6話 悪戯好きなお嬢様
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
僕は腰を抜かしたまま、ただ呆然とその光景を見つめていた。僕の目に映っていたのは――。
ぶらんこに乗りながら靴を放り飛ばすお嬢様の姿。
その際に伸ばされた脚の隙間から見えたスカートの中。
そして、ニヤリと口角を上げたお嬢様のお顔だった。
「……っ!?」
脳の処理が追いつくと同時に、今しがたの状況を理解した僕は咄嗟に目線を下げる。もはや手遅れの行動にも関わらずに。
そんな僕の様子を見てお嬢様は、一度ぶらんこの動きをじいやさんに止めてもらうと。
「あら〜、靴が飛んでいっちゃったわ〜。サンデル、取ってきてくれな〜い?」
と、そんな指示を僕にした。それも、わざとらしい口調で。
「……分かりました」
思うところはあったが、とりあえず了承の返事をして立ち上がる。そして、靴が飛んでいったであろう方向――僕の斜め左後ろを軽く見渡すと、背の低い草むらの中にそれはあった。
ヒールの低いサーモンピンクのパンプス。まさに、お嬢様が履いていた物だ。
「ありましたよー」
僕はそれを拾い上げ、お嬢様の元へ運ぶ。
「……もう、気をつけてくださいね」
たまたま足が滑った可能性を一応提示しつつ、僕はお嬢様に靴を手渡そうとした。
だが、その直後だった。
「待って、サンデル」
お嬢様はそう口にしたかと思えば、とんでもないことを言い始めた。
「悪いんだけど〜、その靴、履かせてくれな〜い?」
「…………はい?」
またしても一瞬思考が停止した。
「いや、なんでですか。自分で履けますよね?」
僕はすぐにお嬢様に問い質す。だが。
「あら、ご主人様のお願いが聞けないの〜?」
ここでまさかの職権濫用。それを言われてしまっては、一介の従者である僕に抵抗権など無く、要望に応えるしかない。
「……っ、わ、分かりました」
僕は渋々片膝を地につける。少しでも見上げてしまうと、またお嬢様のスカートの中が見えてしまいそうなので、なるべくお嬢様の足先に意識を向ける。それでも背徳感があるけれど。
そうして僕がお嬢様の足に触れた瞬間、僕の心理状態を弄ぶかのようにお嬢様は耳元で囁いた。
「ねぇ、さっき見ちゃった〜?」
「っ!?」
心臓がドクンと飛び跳ねる。
同時に、先ほどの光景が脳裏を過る。
天使の羽ように真っ白なそれは、一瞬だったが確かに見えた。
顔が急激に火照っていくのが分かる。
恐らく今も、お嬢様は顔をニヤつかせているだろう。
僕が顔を上げられないのを知りながら――。