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第十二話 勤勉な王のお話

 音を打ち止める、余韻が広がる白の空間、目を見開けばバム様が、いかんな、年を取ると……涙脆くなったと、目に手を当てていた。


 私はその姿を目にし、何か充実感に包まれていた。それはとても、心地よい感覚。


 ………日が落ちれば、施しの時は、砂ナツメ元でこの曲を奏でよう、探しても、探してもわからぬ名前、この曲……どうやらクシャル様が創られた物らしいと後になり気が付いた。


 サリア様に捧げたのだろうか、あの青い銀の耳飾りの………かつての持ち主であらされたお人。



 私はそのお方様の事は、知らない。お仕えしたときには、もはや名を呼んではいけない、お方様になられていた。戴冠式の後に、バム様が教えてくだされた。先の皇太后様のお身内の姫様、クシャル様の后となるべく、密かに育てられていたサリア様。


 かつて庭師達が教えてくれた、そしてあの夜に知った、お姫様の事。隠されている真実。


 クシャル様が愛した唯一無二のお方様。惹かれ合っておられたと、しかし後ろ盾のを亡くしたクシャル様、まだ成人の儀の前、サリア様は、皇太后の葬の後に、亡くなられた。


 そう、泉に落とされた耳飾りを探しに来られて、足を滑らし、亡くなられたのだ。誰も………何も詮索してはいけない………コレに、昔も今も、これからも、公にしては、いけないと言われている。



 美しい刺繍を施された布を掛けられている、それの中に今は、共に眠っておられる今、ようやく、お二人は安らかにお眠りになられているだろうか、あの時の涙は………嬉しかったのだろうか、終焉をようやく迎えられて安堵されたのか。


 毅然と何時も前を向き、死ぬために生きると言っておられた姿、独りウードを打ち鳴らすお姿、その二つが思い浮かぶ………。


 そろそろ、時間が参りました云え、と何時の間にか神官が訪れていた。朝の祈りの言葉を捧げるために、私達は場を譲り、共に祈りの時を迎えた。 


 穏やかにお過ごしあそばれませ、とバム様がつぶやいておられるのを私は聞きつつ、王になられてからのお姿を、思い出していた。 



 ****


 ………ああ、めでたいのか、父が亡くなり………、その前に即位を行い、葬式を執り行う、そして、ようやく喪があけると同時に婚礼をとは、何がめでたいのやら、われは忙しすぎてわからぬ。こうも儀式ばかりとは。


「おめでとうございます、それも致し方ございません、王におなりに、ならされましたゆえの責務でございましょう、一日もお早くお世継を………」 


 ご自身の家臣達であらされる、貴人達は年若い王に、諭すように祝のお言葉と共に、進言をなされた。そして、それに対し斬るような言葉を述べられる。


 ………お前たちも朝からご苦労、取り敢えず礼を述べておく。子供?王子か、残念だが我の子供は産まれないな、后とはそういう話になった故、ああ、案ずるな皇太子はきちんとした王家の血を持つ者を選び、我が子とし后が育てると言っておる故、支障は無い。


 その突然の言葉に、慌てふためく、欲が深い家臣達が、一斉に声を上げた、どちらからお選びになるのかと、私はその様子を謁見の間の片隅に控えつつ、不遜な事だけど、何処か愉快な気持ちで眺めていた。


「誰を?ニの兄上が、あちらで産ませたお子がいるのだよ。兄上があちらの姫と通じ、赤子が産まれている。今は隠されて育てられてるが、いずれ王位継承にもかかる故に、こちらで引き取る事にしたのだ、内々に話を進めている、我の甥になる、母の身分も申し分ない、しかしいらぬ子供だ。いずれ始末されるであろう、ならば役にたってもらう」


 父上の血を引く者だ、申し分ないだろう。我は独りでも良かったのだが、国の為に婚姻も仕方ない、后か?アレも国やら責任を、その身に負うてここに来た、


 負うた責務は果たすと、しかし子は持たぬと言っておる、その子を助ける為にここに来た。ならば望みを叶えねば、睦まじく国の為に働く故、心配はいらない。


 婚礼の翌日にあっけらかんと、話をし、寿ぎを述べに来た家臣達が、どう対応するのかを、楽しんでいる様子のクシャル様。青の耳飾りが揺れておられた。


 その時私は、新后様の元に、持っていけと言われた、代々伝わる品々を手にし、唖然とされている、高貴な方々のお顔を眺めていた。ザワザワと下心がある話し声を耳にしながら、その場を静かに後にした。



 少しの間で良い、わたくしの元に仕えて欲しい、とバム様に申し入れがあったのは、それからしばらくしてからの事だった。


 こちらになれるまで、その者をと、北の館からお后様、アイリーン様の申し出に、受けるよう命を下された王。


 済まぬな………相当忙しくなるが、コチラとアチラを行き来してくれと、バム様がそう伝えてこられた。その意を読む、この頃になると、裏表のある宮廷という違った世界を見たせいなのか、コチラとアチラに仕える、


