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結衣の心配事。


「ねぇ、なんか元気なくない?」


 昼休み、まっすぐ千代の元へ向かってみる。

 普段の千代もたまにボーっとしていることがある。だが、今日はその比では無い。


「あぁ、結衣……大丈夫だから」


 笑っているつもりだろうが、眉が下がっている。どうしても何か悩み事があって、それを悟らせまいとしているように見えてしまう。


「また板書をノート二冊分、書いてるんだね」

「え、あ、まぁ、あはは……」

「そういうところ、私はいいと思うけどね」


 ずっと不登校の渡波千歳という人にノートを渡しに行っているということは知っている。千代は多分、その彼が好きなんだろう。

 こんなに健気だと、私がその彼だったら、すぐ学校に来ようと思うのに、なんて心の妄想を広げてみる。


「千代、辛くない? 毎日そうでしょ?」

「ううん、ノートを二回分取るとね、その分授業の内容がよく頭に入ってきて、テストでも結構いい点取れてるから、無駄じゃ無いし、楽しいよ!」

「いや、私が言ったのはそういうことじゃなくて……」


 自分から相手の悩みに踏み込まない。そういうのも大事なんだろうが、私は悠真君を補佐する身だ。そのうち、不登校の所へ出向くこともあるかもしれない。だとすれば、ここで話を聞けなくてどうするのだ。

 普通に登校している人から話を聞けないのに、不登校の人から話を聞けるわけがない! いくのよ、結衣っ!


「悩んでいることがあるように見えるから。精神的に大丈夫かなって」


 千代の花開いた笑顔は、ゆっくりと蕾に戻るように閉じていき、悲しげな表情に変わっていく。


「結衣はすごいね、この先も隠し事とかできなさそう……」

「そうかそうか、話してみなさい、少しは楽になるかもだし」

「実は、結構キツイことあってさ……」


 千代は、悠真君と千歳君の家へ行き、喧嘩をしてしまったらしい。それも、過去の傷を抉ってしまったかもしれない、というのだから、問題は私が思っている以上に深刻なはずだ。


「でも、それって、千代は悪くないんじゃ……」

「原因はいいの、ただ、どうしたら良いのかなって」

「仲直り、出来そうにないの?」

「わからない……」


 そもそも私はその現場にいなければ、千歳君という人に会ったこともない。正確には、クラスで顔を合わせているはずだが、一度も話したことがないので、印象が抜け落ちているのだ。

 こういう時はどのような言葉をかければいいのだろうか。私は、さっきまで悩みを聞くかどうか迷っている数秒前の自分を呪った。

 自分には話して貰ったところで、効果的な言葉を持っていなかった。

 その時は、チャイムを合図に解散となった。




 その放課後、生徒会室に入ると、悠真君がパソコンに向かっていた。真衣計画の資料でも作っているのだろうか。


「お疲れ様〜」

「おぅ」


 いつも通り、机に荷物を置き、家で少し作った資料とペンケースを取り出した時、あることに気がつく。


「あれ? 悠真君、眼鏡変えたの!?」

「いや、別に驚くほどじゃないでしょ……」


 そう言って、いつもの三本指で智を触って、ずれた眼鏡を定位置に戻す。


「ふーん」


 新調した眼鏡が似合っていないと言えば嘘になるので、これ以上は聞かないことにする。

 そして、手にした資料を悠真君に差し出す。


「悠真、この資料見て欲しいんだけど?」

「ん? どれどれ……」


 キーボードを打ち込んでいた手を止め、私の資料を受け取り、目を通す。

 この瞬間、私は一緒に資料を見ていると恥ずかしくなってしまうので、先程まで入力されていたパソコンに目を落とす。


「……えっ?」


 思わず声が漏れてしまう。そこには誤字脱字が平然と並んでおり、更には計算ミスも見て取れる。これではまともな資料とは言えない。


「悠真君、どうしたの!? 凡ミスだらけだよ!?」

「え、あ、あぁ、すまん……」

「ひょっとして、渡波千歳が人が原因?」


 悠真君は資料から目を離すと、不意にこちらを振り向く。その表情は、目を大きく見開いて、痛いところを突かれたような顔だ。

 やはり、千代と同じだった。

 千代の隠していた悩みが、私が見てもわかるぐらいに、漏れ出ていたのだから、悠真君にとっても、決して普段通りにしていられる程の事ではないのだろう。


「図星」

「どうして、それを?」

「千代から聞いたから」

「そうか……」


 悠真君のシュンとした表情は、あまり見た事がないかもしれない。少なくとも、生徒会の活動中には見せた事のない表情だ。


「今日は休養日にしようよ。そんなんじゃ、何をやったって修正作業が増えるだけだし」

「あぁ、悪い……」


 悠真君と私は、机の席に向かい合って座り、紅茶を一杯だけ飲んで帰る事にした。

 もちろん校内には自販機もある。しかし、それでは味気ない。元々家庭科準備室だったこともあり、生徒会室には紅茶を入れるだけの設備が備わっている。

 私的には、こうやって温かい紅茶を頂けることも、生徒会の魅力になっていると思う。


「喧嘩、しちゃったの?」

「結衣は遠慮がないなぁ」


 悠真君は紅茶を一杯すする。それに合わせて、私も一口すする。紅茶には全く無知ではあるが、紅茶のほろ苦さと鼻に透き通る香りを嗜むことはできる。特に、寒い日続きの最近では、この温かさも、この身にしみわたる。

 そして、悠真君は渡波千歳について話し始めた。


「あぁ、千歳は、難しい奴だと思う。多分、僕が言ったことは間違いじゃない。それでも、千歳にとっては、正しくないことで、それで対立してしまったんだ」

「相反する二つの正義、ってこと?」

「そう、ではないかもしれない。千歳は、自分で自分を『間違っている』と表現していた。それでも、僕の台詞によって、彼の何かを傷つけたんだと思う」


 なんとなくの想像でしかないが、悠真君は千歳君を正しく導こうとした。でも、すでに千歳君は、正しいことが出来なくて迷っている状態ではなかった。ダメな自分、間違った自分を受け入れて、それが本物だと信じているんだと思う。そこに、正しい道を示されたところで、異端として拒絶されるのは必然と言えるかもしれない。


「そう、なんだ……多分、千歳君に接触するには、あまりにも知らなさすぎみたいだね……」

「そうかもしれない。千歳が不登校になった理由、まずはそこからもう一度調べてみようと思う。しかし……」


 悠真の言葉が詰まる。

 「しかし……?」と、私は続きを促した。


「千代もわからないらしいんだ。心当たりはあるみたいだが、それがどのように作用しているのか、わからないらしい」

「うーん、千歳君に一番近いと思われる千代ですらわからないとなると、厳しいなぁ……こう、謝ろうにも謝れない、というか」


 私は背もたれにどっぷりと寄りかかり、お手上げのポーズをした。

 腕を下ろして悠真を見やると、まだ何か話していないことを話してしまおうか迷っている顔に見えた。

 悠真君といえど、高校一年生なのだ。役者じゃない。


「まだ何かあるの?」

「……実は、千代とも少し仲違いが……」


 これはこれは、前途多難だ。

 千歳君を攻略するのに、大事な伝である千代とも気まずい関係とは……。


 でも今日は、貴重な悠真君の弱みが見られたから、良しとしようかな……。


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