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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Звезда - ”ズヴィズダー”

作者: P-マン

  - 西暦二◯九◯年六月二日 -


「おい、イヴァン。見てみろよ、惑星ウペトだぞ」


 宇宙船の中で、同じチームのアルチョフがふよふよ漂いながら話しかけてきた。アルチョフが示す先には、浅葱色の空と焦土の色をした大地が特徴の惑星が見える。

 もう、別惑星に探検に行くなんて慣れたものだ。地球の上層部……地球連合のお偉い様から命令を受けて、一度は行ったことがあるような星を行き来するだけのくだらない作業。それが、おれにとっての宇宙旅行となっていた。

 が、久しぶりに行ったこともない惑星となるとやはりいつもとは違う。誰も行ったことのない星。誰も浴びたことのない光を浴びて、誰も立ったことのない大地に降り立つ。未知との遭遇。そのことに恐怖を抱きながらも、おれは年甲斐もなくワクワクしていた。この歳になってもやはり探検というのはワクワクする。それが、ずっと憧れだった宇宙での探検となると更にだ。

 それに、今日は運がいい。地球から観測した限りではおれ達が着陸する場所は晴れている。絶好の探検日和となるだろう。

 おれはウペトの様子をしばらく観察してみることにした。夏の真夜中と同じ色の空が、少し離れた先にある恒星の光を反射して、まるでおれ達を見ているかのようだ。負けじと見つめ返すと、空と目が合った。……確かに、空と目が合ったのだ。


「うおっ」

「どうした、イヴァン?」

「いや、今何かと目が合った……」


 おれがアルチョフに向けていうと、アルチョフは豪快にカカカと笑った。そして、”もしかしたらやばい生命体が住んでるかもな?”と、茶化すように言った。するとそれを聞いた臆病なオリガが、”やめてくださいよ”と言った。それを聞いて、アルチョフと他のメンバー達は更に豪快に笑った。


「そろそろウペトの大気圏だ。宇宙服を着て席につけ」


 おれ達がくだらない話をしていると、チームリーダーであるマクシムがそう言った。窓から見えるウペトはより一層輝いて、まるで地球を模倣しているかのようだ。

 アルチョフが壁に掛けてあった宇宙服を着た。地球には未だにあの白くて動きにくそうなタイプの宇宙服が今尚流通していると信じている奴がいるが、それは違う。今主流なのはスーツ型で一人できることができるタイプのものだ。

 アルチョフがそうしたように、おれとオリガも宇宙服を着て席に着いた。背中のファスナーを閉め、バックパックを背負って、メットを被る。そしてシートベルトをしてしばらく待っていると、宇宙船が急に加速し始めた。ウペトの大気圏を突破するための加速。ビリビリという衝撃が、宇宙服を伝ってくる。その数時間にも数秒にも感じる時を経て、おれ達を乗せる宇宙船は無事ウペトの焦土と同じ色の地上に降り立った。地球より少し重力が弱く、歩きづらい。……それより。

 ……何かに見られているような気がする。未知の星に対する不安からだろうか、なんだか背筋がゾクゾクする。


 《では点呼を取る。アルチョフ・ゲルジャコフ》

 《はい》


 宇宙服の通信機に通信が入った。マクシムが点呼をとった後はいよいよ探索だ。二チームに分かれて行動する。宇宙船の積み荷を守るチームと、探索を進めるチームだ。このチームは二日おきに役割を交代することになっている。おれとオリガは積み荷を守るチームだ。探索は二日後になる。


 《では、私たちは行くことにする》

 《じゃあな〜オリガ! 俺が居ないからって泣くなよ!》

 《泣きません!》


 アルチョフはオリガをからかうと、腰に光線銃をさしてピョンピョン跳ねながらマクシムについていった。ウペトの重力は、地球より弱い。そして、宇宙船に備え付けられた車庫から取り出されたバギーに飛び乗った。

