7話 僕には敵わない
それから時は少し流れ、『森の庭』を訪れて3日後のこと。僕とお嬢様はじいやさんに呼ばれ、じいやさんの部屋を訪ねていた。
「それでじいや、『ご覧いただきたいもの』って何かしら?」
じいやさんが用意した椅子に腰掛けながらお嬢様は問う。僕もその左隣の椅子に座りながら、じいやさんの方を見つめた。
目の前にはイーゼルが置かれ、そこには何かを隠すように白い布が被せられている。
――何かの絵を見せるつもりでしょうか?
そう考えていると、イーゼルの右横に立っていたじいやさんは布を掴み。
「こちらをご覧いただきたいのです」
刹那、勢いよく布を剥ぎ取った。
そうして中から現れたのは――。
「「おぉ〜!」」
先日、僕らが『森の庭』で遊んでいた時の絵だった。
画面中央ではお嬢様がぶらんこに乗り、右下ではじいやさんが後ろで紐を引き、左側では僕が腰を抜かしてお嬢様を見上げている。
凄く上手な油彩画だ。うん、上手なんだけど――。
「なんでよりによってこの場面を描いたんですか!?」
僕の椅子がガタッと音を立てる。
描かれていたのは、お嬢様が靴を蹴飛ばした瞬間にスカートの中が見えてしまい赤面していた、あの場面だったのだ。
「それは勿論、この場面が1番絵になると思いましたので。タイトルは『ぶらんこ』にございます」
「あら〜いいじゃない」
「僕はよくないですっ!」
僕は猛抗議をする。だが、せっかくじいやさんが描いた絵に対して「描き直せ」等とは言えるはずもなく、諦めて受け入れるしかなかった。
「ははっ、これが一生残るんですね……」
力なく座り込む僕。すると、右肩にポンっと何かが置かれた。そちらを振り向くと。
「まぁまぁ、そんなに気を落とさないでちょ〜だい。これも私にとってはサンデルとの大切な思い出なんだから〜。ね?」
お嬢様が、あの時と同じように優しげな瞳をしていた。
なんだかんだで心の温かいお嬢様。その温もりは僕の羞恥心をも包み込み、いつの間にか安心感へと変えてしまった。
「……ははっ、そう言ってもらえると嬉しいです」
どうやら僕は、お嬢様には敵わないらしい。
優しげな笑みを見せるお嬢様を見て、僕はそう思うのだった。
「あっ、それと」
すると、突然お嬢様は僕の耳元に顔を近づけて。
「また見たくなったらぁ、いつでも見せてあげるからねぇ〜?」
そんな悪魔のような囁きをした。
瞬間、心臓が早鐘を打つ。
慌てて跳び退くと、お嬢様は下唇に人差しを当ててニヤリと笑い、じいやさんはただ微笑んでいた。
やっぱり僕は、この人たちには敵わないようだ。
お読みいただきありがとうございました。
久しぶりの短編ですね(形式は連載ですが)。
実はこの作品、とある絵画を元にして生まれたのですが、何か分かりますかね〜? 分かった方もそうでない方も、是非コメントをいただけると嬉しいです……!
それでは、また別の作品でお会いしましょう!(→ω←)