都会で働くのに疲れた俺は王国から遠く離れたこの辺境の村で「ようこそ辺境の村へ」と言うだけの職についた
気分転換に書いてみました。短編なのであっさり風味にまとめています。もうちょっとラブコメ風味を入れたかったです。それではどうぞ。
大陸で最も栄える国のひとつである王国の王都から遠く離れた辺境にある村の入り口で、青年が一人、今日もめったにやって来ることはない旅人を待って立っていた。
「はあ、今日も誰も来ないなあ。まあ、仕事がないのは楽で良いけどあまりに暇だと体が腐りそうだ。」
目立った特産品も多くはないこの村に旅人や行商人がやってくることはほとんどない。村から少し先にある大森林には貴重な薬草類はあるらしいが魔物のレベルが非常に高く、また、大きな街からも離れているため持ち運びに時間がかかり、旨味も少ないため、冒険者が来ることも多くはない。
「ふんっふんっ!」
横に立て掛けてあった数本のうちの一本の槍を手に取ると、両手でもって体を捻り、固まっていた体の筋肉をほぐす。
そんなことをしていると、きれいに整備されているとは言い難い街道の遠くにうっすらと人影が見えた。
どうらや今日はめったには来ない客がやってくる日だったようだ。
ラエルは久々の仕事に少し緩んでいた気を持ち直し、やって来た客に声をかける。
「ようこそ辺境の村へ。」
そう彼は、RPGなどでよく見る村や町の入り口でただ村の名前を教えてくれる役割を持つ人であった。
◇
「はあ。」
ため息が出る。
数日前にやってきたのは、月に数回はやってくる馴染みの商人であった。
あれ以来、再び人がやって来る気配はない。
「はあ。」
再びため息。
前の仕事に疲れて逃げ出し、楽な仕事と思い遠く離れたこの地でこの職に就いたのだが暇すぎるのも問題ではある。
「ちょっと、何ため息ばっかりついてるのよ。」
横から聞きなれた声がかけられたのでそちらを見ると、貴族が着るような見るからに良い生地を使った服を着た同じ年ぐらいの金髪を両サイドにまとめた美少女と、その後ろに控えるように、同じ年ぐらいのメイド服を来たかわいい少女が立っていた。
「なんだ、ローザかよ。」
これ見よがしにため息をつく。
「失礼ね。なんだ、じゃないわよ。あんた、またサボってたんじゃないでしょうね。」
彼女はローザ、本名はもっと長いらしいが。れっきとしたこの国の貴族様だ。
この辺り一帯を治める辺境伯の孫娘で、この国の公爵家の娘でもある。
なんでも王都でいろいろあって、精神的に病んでしまい、療養のために王都から遠く離れ、俗世から隔離されたこの村にやって来たそうだ。
この村に来た当初はもっと暗くおどおどした感じだったのだが、今ではすっかり明るく活発になっていた。
見た感じにはすっかり元気になっており、もう療養は終わっているように思うのだが、なぜかまだ村にいるのだ。そして事あるごとに俺に突っかかってくる。
まあ、俺も暇なので彼女の相手をしてやっているのだが。
「さぼってねえよ。ほら、見てみろよ。誰も来ないんだから、ため息つくのもしかたねえだろ。」
「はあ。」
彼女はあからさまにため息をついて、やれやれわかってないわね、と言ったように手を横にやって首を左右に振る。
なんかよく分からないが、イラつかせられた。
「それでも来たときのためにあんたがいるんでしょ。もしかしたら今日にでもやって来るかもしれないじゃない。って、え?」
驚きの声をあげる彼女の視線を追って、街道の向こうを見る。
そこにはうっすらと人影がひとつ見えた。
◇
やって来たのは、長く赤い髪を後ろに束ねた、若くきれいな女性のミリアだった。
彼女はこの国の勇者の一人なんだと、ローザに教えてもらう。
勇者は、教会が候補となる子供を見つけると、親から離し国の監理の下に修行させる。そして、修行が終わると、教会の聖女や優秀な仲間とともに国の命令を受けて、国益に害なす魔物の討伐に向かうのだとか。
勇者とは別に聖器と言われる聖なる武器を使うものたちもいる。彼らは武器に認められたものだけがなれる勇者より貴重な存在だ。だいたい一国に一人はいて、確かこの国には聖剣使いがいるんだったっけ。まあ、これは強力な武器である聖器を一国あたり一つ以上持たないという取り決めからなのだが。
ミリアがここにやってきたのは、なんでも彼女のパーティメンバーの一人でもある聖女様が国から命令のあった魔物討伐の際に珍しい毒にやられ、その治療のためにはこの村の先にある森にある薬草が必要なことが分かり、森に向かう途中にこの村に立ち寄ったからだそうだ。