 ……この時は、おれ達があんな運命を辿るなんて思ってなかったんだ。


 ◇


  - 二◯九◯年六月五日 -


 明らかにおかしい。もうあれから三日も経っているのに、戻ってこないどころか、定期連絡すらない。最後の連絡は十五時間前だ。その時は異常事態が発生しているような雰囲気ではなかったが……。流石におかしい。おれは不安になって、マクシムとアルチョフを探しに行くことにした。

 オリガは宇宙船を守ることになった。おれは必要最低限の荷物を持って、ふよふよ漂よいながらウペトを進んだ。

 ……やっぱり、何かに見られている気がする。これが気のせいであるといいのだが。

 二時間ほどウペトをあてもなく歩いていると、遠くに柱が見えた。明らかな人工物との出会いに、おれは少し嬉しくなった。どうやら柱には蔦みたいな植物が絡み付いていて、この人工物は何年も前に放棄されたものだということが分かった。所謂遺跡だ。なんだか異様に寒い。こんな大地でも、植物は育つのだな……と感心しながら、その遺跡の中を探索していると、通信機に誰かからの通信が入った。

 アルチョフか、マクシムかはわからない。本当に一瞬で、不鮮明だったが、確かに通信が入り、おれは慌てて駆け出した。

 遺跡の中にはマクシム達が使っていたバギーがあった。水陸両用の便利なものだ。中にはウペトで採取したものが積んである。どうやら途中でバッテリーが切れたらしい。このバギーは宇宙服のバッテリーを少し使えば動くはずだ。それが出来ず、宇宙船に戻ることも出来ない状況……。

 いや、悲観的な考えはやめよう。このバギーで進めないところを発見したとか、そういうことであってほしい。それか、どこか故障しているとか。

 おれがバックパックからバッテリーをバギーに繋ぐと、バギーは普通に動いた。少しがっかりしながら、バギーの中を探してみると、中にアルチョフの調査ログが置きっぱなしになっていることに気がついた。タブレット型のログは電源が点きっぱなしになっていた。このタブレットは十分で自動的にスリープする。つまり、少し前にここで書かれたものだということだ。ということはこの近くにアルチョフがいる。

 調査ログに何が書いてあるのかも凄く気になったが、それよりも先にアルチョフのことだ。そう遠くにはいないはず。

 おれはそう期待して、バギーを走らせた。


 ◇


 《アルチョフ隊員、この通信を受け取ったなら応答せよ》


 あれから十分が経過しているが、未だにアルチョフが見つからない。

 もしかして……と最悪の可能性を考えるも、すぐにその考えを振り切った。最悪のことを考えるのは、最悪の事態になってからにしよう。オリガもアルチョフとマクシムの無事を祈っているはず。なら、探しているおれが悲観的になってどうする。

 と、しばらくバギーで走っていると、タイヤが何かを踏んだ。

 踏んだ感触からして、柔らかめのものだ。降りてそれが何かを調べてみると、灰色の触手のような何かだった。粘液でベタベタしている。二着てみると、傷口から体液を吹いてきた。宇宙服がベタベタだ。……この星に住む生命体のものだろうか。傷口が溶けているあたり、光線銃で撃たれたようだ。しかも最近。この先に、間違いなくアルチョフ、もしくはマクシムがいる。そう思うとすぐに走っていきたいが……。この生命体の触手も、何かの役にたつかもしれない。一応バックパックに詰めて、おれはバギーを全力で走らせた。

 バギーでずっと走っていると、切り立った崖の下に出た。その岩陰に、大きめの影があるのを見つけて、おれは急いで駆け寄った。

 道中でかけられた粘液と同じものが、宇宙服全体にこびりついて透明なメットを隠しているので、誰かはわからないものの、生命維持装置はまだ動いていた。

 その側にはバッテリーが切れた光線銃が落ちている。ここで使い切ってしまったらしい。メットの中をしっかり確認しようと体を持ち上げた瞬間、おれの動きはピタリと止まった。

