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5駅目:20代 男性・女性

 ピンポーンという音と共に電車の扉が開いた。

 若い男女二人が電車から降りるとすぐに電車の扉は閉まり発車した。

 男女は走り去る電車には気にも留めずホームをキョロキョロと見回した。


 「お客様、どうかさないましたか?」

 突然声掛けられ男女はビクリと体を跳ねさせて驚いた。


 振り返るとそこには帽子をかぶり茶色い上着に黒のズボンを身につけ、ホイッスルを首から提げて赤色の旗が巻きついた棒を持った女性が立っていた。


 「びっくりさせないでよ。もしかしてここの駅員さん?」

 男が訊ねた。


 キャップを斜めにかぶり、少し多き目の上着に腰までずり下がったズボンをはいた、なんともチャラそうな見た目の男だった。


 「はい、そうですが」

 駅員は身なりには触れずに淡々と受け答えした。


 「なんか気付いたらここにいたんだけど、ここどこ?」

 男は駅員に今いる場所を訊ねた。


 「ここはキサラギ駅です」

 「キサラギ?どこ?」

 男は首を傾げた。


 「俺らこれから渋谷で友達とカラオケなんだけど、どうしたらいい?」

 男は駅員に今後のことを訊ねた。


 「お戻りになりたいということでよろしいですか?」

 「もちぃ~」

 男の隣にいた女がスマホをいじりながら答えた。


 男がチャラ男ならば女はギャルだった。

 金髪に超ミニスカート。濃い目のメイクに長いネイル。

 同じ女性なのにこうも違うかと駅員は心の中でため息をついた。


 「でしたら10分後に電車がやって来ますので、そちらにご乗車してください」

 駅員は答えた。


 「一本で行ける?」

 男が訊ねた。


 「はい、大丈夫です」

 駅員は答えた。

 そのときだった。


 「えぇ~、何これ?超ウケるんだけど!?」

 女の声がホームに響いた。


 「キサラギだって!超ウケる」

 女はそう言うとスマホで駅名標の写真を撮った。


 「何、お前?ここ知ってるの?」

 男が女に訊ねた。


 「知らないの?キサラギ駅って言ったら有名じゃん!」

 「有名?」

 男は知らないのか再び首を傾げた。


 「そう。ネットであったじゃんか。降りたら帰れなくなっちゃったってやつ」

 「あぁ、あれか。そういえばあれキサラギ駅だっけ?」

 男にも何か心当たりがあったようだ。


 「ってか、あれってネットの作り話じゃなかったんだ。じゃあウチら今ヤバくね?」

 女は少し興奮気味に言うと今度はホームにスマホのカメラを向けた。


 「申し訳ありません、お客様。最近ホーム上での迷惑行為や写真、動画撮影でのトラブルが相次いでまして、ホーム上での撮影は許可制を取らせてもらっているんです」

 即座に駅員は女のカメラレンズの前に手をかざして妨害した。


 「はぁっ?何それ!?」

 途端に女が不機嫌になった。


 「上からの規則ですので」

 駅員は努めて冷静に答えた。


 「あっそ」

 女は駅員を睨みつけながらスマホを降ろした。


 「っていうか、ここ電波悪すぎぃ~!全然通信できないんですけどぉ~?」

 今度は嫌味ったらしく駅員に言い放った。


 「申し訳ありません。このあたりは地形の影響からか電波状況がすこぶる悪いんですよ」

 駅員は説明し理解を求めた。


 「何それ?今時そんなところあるわけないじゃん。言い訳するにしてももっとマシなことにしたら?」

 女は駅員を見下すようにニヤつきながら言った。


 「実際山に囲まれている地形だとテレビや携帯の電波が遮られてしまうという場所は意外とありますけど?そんなに携帯ばっかり見ていろんな情報を常に得ているのに知らないんですか?」

