鏡よ鏡、84
ふたりはむかし話をいつまでも繰り返した。ひとみは久しぶりの酒だからか、少し酔いが回ってきていた。
「わたし、そろそろ」
「うん。じゃ、行くか。まだ終電まで余裕あるうちに」
会計を済ませてエレベーターに乗りこみ、誠は1のボタンを押して、ふわりと唇を重ねてきた。彼の舌に残っていた一味唐辛子がわたしの舌に練り込まれまた。
やっぱりさびしかったんじゃんか。
一階に着いて何事もなかったように外に出た。歩いて1分もかからない地下鉄の階段にさしかかったときにひとみは声をかけた。 「あんたさ、バカじゃないの?」
「え?どうした?急に」 ひとみは誠の左膝あたりを回し蹴りした。
「カッコつけてんじゃないわよ。いきなりキスしといて、何もなかったように帰ろうとして。」