 ……何かの視線を強く感じる。もうすぐそこにいる。なんだ。何かが今、おれの後ろにいる。振り向いたらヤバい。音もなく近づいてきた。こっちを見られてる。気分が悪い。呼吸が落ち着かない。もし、ここで振り向いたら、いや、少し動いただけでもどうにかなってしまうかも知れない。メット越しに、灰色の触手が自分を触っているのが分かる。振り向いちゃダメだ。あいつはずっとこっちを見てる。

 しばらくおれがじっとしていると、触手はおれに触り続けても何もないことに気がついたのか、どこかへ去って行ったみたいだ。それは一瞬のようにも感じたし、何時間の長さであったようにも感じた。長細い灰色の体が、視界の端に見えた。

 おれはとっとと逃げ帰るため、バギーに隊員を乗せて全力で宇宙船に向かって走った。


 ◇


 宇宙船に帰ると、オリガがなんだか不安そうな顔で待っていた。

 バギーを見つけると、オリガの顔は途端に明るくなり、手を振ってきた。

 宇宙船の車庫にバギーをしまうと、宇宙船の中に隊員とともに入って行った。隊員の生命維持装置のバッテリーはギリギリだった。間に合って本当に良かったと安堵しつつ、この二、三時間にあったこと

 その隊員のメットを取り外すと、中にいたのはやはりアルチョフだった。顔が真っ青で、すごく具合が悪そうだ。気を失っている。取り敢えず水を飲ませて、しばらく寝かせることにした。

 その間、おれはバギーからアルチョフの残した調査ログを取り出して部屋で読むことにした。

 電源を点けると、ログはなんの問題もなく表示された。地図と、調査報告が表示されている。

 まずは、読んで今ウペトで何が起きているのか理解しよう。


『2090/06/02 9:21 惑星ウペトの植物、及び人工物の欠片を採取した。この星の文明は滅びた模様。電子機器がない辺りを見るに、我々ほどには進歩せず滅びたか。現在生命体、及びその痕跡らしきものは見受けられない。マクシム隊長はこれが何の素材に使えるか調査中だ』

『2090/06/02 18:10 道中、何やら生命体の痕跡らしきものを見つけた。灰色の触手だ。粘液に包まれており、触るとベタベタしている。他惑星の生命体の遺伝子の調査には非常に重要な資料だが……持って帰る気にはならない。が、仕事なので持ち帰ることにする。これの持ち主は未だ発見されていない』

『2090/06/03 5:00 今日も調査だ。先日見つけた触手の持ち主とは未だ出会えず。知性を有しているものだといいのだが。にしても、この星の気温は低いな。風邪を引いたのか、先日から気分が悪い。誰かに見られているような気もする。遂に気が狂ったか、俺?』

『2090/06/04 1:26 マクシム隊長と逸れた。あの人がバッテリーを預かっているのに、このままじゃバギーを動かせない。崖の上で逸れたから、おそらくその辺にいるだろう。あそこは異様に寒い。生命維持装置のバッテリーが切れていないといいが。明日には宇宙船に戻らないといけないのだが。バギーのバッテリーは俺の宇宙服から引っ張ろう』

『2090/06/04 22:12 この星はヤバい。生命体がほとんどいない代わりに、一匹だけヤバいのがいる。隊長はあいつにやられたらしい。あいつと目を合わせちゃいけない。あいつが近くにいるって分かったら、あいつが去って行くまで目を合わせず、音も立てないようにしなきゃいけない。危ないところだった』

『2090/06/05 2:05 これ以上は無理だ。この星でのこれ以上の調査は危険と判断した。採取したものを持ち帰り、一時帰還することにする。これも、奴がすぐそばにいる状態で書いている。あいつが近くに来る。今すぐにげろ』


『”ズヴィズダーが来る”』


 ログは、これで終わっていた。これを見て、おれはどうしたらいいのかさっぱり分からなかったが、とにかく、今すぐにこの星を出た方がいいことだけは分かった。

 ズヴィズダー……星、という意味か。この星そのものなんていう意味合いで言ったのか? 

