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このクソッタレな世界でもう一度  作者: 浮只見 伯智
第一章 終わりが終わり再び始まる
2/5

プロローグ



 ………


 ………………


 ………………………あれ、俺、死んだよね?


 辺りがなんとなく明るいのは分かるが、視界が酷くぼんやりとしていてはっきりとしない。

 背中に伝わるのは、暖かく柔らかい感触。これは多分ベッドだな。


 え、ちょっと待てよ。まさか俺、生き長らえちゃったの?

 ちょ、おい、マジ?ガチ?いやでも確かに、もしあの後すぐに隣のおばちゃんなんかが来て、もし俺がたまたま家の鍵をかけるのを忘れていて、もしおばちゃんがおばちゃん特有の図々しさを発揮して家の中に上がり込んできて俺を見つけたとしたらあり得る………いや、ねぇよっ!


 おいおいおい、マジかよおい!

 え?俺、最後だと思って盛大にモノログったんだけど。

 うわ、恥っず!生きることに飽きたのだー、とかどこの厨二病だよ!


 うわー、うわー、死にてー、めっちゃ死にてー。いや、死のうとしてたんだけどさ。

 やっぱ決行は昼間じゃなくて深夜にすべきだったかー、ってそうじゃねえ、そうじゃねぇんだよ。


 やばい、いろいろと唐突すぎて、文脈がぐちゃぐちゃになっている。

 よし、とりあえず落ち着こう。有名なハーレム剣士も言っているではないか、大切なのはステイ・クールだ。

 冷静に、まずは現状を把握しよう。


 ベッドに寝ている、以上。


 ………ふむ、分からん。

 じゃあ、次は疑問点を挙げてくか。


 疑問点1

 ここはどこか。


 これについては今のままではどうしようもない。これからの展開に期待だな。


 疑問点2

 なぜ視界がはっきりしないのか。


 これはー、窒息による後遺症?もしかしたら、寝惚けてるだけかもしれないが。あと、今まで気付いてなかったけど声も掠れてしかでないし、手足もほとんど動かない。

 まあ、仮にも死のうとしたわけだし、正直これらについてはどうしようもないよな。よし後回し。


 で、最後に疑問点3

 まあ、これが一番重要で今後にも深く関わってくるんだが………


 ―――俺は、本当に生きているのか?

 言ってはなんだが、俺の家に訪問客なんてのはほとんど来ない。来るとしても郵便と新聞勧誘くらいだ。

 それなのに、俺が死のうというあのタイミングで人が来て、あまつさえ他人の家に勝手に上がり込むか普通?

 隣のおばちゃんは、まあいないことはないが流石にそんな非常識な方ではない。

 あと可能性があるとすれば空き巣くらいだろうが、それこそそんな可能性は低すぎるし、そもそも空き巣なんてあくどいことやっている奴が自殺志願者のために救急車なんて呼ぶか?ありえなぇだろ。

 これらのことを総合して考えるに、あの状況で俺が助かる確率なんていうのはほぼ0パーセントだ。


 そしてそう考えれば、疑問点1、2は大体回答が掴める。

 まず、俺がしっかりと死ねたのだと仮定すれば、ここは死後の世界ということになる。

 さらに、そんな超常的な場所があるのならば、俺の五感を奪う何かがあっても全くおかしいことではない。


 とまあ、ちょっと駆け足で考察してみたが、これが一番理に適っているだろう。いや、死後の世界なんて言うあやふやなものが理に適うかは知らないが。

 とにかく、自分の中でもだんだん噛み砕けてきたし、ある程度冷静さも取り戻せたようだ。

 さて、残った問題はこの状態がいつまで続くのかだが………


 そう考えた瞬間、唐突に自分の背中の下で何かがもぞもぞと動いた。


(うおっ、何だ?)


 感覚的に、腕が回されたのだろうと理解すると、そのまま持ち上げられた。

 そうすることで、ぼんやりとした視界でも、なんとなく目の前にあるものが何かわかった。


(人、だよな?)


 近づけられることによりだんだんと鮮明になってきたそれは、確かに女性の顔だった。それも、かなり目鼻立ちが整っている。


 自慢ではないが俺は女性経験がないことはもちろん、中学生に上がってからはまともに喋った記憶すらない。

 小学生の頃はそんなでもなかったが、中学生になったのと同時に俺はひきこもりになったからな。それからの俺のコミュ力はそれはもう筆舌にもしがたいものであるわけで。

 話すどころか顔を合わせるだけで耳まで真っ赤になる始末。

 そんな俺がこんなモデルのような綺麗な人に抱きかかえられるなんて………いや、ちょっと待てよ?抱きかかえられる(・・・・・・・・)?


 おかしいだろ。確かに人よりひょろっちい俺だが、女性が軽々と持ち上げられるような体重ではないはず………いや、ここは死後の世界だったな。だったらなんでもありか。

 そんなことで無理やり自分を納得させるが、女性が次に放った言葉により俺はさらに混乱する。


「無事に生まれてきてくれて、ありがとね」


 聴力も落ちているのか、聞こえた声は小さかったが、耳元で囁かれたその声は確かにそう言った。


 生まれてきてくれて?なんだ、意味が分からんぞ。

 いや、あれか?この人は聖母神的な存在でみんなのお母さんだよ、みたいな?そういうニュアンスか?


 これはマズいぞ。明らかにペースが乱されている。

 冷静に、冷静になるんだ。


 そう念じる俺だったが、さらなる事実が俺を襲った。


 それまで動かなかった腕が、持ち上げられたことにより腹の上に移動している。

 そうなると、頭を抱えられるようにして抱かれている俺には、必然的にそれが目に入るわけで、


(あー)

「あー」


 心の声とかすれたと思われていた自分の声が重なった。


 なるほど、ようやく理解した。

 格段に能力が落ちた、視覚と聴覚。

 掠れて、あーとしか発音できなくなった声帯。

 そして、視界に映る、異常に小さくなった(・・・・・・)俺の手。

 そのどれもが、

 乳幼児期(・・・・)にみられる特徴だ。


 そうなるとだ、思い当たるのは一つしかない。

 正直ありえねぇとしか思えないが、実際に起きているのだから認めるのしかないだろう。


 そう、


(どうやら俺は―――)


 ―――転生してしまったらしい。



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