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第十一話 暁天の空の色

 ク、クシャル………どういう事だ!答えろ!我が母上と!母上をそそのかしていたのか!アレの言ってきた事は真であったのか!


 場を見た、見せられた第一王子様が、青白い光を目に宿しながら詰め寄っている。それを、笑みと共に受けて降りおられているクシャル様。


 私は、万が一、危なくなれば出る故、ここに潜んでいろとのバム様の命により、息を殺して二人を眺めていた。


「真もなにも………、ご覧になられた通りですよ、無粋な事を、無実の罪で死を賜るアレの進言通り、知らなかったのですか?兄上は、ご自分の母上の事を……邪淫にしながら満ちたお噂を」


 月が位置を沈めていく。何時もなら眠りについている時刻だろう、風が冷たく吹く、ざわざと、不安を煽る様に木の葉が音を立てている、


 それは、眠気など感じないモノを満たす、そしてその場を支配していた。


「そんなことは無い、そんなふしだな事をなさらない!我が母上様は美しく、汚れのない慈母、そんな事など

 父を裏切り、子である我をも何より家臣を、民をそんな事は決してなされない!」


「お后様は………寂しいと、寂しくて、お盛んだと離宮にまで聴こえておりますが、民にも、宮中でも………兄上は本当に、ご存知なさらないのですか?それに、われが害を与えた様に見ておられますが、どちからと言えば………与えられた方です」


 クシャル様のお言葉に、怒りのあまり身を震わされておられる第一王子様、そして呆れたように、わざに芝居かかる様に話される。


 はぁ………兄上は、どうしてこう………何も見ずに己のままに、声高にお話になられるのか、三の兄上を習ってほしゅうございます。一度離宮へと、訪れて下さった事が有りますが………穏やかな徳の高いお方になられておられました。少しはお見習いになられたら………


 と敢えて感情を逆なで、煽るように言葉を選び、口調で話される。


「あ!あやつはもう王族では無い!早くに、 ここを出された者と、我を比べるのか!無礼にも程がある。年上を敬う気は知らぬのか!」


「年上を敬えとは、われはそれに見合うお方には、無礼を働いてはおりませぬ。挨拶もなしに、声高に話しかけられる兄上に対しては、敬う気持は毛頭おきません」


「な、何を!宮中で過ごしておらぬ下賤の身の上で、われに逆らうか!」


 息も荒く語気を荒げて話されている第一王子様。私は何処か余裕で、目の前の茶番劇をながめていた。そう、これはクシャル様か仕込んだ物語。


「莞を以て天を窺い、ひさごを以て海を測る、己の世界しか知らぬ兄上に、下賤呼ばわりされるとは、サリアもよくよく運が無かったか」


 二人を取り巻く場に、はりつめた空気が満ちる、サリア!な、何を?とその名を出されうろたえる、第一王子様。


 触れれば切れるような空気が満たされた場。そこは、

 空からの月明かり、篝火も重なり、闇に沈んでいる木々の中から、潜めてうががう外は、はっきりと見える。


 差し込む位置が変わりゆく、いつの間にやら空の色が、どっぷりと濃い黒の濃度が薄れていきつつある。夜明けへと向かっている。。


 時が…………迫っている。牢で己の命をかけて待っておられる、無実の罪人様の刻限………私は心配になり、バム様のお顔に目をやる。それに気が付かれたバム様は、大丈夫だと言葉の代わりで目に笑いを浮かべた。


「兄上は、ご存知でしょう?彼女の事を………お祖母様の元にいましたから」


「し!知らぬ、し、しらぬ、わ、わわ、れは何も知らぬ!われは………アレを好いてはおらぬ!」


 しどろもどろになりながら、震えながら知らぬ、知らぬを繰り返している、そして冷たく笑みを含む声が遮る。月を見上げられたクシャル様。


「…………今宵は、この様な重い物をまとい、少々疲れました」


 唐突なその言葉に、怪訝そうに不安そうに、何を……、と返されている。


 バサ………と、まとわれている黒い布を、地へと投げ落とされる。顕になられた、白い何時ものお姿。月に映える帯飾り。


 吹き行く夜の風………無言のままで対するお二人様。


 そして………目に止まる帯飾り………。ふらふらとよろめ来ながら近づく、それをサラリとかわされ、距離を保たれるクシャル様。


「それ、は………それは、われが誕生の折に与えられた………何故、それは、水の底!では無い。われの館に、そう、そこに置いて………い、る………ま!まさか!先程のは我を恨んで……冥界からそれを………」


 しどろもどろに、なられておられるのを、一瞥の後、冷えるような声で、話をなされる。


「何を仰られているのか………これは、われが産まれた時に、くだされたもの。その方がよろしいかと。史実等、どうとでも後の世の者が、好きな様に書くのですから………」


「な!そ、それはそれは、われが、そ、う、父上は!父上は、ご、ご存知な、なのか、われは、し、らない、逃げたアレが悪い!そう、第一のわれを、断る故に!」


「…………父上でございますか、この事に関しては、好きにしろと、お許しを得ております。なので、われに与えられた事になさった方が、良いかと思ったのですが」


 す、好きにしろ、父上が………、お前に、どうして………、宮中に居らぬお前を、何故にお認めに…………、振り絞る様に言葉をギリギリと出されると、その場にうずくまる、第一王子の姿り


