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死の予測 ~流れ着いた先は敗戦寸前の国でした~  作者: リザイン
第1章 漂流、そしていきなり戦場
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1-9 ベネストレアの加護

「な、何言ってるのハルト!? 今私の言ったことがわからなかったの?」


「ああ、聞いてたよ。だけどレイナをこのまま放ってはおけない」


「だからって貴方まで死ぬこと――」


「待ってくれ」


 ハルトはレイナの言葉を手で制すると、こう言った。


「どうして最初から死ぬという前提なんだ?」


「だって敵との差はあまりにも歴然としているから……」

 

 うなだれるようにして言うレイナ。

 ハルトはそれに対して腕を組みながら、きっぱりとこう言った。


「大丈夫だ。レイナは死なせない。お前はこんなところで死んでいい人ではないはずだ」


「ハルト……」


 まだ会って間もない上、素性もわからないハルトを助けてくれたレイナ。

 こんなところで死なせるわけにはいかない。

 それに彼女はまだ全然若い。だから戦争で命を落として欲しくはなかった。


「本気なの?」


「本気じゃなかったらわざわざ戻ってこないだろ」


「……」


 レイナはしばらく沈黙していたがやがて、


「貴方は別の国の人だから、巻き込みたくはなかった。

 けれど本当は今は1人でも戦力になる人が欲しかったというのもまた事実。

 ……再度聞くけれど、本当にいいのね?」


「俺に二言はない」


 ハルトが言うと、レイナの弱々しかった瞳に活力が戻った。

 

「ふん、口ではなんとでも言える。行動で示せ、小僧よ」


「わかってるよ」


 ルークラトスがそういうものの、その口調は少し柔らかく感じられた。 


「じゃあまず敵を知る前にまず、私達の能力について話しておかないとね。

 共闘関係にあるんだから、それぐらいは教えておかないと。でも時間がないから手短に言っておこうと思うの」


「能力……?」


 突然そんなことを言われて少し戸惑う。

 レイナは窓の外の夜空を見ながらこう言った。


「そう。ミトス王国ではまれに特殊な能力を持った子が産まれることがあるの。その子達は女神べネストレアの加護を受けた者だ、なんて言われるんだけれど、真相はわからない。

 ただわかることは、その特殊能力が使えるということだけ……」


 つまり、ハルトが自分が攻撃される未来を予測できるというように、他にも様々な能力を使えるものがいるということだろう。

 本来なら眉唾物だったのだろう。しかしハルトは自分自身にも特殊能力があるのでその話はすんなり理解できた。


「それで、どんな能力があるんだ?」


「そうね、例えば――――」


 そう言ってレイナが言葉を続けようとした時だった。

 突如、何かがぶつかりあったような大きな音が轟いたかと思うと、屋敷が少し揺れる。


「な、何の音……?」


 レイナが不安そうに窓の外を見る。

 それに釣られてハルトも外を見るも、そこには夜の静寂が広がっているだけだった。

 

「私が少し見てきます。はぁあああ!!」


 ルークラトスがそう叫ぶと、一瞬のうちにして脚の筋肉が増大し、ズボンがはちきれんばかりになった。

 そしてそのまま屋敷の外へと走りさっていく。

 その速度は、もはや人間の領域をこえている。馬など比ではない。

 

「あれはルークラトスの能力、脚力強化ね。動く速度を上げて敵を翻弄することができるの」


「へぇ……あの爺さんが」


 ガタイがかなりいい上に、筋肉もすごいから速度は遅いと思っていたハルトは少し面食らう。


(さすが爺さん。最上級騎士の称号は伊達じゃないんだな)


 ルークラトスはしばらくすると、表情を険しくさせて戻ってきた。かなり飛ばしてきたのか息が少し上がっている。 


「お嬢様。どうやら敵は夜襲を仕掛けてきたようです」


「そう……」


 レイナが眉をひそめた。

 そしてくるりと(キビス)を返し、


「私たちも出るわよ。総大将自ら出ないと、兵士の士気も上がらないでしょう」


「かしこまりました。では、案内いたします。シエル、留守を頼んだぞ」


「……私も行く。お嬢様が心配だもの」


 シエルがそういうも、ルークラトスは首を横に振った。


「ならん。戦う力の持たないシエルが戦場に来たところで、足手まといになるだけだ」


 ルークラトスが目を細めて厳しく言う。


「でも―――」


「シエル、私なら大丈夫よ。強力な仲間も1人増えたことだしね。だから、暫くの間留守にするけれど、ちゃんと屋敷を守っておいてね」


「お嬢様……」


 シエルを諭すレイナ。

 シエルは顔をそらすとしばらく黙っていたが、やがてハルトの方をキッと睨みつけると、


「もしお嬢様を傷つけたら許さないから」


 と言って渋々受け入れてくれた。


(これは……責任重大だな)


 それに頷くと、爺さんの方を向く。


「では小僧、リエルも。ついてくるんだ」


 そう言うと、一行は屋敷の外へと出た。

 馬小屋につくと、皆それぞれの馬に乗っていく。

 そしてそのまま、鉄柵を越えて戦場へと向かった。

 夜道で視界が悪いので進みにくいかと思ったものの、ルークラトスの誘導が的確なおかげでほとんどスピードを緩めることなく進むことができた。

 そして馬を走らせて数十分。

 一行はたくさんの兵士たちが駐屯している基地へとやってきた。

 そこでは負傷した兵士達もおり、治療を受けている。

 皆レイナを見るなり驚きに顔を見張った。


「レ、レイナ様だ! 皆、レイナ様が来てくれたぞ!」


 そうして群がってくるのを抑えつつ、


「皆、状況はある程度ルークラトスから聞いているわ。

 どうやら、敵が攻撃をしかけてきたようね」


「はい。奴ら、夜は休憩だから襲わないとか言っておきながら夜襲をしかけてきました。幸いにも鵜呑みにせず警戒していたので、耐えてはいますがそれもいつまでもつか……現在右翼と左翼が乱戦中ですが、かなり押されています。レイナ様、ご指示を……」


