1話 とある美少女の秘密
突然だが、僕の知り合いにはとある美少女がいる。
名前はミュリエル。僕と同じ17歳の少女だ。
清楚で、お淑やかで、気品に溢れて、でもどこかあどけなさが残っていて――。まるで絵に描いたような美少女だ。
告白された回数は数知れず。同じ年代の者ならば誰もが羨み惚れる、まさに高嶺の花のようなお嬢様でもあるのだ。
けれど、僕はそんな少女のとある秘密を知っている。いや、目の当たりにしていると言った方が正しいかもしれない。
というのも――。
「ねぇサンデル、ひま〜」
「ひま〜、って……宿題の途中じゃないですか」
豪華絢爛なベッドの上で大の字に寝転びつつ僕の名前を呼ぶ、亜麻色のロングヘアの少女。サーモンピンクの華やかなドレスに身を包む彼女だが、はしたなく寝転んでいるせいで、くしゃりと皺ができてしまっていた。
「はぁ……起きてくださいよ。またじいやさんに叱られますよ?」
僕はため息を吐き、少女を起こすために椅子から立ち上がる。だが。
「別にいいのよ〜。もし見つかったら『今は休憩中』って、また言っとけばいいんだから〜」
少女はそう口にするや否や、ごろりと寝返りを打ってうつ伏せになってしまった。彼女は口元をふにゃりと緩ませて枕を抱きしめている。その横顔は、まるで楽しそうな夢を見ている幼い子どもみたいだ。
「僕はもう知らないですからね」
「そんなこと言わないでよ〜。あっ、それならサンデルも一緒に寝る? このベッド広いから、余裕で二人とも寝転がれるわよ〜」
そう言いながら少女は微笑み、自分の隣をポンポンと叩いた。
「……っ、あ、生憎と共犯者になるつもりはないです」
「ふふっ、そうよね〜。女の子と一緒に寝るのは恥ずかしいもんね〜」
「なっ!? かっ、揶揄わないでくださいよ!」
「うふふ。ごめんね〜、サンデルの反応が良くて、つい」
そう言って寝転んだままクスクスと笑う少女。
この少女こそが高嶺の花――ミュリエルである。
そして、この悪戯っぽい一面こそが彼女の秘密なのだ。
本人曰く、こんな姿は従者である僕とじいやさんにしか見せない姿であるらしく、他の従者や実の父母の前ではお上品でしっかり者のお嬢様を演じているらしい。
それを考慮すれば、僕はかなりの待遇を受けているとも言える。理由は定かではないが、ミュリエル様のことだ。丁度良く揶揄える相手だからとでも思っているのだろう。
これは、そんな悪戯っぽいお嬢様と、彼女に振り回される僕のとある日常を描いた物語だ。