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偽悪者の憂鬱  作者: 一葉
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偽悪者の理由

気紛れに書く。完結するかは保証しない。きりのいいところまでは書くかも、多分、きっと。

「白鷺ー、悪いけど掃除当番変わってくれよ、用事があるんだ」


僕は心よく当番を代わった。困った時はお互い様だ。


「白鷺くん、このプリントを先生に渡してきてほしいんだお願いできる」


勿論引き受ける。


「ねえねえ、今日さ日直のノート書いておいてくれないかな? 塾に遅れそうなんだ」


わかったよ。


人が困っていたら助けるのが当たりまえ。純粋に人のやくにたてるのは嬉しかった。


「白鷺くん、何でもかんでもひきうけたら駄目よ」


クラス委員長の黒崎さんとはよく本の貸し借りをしていてたまにこんな忠告をしてくれる。彼女は文句なく美少女なので僕みたいな目立たないクラスメイトと話している時は周囲の視線がちょっと痛かった。


特に彼女の幼なじみ、久宝明良からの視線は怖かった。彼はクラスの中心的存在で僕なんかとは比べられないくらいのイケメンだ。クラス内の男女の機微に疎い僕でも彼が彼女に好意をもっているのはよく分かる。


「ありがとう。でもいいんだ」


彼女はちょっと不満そうながらも追求するつもりもないようで自分の席に戻っていった。


高校一年生の生活は僕としては満足出来るものだった。親しい友人はいないけれど人のやくにたてているという実感があったのだ。


あの日までは。


その日、僕は本屋にいった。クラスメイトの半井くんにオススメの参考書を教えて欲しいと言われたからだ。参考書を選んでいると携帯電話がなり半井くんは用事ができたといって店を出ていってしまった。彼がいないなら本屋にいても仕方ない。僕も帰ろうとしたら入口でけたたましく防犯ブザーがなる。

慌ててかけよってきた店員に促されて鞄の中を見せると見覚えのない本が入っていた。

「ちょっと事務所まできてくれるかな」

その後の展開はまさに悪夢だった。鞄にいれた覚えがないと主張しても信じてもらえず、警察を呼ばれる。呼ばれた刑事さんは防犯カメラの映像を確認してこういった。

「君の隣にいる子が君の鞄に本を入れてるけど知り合いか?」

そう、僕の鞄に本を入れていたのは半井くんだった。顔面から血の気が引いていく僕をみて刑事さんは溜め息をつく。

「いじめか? 」

頭が真っ白になって何も言えなかった。

「今日はもう帰っていいよ、でも親と学校には連絡するからね」

どうやって家に帰ったかは覚えていない。覚えているのは家に帰るなり母に殴られヒステリックな声で攻め立てられたことくらいだ。父も帰ってくるなり僕を殴り怒鳴り付けた。二人とも僕の話しなんて聞いてもくれなかった。

次の日、重い身体を引きずって学校にいく。別に休んでもよかったのだろうが、それではサボりみたいで嫌だった。

校門で先生に呼び止められ生徒指導室に連れていかれる。

「警察から連絡があったよ。万引きしたと」

「やっていません」

「言い訳するな!」

言い訳? これは言い訳なのか? 僕は何もしていないのに、否定したら言い訳になるのか?

「それと半井から聞いたぞ。お前に脅されて無理矢理協力させられたと」

思わず絶句する。何故そんなことになっているのか。それに僕の話しは聞かなかったのに半井くんの話しは聞いたのは何故だ。

「今回は大目に見てくれるが学校側としては見逃すわけにはいかない退学届けを出しなさい」

「そちらで退学にすればいいでしょう。何故退学届けをかかせるんですか」

「事情があるんだよ」

面白いくらいに狼狽しだす先生。多分、学校側で勝手に退学に出来ないのだ。

この時点で僕の精神はかなり擦りきれていて余裕がなくなっている。普段の僕なら反論もできなかったろう。

僕は授業が始まるからと無理矢理話しを打ち切って教室にいく。

ドアを開けた瞬間、全員の視線が集まった。そうして聞こえるささやき声。

万引きしたんだって 半井くんを脅して手伝わせたらしいよ ええ、最低じゃん

叩きつけられる悪意に僕は目眩を覚えつつ自分の席につく。すると黒崎さんが僕の机に本を置いた。

「これ返すね、それともう貸し借りはやめるね」

「え、どうして」

聞き返すべきではなかった。彼女の次の言葉を聞かなければまだ僕の精神にも救いようはあった。

「あなたが、こんなひとだとは思わなかった。最低よ、あなたは」

綺麗な透き通るような瞳にうつるのははっきりとした侮蔑。ゴミを見るような目。

僕の精神には二度と消えることはないであろう傷が深く刻まれた。


それからの地獄のような生活の中で僕は考えた。自分は間違っていたのだろうかと。誰かのやくにたちたかったから頼み事は極力引き受けて、みんなが嫌がる仕事は率先してやった。なのにこの様である。見返りなんていらない。でも話しすら聞いて貰えないとはどういう事なのか。要するに、僕は誰からも信用されていなかったのだ。それこそ、女遊びが激しいと言われている半井くんよりも、僕は信用されていなかったのだ。

クラスメイトにも、親にも、先生にも、何よりも黒崎さんにも、話しも聞いて貰えないほどに、まったく、これぽっちも、全然、信用されていなかった。

なんて馬鹿馬鹿しい。なんて道化。なんて哀れ。なんて間抜け。

そして俺は決意した。

もう、二度と人助けなどしない。

俺は、俺のためだけに生きていくのだと。

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