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SOS 219 トレイシー

「あー、待ち遠しいなー」


 その少女は一人、豪華な部屋で寛いでいる。


「トレイシー様。

ご機嫌はいかがでございましょうか」


「ああ、ミラルダちゃん。

うんー、凄くいい部屋だよー。

寝床もフカフカで気持ち良いしー

ご飯もとってもおいしーよー」


「ふふっ、ご満足頂けたようで、

大変光栄で御座います」


 ミラルダはこの豪華な宿を経営する

大地主の一人娘だ。

 その娘が、自分より年下の少女に対して、

かいがいしく世話を焼いている。


 しかし、ミラルダの付き添いらしき中年の男は、

そのトレイシーとかいう少女に対して

余り良くない感情を抱いていた。


 理由は単純に、その少女の正体が

どうにも不明だったからだ。


「でもー、こんなにしてもらっても、

返せるものがないよー?

お金もそんなにないしー」


「いえいえ、お金など滅相もないことです。

私は命を助けて貰ったのですから、

コレぐらい些細なお礼で御座います」


 確かに、ミラルダは

トレイシーによって救われた。

 どうやったかは、未だに理解出来ないが、

その秘術(本人曰わく)によって、

一命を取り留めたのだ。


「ところで……本当に宜しいのですか?

たった一泊で。

今回のご恩は、この程度では……」


「いいのいいのー。

気にしないで。

とっても楽しんだからさー」


 トレイシーは無邪気に笑う。


 ミラルダはそれを見て、

「かしこまりました」と言い、

部屋をあとにする。


「そうそう、こちらのベイルを置いておきますので

何なりとお申し付け下さい」


 ベイルが慇懃な礼をする。

トレイシーはそれに手を振って答えた。


 ミラルダが部屋を出てしばらくすると、

トレイシーはベイルに話し掛ける。


「何ですかー?

まだ疑っているんですかー?」


「……何の事でしょうか?」


 慇懃な態度を崩さないベイルだが、

その視線は疑いの眼差しだった。


「ミラルダちゃんのこと。

私の自作自演だとー、

思ってるんでしょう?」


「……いえ、そのようなことは」


 トレイシーはクスリと笑って、

ベイルを見つめる。


「……何か?」

「いいえー?

ベイルさんって、真面目なんですねーって。

ミラルダさんのこと、

本当に大事に思ってると思ってー」


 そこでトレイシーは

一つの助言をした。


「……それじゃあ、今回の事件の

首謀者をお教えしましょうかー?

それで、納得して貰えますかねー?」


「首謀者……?」


「はいー。首謀者はミラルダちゃんの主治医、

ファルカンさんですよー」


 ベイルはますます、訳がわからなくなった。

このトレイシーには、そんな話など、

していないからだ。

 もちろん、ファルカンの

名前を敢えて出したことなど無い。


 ベイルはこの娘が、無邪気な顔をした

悪魔ではないかと考えた。


「嘘だと思うなら、是非ファルカンさんの

御自宅、裏手にある納屋の右奥

青い箱の中を確認してくださいー。

今回のミラルダちゃんの発作症状と

同じ症状を引き起こす薬が

入っているはずですよー」


 トレイシーはその黒い瞳をクルクルと

動かしながら、ベイルに教えた。


「……どうして、そのような事が

分かるのですか?」


 ベイルはやや慎重なで、トレイシーに尋ねる。


「んー? 視えただけですよー?

ただ、それだけですー」


 トレイシーは無邪気にそう答えた。

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