表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/35

5.気を取り直して新人研修へ

 気を取り直して、私たちはみんな一緒に研修室に移っていた。


 ひともんちゃくあったけれど、いよいよ新人研修が始まるのだ。予定とはだいぶ違う形になってきたし、ちょっぴり先行き不安だけれど、ひとまず気にしない。


 クライヴさんは新たに加わった三人に配る資料を取りに、そしてアンドリュー様たちがこちらに移ることを報告しに、いったん席を外している。


 残りの私たちは大きな机を囲むように座って、あれこれとお喋りをしていた。。


「……その、シンシアさんの提案でわたくしもここまで来てしまいましたが……本当によかったのでしょうか……」


 ベリンダ様がちょっと浮かない顔だ。たぶん、仕事についてこられるか心配しているのだろう。


 ついこないだまで私たちが通っていた王立学園は、卒業自体は簡単だ。三年間、のんびりしていても大体の者は卒業できてしまう。


 もちろん、卒業後に良い仕事を得たい平民なんかは猛烈に勉強するけれど、ほとんどの貴族にとってあそこは、色々な人物と交流を広めるための場でしかない。


 定期試験のたび、成績上位者の名前が張り出されるけれど、そこにアンドリュー様やベリンダ様の名前を見た覚えはない。


 ということは、だいたい平均くらいの成績だったのだろう。少なくとも、ベリンダ様は。


 個人的に、アンドリュー様はもうちょっと下のような気がする。あくまでもそんな気がするだけだけど。


「大丈夫です。聡明なベリンダ様であれば、すぐになじむこともできるでしょう。私も補佐いたします。どうぞ、ご安心を」


 私が励ましの言葉をかけるより先に、ギルバート様がベリンダ様にそう言った。とっても柔らかな微笑みを添えて。


 綺麗な栗毛がさらりと揺れて、とっても色っぽい。わあ、まぶしい。きらきらしすぎて直視できない。


 でもなんだか、前にもこんなことがあったような。確か、あの卒業パーティーの後だったか。


 魔法省に行っても何もできないとしょんぼりするベリンダ様を、ギルバート様が即座になぐさめたんだった。


 ときめきながらもそんなことを思い出していると、アンドリュー様のぶっきらぼうな声が聞こえてきた。


「ギルバート、そう甘やかすな。ベリンダはしっかりしているから、慣れぬ環境になじむくらいお手の物だろう」


 アンドリュー様はふてくされたような顔で、行儀悪く頬杖をついている。


 ベリンダ様の嫌がらせとやらが全て勘違いだったと判明したというのに、彼はちょっとベリンダ様のことをうっとうしく思っているようだった。


 ちょっとこの状態は、私にとっては嬉しくない。私の明るい未来のために、どうしてもこの二人にはもう一度くっついてもらわないといけないのに。


 まだあれこれと話している三人を見ながら、必死に視線を送る。どうかお願い、頼むからくっついて、アンドリュー様とベリンダ様。


 そうやって祈っている私に、レイが笑いをこらえたような声でささやきかけてきた。


「……君の目論見、あんまりうまくいってなさそうだね」


 三人に気づかれないように声をひそめて、こっそりと言葉を返す。


「やっぱり、あなたにはばれてた? 私がたくらんでたこと」


「ばればれ。君って自分で思ってるよりはずっと、分かりやすいから」


「あっ、笑うなんてひどい。私は真剣なんだから」


「うん、だから僕も手を貸すよ」


「うう、ありがとうレイ、持つべきものは友達よね」


 その時、研修室の入り口の扉が叩かれた。一呼吸おいて、資料の束を手にしたクライヴさんが入ってくる。全員口をつぐんで、きちんと座り直した。


「お待たせしました。こちらが新人研修用の資料です」


「クライヴ、私たちが魔法省に籍を置いている限り、私たちに敬語は無用だ。先ほどもそう言っただろう」


 アンドリュー様が堂々と放った一言に、資料を配るクライヴさんの手が止まる。アンドリュー様の気持ちは分からなくもないけれど、いきなりそれを強制するのはちょっと無理があるような。


 こないだまで私たちが在籍していた王立学園の講師たちは、生徒の身分にかかわらず平等に接することになっているし、実際にそうふるまうことに慣れている。


 けれどクライヴさんは、ごく普通の魔法省の職員なのだ。案の定彼は、難しい顔で考え込んでいる。


「……うむ、分かった。あなたたち……いや、君たちは身分に関係なく、可愛い後輩の一人として扱う。それでいいのだろうか?」


 ところが何とも驚いたことに、クライヴさんはあまりにもあっさりアンドリュー様の言葉を受け入れてしまっていた。さっきまでの苦悩が嘘のように、力強くアンドリュー様たち三人を見ている。


 彼の反応に、アンドリュー様は満足そうな笑みを浮かべた。ギルバート様は申し訳なさそうに頭を下げ、ベリンダ様はおろおろしながらもこくりとうなずいている。


「さて、それでは新人研修を始めようか」


 気を取り直して、配られた資料を手に取る。それに目を通しながら、クライヴさんの話に耳を傾けた。


「まずは魔法について説明しておこう。とはいえ、みなある程度は知っているだろうから、軽くおさらい程度にな」


 こほん、と咳払いをして、クライヴさんは続ける。こうしていると、王立学園にいた頃を思い出す。といっても、卒業したのはついこないだのことだけど。


「魔法を使うには、魔法の素質を有していることが必要だ。素質を持つ者のことを『魔法使い』と呼ぶ。まあ、そのままだな。そして基本的に、一人が有する素質は一種類のみだ。主だった属性は、火、水、風、土の四つ」