そして、どうやら森で薬草を探す間はこの村に滞在するらしい。
俺は国の要人とのことで、とりあえず村長のところに案内しようとしたら、ローザが案内してくれると代わってくれた。ただ、なぜか彼女を警戒しているようなローザの様子が少し気になった。
でも、そんな危なそうな奴には見えなかったけれど。
◇
あれから、毎日、ミリアは村の外に出掛けている。森の入口付近には珍しい薬草はないらしく、なかなか見つからないそうだ。
俺はとりあえず帰って来たミリアに挨拶しておく。
「ミリア、辺境の村へお帰りなさい。」
「あ、はい、ありがとうございます、ラエルさん」
彼女とはもう知った仲だ。
今日は、いつものように通りすぎることはなく、足を止めると、俺のことをじっと見てきた。
「そういえば、ラエルさんは冒険者か何かをされていたんですか?」
彼女の突然の質問に少し驚く。
「え?なんで?」
「佇まいというか姿勢がぶれてないのがちょっと気になったもので。最初は気のせいかと思ってたんですけど。」
「冒険者はやってないですよ。ちょっと、兵士紛いのことはしてましたがね。」
あまり聞かれたくないことだったので、そう言って誤魔かす。
「そうなんですか。だからでしょうか。ちなみにどうしてこんな辺境でこんな仕事を?」
「えーと、疲れたから、でしょうか。」
俺は、わざと何かを思い出すように空を見上げたあとに、少し暗い顔をして見せる。
いや、端的に言えばもう前の職場では働きたくなかったからであるが。
すると、彼女は何かを察したように、ハッとしたように目を開くと、申し訳なさそうに
「そうですか、それでは。」
何かを気づかったような顔をしたミリアはそう言って村の中に入っていった。
後日、ローザから
「あんた、あいつになに吹き込んだのよ。」
「えっ?どうかした?」
「この前見かけたら、ラエルさんも辛いことがあったんでしょうね、とか言いながら、哀愁漂わせて窓の外見てたわよ」
ちょっとやり過ぎたみたいだ。
◇
いつものようにローザとしゃべっていると、ミリアが森から帰って来た。今日はいつもよりかなり早い。
「辺境の村へおかえりなさい。今日は何か良いことあったのか?」
今日はいつもと違いうれしそうだ。
「はい! ようやく見つかりました。」
どうやら薬草がみつかったらしい
「それは良かったな。」
「はい!これで彼女を助けられます!」
「あれは?」
その時、村の外を見ていたローザがふと呟く。
俺も村の外を見てみると、街道の向こうに幾つもの影が見えた。
おや、どうやら珍しい団体客みたいだ。
◇
「ようこそ辺境の村へ。」
俺はいつものように声をかける。
10人ほどはいる男たちは立ち止まり、俺たちを見る。
「どうしましたか?」
「いえいえ。」
俺は不思議に思い問いかけると、人の良さそうな顔を浮かべた一人の男が近づいてくる。と、そのまま流れるようにして腰に手をやり、剣を抜きながら切り上げてきた。
俺は体を横に反らして剣をかわすと、すぐに後ろに跳び、距離をあける。
「ちっ。」
男の舌打ちが聞こえる。
きん!
金属同士がぶつかるような音がして、その方を見てみると、ミリアの近くに男が剣を抜いて彼女に切りかかったのだった。
ミリアはすぐに剣を抜いて切りかかってきた相手とつばぜり合いをしていた。
「ぐ、なんだお前たちは!」
ミリアの問いにも答えずに、無言で押し切ろうとする男。
その剣をいなしてミリアは少し距離をあけて、男に切りかかろうとした。
「そこまでだ。」
声の方に目をやるとそこにはローザを捕まえた男がこちらをバカにしたようににやついた顔で見ていた。
「おとなしくするんだな、勇者様。おっと、そこのお前も余計な真似はするなよ。まったく、こんな村人相手にはずしてんじゃねえよ。」
そう言って俺に切りかかってきた男に言った。
「すまねえ。」
「まあいい、さ、剣を捨ててもらいましょうかね。さもなければ、ね。」
そう言って剣をちらつかせる男。
「くっ。」
ミリアが唸る。彼女は何かを考えるように目を閉じて少しすると、その場で手を開くと剣を地面に落とした。
俺は無言でローザに目で問いかける。
(お前何やってるんだよ。)
(あんたこそ何やってるのよ。)
(さっさとこっちにこいよ。)
(いいえ、あんたこそさっさと助けなさいよ。)
本当に言葉が分かっているわけではないが、なんとなくそんなことを言っている気がする。
はあ、とローザは一度、ため息をつくと、
どん!