 とにかく、今ここで帰るわけにはいかない。ずっと視線を感じて気持ち悪いが、マクシム隊長の死体を回収しないと。ちゃんと死亡を確認しないと、隊長を見捨てたとして宇宙調査の任務から外されるかもしれない。ひょっとすると、アルチョフが生きていたのだし、マクシム隊長も生きているかもしれない。

 そういう希望的観測をして、おれが席から立ち上がった時だった。


「うわ、うわあああああああ!」


 その声はあまりに情けなく、恐怖に塗れていたが、確かにアルチョフの声だった。あのアルチョフから発せられた声だとは信じたくなかったが。おれはアルチョフを寝かせた部屋へ走っていった。


「奴が! ズヴィズダーが来る! すぐそこで、俺たちを見ている!」

「落ち着いてください! アルチョフさん!」


 オリガが必死に取り抑えている。どうやらアルチョフは宇宙服も着ずに宇宙船の外へ飛び出そうとしているらしい。どうしても逃げたいのであれば、宇宙船を操縦して地球へと戻ればいい話だが、その判断も出来ないほど精神をやられてしまったということか。

 あのアルチョフが、ここまで心を乱す存在。マクシム隊長は今どんな……。もしおれがもっと早く行動していたら、あるいは……。

 やめよう。後悔するのは全部終わってからだ。


「なんでお前らはそんな平気でいられるんだ! おい、イヴァンは見たよな!? あの化け物を! あの視線を!」

「……ああ。見たよ」

「なら分かるだろ!? 今すぐ船を出せ! マクシムは死んだ! あの怪物にとって喰われたんだ!」


 やはり、マクシム隊長は死んだのか。あまり信じたくはないが……。こんな時に、何より自分の心配をしたおれが、嫌になった。アルチョフはこんなに怖い思いをしたのだ。あの恐怖はおれも体感した。あれを受けて正気でいられるような人間なんて、この世にはいない。おれだって、あと一歩間違えばイかれてしまうだろう。

 だが、それとこれとは話が別だ。おれはただ単純に、本当にマクシム隊長が死んだのかが気になって、再び宇宙服を着た。地球連合のことなんて、もはや頭になかった。

 それを止めよう、もう帰ろうとオリガもアルチョフも止めたが、おれはそれを振り切ってマクシム隊長を回収しに車庫を開いた。


 ◇


 確か、マクシム隊長がいるのは崖上。地図を参照する限り、おれがアルチョフを見つけたところの上だ。

 少し遠回りになるが、こういう時のためのバギーだ。途中の遺跡から、近くにある洞窟を通ればすぐに崖の上に着く。ものすごい寒いらしいので、予備のバッテリーは十分に持ってきた。

 遺跡に入り、アルチョフを発見した道とは違う道を進んでいく。

 進んでいくうちに、蔦が徐々になくなっていった。なんだか何かが住んでいるかのようだ。その恐怖に耐えながら、バギーを走らせていくと、洞窟の入り口が見えた。

 暗闇の中から、宇宙服の中に伝わってくるほどの異常な冷気、そして猛獣という次元ではない、超宇宙的な恐怖を感じ取り、おれはバギーから降りた。洞窟の壁にはあの怪物の粘液がこびりついている。

