりしながらリビングから離れると、私は求人雑誌を置いてスマホを弄りだした。スマホにはニュース画面がSNSの中に流れてきて、そこに例の火事の件の記述があった。一人暮らしの高齢男性の自宅から火災、部屋は全焼。部屋からは一人の遺体が発見され、その部屋の住人と一致したという。

 あの男性は高齢だったんだ。さぞ、苦しかった筈だ。多分、逃げ遅れたんだろう。

 あの男性が死後、霊として現れたのは多分強い思い(感情)からだろう。

 死んだ霊の時間は私達のような時間の流れ(未来)がない。だから、死んだその直前の姿で止まっている。少年の霊も髪の長い女の霊も、そして燃える霊も。それは私達の世界の存在とはやはり異なる。区分するなら別の存在「影存在」とでも呼ぶべきか。霊として現れ出し投影された心霊が実体のように見える存在。



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