 レイナは兵長達からの情報を聞き、指示を出していく。

 しかし、状況的に芳しくないのは見るも明らかだった。

 レイナの表情が固まってくる。こういう戦争に関してはほとんど経験がないのだろう。虚勢をはってるというのはすぐにわかった。

 

「既に、私達の兵は3分の1を失っているわ……。それに対して相手の軍勢はまるで沸くほどたくさんいる。そして徐々に後退し始めている。

 こんな状況から、一体どうやって覆せばいいのよ……!」


 兵士達が去っていくと、レイナか細い声で弱音を吐く。

 悔しさに満ちた嘆きが現状の不利さを物語っていた。

 ハルト達のいる場所は、ちょっとした山となっており、敵はそれを上がってくるようにしてこっちに攻めてきているので本来有利なはず。しかし、数の暴力とは酷いもので、既にレイナ達は押され始めている。

 遠くに見える、兵士や傭兵達の喧騒は、まるで夜には似合わない騒音である。

 あの場では今、殺すか殺されるか二択の戦いが行われているだろう。

 例えハルトであったとしても、がむしゃらに突っ込めば殺される可能性は高い。

 しかし、彼には幸いにも自身への攻撃に対する予知能力がある。うまいことかいくぐり、敵の総大将の元にたどり着く事もできるかもしれない。


(いや、かもしれないじゃねぇ。必ずやるんだ)


 総大将をもし討ち取ることができれば、相手の士気はだだ下がりとなり、逃げ出す者も増え、一致団結した集団から烏合の衆へと変わり果ててしまうだろう。

 そううまくいくかはわからないが、ここまで戦力差がありすぎると、もはやそれにかけるしか方法はないのではないだろうか。

 ハルトは、戦況をじっと静観しているルークラトスの方へ向かうと、こう言った。


「おい、爺さん。総大将を討てば、勝てる可能性は出てくるんじゃないのか?」


 ルークラトスは眉をつりあげ、


「簡単に言ってくれるな。総大将の元へ行くには、あの地獄のような乱戦をくぐり抜けねばならんのだぞ」


「だったらくぐればいいじゃないか」


 そう言うと、ルークラトスの顔の(シワ)が更に濃くなる。


「正気か小僧?」


「ああ。このままむちゃくちゃに戦ったところで俺達に勝目はほとんど残されていないんだろ? それならばイチかバチか、あの乱戦をくぐり抜けて総大将を討ち取って潰走(カイソウ)を狙う他ないんじゃないのか」

 

 総大将を討てば、向こうの兵士達には例えこの戦で勝ったところで褒美を与えてくれる主がいなくなる。そうなればこの合戦に残る意味はなくなる。誰でも自分の命は惜しいはず。潰走する可能性は十分にあり得るだろう。

 ルークラトスは手を顎に当て、しばらく考え込んでいたが、


「ふん、もし失敗すれば一体誰がお嬢様をお守りするというのだ」


「このままジリ貧に頑張ったところで甚大な被害を出したまま負ける可能性が高いんだろ? それでレイナも殺されたら意味がないじゃないか」


「……」


 このまま続けても甚大な被害を出して敗北。

 もし向こうの総大将を討つことができれば、勝利の可能性は飛躍的に上がる。しかし失敗すればやはり敗北確定は免れない。

 後者の選択肢をとった場合、成功すればこれ以上の被害を出さずに勝てるかもしれない。

 

(……と、馬鹿な俺なりに結論を出してみたけど、これじゃ説得は――)


 ハルトが半ば諦めていると、


「小僧、勝算はあるのか?」


 以外にも話に耳を傾けてくれたようだ。


 (俺みたいな奴の意見に話を傾けてくれるなんて、それだけ戦況がまずいんだろうな……)


「それは今から考える。

 爺さん、さっきレイナから話を聞いたが、脚力を強化できるんだってな。それをうまく利用できないか?」


「できなくはないが……かけてみる価値はあるだろう。

 ……リエル!」


 と言って、ルークラトスはリエルを呼び寄せる。

 リエルはぼーっとしていたようだが、名前を呼ばれてこちらにトコトコと駆け寄ってきた。


「呼んだぁ~?」 


「私といくらかの精鋭(エース)で討ち取りに行く。本当なら、もっと精鋭エース達を加えたかったが、本陣を手薄にするわけにはいかない。こういうのは少人数でやるべきだろう」


「ちょっと待ってくれ。じゃあ俺はどうすりゃいいんだよ」


「小僧はリエルと共にお嬢様をお守りしろ。いいか、何があってもだ。いつ本陣にまで攻められるとも限らないからな」


 (俺は討ち取りに行けないのか……。

 まあ、実力もまだ定かではない奴をいきなりそんな大役に指名することはないか)


 ここで無理にごねたとしてもルークラトスは動かないだろう。

 だが……、


「爺さん達だけで大丈夫なのか?」


 するとルークラトスは自信満々に鼻を鳴らした。


「ふん、小僧が心配する必要はない。貴様はただお嬢様をお守りするだけでいい。 じゃあな、頼んだぞ。

 ……おい、マルトスはいるか!」


 そう言うと、ルークラトスは話し合いをするために、精鋭エース達と共に何処かへと行ってしまった。

 残された2人はお互いに顔を見合わせる。


「……とりあえず、レイナの元に行くか」


「そうだね~」


 


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