 それに対して含まれる事柄を探る様になっていた。他国に通じるものを探る………そういうお役目が含まれていた。



 本当に目まぐるしく時が過ぎた。何せ王になられる前もなられた後も、自ら動くのを厭わない、クシャル様の背を追うのだから、


 当然ながら、王になられてから、お仕えすることとなった家臣達は、その様な事は知らない事なのは当然。なので、軋轢というものが姿を表すのには、時間はかからなかった。


 何故にこうも………と不平不満を漏らしつつ………休む事も気兼ねをしつつ………付き合う事になった、優美が信条の宮廷人。


 そして働く一辺倒、家臣が勧める物には興味なく、無用と終わらす王に、不服に思う者達も多くなる。


 そして、動き出す。己の利益を考える者達。反対勢力。それに対して、クシャル様は当然の行動に出られる。


 うっとおしい、使えぬ者などいらぬ、とまたしても密かに動かれ、上手く使いなさいと、皇太后様が手渡すそれを使い、口喧しく、欲に走っていた者達をぽつぽつと、病に伏せさせていかれた、クシャル様。


 粛清、そう評が立つ。風が吹き荒れた。


 勿論それに早々に気がつく家臣達、早々に口をつぐみ、行動に気を付け、大人しくなったのは、言うまでもない。その代わりに………


 ………先の王も色々と踏み、王になられましたが、今のお方様も………お聞きになられて?とよくもまぁ、と何やらお上品な、中途半端な、御伽話がヒソヒソと囁かれていた。一体何方のお方様が、作れるのやら、耳にするとおかしくなる様な、物語が広がる王宮の闇。



 真実としては今ひとつ欠ける、やはりそこまで悪者にしたくないのか………で、その出てくる汚れ役専門の年近い従者って……だれ………もしかして私か?


 何か最近、私に対する………特にご婦人からの視線が痛い、とは思っていたが………鬼畜を見るような、鋭く刺さる視線が、私に向けられていた。


 そしてバム様出ておられない?分からぬように活躍されてたのだけど………と不平不満を言いつつも、勤勉な王に対する、皆の愛情を垣間見える、王宮というぬるりとした闇の中。


 ―――そうして、時を重ねる。折々守る為に戦争をしつつ………それは仕方が無いこと、戦わずして平和は無い、裏と表の様な物。


 そして、戦争が始まると、当然ながら、長々と軍議をされてから、遅くに戻られるクシャル様。そして、疲れた様子も見せずに、それを手にされる。


 澄んだ音が流れる、何かを考え、組み立てておられるのか……、何処か愉快そうに、部屋でウードを奏でられていらしたのは、私だけが知る事実。




 時折、王宮の外の様子が知らされる。欲の無い、働くのが当然、勤勉の鏡の王、主君が質素ならば家臣も習う、すると国庫も潤うのか、その成果が見事に花咲いていると。


 整備された石畳、側溝、何よりも、あちらこちらと、荒れ果てたいた井戸や水路が、見事に修復されたり新たに造られたり、引かれたり………


 数多く植えられ増えた、日差しを和らげる緑の木々。


 足軽く何処にも出かけられる王、それは民にしては良いことであり、一部のには不服となっていたが、何事も全て丸くいかないのは、世の常なのだろう。


 そして、当然の事ながら、民には賢君と崇めたてられている。使いとして出かける事もこなす様になった私は、あちらこちらで聞く折に、別人の事のようと、妙な違和感を感じてしまうのは、お側近くに、いすぎたせいなのかもしれなかった。


 ある時私はクシャル様の生い立ちが、書物や芝居になっていると聞き及んだので、バム様の使いで出かけた折、市場へと向かった。そして、そこで子供向けの書物を買い求めて戻った。つとめが終え自分の時になるとそれを、読み進めた。



 …………幼い頃に母親亡くした、見目麗しい王子云々、そこは当たってるなと読みすすめると、優しいやら、慈悲深いやらと、かけ離れた人物像が書かれていた。どこが?と、可笑しさを殺して読んでいくと……、


 天罰にあたり、次々と、身勝手な兄達が失脚。遺された悲嘆にくれる母親を優しく慰め、兄に変わり親孝行をすると誓う文面になる。慰めると言うのは……これは何なのだろうか………。


 意味は、子供向きなのでそのままなのだろう、それにくれておられたお方様は、お亡くなりになられている。

 上皇后様につかれましては、征く道敵居らずなのでくれてはらっしゃらない。


 などと思いつつ進んで行くと、善良で心優しい王子には、同じ年頃の影と呼ばれる者が、仕えておりました………。まさかの?これって、私か………短剣使いに毒薬、女に化けて色仕掛けで政敵に飲ませる?