 前に聞いた通り、ベリンダ様は水の魔法を使える。そしてなんと、ギルバート様も土の魔法の素質を持っているのだ。アンドリュー様は、特に素質を持っていない。


「この四つ以外に、まれな属性も多数存在する。シンシアが光で、レイが闇だな。二人とも、自分の属性については知っているだろうか」


 そして私とレイも、魔法の素質を持っている。とはいえ今までは勉学に忙しくて、魔法の練習は一切してこなかったから、魔法を使えと言われても使えないけど。


 でも、自分の属性についてはちゃんと学んでおいた。


「私の属性である光は、生命に働きかけるものです。生き物の持つ生命力を引き出したり、あと奪ったりもできます。そのため、一部の魔法は使用に制限がかかります」


「僕は闇属性。生きとし生けるものの精神に干渉するものです。極めれば、それこそ思考や感情を操作することだってできる。だから禁忌と呼ばれ、基本的に使用は許されません」


 しかしこうして言葉にしてみると、私たちの属性ってかなり物騒かも。うまく使えば役に立つとは思うけど。


「その通りだ。今後二人には、魔法の鍛錬もしてもらうことになる。今現在、魔法省には光の魔法使いも闇の魔法使いもいないから、独学にはなるが。必要な参考文献や練習道具は一式そろっているから、安心してくれ」


「あ、あのっ」


 さらりととんでもないことを言ってのけたクライヴさんに、レイがいつになくあわてた様子で口を挟む。


「シンシアはともかく、僕もですか? どうしてわざわざ、禁忌の魔法を……」


「魔法を研究し、情報を残しておく。それもまた、俺たち魔法省のなすべき役目だ。万が一、魔法による事件や事故が起こってしまった時に備えて」


「……闇の魔法は、悪用すれば大変なことになる。前もって闇の魔法についての情報を集めておくことで、そんな事態に対処できるようにする……ということですか」


「理解が早くて助かる。なに、他者に向かって実際に魔法を使ってもらうことはまずないだろうから、そこは安心してくれ」


 そう言ってクライヴさんは、今度はギルバート様たちに向き直った。


「もちろん基本の四属性についても、同じことが言える。君たちも協力、よろしく頼む。情報はいくらあっても困るものではないからな」


「はい。土の魔法は大がかりな建築や治水工事など、多くの場面で利用されています。民のためにも、魔法の鍛錬を積んでいこうと思っていたところでした」


「あの、わたくしも頑張ります……せめて、暴発しないようになりたいですわ」


 ギルバート様はきりりとした顔で、ベリンダ様はしょんぼりした顔で答える。アンドリュー様は、当然ながら無言だった。


「魔法省の裏手の別棟に、訓練室がある。後で案内するから、好きな時に鍛錬するといい。……ところで、一つ面白いことを話しておこう」


 クライヴさんがにやりと笑って、声をひそめる。


「魔法の素質は、どうやら持ち主の外見や性格にも多少影響を与えているようなんだ。魔法使いが多く集められている魔法省の職員を属性別に並べてみたら、はっきりと違いが出てな」


 その言葉に、私たちは顔を見合わせる。隣のレイは、黒い髪に金色の目。自然と、こんな言葉がこぼれ出ていた。


「……闇夜に浮かぶ月みたいね。とても静かで凛としていて。あなたはいつも冷静だし」


「それを言うなら君は、太陽かな。綺麗な金の髪に、生き生きとした緑の目をしていて。活気に満ちた、生き生きした女性だね」


 同じようにギルバート様とベリンダ様も、互いの見た目を確認していた。


「ベリンダ様は……淡い水色の髪に銀色の瞳、さざ波の立つ湖のようですね。穏やかなその心も、また深い海のようです」


「ギルバート様は、明るい栗色の髪に、緑を帯びた茶色の目。どっしりと優しい、大地の色ですわ。落ち着いた物腰も、大地の偉大さを感じさせるものだと思います」


 そうやって私たちが一通りお互いを褒め合った後、不意にクライヴさんが胸を張った。


「実は俺も、魔法の素質を持っているんだ。その属性は何だと思う?」


「火だな」「です」「ですね」「ですわ」「ですよね」


 その場の全員が、声を合わせて同時に答えた。クライヴさんが一瞬きょとんとして、気まずそうに笑う。


「やっぱり、みんなそう思うか……正解だ」


 自然とみなから、笑いがもれる。クライヴさんは燃えるような赤毛が目を引く、がっちりとした男性だ。


 彼から感じる力強さ、あの赤い髪。それに、さわやかなのに暑苦しいあの雰囲気。どれをとっても、火の力にぴったりだ。


 そんな風に和気あいあいと、新人研修は進んでいった。何か忘れているような気もしたけれど、気にしないことにした。だって、楽しかったし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