その場で少し腰を落とすと同時に肘打ちをする、彼女を拘束していた男から鈍い音した。
「ぐっ。」
男の呻く声、そして、彼女は相手が怯んだすきに抜け出すとその場でしゃがみこんだ。
「「「「え!?」」」」
彼女達の方に視線が集まる。
「て、てめえ何しやが、る?」
その隙を見て俺は近くにあった槍を手に取ると即座に投げた。投げた槍に胸を貫かれた男は何が起きたのか分からないような顔をしてその場に崩れ落ちる。
ローザは逃げずにその男が落とした剣を手にすると、その場で華麗に踊るように剣を振るう。
彼女はこの国で剣姫と呼ばれるほど剣の腕が優れているらしい。まあ、そのせいで貴族同士の政争に利用されそうになったり、王都の学園では妬みもひどかったらしい。
十人ばかりいた男たちは瞬く間に斬り倒され、既に残り二名になっていた。
こんな辺境ではあるが、賊がやって来ないわけではない。これまでにもこんなことはあり、時には二人で対応することもあった。そして、いつのまにかローザとさっきの様な連携がとれるようになっていたのだ。
「えっ?えっ?」
一方、ミリアはまさかローザがこんなに強いとは思っていなかったのだろう。何が起きたのかついていけずその場でおろおろしていた。
「く、くそ。」
やけになったのか残った二人がミリアに切りかかる。その連携具合は、そこらの山賊とは思えない。俺は槍を二本手にして駆け寄りざまに、一本を投げる。
「がっ。」
腹に突き刺さった槍を見て、こちらを信じられないといった顔で見た男はその場に倒れた。俺は残った男に対して駆け寄り様に突きを繰り出そうとする。
「殺してはダメよ。」
ローザから聞こえた言葉に槍を少し反らす。そのせいか、男はなんとか槍を剣で反らすと、後ろに跳んで、間合いをとる。
「くそ、なんでお前らみたいなのが、こんな辺境にいやがる、聞いてねえぞ。」
俺は無視して、ローザに対して不満を口にする。
「どういうことだよ、ローザ。」
「こいつら、ただの賊じゃないわ、その道のプロね。生かして捕まえれば、情報を引き出せるかもしれないわ。」
生かして捕まえるほうが難しいのに、無茶なことを言う。
「くそ!ここまでか。」
観念したのか、下を向いた男は懐から紙を出すと持っていた剣で。
「「な?」」
紙ごと自分の胸を突き刺さした。
俺もミリアもローザも異様な光景に唖然とする。
「ぐ、は、あはは、これでお前らは終わりだ。」
血だまりの中、崩れ落ちる男。男を中心に禍々しく黒く光る輪が拡がった。
「召喚術ですって?」
俺はローザを見る。
「あいつ、自分を生け贄にして、召喚術を起動させたのよ。あんなの普通は手に入らないはずなのに。」
輪は広がり続け、俺たちを囲むまでに広がると、その内側の中央付近の地面から人の胴周り程ある腕が出てくる。
その腕には蜥蜴のような鱗に覆われており、その先には鋭い爪がついていた。ただ、その腕の肉は腐り落ちていて、所々、骨が見える。
辺りには吐きそうな腐った匂いと醜悪な気配に覆われた。
「ちっ、最悪ね。ドラゴンゾンビ、しかも、この気配は下級じゃないわね。」
「そんな。」
ローザの顔色は良くない。彼女の言葉を聞いたミリアの顔も真っ青になっていた。
「聖女もいないし、最悪、この辺り一帯が汚染されるわ。ねえ、あんた、神聖魔法使える?」
「す、少しだけなら使えます。」
「なら、ダメ元でやるだけね。」
この世界を呪いながら死んだことで発生するドラゴンゾンビはそこにいるだけで辺りは呪われる。この呪いは大地や大気を人の住めない環境に汚染してしまうのだ。このため、その退治には辺り一帯の地面や大気が汚染されるのを防ぐために多くの聖職者を連れて浄化しながら行われるのが普通だ。
ただ、こんな辺境にそんな多くの聖職者をすぐに集められるわけがない。
中央からドラゴンの頭が現れる。そいつは濁った眼で俺たちを睥睨していた。
「こうなったら完全に出てくる前に叩くわよ。」
ローザの掛け声で、ミリアも自分を奮い立たせるように大きく声をあげる。
「はい!」
そして、ミリアは少し後ろに下がり距離を開けるとその場で目を閉じ呪文を唱え始める。一方、ローザは剣を両手に持つと詠唱中のミリアがドラゴンゾンビに狙われないようヘイトを稼ぐべくそいつに切りかかった。
俺はそんな二人を見ながら、さっきまでとは違い、焦りと戸惑いが混ざったような心になり、どうしたらいいのか決まらずに身動きが取れずにいた
なんでだよ。
そう思わずにはいられない。せっかく前の場所から逃げてきて、理想的な職を見つけたのに、よりによってドラゴンゾンビなんて!