 王になる為には、時には強くお出にならなければ、道がひらけません、ご命令をと、影は優しい善良なる王子をそそのかします。


 って誰?それ………なんと、ま………あ、凄い、そして強かっのか。私もそれなりに………だが、あくまで、それなりになのだ。ここまで有能では無い。


 そ、そうなのか、悪の限りを尽くしてと、書かれているが、何をもってそうなるのかは、あちらを立てばこちらが立たぬ、と思うのだが。物語なのだからこうなるのは、当たり前か。


 そしてこの物語のコレは、例えるならば出来る暗殺者、私は毒など知らぬ上に、剣は、下手すぎて、バム様に笑われた程にそれは使えない。投げる事は………それなりに上達したが。


 書かれている事柄はそれは自ら、そう、クシャル様が、時にはバム様が、そして彼が、仕事として、こなされておられていた。


 誰が書いたのかは知らないが、良くできている、とりあえず………おもしろかった。とそれを閉じた。



 私は、思いの外楽しめたので、失礼かもしれないが、こういうのにも触れるのもいいだろうと、バム様に隠れて、それを政務にお忙しい中の慰めに、と差し出す。


「………何?我が善良なる、神の御子みたいに書かれている………は?ザザが剣を手に、人殺しとな?バムは何処にいった?出て来ぬ、くくく、やりたい放題、ハハハハ!面白いな、中途半端な宮廷の話より、ここまで嘘八百並べ立てられると、かえって清々しい、母上や后にも見せてやれ、笑える」


 さらりと読まれて、私にそれを、初めて目にした、くだけた様子の笑顔で返された。それに私も笑って受け取った。そして………ふと気が付いた。


 ………お痩せになられた?と、書物と共に差し出された手を見て思ったのは、即位されてから二十程過ぎた頃。その日以降、不調に陥ったクシャル様。


 何故か………仲睦まじいのにも関わらず、清らかな他人であったお二人様は、婚礼を終えて間もない頃に、お約束通りその御子様をお引き取りになり、お后様がお手ずからお育てになられ、皇太子とされた。


 赤子が子供に、そして少年、青年と、ご立派にお育ちあそばされ、そろそろ成人の儀式を、執り行うという年を迎えた時、


 少しずつ時が進み始めた。ゆるりと進む………時折、皇太子を列席させ、手伝わせつつ、煩雑な政務を、自室で執り行う様になられた王。



 どんなにお忙しい中でも、ウードを鳴らす時を、必ずつくられておられたのだが、時々に私を呼び寄せ楽器も鳴らさぬと機嫌が悪いと、恐れ多くも、国宝とされる美しく装飾が施された自らのそれを、鳴らすように求められて来たクシャル様。


 そんな日々を過ごされる事に、心を痛めたバム様がお休みになる様、進言をしてこられた。


「失礼とは思いますが、少しお休みになられては、離宮にてご静養される事をおすすめ致しますと、侍医からことずかっておりますが………」


 バム様は、赤子の頃からの絆、親代わりの様なところがあられる。クシャル様が伏せがちになり、心を痛め髪に白い物が見えるようになった。私もそうだが、私の主であるバム様も、伴侶を得ることなく、ここ迄来ている。


 忙しい………のもあった。しかし守るものはクシャル様のみという想いが、バム様にあったのだろう。何かコトが起こっても、切り捨てる選択をしない為に。私は、というと、何故だが………、出逢いというのが無かった。



 心底心配をし、どうかご静養を、離宮にてゆるりと過ごして下さいませと、涙を浮かべながらの懐刀の懇願に、


「お前は、変わらん、どうしようもない、我に仕えておるのに、何も見えておらぬ、節穴か!」


 とにべなく告げた王


 ………静養?よい、それには及ばぬ、バム、我は死ぬために生きていたのだ、終の住処も出来上がり、目的は達した。何も思い残すことは無い、国がどうなろうと知らぬ、遺された者で好きにすれば良い。民など知らぬ。


 政務などそれ迄の暇つぶしよ。くだらんな、面白みもない、どの王も戦争に時をついやしていたから、反対を試してみたが、つまらぬ世界、これならば打って出た方が、退屈凌ぎになってたかもしれない、あの時の攻防戦は楽しかったな。


 何人残せるか、と数えながらに戦う、何処を取るのか、身を切るのか………欲しいものは自身で、手に入れる方が、やはり我には向いてる……


 あの頃、ハーラン、そう賢者を取り込む時など誠に楽しかった………ふむ、戦争に尽力を尽す、命のやり取りか………そちらの方が、やはり楽しそうだったな、今になれば少し後悔する。そうは思わないか?



 などと、平和を愛すると、慈悲深い王との、高い評判が近隣諸国に鳴り響いているというのに、涼しい笑顔で言い放つ、およそ相応しく無い、このお言葉。


 病に倒れている事を嘆き、祈りを捧げる家臣や民が聞いたら、耳を疑うような事を、平然と述べられておられる。


 それが証拠にバム様が、そんな事を仰らないで下さいまし、とハラハラと涙を流していた。


 私は懐から布を取り出すと、そっと年老いた主に差し出しつつ思う、やはりクシャル様はクシャル様なのかと。


 あの時、最初に出会った時の………赤い月夜が放つ物を、そのお身内に満たしておられるのだろう。



 ………人払いをしていて、本当に……良かった……。





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