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21.みんなで一緒に探検へ

「それでは、これよりダンジョンに向かいます」


 いつもより堅苦しい口調で、ギルバート様が宣言する。珍しくも緊張しているようだけれど、さすがはギルバート様、そんな姿も様になっている。


 彼の隣にはベリンダ様。最近の彼女は、そこが定位置になりつつある。


 アンドリュー様が暴走した時は、二人がかりで速やかに取り押さえてくれるのだ。その連携は日に日に見事なものになっていっている。息が合っているとは、こういうのを言うのだろう。


 あとは私とレイ、そして当然のような顔で私のすぐ横に張りついているアンドリュー様。要するに、ここに集まっているのはいつもの面々だ。


 これから私たちは、魔法省の地下にあるダンジョンにもぐるのだ。


 元々そこには自然にできた地下洞窟があり、とびっきり大きなマナの泉があった。そのマナの泉を管理するために作られた組織と建物が、この魔法省の前身なのだとか。


 ところが昔々のある日、そのマナの泉が暴走したらしい。


 何がどうなったのかはいまだに不明だけれど、マナの泉はさらに地中深くに沈み込んでしまい、その後にはとても大きな地下迷宮ができあがってしまっていた。


 そして恐ろしいことに、その迷宮はまだまだ広がり続けているのだとか。


 だからこうして、年に一度大がかりな調査が行われるのだ。魔法省の職員たちは、数人から十名ほどのグループに分かれ、手分けしてダンジョンのあちこちを調べていく。


 ちなみに、地下深くにあるだろうマナの泉は、まだ再発見されていない。マナの流れから言って、まだ存在しているということだけは確からしいけど。


「ダンジョンには小型のマナの泉が多く点在し、また魔石などの資源を多く回収できる場となっています。今回の私たちの任務は、新しく広がった領域の地図を作成すること。初心者向けの比較的簡単な任務ですが、油断は禁物です」


 ギルバート様がよどみなく説明を続けていく。みんな神妙な顔で、その説明を聞いていた。


 私たちのグループは、いつものメンバーだ。アンドリュー様にギルバート様、ベリンダ様、そして私とレイ。新人ばかりで組むというのもおかしな話だけれど、これにはちゃんと訳がある。


 ダンジョンの中では、何が起こるか分からない。道が形を変えたり、マナの濃度がいきなり変わったり、とにかく常識の通じない場所なのだ。


 そんな場所では、とにかくメンバー同士の連帯と信頼関係が大切になる。


 だから、立場とかキャリアとかに関係なく、親しい者同士で組むことになっているのだ。そして、毎年同じメンバーで組むことが多い。


 新人ばかりのグループには簡単な任務が、熟練のメンバーが多いグループには難しくて危険な任務が割り振られる。


 聞いたところでは、どうやらベテラン組は年に一度このダンジョンで思う存分大暴れするのを楽しみにしているらしい。さすがは変人揃いの魔法省だ。


 各グループには隊長がいる。これも立場などに関係なく、一番適している者が選ばれるルールだ。そして私たちのグループの隊長は、ギルバート様に決まった。


 身分から言えばアンドリュー様が隊長となるのが当然なのだろうが、隊長はどうしても危険が伴う。それに、あれこれと細かな仕事も多い。


 そんなこともあって、アンドリュー様はあっさりと隊長の座をギルバート様に押しつけ、もとい譲っていた。「それにこれなら、君のすぐ近くで君を守れるからな」などとも言っていた。


 そうこうしている間にギルバート様の説明も終わり、いよいよみんなで魔法省の地下に向かう。


 案内を担当する職員の指示に従い、魔法省とダンジョンとの間にある大扉をくぐった。


「うわあ……」


「ほう、これは……」


 初めて足を踏み入れたダンジョンは、予想とは結構違っていた。並んで歩きながら、みんなで辺りを見渡す。


「事前に聞いてはいましたが……地下なのに、こうも明るいとは……」


 ギルバート様が呆然としながらつぶやくと、ベリンダ様がちょっと弾んだ声で言った。


「ええ。それに、もっとじめじめしているのかと思っていましたわ」


 私たちが歩いているのは、綺麗な石畳の通路だ。壁も天井も同じような石がびっしりと敷き詰められていて、その石自体がぼんやりと光っているのだ。


「幻想的で、綺麗かも……」


「シンシア、油断はするなってさっきギルバート様が言ってたよね。ここはマナの流れが不安定だから、何が起こるか分からないって」


「そう言ってやるな、レイ。確かにこの風景は美しい。王宮ほど豪華ではないが、静かで清らかな美しさがある」


 うっとりとため息をついた私に、左を歩くレイが釘を刺し、右を歩くアンドリュー様が割り込んでくる。


 二人の言うことももっともだと思ったので、それぞれにあいまいにうなずきかけた。それでも二人は、私を挟むようにして歩きながら、わいわいと言い合っている。


 普段は物静かでちょっとひねくれ気味のレイと、騒がしくて恐ろしくまっすぐなアンドリュー様。黒髪に金の目の女性的な美貌を持つレイに、金の髪に緑の目をした派手目の美形のアンドリュー様。


