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異世界他殺願望  作者: 朱郷衣紋
1/3

ろくでもない人生

投稿ペースは遅めです。


『8月15日の今日は第二次世界大戦の終戦日です。あれから75年。たくさんの犠牲者を出した戦争を決して忘れてはいけません。広島平和記念公園では、夏の暑さが残るなか、平和を願う多くの老若男女が集まりました。…………』


無造作に置かれたテレビが今日のニュースを報道している。

今日は終戦の日らしい。


だが、どうだっていい。

今はこの激しい空腹を満たさなければならない。

父親は昨晩のビールのせいで、酔いつぶれたまま起きない。

お母さんは訳あって土の中。

まぁ、その方が殴られたり蹴られたりしないから楽ではある。


『原子爆弾はアメリカ兵からはリトルボーイと呼ばていたんだそうですよ…………』


リトルボーイ……不謹慎ながらカッコいいと思ってしまう自分がいた。


それより食べ物を探さねば………。

家のゴミ屋敷には、食べ物らしい食べ物は食べ尽くしてしまっているので無いだろう。

仕方ない、最後の手段を使うか。

急いでテレビを消して、玄関まで行って靴を履く。

「行ってきます」

 

当然返事は返ってこない。


庭にいるお母さんに挨拶をして、家を出た。


当然返事は返ってこない。



外は気持ちの良い麗らかな晴天……ではなく、夏の猛暑でジメジメした暑苦しい晴天


である。

雲ひとつない青空と、ギラギラと輝く太陽でアスファルトから湯気が見える。

一言でいえば

「死にそう…」

である。

住宅街の路地裏をぬけて、こそこそと商店街を目指す。

恐る恐る進むのには理由がある。

簡単に言えば、同級生に見つかると時間をとられるし、作業を見られればケーサツ行きになる。

夏休みだから人が多いので、危険度がかなりあがってしまうのも問題だ。

しばらくして、頑固親父がいる家が見えてきた。自分には人が変わったように優しくしてくれるじいさんだ。

角の先には、確か新しく出来た大きな丘のある公園があったはず。

長い滑り台付きで、よく小学生がたむろしている場所である。

そそくさと小走りで通りぬければ、なんとかなるだろう。

そんな風に、頑固親父の育てた銀杏の木陰で一休みしながら考える。

空腹と暑さで頭がくらくらしてきた。

大量の汗もアスファルトが瞬時に蒸発させていく。

汗を手で拭ったあと、覚悟を決めて角を曲がった。

「あ、雫じゃん。」

これまでの葛藤が嘘だったかのように、あっさり見つかった。

「また盗むつもりなの?どんな理由があろうと、盗みは犯罪よ。あなたのような貧乏人だとうとね。」

意地汚い薄笑いを浮かべた少女が、集団の先頭で仁王立ち。皮肉も混ざっていて、さすが近所の井戸端会議を取り仕切っている母親の娘だ!というべきか。

「犯罪者は今のうちから粛清しなきゃね!みんなそう思うでしょ」

ブリブリしたワンピースを着た少女は、みんなに同意を求めるように言った。

「そうだそうだ」

「○○ちゃんの言う通りだよ」

「ケーサツに逮捕してもらおうぜ」

口々に賛成を述べられた。

が、ただ一人だけ。

「いやまだ盗んでねーし、ケーサツには言わない方がいいんじゃないか?物的証拠がなけりゃ逮捕してもらえねーよ。」

そう言って、整った顔立ちをした少年は、滑り台を降りて自分のところまで来た。

距離でいうとゼロ距離。

「近いんだけど」

ぼやいたら慌てて離れた。

「お前にやるよ!」

お昼ご飯に食べるつもりだったのか、白いレジ袋に入ったお弁当らしきものを手に持っていた。

それをなんと地面に投げつけた。


あぁ勿体ない。

「お前にはそれがお似合いだ!それでも食ってろ!」

踵を返して公園に戻って行った。後ろ姿もやけにかっこよくきまっていた。

外野からは、どっと笑い声がした。


それを有り難く拝借して、近くの別の公園に行った。

その道中で袋の中を確認すると、なんと衝撃吸収してくれるというお高い弁当箱だった。

優しいやつ....なのか。食べたら洗って返しておこう。

中身は定番のおにぎり2つと、唐揚げやらソーセージやら卵焼きやらが入っている。あまり崩れていない。

あの少年は愛されてるなぁ……とつくづく思う。

同時に自分が惨めな気持ちにもなる。


空腹に耐えかねて、公園に着く前におにぎりを食べた。

シャケおにぎり……旨い。

一口一口大事に食べて、次のおにぎりを。

いや、これは夜にとっておくべきだな。

次は唐揚げを………

「あ、犬が」

誰かが言った。

超小型の雑種犬が道路の道路に横たわっていた。

見るからに死んでいる。

よくある事だ、別に自分が気にするようなことでもない。

超小型の雑種犬から目を離して、唐揚げに目をやった。

その時だった。

「豆太?まめたああああ!」

聞き覚えのある声が叫びながら、自分を追い越して行った。

信号がまだ赤なのに、整った横顔をした少年は横断歩道にいた犬にかけよった。

「まめたあぁああぁ!まめた起きろよまめた!」

可愛らしい名前を連呼しながら犬を揺さぶる。

もうその犬は………


不意に遠くを見るとトラックが走ってくるのが見えた。

イヤホンを耳に付けながら、カーナビのテレビを見ているチャラい運転手。

少年には気づいていない。

こういう時、人間は固まって動けなくなるか、勝手に体が動くかのどちらかだとなんかの専門家が言っていたのを思い出した。

面倒なことに自分は後者の方だった。


体が勝手に動き出して、赤信号の横断歩道に入っていた。

「はやくこっちに!」


精一杯声を出して、泣いている少年の手を引っ張る。

少年は、やだやだと駄々をこねた。

「トラックが来てるんだよ!!!」

自分が怒鳴って、ハッと我に返った少年は座ったまま動けなくなりやがった。


やけくそになって、その少年を持ち上げて放り投げた。

仔犬も一緒に。

自分でも信じられないような火事場の馬鹿力を発揮した。

少年とも目があった。

濃い瑠璃色の瞳はただただ綺麗に輝いていた。

その瞬間、トラックにぶちあたった。

ぽーーんっと投げ出された身体は、宙を舞う。

スローモーションになるっていうのは本当だったらしい。

走馬灯のようにろくでもない人生のエピソードの数々が頭の中に流れ込む。


弁当貰わなかったら絶対助けなかったのに。

少し良いことがあったかと思えば、この様。

まあいいか。

このろくでもない人生に幕を閉じれる。




―――はずだった。


誤字脱字あったらすいません。

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