SOS .008 少年
耳をつんざくような奇怪音の後、
天井に開いた開口部から、異質な物体が
流れ落ちてきた。
ほとんどの部分が何も形を成さず、
流れ落ちては消えていく。
そんな光景をよそに、シルビアはぐったりする
ソアラを引き摺りながら、離れたところへ避難させる。
術師と思しき老人は既にこと切れていた。
落ちてくるそれらに流され、どこかへと行ってしまう。
ソアラは焦点の定まらない目をしている。
ただ、息はあるので、その点は救いだった。
「ソアラ! しっかり! 目を覚まして!」
なるべく身体を動かさないよう、声を掛けて正気を確かめる。
事態の推移も一大事だが、ここでソアラを失うわけにはいかなかった。
けれど、例の召喚術と思しき術式から
大音量とともに見たことも無い物体が滑り落ちてきたときは、
普段は冷静なシルビアも目を見張るしか無かった。
落ちてきたのは、何かの建物と思われる物体であり、
その建物の中でも一部がえぐり取られたような状態だった。
そして、その建物が現れると、途端に術式が終息を始めていった。
地面はもとより、空間自体が揺れているのではないかと
錯覚するほどの大揺れが収まり、天井に開いた大穴も縮小していく。
閉じる、と意識したその瞬間、辺りは無音の静寂に包まれた。
聞こえるのは自分の吐息と心臓の跳ねる音ぐらいのものだ。
じっとりと汗に濡れる自分の手のひらを感じ、
シルビアは自分が冷静ではなかったことを知る。
ソアラはまだ目を覚まさないが、大事は無いようで、
すうすうと寝息を立てている。
ほっとして、体の力を抜いたシルビアの耳に、
ガチャン、という音が届いたのはその時だ。
シルビアの腕にあった腕輪が、崩れ落ちたのだ。
ソアラの腕輪に至っては跡形も無い。
耳が痛いほどの静寂の中、迷ったものの、シルビアは覚悟を決め、
建物の方へと向かっていく。
ソアラは寝かせ、周囲に簡易な結界を張る。
建物自体初めて見る建造物だったが、画一的な形にシルビアは惹かれた。
均整の取れた直線で仕切られており、とても丁寧な仕事をしている。
そのまま直感で入口と思う扉へと手をかける。
上下が抉られているため、綺麗な水平ではないが、
問題のあるほどではなかった。
シルビアは扉にある取っ手を回す。
中はいろいろなものが散乱しているが
恐らく住居と思われる空気で満ちていた。
「…見たことないものばっかり」
使い方の分からないものがたくさんあり、
どれもこれもが、今この国で作られているものより
高度な技術で生成されているものと思われた。
しかし、どれを置いても看過出来ないものを
シルビアは奥の部屋で見つけてしまう。
それは、ぐったりと意識を失っている少年だった。
年の頃はおそらく自分より年下。
見たことのない服装だが、あまり見かけない素材で出来ている。
何も判断出来る材料はないが、
被害者と加害者の二択で言えば、恐らく前者だろう。
「ギルド職員としては、助けないわけにはいかないよね…」
シルビアは歯を食いしばり、少年の身体を起こした。