 駅員もいい加減女の態度にイラついてきたため、思わず言い返してしまった。


 「あぁっ!?何あんた!喧嘩売ってんの!?」

 女は駅員に詰め寄った。


 「まぁまぁ、落ち着けって」

 男が間に割り込んだ。


 「何、あんたこの女の肩持つっていうの?」

 女が激怒した。


 「違う違う」

 男が弁明した。


 「ここがネットスラングの世界だとしたら、ここ世界の人を怒らせるのは不味いだろ。帰れなくなったらどうするんだよ?」

 「はぁ?あんたマジであの話信じてるの?」

 女は呆れたように男を見た。


 「でも本当だったらどうするんだよ?お前もここがちょっと変だってこと気付いてるだろ?」

 男は女を説得した。


 「何?あんたビビってんの?」

 女は男を挑発した。


 「はぁ?俺はお前のことを思って言ってるんだぞ!」

 男が声を荒らげた。


 「喧嘩はしないでください!」

 今度は駅員が間に割って入った。


 「もうすぐ電車が来ますから」

 駅員がそう言うと二人は喧嘩をやめた。


 「ちょっとトイレ」

 「はっ?」

 女が突然言った。


 「トイレ行くって言ってんの!」

 女はそう言うとトイレマークが書かれた頭上の案内板に従って歩き始めた。


 「お客様、もうすぐ電車来ますよ!」

 駅員が慌てて声をかけた。


 「もう限界なんですけどぉ~。それともあたしに漏らせって言ってんの?」

 女は顔だけちらりと駅員の方を向き答えた。

 歩みは止めない。


 「必ず戻ってきてくださいね。くれぐれも改札の外には出ないでくださいね!」

 駅員は女の背中に声をかけた。


 女は特に反応も見せず階段を下りて行った。


 「大丈夫かな?」

 男は心配そうにした。

 どうやらこの男、見た目に限らず意外としっかりしているように見える。

 駅員がそう思っていたときだった。


 「俺、ちょっと見てきます」

 「えっ!?ちょっと!」


 そう言うと駅員の制止も聞かず男も階段を下りて行ってしまった。





 男が階段を降りると目の前にある改札の前に女が立っていた。

 

 「トイレじゃなかったのか?」

 男は女を呆れたように見た。


 「行くわけないじゃん」

 女は悪びれる様子もなく言った。


 「見てよ。自動改札でもないし、駅前のコンビニすらないよ、ここ。どんだけ田舎なのさ」

 そう言って笑った。


 「群馬とか栃木とか山梨の田舎の方ってこんな感じなんじゃないの?キサラギ駅?馬鹿にしてんじゃないわよ」

 女はそう言うと改札を抜けて外へ出て行く。


 「おい!外出るなって言われてただろ!」

 男が女の背中に向けて声をかけた。


 「さっきからあんたビビり過ぎ。そんなんだから彼女も出来ないんだよ!童貞野郎」

 「んだと!?」

 女の言葉に男が切れた。


 「お前はへタレだって言ってるんだよ。へタレじゃないならこっち来いよ」

 女はなおも男を煽った。


 男はその挑発に乗り、改札を抜けて外へ出た。




 

