1-2恋人は上の空、解決!
「初めは仲が良かったんです……思ったことは言い合えて、確かに神経質な所はあるけど、自分の意見以外は認めない、なんてこともなくて……むしろ大雑把な私のフォローばかりしてくれて」
「あら、素敵ね。ヴィンスも見習いなさい」
「口を挟まないように」
そう言いながら軽口を叩く二人を見て、彼との思い出が溢れ出す。
(私が突拍子もないことを言って、眉間に皺を寄せた彼が困ったようにしながらも『仕方ないな』なんて笑うから、私も笑って……幸せだったなぁ……なんて)
「レティシアさんの言った通り、最近は話し掛けても上の空な事が多くて……浮気なんて出来る人じゃないから、そこには心配してないんですけど……」
「でも、不安なのね。それは自分に自信がないから?」
「……はい」
大雑把過ぎるから、ついに面倒になっちゃったかなぁ、なんて笑いながら話しても感情は真逆に振れていく。
「いつも迷惑ばかり掛けてるし、告白も私からだったんです。元々、友達の紹介だったから仕方なく付き合ってくれてたのかもしれません……」
「どうかしら?」
「え……?」
「話を聞く限り、神経質で、けれど自身が絶対の基準ではなく、あなたのフォローが出来る真面目な人……そんな人なら、いくら友人の紹介でも気の無い人とは付き合わないでしょう?」
それは、確かにそうだ。……自分に自信がないからといって、付き合っていた時間まで信じないのは違うのではないだろうか。
(でも、ならどうして……)
「あなたが不安になったのは最近で、彼が上の空になり始めたのも最近……お付き合いをしてから長いのかしら?」
「?……ちょうど、明後日で三年目です。友人とはぐれてしまって、私のことを覚えていた彼が助けてくれたんです。……私の方は一目惚れだったので、つい、そのまま告白して……」
「あらあら、なるほどね」
「何か分かったんですか?」
楽しそうにコロコロ笑う少女に困惑する。
「そうね、取り敢えず……今日はお家にお帰りなさいな」
「え」
「大丈夫よ……一つアドバイスするなら、必ずタイミングがあるからその時には遠慮なく言いたいことを言うことね」
「追い出されてしまった……」
実際にはお茶とお菓子を手土産に貰った上に、可愛らしく『また来てね』なんて言われたので追い出された訳では無いが。
(あれから、何を聞いてもはぐらかされて、むしろ彼に言いたいことをレティシアさんにいっぱい引き出されてしまったなぁ……恐るべし)
そうして家に帰ってから少しして、ドンドン、と家の扉を叩く音がする。
不審者か、と息を潜めていると外から彼の声が聞こえた。
「頼む、いるなら返事をしてくれ……君と話がしたいんだ」
初めて聞くような切羽詰まった彼の声に驚いて扉を開けると、目の前には息を切らした彼が立っていた。
「どうしたの!そんなになって……取り敢えず早く家に上がって、すぐタオルを持ってくるから」
「それよりも話を聞いて欲しいんだ」
中に行こうとした時に、突然手を掴まれて驚く。
「……本当にどうしたの?」
見たこともない彼の行動にもしや、恐れていた事態……別れを切り出されるのではないか、と不安になる。
「捨てないで、欲しい……君が好きなんだ」
思いもよらない言葉に耳を疑う。
今、彼は私を、好き、と?
「好き……っていきなり何を」
「いきなりなんかじゃない!……友に、君を紹介されて一目で気になっていたんだ、だけど君は俺と違っていつも屈託なく笑っていて、こんな人が俺を好きになるわけないと思って諦めてた。」
けれど、と
「偶然、街で君とまた会って、やっぱり諦められないから告白だけでもしようとしたら、君から告白されて、凄く嬉しくて舞い上がってたんだ」
初耳だ、と驚きあの時の事を思い返すと、告白でいっぱいいっぱいで彼の様子をよく見ていなかったが、付き合って彼の表情をよく見続けた今の自分からすると、
(もしかして、あの時……照れて、た?)
「付き合いだしてからは幸福の連続だった。子供みたいに突拍子もないことを言ったと思えば、優しく大人びたことも多くて、何一つ飽きがない毎日だった……君とこれから先も一緒に過ごしたいと思うほどに」
「それって……」
「もうすぐ三年目だから、指輪を用意して、せめて君に喜んで貰えるようにしようと色々考えていたんだ」
「そんな、私、知らなくて」
「違う君は悪くない!……今日、泣いた君を見て、間違いだったと思い知った。喜ばせたいと思いながら、君を泣かせた……すまない」
本当に、驚くことばかりだ。彼が私を好きなことも、この先を考えてくれていたことも。
「許して欲しいとは言わない。けど、もう一度チャンスを貰えるなら、俺と結婚して欲しい」
(もしかして、レティシアさんの言ってたタイミングって……)
「……やだ」