 兄君のお姿を淡々と見下ろされている、クシャル様。知りたくない現実を、聞かされたくない事を、知らされた、第一王子様は、全てを受け入れる事が、出来ないかのように、ポロポロと涙を流しながら、話される。



「お、おまえは、は、母上と………、父上を裏切り、交わっていた、お前の事をどうして。父上、父上、われは、われを………何故にお認めになられない、何時も、何時も、弱きものの声を聞き、慈悲をあたえている、わ、われを、何故、神は何故にこのような無体な、何故にわれを、選ばぬ、何故に、何故に、われに否はない………あの事もアレが悪いのだ、逃げるから」


 自らの否を認めずに、頭を抱えた姿。クシャル様は、それを見ることも無く、再び明けの時を迎えつつある、空を見上げられている、


 しばしの沈黙の時、そして、時が来たのを読み取ると、優しく諭すように話かけられた。


「もうすぐ夜が明ける、兄上、兄上は、お忘れですか?そう、もうすぐ兄上の名のもとで、無実の罪により人が裁かれる、公正な兄上、弱き者に慈悲をあたえているのにも関わらず、無益な血が流れる。良いのですよ、所詮王座など血で洗うものですからね、王も人間、たまにはそういう事もあるでしょう、ましてや兄上は王子、未熟な判断は仕方ありません、哀れな賢者、正しい事をしたばかりに……、ねぇ、兄上」


 白々とした空を見上げながら、優しい声音で、とうとうと責め、静かに追い詰めていく様に、とつとつと、話をされるクシャル様。


 それを耳にすると、私は背筋に薄ら寒い物が走る。


 地面に膝を付き、頭を抱えていた王子様が、忘れ果てていたその事実に、気がつくと勢い良く顔をあげた。



 そ!それは!と、そして叫び声が、



 わ、われは………無罪の者を!こ、殺す………!



「ええ、残念ながら………これに関しては、兄上の名前で行われます故、兄上のみが、行使を止める事か出来る、それが決まり、使者は夜明けの開門と共に訪れる……」



 優しくお教えになられたクシャル様、慌てて立ち上がられる第一王子様。ど、どうすれば、とうろたえ考えがまとまらない様子。


 ほのぼのと空けゆく、夜が空ける前、冷え切る空気に冷やされ、手は冷たくかじかむ。昼は灼熱、夜は零下に冷え込む砂の国。


 ちちち、ピピピ………地上では無い、上から声がふる。


 夜明けの開門と同時に、使者が牢に向かうのが決まり。


 く、クシャル!わ、われは………い。行かねば、無実の者を、こ、殺しとうはない!行かねば、あそこに………、とフラフラと、歩き始めた第一王子様、


 そして開門の報せが、風に乗り流れてきたのを耳にすると、慌てふためき、駆けていった。


 その背に声をおくられる。それは静かな、動じる事など知らない、何時ものお声。


「どうぞ、早く行かれてあげてくださいませ。哀れな賢者を助ける為に、無実な者を救うために…………」



 透き通った空が、色づいてきた。終わりましたか?と三の妃様が、お声をかけて来られた。それに頷かれた。


「帰る」


 そのお声に従い、バム様が外に出られた。私もそれに習う。


 黒をバム様にお返しして、はたはたと払い、お預かりしていたそれを手渡す。ふありと身にまとわれたクシャル様。


 そして地面にあるそれを私は拾い、身につけた。





 …………これからしばらく後、牢から響いた叫び声を、見届けに出向いていた、ドイ様がお聞きになられた。


 その直後に使者がその場に訪れた時には、打ち震えわれを無くされた、第一王子様のお姿があったと、話された。



「墓穴掘りかよー、高く付くぜ!」



 主である兵士と共に、不浄門から出されて、墓地に埋められたお方を掘り出した彼が、後で出会い笑って話してくれた。


「布に包んで放り込んであったよ、まっ、埋められるだけ良いよな」


 笑って話してくれた………。父も、おそらく父さんも、そこに埋められているのか、それともその様な温情は、流石にないか、と私はそれを想い断つ。だけど、せめて………


 あの場へと時間を作り、ウードではなく、辛うじて覚えている、賛美歌(アンティエーヌ)を、唄おうと思う。そして………、



「全く………生きた心地がいたしませんでした………、とんでもないお方様に、従ったと、土の中で、後悔致しましたよ」


 トウ・レイショウ様は、そのお名前を、お変えになられて、お仕えしている。私はどうかと思い、お聞きしたところ………


 則には反しておりませぬ、と、


 トウ・レイショウは牢内で自死したと、使者が確認を致しました故、そして墓に埋められたことを、王に報告致しております、この世に、もうあの男はおりません。


 私の名前は、ハーランと、お呼びくだされ、と賢者様は笑っておられていた。世の中とは、そんなものらしい。



 そして………この日より数日後。



 クシャル様の成人の儀式は、滞りなく終わり、第二王子様は、出立された。この日の為に来られていた使者と共に、国を出たと、バム様が話されて下さった。




 そして、お身体のお悪いと話されていたお后様


 この後、病の平癒の為に、


 王家縁の寺院の離へと


 住まいを移された。


 あの夜以降、お心を病んだ第一王子様と



 密かに隠れる様に、宮殿を出られたのは、



 三の妃様が、一の妃様となられた日の、


 その前日の事。















































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