 駅前のロータリーは静まり返り、客待ちのタクシーなどはいない。

 駅から真っ直ぐ続く通りには街灯がポツリポツリと並ぶ。

 周囲に民家や商店などの明かりは一切見えず、ホームから差し込む明かりだけが唯一の光源だった。


 「ネットの話じゃ歩いてから人と会うんでしょ?だったらこの道歩いて行ったら誰かに会うんじゃない?」

 女が駅前の通りを指差した。


 「マジで言ってんのかよ…」

 男はうんざりとした顔で答えた。


 男の言葉には何も反応せず、女はスマホのライトを点けズンズン通りを進みだした。

 「待てよ!」

 男は女の後を追いかけた。



 ◇◇◇



 「やっぱりいない…」

 駅のトイレの中を確認した駅員は一人呟いた。


 直後にピンポーンと電車の接近を知らせる音が鳴り響いた。


 「改札の外はダメって、私言いましたよね?」


 改札口を眺めながら駅員は再び呟いた。



 ◇◇◇



 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 荒い息遣いで男と女は全力で通りを走っていた。


 「何だよ、あれ!だから言ったじゃねぇか、クソが!」

 「知らないわよ!そんなこと!」

 男が叫びながら、女は半泣きになりがなら全速力で走る。


 二人の後ろからは姿は見えないが、何か得体の知れないモノが迫っていた。

 真っ暗闇の中、転々と点く街灯を頼りに走る。


 「きゃっ!?」

 突然女の悲鳴が聞こえた。


 男は足を止めると振り返った。

 女が地面に倒れていた。


 「転んだ!」

 女は叫んだ。

 男は急いで駆け寄って立ち上がらせようとした。

 しかし、


 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 男は突然叫び声を上げると、踵を返して女の元から必死に逃げるように駆け出した。


 「ちょっと!待ってよぉ!」

 女は叫ぶと立ち上がって男を追いかけようとした。


 「何だよ、あれ!?」

 男は絶叫しながら走る。

 そのとき、


 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 女の絶叫が聞こえた。


 男は振り返ることなくただ前だけを見て走った。





 駅の明かりが見える。

 男は最後の力を振り絞って走ると改札口に駆け込んだ。


 「助けてください!」

 事務室の扉をドンドンと叩くと助けを求めた。


 「どうかなさいましたか?」

 事務室から駅員が姿を出した。


 「変なヤツに追われてるんです!マユミが捕まったみたいなんです!」

 男は息も絶え絶えに言った。


 「変なヤツってどんな感じのモノですか?」

 駅員は男に訊ねた。


 「黒くて大きくて…、なんだかよくわかんないけど、気持ち悪い得体の知れないなんかだよ!あんなものがこの世にいていいわけがない!」

 男は真っ青な顔をして震えながら答えた。


 「そうですか。黒くて大きい…」

 駅員はそう呟いた。

 そして、


 「あぁ、それって今お客様の後ろにいるみたいなものですか?」


 「はっ?後ろ…」

 男は背後を恐る恐る振り返った。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


 男は叫び声を上げると腰を抜かしその場にへたり込んだ。


 男曰く、黒くて大きくてなんだかよくわからない、気持ち悪い得体の知れないものがそこにいた。

 その傍らに見慣れたモノがあった。


 「マ、マユミ!?」

 顔の穴という穴から血を噴出した女の顔があった。


 「どうして逃げたのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」


 突然女の目がグリンと回ると叫び声を上げた。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


 男の絶叫が周囲にこだました。



 ■■■



 渋谷・道玄坂にあるカラオケボックスの一室。若い男女6人が盛り上がっていた。


 「ってか、あいつら遅くね?」

 その中の一人が到着が遅れている仲間について周囲に訊ねた。


 「そういえば遅いね?何してんだろ?」

 ピロンという着信音が鳴った。

 スマホを取り出しメッセージを確認する。


 「うわぁ!?」

 メッセージを見た瞬間、悲鳴を上げるとスマホを落とした。


 「何?どうした?」

 何事かと周囲が心配した。


 「いや、何か気持ち悪い写真が送られて来て…」

 「気持ち悪い?」

 「何だろう、ヒロキとマユミが血まみれの生首になってるみたいな写真」

 「はぁ!?何だよそれ?怖っ!?ハロウィンはまだ先だぞ?」


 「本当なんだって…」

 そう言うと落としたスマホを拾うと恐る恐る画面を確認した。


 「あれ?」


 「何だよ?今度はどうした?」

 「いや…」

 「だから何だよ!」

 はっきりしない態度に苛立ちの言葉が飛んだ。


 「削除されてる」

 「はい?」

 「だから、写真が削除されてるんだよ」

 そう言うとスマホの画面を周囲に見せた。


 「たすけ」と書かれたメッセージの後には、「画像は削除されました」という文字が表示されていた。


 「いたずらじゃない?」

 「だと思うけど」


 そう言うと『いたずらやめろ!』というメッセージを送った。


 しかしそのメッセージに既読が付くことはなかった。

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