5話 お嬢様の思惑
「いやぁ〜、すごく楽しかったです!」
僕は跳ねるようにぶらんこを降り、お嬢様に声をかけた。お嬢様は両手を後ろで組み、ニコリと微笑みながら応える。
「そう言ってくれて嬉しいわ! お陰で貴方を連れてきた甲斐があったわよ〜!」
その瞳はいつになく優しげだ。
ここまでスッキリとした気分になったのは久しぶりだった。ぶらんこを漕ぐ度に体が軽くなっていくようなあの感覚――。あれはきっと、トラウマの恐怖心が消えていく感覚だったのかもしれない。
もしかしてお嬢様は、僕の『森の庭』に対するトラウマを払拭させるために、このぶらんこを勧めたのだろうか?
いや、僕のトラウマを覚えているか聞いた時、お嬢様は「ん? なんのこと〜?」と首を傾げていたし、単なる偶然なのだろう。いずれにせよ、お嬢様には感謝しないといけなさそうだ。
「ありがとうございますお嬢様」
「ふふっ、私は別に感謝されるようなことはしてないわよ〜? まぁいいわ、それより次は私の番ねっ!」
すると、お嬢様は徐にぶらんこに腰掛けた。
ぴんっと背筋を伸ばし、あどけなさが残る手で両側の綱を握るお嬢様。流石は美少女なだけあって、ただぶらんこに座っているだけでも絵になる。そんなお嬢様に、僕はまた見惚れてしまいそうになっていた。
と、その時。
「あっ、そうそう。サンデルは私の前に居てくれる〜? そうね〜……あの彫刻の真下くらいが丁度いいかしら?」
「……え?」
お嬢様は僕にそんなことを申し付けた。お嬢様の指差す先に目線を運ぶと、そこには天使の彫像とそれを支える円柱の基礎があった。
――お嬢様は何がしたいのでしょう……?
お嬢様の思惑は理解できないが、とりあえず円柱の正面に立った。
すると。
「それじゃあじいや、紐を引いてちょうだい!」
「はい、畏まりました」
じいやさんがぶらんこに繋がれた長めの紐を引っ張り、お嬢様の乗るぶらんこが後ろへと動いた。そしてじいやさんが手の力を緩めると、ぶらんこは勢いよく前に動いた。
だんだんとその動きが繰り返されるごとに、勢いがどんどんと増していく。そして遂には――。
「ひゃっほー!」
「うわっ!?」
お嬢様の足とぶつかりそうになり、僕は反射的にしゃがみ込んだ。お陰で衝突は回避したが、スカートの中が見えてしまいそうになった。
――け、結局何をしたいんでしょうか……!?
そう僕が内心で慌て始めた直後だった。
お嬢様はニヤリと笑ったかと思うと、右足の靴を思いっきり蹴飛ばしたのだ!