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薄幸王子が、幸薄い王子である理由

更新が滞っていました。すみません。

続きが出来ましたので、よろしくお願いします。

 リチャードの主治医でもあるアシュリーから、霊獣ゴリラに関する話を聞かされた。

 ゴリラはドラゴン同様、伝説上の生物であること。しかしそれは架空のものではなく「伝説として語り継がれる、実在する生物」であること。

 彼らの存在をその目で確認した人間がほとんどいないことから、彼らを「伝説上の生物」であるとしたのだ。


 霊獣ゴリラ。

 その剛腕は山を、大地を割る程の威力を誇り、その体躯はあらゆる攻撃をも受け付けないと言われている。

 害なす相手には容赦しないが、本来は生命を重んじる心優しき超常生物である。

 ゴリラに関する資料に描かれている姿は、剛腕と体躯を表現するかのような筋骨隆々とした銀色の毛並みを持つ、人間と同じような体付きをしている。いかめしい表情からゴリラは生物学上、雄しか描かれていない。

 そしてごく希に、ゴリラと同じ身体能力を授かる人間が現れることがあるそうだ。それは「恩恵」とされており、その恩恵を受けた者は超人的な身体能力と、あらゆる怪我や病気に打ち勝つ超自然治癒能力と抵抗力をも身につけるとされていた。


「そのゴリラの恩恵を、彼女が……?」

「らしいな。たった今見せてもらった凄まじい力が、何よりの証拠だ」

「すみません、すみません。子供の頃から力加減を上手くコントロール出来なくて」


 物心つく前の記憶はないが、幼い頃にとんでもないことをやらかしてしまったことだけは覚えている。きっとそれが霊獣ゴリラの呪いによって、リラが相手を傷付けた一番最初の記憶だ。

 掴まり立ちから一人立ちしかけた時、手招きする母親に向かって突進してーーそのまま突き飛ばして大怪我をさせてしまった。まだ幼いリラは大泣きするばかりで、1歳前後の子供が母親にタックルを決めるなんて誰も予想しなかった出来事だ。誰もが事故だと言っていたが、そのせいで母親は肋骨2本骨折してしまった。

 わけもわからず、どうしたらいいのかコツも掴めず、ただただ何も壊さないように、誰も傷付けないように毎日ビクビクしながら過ごしていたことを、リラは思い出していた。

 そんな暗い表情をしているリラを気遣って、リチャードが声をかけようとしたその時ーー。


 城の表玄関の方で、またしても騒々しい物音と声が聞こえてきた。

 まるで誰かが声を張り上げて、城に攻め入るのかという程の騒がしさだ。


「リラ姫が来てから、ここも随分と騒がしくなったものだな」


 アシュリーが何気なしに口にする。

 この女医は思ったことを何でも話してしまうせいで、誤解も多い。


「先生、彼女に失礼なこと言わないでくださいってさっきも言ったでしょう! 彼女はとても繊細なんです。霊獣ゴリラか何か知りませんが、その恩恵で力強くなったとはいえ、彼女が一人の女性であることに変わりありません!」

「リチャード様……」


 そんな風に言われたのは初めてだった。

 誰もが「ゴリラの恩恵を受けているのだから平気だ」と、そう思われてきたから。

 まさかあらゆる物を破壊してしまう自分に対して「繊細だ」などと言われるなんて、リラは夢にも思わなかった。

 感激で涙すら出て来そうになる。だけどリラは必死でそれを堪えた。

 ここには甘えに来たのではない。リチャードの妻となるべく、彼を支える為に嫁いで来たのだという思いを奮い起こさせた。彼の母君と弟君の前で、リラはそう誓ったのだから。


 ***


 リチャードの父親、ゲルタニア国王のリラに対する暴言により、リチャードは自らの拳の骨にヒビを入れてしまい退室した後のこと。

 リチャードの母と弟、彼らに付き添う執事、そしてリラだけが応接室に取り残された時だ。

 王妃が夫である国王の非礼を詫びた。


「ごめんなさい、リラ姫。夫の言うことは当然許し難いことではあるけれど、でも……実際にあなたがリチャードと無理に結婚する必要なんてないのよ」


 そう切り出されてリラは激しく戸惑った。

 まさか先ほどの破壊行為のせいで、国王だけでなく王妃にまで嫌われてしまったのだろうかと狼狽える。

 しかし王妃やリチャードの弟イーサンが言いたいことは、どうやらそういうことではないようだ。


「リチャード兄様は、もうあと数ヶ月の命なのです……」

「な……、なんですって? そんなこと、婚姻の申し出があったお手紙には一言も……」


 話と違う、ということが言いたいのではなかった。

 リラは先ほどの病弱な美青年が、たった数ヶ月の命であることに大いに戸惑ったのだ。

 続けて王妃が説明をする。ありのままを。


「リチャードは生まれつき体が弱くて、とても病弱だったの。少しの衝撃で簡単に骨折してしまうし、体力もほとんどないものだから。生まれてこの方一度も外で走り回ったことすらないの。医者から余命宣告を受けたリチャードは、最期の願いとして……結婚を望んだのよ」

「だけど病弱で、余命幾ばくもない兄様の元へ嫁ごうと思う女性がこの世界にいるかどうか……。そしたら父上は何を思ったのか、イヴァリース国の姫君を……つまりリラ姫、あなたに婚姻の申し出をしたんです。僕達に一言の相談も無く」


 結婚相手が、あと数ヶ月の命……。

 加えて病弱で、体がとても弱く、体力もほとんどない虚弱体質。

 彼がとても儚げに見えたのはそのせいだったのかと、リラは合点がいった。


「もしこの国の王妃となる為に、それはもちろん隣国同士で親睦を深める為……と言う意味合いですが。兄様との結婚では、僕も不本意ではありますが……それが叶うことはありません。ですが少しでも兄様の為に、リラ姫に是非ともお願いしたいのです。人生が残りわずかな兄様の幸せの為にーー」

「お受けいたします」

『えっ!?』


 リラの至極当然という態度に、二人は驚きを隠せなかった。

 もうすぐ寿命が尽きようとしている人間の、残り少ない人生を彩る為の犠牲になってくれと言ってるようなものだと、二人が思っていたにも関わらず。


 だがリラはそんな風に捉えていない。

 むしろ自分しかいないとさえ思っていた。

 リラは一目見た時から、リチャードに惹かれていたのだから。


「私はリチャード様との結婚を、心から望んでいます。あとはリチャード様のお心がどうなのか、というところですが……。リチャード様のお身体のことも、良ければ私にお任せして欲しいと考えています」


 結婚を了承するリラに対し、二人は目をぱちくりさせながら不思議に思っていた。

 しかしリチャードの願いが叶う、という点においてはこれ以上ない返答なのだと、二人は喜びのあまり微笑んだまま涙を流している。


「ありがとう、ありがとう……リラ姫っ! 息子もこれで幸せに、思い残すことなく過ごせると思うと母は嬉しいわ」

「僕からも俺を言わせてください、リラ姫。兄様はとても優しくて、穏やかな方です。短期間になるとは思いますが、どうか兄様のことをよろしくお願いします」


 リチャードの残りの人生を、リラが伴侶として過ごしてくれる。そう受け取った二人は、それぞれリラの手を取ってお礼を言った。

 しかしリラには別の思惑があった。二人はそのことに全く気付いていない様子だったが。リラも今この場で、わざわざ言う必要もないかなと、黙って笑顔で二人に応えた。

読んでくださり、ありがとうございます。

こちらの作品はすでに短編として完結していますが、より深く、リラの愛情などを繊細に描けたらなと思っています。

次話もよろしくお願いします。

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