 真逆で、しかしどちらも中々に魅力的な二人。意外と息が合っているように思えるのが、結構面白い。


 前をゆくギルバート様とベリンダ様の背中を見ながら、小さく微笑む。魅力的というなら、この二人もかなりのものだ。


 二人は礼儀正しく距離を置いて、仲良く笑い合いながら進んでいる。


 やっぱり、ギルバート様にはベリンダ様のような令嬢がお似合いだ。ふんわりと柔らかで、温かいひだまりみたいで、上品で可愛らしい女性が。


 ギルバート様もまた等身大の、同世代のごく普通の……普通というにはかなり優秀でパーフェクトっぽいところがあるけれど……まあ、そんな感じの人だと、魔法省に来たおかげで知ることができた。


 でもやっぱり、私にとって彼は憧れの人のままだった。


 結婚とかそういうことを気にせずに、ただ純粋に好意を抱ける相手。隣に立つよりも、こうして離れて眺めていたいと思える相手。私が彼に対して抱いている思いは、そんな感じのものだった。


 ……それに私は勉強こそ得意だけど、ちょっとがさつだし、気は強いし、ひだまりというよりは暴風とかのほうが正しい気がする。ギルバート様の隣にいたら、彼を振り回してしまいそうだし。


 そんな様々な思いをそっと胸の奥に隠して、涼しい顔で歩き続ける。そして十字路を右に曲がったとたん、私たちはまた驚きの声を上げていた。


 石畳の床は大きく波打って、壁はぐにゃぐにゃに傾き、天井も斜めになっていたのだ。


 巨人が通路を外からつかんで両手でねじったら、こんな感じになるだろうか。それくらいにめちゃくちゃになっていた。


「……前回の探索時、ここはごく普通の通路でした。どうやらこの一年の間に姿を変えたようですね」


 ギルバート様が地図をにらんだままぐっと眉間にしわを寄せ、それから私たち全員を見渡した。


「ここから先は、注意して進みましょう。アンドリュー様を守りながら、マナの流れを探ってください」


 その指示に従い、神経を集中してマナの流れを探りながら、転ばないようにゆっくりと歩く。


 ちらりと横目で様子をうかがうと、アンドリュー様はすねたような顔で黙りこくっていた。


 一人だけマナの流れが感知できないのが気に食わないのか、私やベリンダ様に守られているこの状況が気に入らないのか。


 また周囲に意識を戻して、マナの流れを探す。空気の流れと同じように目には見えない、けれど確かに感じられる、そんな流れを。


 ゆっくりと深呼吸しながら歩いているうちに、何かが意識に引っかかった。


「……ありました! そこの床の壁際から、マナが噴き出しています」


 見つけた喜びに、つい大きな声を出してしまう。ゆがんだ石の通路に、その声が複雑に反響していった。


 あわてて口を押さえる私と、私が見つけたものに注目するみんな。


「シンシア君の言う通りですね。アンドリュー様、あちらの壁には近づかないよう気をつけてください」


「まるで、マナの泉ですわね……初仕事の時に見たものよりは小さいですけど」


 警戒しながらそちらを見ているギルバート様とベリンダ様。なぜかレイは、難しい顔で辺りをきょろきょろと眺めていた。


「変だな……マナの流れがやけに複雑だし、量も多すぎる。たぶんこの辺に、もう一つ二つくらい似たようなのがあるんじゃないかな。アンドリュー様、危ないからそこでじっとしててくださいね」


「なぜ私が君に命令されねばならないのだ、レイ!」


「あなたがどじを踏むと、その分僕らがフォローする羽目になるんです。愛しいシンシアに、余計な苦労をさせたくないでしょう?」


 レイはそんなことを言って、見事にアンドリュー様の動きを封じてしまった。しかし今、レイは『愛しい』をやけにゆっくりと強調して言ったような。


 ひとまずそれは置いておくことにして、さらにマナの流れを探ることにする。みんなに背を向けて、通路の真ん中のほうに踏み出したその時。


「危ない! 下がれ!」


 突然、ギルバート様が叫んだ。弾かれるように、大きく一歩横に跳ぶ。


 次の瞬間、一抱えもある大きな謎の塊が、上からぼとりと落ちてきた。

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