 間違いない。この先に、何かいる。

 おれは慎重に、ゆっくり、音を立てないように歩こう。然もなくば、死だ。


 ◇


 しばらく進むと、奥にさらに冷気をまとった空間があることに気がついた。肌がビリビリする。

 そして、その空間にそっと入ると、そこには……。

 あの怪物(ズヴィズダー)が、()て《・》い《・》た《・》。下向きに開いた大きな穴の中に触手をしまって、寝息を立てている。見られている感じも、しない。

 よく目を凝らしてみると、奥の方に宇宙服を着た男が倒れているのが見えた。……マクシム隊長だ。そっと、そっと近づこう。

 音を立てないように、静かに。怪物を起こさないように。

 あと五歩。無音。四歩。静寂。三歩。音無。二歩。沈黙。一歩。あと、一歩だった。

 石ころが、足元にあることに気がつかなかった。ころり、と音が立ってしまった。おれは石を蹴飛ばして、音を立ててしまったのだ。

 ズヴィズダーが目を覚ました。冷気とともに、明らかな怒りがこちらに伝わってくる。それだけなら良かった。そして、その怒りに満ちた目と、おれの目はバッチリ合ってしまった。おれはマクシム隊長の体を強引に掴むと、一目散に駆け出した。後ろから岩の崩れる音がしている。

 洞窟の入り口まではそう遠くない。そこにはバギーがある。それに乗ることさえできれば、なんとか逃げ切れるはずだ。

 あと十メートル。走れ。走れ。全力で走ってはいるが、今にも追いつかれそうだ。そして、ついにおれの真後ろに触手が迫ってきて……おれは、覚悟を決めて全力で跳んだ。この星の重力は地球より弱い。空中に放り投げられたおれの体は、バギーの中に向かっていった。

 バギーを全力で宇宙船の方向へ。ズヴィズダーはまだ追いかけてきている。一息つくのは宇宙船に戻ってからだ。

 蔦を踏み、遺跡を越え、浅葱色の空の下、全力で。

 宇宙船が見えてきた。すると途端に安心して、今までのことは全て悪い夢ではないか、という感覚が、おれの中に芽生えた。

 まあとにかく、無事にここまできたんだ。あとはマクシム隊長の安否を確認して、地球に帰って、連合に報告して……。

 仕事が終わったら、全部忘れよう。帰ったら生き残った三人で焼肉でも行こう。そこでバカみたいに食いまくろう。そうだ、それがいい。これは、ただの悪い夢だ。そう自分に言い聞かせて、車庫を開けると。


 《い……ゔ……》


 中から、粘液と血でベトベトになったオリガが出てきた。

 心臓を触手で貫かれている。奥には、アルチョフの死体。

 なんだよ。なんでだよ。一匹だけじゃないのかよ。くそ。どこで間違えた。最初から危険な星に行くなって? ああ、おれはこんな星を探検することにワクワクしていた大馬鹿野郎だよ。おれがもっと早く異変に気付いていたら、マクシム隊長は死ななかった。アルチョフも精神をやられずに、ここに戻ってくることができた。何より、おれがマクシム隊長の死体を回収するなんて言い出さなければ良かったんだ。あのまま、三人で地球連合から脱退して路頭に迷っていた方がましだったんだ。

 みんな死んだ。おれはただただ自分を責めながら、自分の運命を大人しく受け入れた。


 ◇


 その夜。ハワイの天文台で、惑星ウペトの観測が行われた。

 地球連合から調査に送られた四人の隊員が、定期連絡もなく戻ってこないのだ。異常な生命体と遭遇した可能性が高い、と地球連合の天文学者たちはウペトとその周辺の様子を観察してみることにした。単に通信機器が破損しているだけなら、この観測台であれば宇宙船が見える。

 この星とウペトは数光年しか離れていない。巨大な生物であれば、具体的なスケッチが描ける。人が死んだかもしれないという状況下で、天文学者たちはそんなことを考えながら、ウペトを探していた。

 レンズを動かしながら、何光年と離れたウペトを探して行く。無数の星が輝いて自信を主張する中に、一つだけ浅葱色に輝く、不気味な星があるのを見つけた。惑星ウペトだ。

 なんだか吸い込まれるかのような星。生命の波動すら感じない、なんだか冷たい星。それを見ている一人の天文学者の男が、突然「うわっ」という声をあげた。

 他の学者が、口々に「どうした」という言葉をその男に送る。男は、「いや……」と前置きすると、小さく咳払いして、こういった。


「今、何かと目が合いました」

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