実はドラゴンゾンビを倒すには、おおくの聖職者を集める以外にもう一つある。それは聖器による討伐だ。ただ、貴重な戦力である聖器使いよりまだ替えのきく前者がとられることが多い。
悩んでいる間に、ミリアの詠唱が終わり神聖魔法を放つ。
「セイクリッドライトニング!!」
頭上から光が地面に向かってほとばしる。
「やったか?」
俺は思わず声を出す。光が消えた後、ドラゴンに大きなダメージは見られなかった。
「ちっ。」
ローザの舌打ちが聞こえた。
「そんな、まったく効いてない。」
ミリアは絶望したような顔が横目に見えた。
「あんた、村長に連絡して、避難させなさい。」
ローザがあいつから目を離さずに俺にそう言った。
俺は少しの沈黙の後。
「……いや、俺がやるよ。」
思わずローザがこちらを向くのが見える。
「あんた、何言ってるの?いくらあんたがちょっとぐらい強くたって、あれには普通の武器は効かないのよ。ここで残るべきなのはこの国の治安を維持する責務を負った貴族の私や勇者のあいつよ。あんたはあんたの仕事を果たしなさい。」
早口でまくし立てるローザ。一方、勢いのままにさっきの言葉を言った俺の心の中は驚くほど澄んで、はいなかった。
いや、まじどうしよう。でも、せっかく見つけた職を手放すわけにはいかない。次にこんな職が見つかるとは思えない。
くそ。あのくそトカゲめ。やってやる、やってやるよ!
半ば八つ当たりではあるが、俺は友人を使ってあのトカゲを始末する覚悟を決める。
「う、うん、だから、だよ。ローザ、果たすべき役割を果たすんだ、俺は。」
俺は心の中を覚られないように、二人を見た後に表面上は格好良く決めた。
「あ、あんた……。」
「ラエルさん……。」
二人が少し潤んだ目で俺の顔を見る。そんな彼女たちからそっと目をそらすと、俺は片手を前に突き出し手を開く。
そして俺はこの地に来て初めて、そして、時間的にはかなり久しぶりに友人をその手に呼んだのだった。
◇
聖なる武器を使うものが貴重と言われる由縁は、武器の特性にある。それらは意思を持った所謂インテリジェンスウエポンであり、それら自身が認めたものにしか自分を扱わせないのだ。
それらは主従の関係というより、友人のような関係であり、友人がピンチの時には、それらは遠くにいても呼べば次元を超えて現れる。
手を差し出した宙にひびが入り、辺りに空間の悲鳴のような軋む音が響く。
そして何もない宙から、銀色に光り輝く剣先が出てくる。それは徐々に姿を現し、最後に長い柄が現れると俺の手に収まった。
「うそ!? 聖槍?」
「ラエルさん、それ……。」
俺は槍を手に、すでに上半身すべてが現れていたドラゴンを見る。そいつはこの槍が自分を殺しえるものと理解したのか、濁った眼でこちらを睨みつけていた。
「いくぞ!」
俺は、持っていた槍をドラゴンに向かって投げる。
この槍は持って突くこともできるが、その真価は投げることで発揮される。
投げられた槍は一直線にドラゴンの頭に向かう。そいつは頭をそらしながら片腕を前に出して向かってくる槍を防ごうとする。
パンッ!
