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ぶらんこ  作者: 案内なび
6/7

6話 悪戯好きなお嬢様

 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

 僕は腰を抜かしたまま、ただ呆然とその光景を見つめていた。僕の目に映っていたのは――。


 ぶらんこに乗りながら靴を放り飛ばすお嬢様の姿。

 その際に伸ばされた脚の隙間から見えたスカートの中。

 そして、ニヤリと口角を上げたお嬢様のお顔だった。

 

「……っ!?」


 脳の処理が追いつくと同時に、今しがたの状況を理解した僕は咄嗟に目線を下げる。もはや()()()の行動にも関わらずに。


 そんな僕の様子を見てお嬢様は、一度ぶらんこの動きをじいやさんに止めてもらうと。


「あら〜、靴が飛んでいっちゃったわ〜。サンデル、取ってきてくれな〜い?」


 と、そんな指示を僕にした。それも、わざとらしい口調で。


「……分かりました」


 思うところはあったが、とりあえず了承の返事をして立ち上がる。そして、靴が飛んでいったであろう方向――僕の斜め左後ろを軽く見渡すと、背の低い草むらの中にそれはあった。

 

 ヒールの低いサーモンピンクのパンプス。まさに、お嬢様が履いていた物だ。


「ありましたよー」


 僕はそれを拾い上げ、お嬢様の元へ運ぶ。


「……もう、気をつけてくださいね」


 たまたま足が滑った可能性を一応提示しつつ、僕はお嬢様に靴を手渡そうとした。

 だが、その直後だった。


「待って、サンデル」


 お嬢様はそう口にしたかと思えば、とんでもないことを言い始めた。


「悪いんだけど〜、その靴、履かせてくれな〜い?」


「…………はい?」


 またしても一瞬思考が停止(フリーズ)した。


「いや、なんでですか。自分で履けますよね?」


 僕はすぐにお嬢様に問い(ただ)す。だが。


「あら、ご主人様のお願いが聞けないの〜?」


 ここでまさかの職権(しょっけん)濫用(らんよう)。それを言われてしまっては、一介の従者である僕に抵抗権など無く、要望に応えるしかない。


「……っ、わ、分かりました」


 僕は渋々(しぶしぶ)片膝を地につける。少しでも見上げてしまうと、()()お嬢様のスカートの中が見えてしまいそうなので、なるべくお嬢様の足先に意識を向ける。それでも背徳感があるけれど。


 そうして僕がお嬢様の足に触れた瞬間、僕の心理状態を(もてあそ)ぶかのようにお嬢様は耳元で囁いた。


「ねぇ、さっき見ちゃった〜?」


「っ!?」


 心臓がドクンと飛び跳ねる。

 同時に、先ほどの光景が脳裏を(よぎ)る。

 天使の羽ように真っ白な()()は、一瞬だったが確かに見えた。

 顔が急激に火照(ほて)っていくのが分かる。


 恐らく今も、お嬢様は顔をニヤつかせているだろう。

 僕が顔を上げられないのを知りながら――。

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