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かくして、医務室は混迷を極める

不定期更新で申し訳ありません。

ひとまず最後のストックを書き終えましたので、投稿させてもらいました。

よろしくお願いします。

 あんな出来事があったのだ。

 醜態を晒してしまったリチャードは、右手の痛みより彼女を呆れさせてしまったことへの無念で、すっかり心が疲弊していた。

 せっかくの縁談、理想的な女性、他に類を見ない程に素晴らしく美しい女性を、自分は見事に逃したのだ。


 ここは城内にある医務室。

 よく病気や怪我をするリチャードの為に、城内には専門医が常駐している。

 王族はもちろん、城勤めの者も世話になっている医師だ。


「よかったな、今回はヒビで済んでいる。お前の非力さが幸いだったようだ」


 勇ましい言葉使いをしているが、常駐している医師は女性である。城勤めの者が些細な怪我で次々と医務室を訪れるということは……、つまりはそういうわけである。

 しかしリチャードは長年の診療で彼女と慣れ親しんでいること、何より男のように勇ましすぎる女医のことを「女性、異性」だと意識したことは、ただの一度もなかった。

 言うなればこの女医は、リチャードにとってのかかりつけの医師であり、姉のような存在でもある。

 姉に欲情する程の元気が、病弱なリチャードにはない。


 彼は女医に言われたセリフに対し、ただただ沈んだ表情で静かに頷くだけだった。

 それを見た女医のアシュリーは大きくため息をついて、頬杖をつく。

 足を組み、短い丈をしたスカートの隙間から今にも下着が見えそうな程に際どいが、そんな光景に目を奪われることなく、リチャードはただ一点を見つめている。

 誘っていたわけではなく、試していただけのアシュリーはイライラとした表情で喝を入れた。


「ウジウジするな、それでも男か。だからあのクソ親父に舐められるんだぞ、わかっているのか」

「……クソ親父」


 アシュリーは基本的に口が悪い。

 こと国王に対しては『幼馴染』ということもあるのか、単純に毛嫌いしているのか。常日頃から当たりを強く見せている。

 そんなアシュリーだからこそ、同じように父親を苦手としているリチャードは彼女にだけは本心を打ち明けることが出来ていた。

 しかし強い語気で当たるのは、何も国王相手だけではない。

 彼女は男に対してのみ、その荒々しい態度をあらわにする。今目の前でウジウジしているリチャードに対する態度が、その証拠だ。


「とにかくお前はネガティブ過ぎる。そんなんじゃせっかく釣れた大物まで逃してしまうかもしれんぞ。もっとしっかりしろ」

「はい、先生にそう言われたら返す言葉もありません……」


 暗い顔で受け答えするリチャードに、苦虫を噛み潰したような表情になりながら、持っていたペンを握り締めて折りかける。


「ちっ。お前が脆弱でなかったのなら、今すぐ殴り倒していたところだ」


 ぼそりと呟いたところに、突然医務室のドアが破壊される。

 凄まじい轟音を立てながら何事かと思った二人は、ドアの前で立ち尽くす少女――リラに気が付いた。

 リラは今しがたノックをしていた、というような仕草のままで硬直している。

 真っ青な顔色でリチャードとアシュリーと目が合う。


「あ、あの……違うんです。ドアをノックしようとしただけでして、決して破壊するつもりは……」

「なんて怪力だ。ゴリラ姫と揶揄されるのも頷けるな」

「先生っ! 彼女に失礼なことを言わないでください! うっ……、げほっ! ごほっ!」


 急に大声を出したせいで喉を潰しかけたリチャードが咳き込むと、リラが慌てて駆け寄る。

 ゆっくり、優しく、丁重に。しっかりと力の加減に気を付けながら、リラはリチャードの背中をさすってやった。

 それを見つめながらアシュリーは満足そうな微笑みを浮かべると、また頬杖をついて足を組んだ。


「結婚おめでとう。よかったじゃないか、あっさりと認めてもらえて」


 そうアシュリーに祝福の言葉をかけられて、リラは嬉しそうに顔を真っ赤にさせているがリチャードは腑に落ちないといった風に顔をしかめた。


「まさか父が、自分達の結婚を承諾してくれるとは……。正直、思いませんでしたけど」

「式は挙げないそうだが?」

「……リチャード様の体調が心配なので。リチャード様はさえ良ければ、私は式を挙げなくても全然構いませんので」


 健気に答えるリラに、アシュリーは突然立ち上がってリラを強く抱き締めた。


「なんっって良い娘なんだ! 他にいないぞ、こんな聞き分けのいい娘は! 絶対に幸せにしてやらんと、この私が許さんからな!」

「あ、あのっ! 怪我をさせてしまうかもしれないので!」


 抱き締め返すことも、アシュリーを引き離すこともせず、されるがままに手を触れようともしないリラ。

 アシュリーはリラの肩を掴んだまま、ガバっと体を離して向き合い、じっと見つめる。

 その様子はまるでリラを観察するようだった。


「あの、私の顔に何か……?」

「お前……、霊獣ゴリラの恩恵を受けた者か」

「えっ!? わ、わかるんですか!?」


 突然リラの力の秘密を暴いた、とでも言うように言葉を紡いだアシュリー。あまりに唐突だったので、リチャードは眉根を寄せながら首を傾げる。


「……先生、一体何の話をされてるんです?」

「この生命エネルギーはなんだ。これが噂に聞くゴリラの恩恵……っ! 医師会でこの話題が何度も持ち上がったが、ほとんど伝説に近い存在のゴリラということで、その研究は今も滞っているというのに!」


 興奮すると周りのことが全く入ってこないところも、アシュリーの特徴である。

 ずっとリラをまじまじと観察しては、ぶつぶつと何かを呟いている。困ったリラは、思わずリチャードの方へと視線を走らせた。

 リラのキラキラと光り輝く瞳を目にしたリチャードは、心臓を矢で射抜かれたような感覚に陥る。

 実際に心臓の鼓動が早くなりすぎてそれが負荷となり、痛みとなっているだけだが。


 崩折れるリチャード、自分の世界に入ってしまったアシュリー。収拾のつかない事態に、リラは声を少しだけ張り上げた。


「皆さん! ちょっと落ち着いてくださーーい!」


 その声は超音波となり、医務室にあったガラス製の瓶などが次々と砕け散っていく。


「あぁっ!! 加減が……っ! 加減がーーっ!」


 頭を抱えて罪悪感に苛まれたリラが、今度は膝をつく。

 婚約者を慰めようと手を差し伸べるも、胸の痛みでそれ以上動けなくなってしまうリチャード。

 そして霊獣ゴリラの威力を目の当たりにしたアシュリーは、一人ハイテンションになっていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

少しずつ書いて更新していきたいと思います。

次回もよろしくお願いします。

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