2-2あなたの心に居る人は?
「望まぬ縁談……ねえ」
「はい……ここでは相談した事が良い方向に向かうと聞きました。……なんとか坊ちゃまのお心を守る事は出来ないでしょうか」
貴族の縁談なんてものは、政略的なものばかりで当人の意思を尊重するものの方が少ない。……この国では珍しいとは思うが、話を聞く限りでは坊ちゃまとやらの事を考えた上でのものだろう。
「年齢差はほとんどなく、家にも当人にも悪い噂は特にない……貴族の縁談にしては大分マシな部類じゃないかしら」
「ですが、坊ちゃまはあの時確かに悲しんだ表情をしておられました……お忙しい旦那様達の代わりに幼い頃から共に過ごさせていただいた身としてはこのまま放っておく事など出来ません」
明らかにただの使用人の領分を超えている、とヴィンスは感じた。
(プライド……か?幼少期から共にいるから、自身を坊ちゃまとやらの親であると無自覚に認識しているのか……)
「それで?あなたはその縁談をどうしたいのかしら?」
「い、いえ……どうしたいなどとは」
「ふふ、嘘よ。だってそうじゃなきゃ此処には来ない筈よ」
少女は微笑みながら、嘘で塗り固めた女性の本心を暴いていく。
「嫉妬してるのよ、あなたは。……縁談相手は勿論、いつもは傍にいないのに来たらすぐに坊ちゃまの心を動かす両親にね」
「っ……!失礼な事を仰らないで下さい!拾っていただいたご恩はあれど嫉妬などと!」
「失礼なのはあなたよ。……分からないならともかく、本音を隠して相談にくるなんて……後押しでもして欲しかったのかしら?」
取り乱す女性を見るに、おそらく事実だろう。とはいえ、わざわざ煽るような言い方をする少女に珍しさを覚える。
(貴族、縁談、地雷ではあるがそんな事を相談相手にぶつけるような事は今までもなかった筈だが……)
「婚約ではなく、縁談なんでしょう?……あなた、坊ちゃま、坊ちゃまって言うけれど、本当にそんな風に気にしなければいけない子なのかしら?」
「……帰ります。此処に来るべきではありませんでした」
我慢が出来なかったのか席を立ち、帰り支度をする女性を一瞥して、少女は一言告げる。
「本当にその人の事を考えるなら、あなたは自分の意識を変えるべきよ。これアドバイスね」
本来ならば、私は坊ちゃまに仕える資格のない人間だ。たまたま旦那様達に拾われなければ何処かで野垂れ死にしていたかもしれない……恩を返す為に必死に勉強して、使用人として恥じぬよう知識を身につけてきた。
(嫉妬などする訳が無い……)
先程、少女から言われた言葉を振り払うように足早に屋敷に戻っていく。
(坊ちゃまの為にも何か方法を考えねば……)
でも、もし、この縁談を坊ちゃまが受け入れるのなら余計な事などせずに祝福すべきではないか、と考える。
「やはり、坊ちゃまに確認してからの方が良いですかね」
ちくり、とする胸の痛みには気付かないふりをして歩を進めると、後ろから間違えようのない声が聞こえた。
「何を確認するの?」