槍が当たったそいつの腕がはじけ飛ぶ。
「す、すごい……。」
ローザの驚く声が聞こえる。
一方のドラゴンは弾けた腕を気にすることもなく、もう片方の腕を振り降ろし俺を叩き潰そうとする。
俺は咄嗟に横に飛んで転がると、片手を開く。すると、先ほど響いた空間がきしむ音が響く。飛んで行ったはずの槍がいつの間にか手に現れていた。
俺は立ち上がるとすぐにそいつの胸の中央に向かって槍を投げた。
振り降ろした体勢のままだった上半身に向かって槍は飛んでいくと、あっさりと体を貫いた。
「ぐぁ。」
ドラゴンの呻きが聞こえ。
ドーン。
体に穴の開いたドラゴンの上半身が前に倒れ掛かる。ドラゴンの体は出てきた時とは逆に、そのまま地面に沈み込むように消えていった。
「「やったわ!」」
二人の声が響く。
俺は一つほっと一息つくと、まだ喜びの声を上げている二人を見ながら、黙っておいてもらうためにどう説得しようか考えていた。
◇
あの後、ドラゴンゾンビはまだ召喚途中であったため、地面や大気の汚染もまだ小規模にしか起こっておらず、ミリアの神聖魔法を何回か行うことでなんとか汚染の拡がりを防ぐことができた。ただ、なくすためには本職の聖職者を呼ぶ必要があるらしく、これはミリアがパーティの聖女の治療を行った後にここに連れてきてくれることになった。
そして、俺は二人に囲まれて睨まれている。
ジーっ。
と音が聞こえてきそうだ。
「あの、なんでございましょうか。」
俺はへりくだって聞いてみる。
「ねえ、あれって聖槍よね。」
と俺の後ろの地面にさしてある槍を見ながら、ローザが聞けば。
「聖槍ってどこの国の聖器でしたっけ。」
とミリアが問いかけてくる。
俺は二人を交互に見ながら。
「あ、あの、ど、どうかこのことはご内密にお願いします。」
とお願いする。
「はあ、まあいいわ。まさか聖器使いとはね。道理で強いはずよ、まったく。」
「え?ローザさん、いいんですか!でも、これって国際問題ですよね。」
「でも私たちにはどうしようもないじゃない。ラエルを捕まえておくことなんかできないし、通報したところで、こいつはきっとここから逃げるでしょ。」
「うー、まあそうですが……。でも……。」
「ま、ばれたときはその時に考えましょ。それに、こんな辺境だもの。そうそうばれないわよ。」
「……分かりました、けど。あれ、どうするんですか?」
そう言って俺の後ろを見るミリア。
俺は振り返ると、友人が刺さっていた。
久しぶりに呼ばれたこいつは、まだ帰る気がないようで、……どうしよう。
◇
あの後、友人には元の場所に無理やりお帰り頂いた、心の中で恨めしい波動を送られながら。
まあ、近々また呼ぶことを約束させられはしたが。
あれから少しして、あの賊がなんだったのかローザが教えてくれた。
どうも、ミリアと聖女を亡き者にしたい貴族の派閥の仕業と思われており、ミリアが薬草を見つけたので、彼女を消す手段に切り替えたのだろうとのことだ。
そして、どうやら依頼元の貴族が捕まえられたらしいが、そいつは蜥蜴の尻尾切りで、大元は捕まらないだろうということも。
俺は貴族の争いで勇者を殺すのかと聞いてみると、ローザはよくあることよ、と何でもない風に教えてくれた。
貴族怖い。
ミリアは、すぐにまた来ます、絶対来ます、と帰り際に俺の手を両手で握りながら言って帰っていった。
それを見たローザが少しムッとしながら。
「ちっ、またライバルが増えそうなんだけど。」
「ライバルって?」
そう聞くと、彼女に睨みつけられた。
ようやく、また以前の退屈で平穏な日々に戻りそうだ。
とはいえ、あんなのはもうこりごりだと思った。
ただ、勇者がパーティメンバーとともにやってきたとき、再び騒動が起きることを彼はまだ知らない。
もし少しでも楽しんで頂けたら、ポイント評価をお願いいたします。
人物紹介はまた今度です。