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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

甘い骨

作者: 無夜

ピクシブで同タイトルでアップ中

 私は一本の甘い骨でありました。

 犬どもに喰らわれる、ただただ甘い、骨。




 骨になる前の私は恋人と同棲中でありました。

 機嫌が悪いと殴ってきたりする、扱いにくい人でしたが、私しか彼にはおりません。

 殴られても、貶されても、どんな目にあっても我慢できました。

 ああ、だけれども。

 あの日、家に帰った私が見たのは、他の女とベッドにいた彼でした。

 私に気がつくと、彼は狼狽し、取り繕うために、私に暴力をふるいました。

 私は我慢していました。

 が。

 女がこちらを見て、笑ったのでした。

 私は初めて、怒りを覚え。

 男を突き飛ばし、手近にあったサイドテーブルを持ち上げて、ただひたすら、男をそれで殴ります。

 男はいつしか動かなくなりました。

 女はベッドで、毛布をつかみ、身をすくめていました。

 私の顔を見て、悲鳴をあげます。

 血まみれのサイドテーブルで彼女も殴りつけました。

 それから、二人を縛り上げました。

 彼は死んでいました。

 かわいそうに。殴るのは馴れていても、殴られるのに馴れていなかったので、打ちどころが悪かったのでしょう。

 私も殴られるのには慣れていましたが、殴るのには馴れておりませんでした。

 彼女は生きています。

 私は彼の体をばらばらにするために包丁を持ってきました。

 手足を切り離します。切断は女の力では無理ですが、骨の間に、根気強く刃を入れて、付け根から外していきます。

 血が出ます。

 男が呻いた気がしました。死んでいるのに。

 これを聴かせるのは、私の中の罪悪感でしょうか。私の中の愛でしょうか。

 いたいたいたいたい、助けてくれ、もう殴らない、浮気もしないと訴えています。

 幻聴です。

 聞きたかった言葉を、死体の彼が言うのです。

 愛しているから、辞めてくれ。でき心だ。もうののしったりしない。なんでも言うことをきくから。

 彼はもう死んでいますから。腕を一本落としたあたりから、縛られているのに暴れるから作業が大変でした。

 死んだのだから、ちゃんと死んでいてほしいものです。

 女はひきつけを起こしたように笑い出しました。

 なぜこんな陰惨な作業を見て笑えるのか。まともな私にはわかりかねます。

 泣きながら、笑いながら、男と同じように、助けて助けて、許してください、なんでもしますからと訴えるのですが、彼女にしてもらいたいことなど、一つもなかったので、困り果てました。

 血がたくさん、噴水のように飛び出していたのは最初のうちだけで、次第に出血しなくなっていきました。

 もう幻聴もおとなしくなりました。

 いっそ殺してくれと、死んだ彼がせつせつと訴えます。息絶え絶えに。

 かわいそうですね。死んでいるのに。魂が死を受け止めきれずに迷っているのでしょう。

 それともやはり、これを聴かせるのは私の中の彼への愛でしたでしょうか。

 両の腕が落とせました。次は足です。

 またもばたばたと足を動かされ、私は腹を立てました。

 まったく、なんなのですか。

 おとなしく死んでいられないなんて。

 でも、ばらしました。

 彼はぜーこぜーこと死の息です。

 死んでいるんですが。

 顔色もすっかり白くなりました。血が流れ出すぎたからでしょう。

 ひっくり返して、背中に包丁を突き立てようとして、ぬめって力が入りません。

 手を拭っても、血脂がぬめぬめと私と包丁の蜜月を邪魔します。

 でも、私は知っています。この手のぬめぬめを落とすには、食器用の洗剤が一番いいのだと。

 手も包丁もきれいに何度も洗って、新しい気持ちで戻ってきたとき。

 死んだ男はこと切れていました。

 ああ、なんだ。

 せっかく首を最後にしてあげたのに。

 もっともっと謝罪を聴かせてほしかった。

 幻聴はもう聞こえない。

 女を見れば、うるさいので口に詰めた布ののせいで、窒息、したようです。

 私は背骨を断つ方針を変えて、彼の腹を切り開き、内臓をごっそりと抜きました。首を切り落としました。

 もうそれほど血が出ません。

 丈夫なゴミ袋にこまかくこまかく入れていきます。

 胴体が一番大きなパーツですが、はらわたを外したので、なんとかはこべる重さです。

 女の死体はそのままです。

 この部屋で、彼との愛を最後に交わした思い出とともに、朽ちていくのを彼女に許しました。




 服を変えて、車に彼を積みこみ、私は人の来ない山奥へと向かいました。

 そして藪の中に入り込み、穴を掘って彼を埋めました。

 そして私は手じかな木に縄をかけ、首をくくったのでありました。

 どれほど長くぶらさがっていたでしょう。

 私の遺体は腐りはじめ、ずるりと地面に落ちました。

 それでも私たちの遺体を人間が見つけることはありません。

 私が吊るされていた間中、よだれを垂らしていた野犬どもが、私の骨をかじりとります。

 私はただただ、この犬どもにとっての、

 甘い、甘い

 一本の骨になり果てました。

幻聴ではなく、本当に叫んでるんですけれどね、彼氏

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― 新着の感想 ―
[一言] 後書きがめっちゃ怖い…。 自分の行為を正当化するためにありそうで、怖くて、面白かったです!
2021/09/25 14:30 退会済み
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