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死の予測 ~流れ着いた先は敗戦寸前の国でした~  作者: リザイン
第1章 漂流、そしていきなり戦場
8/18

1-8 決意

途中、綺麗な池があったのでそこで少しだけ休憩をとったあと、再び馬を走らせて数時間。

 ユンウィルに行く途中あったキャラバンに到着したハルトは、周辺の人に国境付近の状況を聞いてみたが、その人曰く、もう戦いは始まっているという。レイナの屋敷がどうなっているのかまではわからないが、この集落も早く移動しなければ敵国に襲われる可能性があるということで、移動し続けているようだった。

 再び少量の食べ物だけ買うと、馬を走らせた。





 ―――そしてしばらく経ち、ちょうど太陽が暮れ始める頃になってようやくレイナの屋敷へと到着する。

 どうやら、まだ襲われているとか、そういったことはないようだった。

 長時間馬にのっていたせいか、体の節々が痛むハルト。

 馬から降りると、鉄柵に覆われた屋敷の入口を探した。

 そして、施錠されている入口を見つけるが、無断で入るわけにも行かない。

 とにかく急いできたためそのへんのことを全く考えていなかったハルトは、そこで立ち往生してしまう。

 ―――と、そこへ。 


「あれ? お兄ちゃん」


「ん……?」


 不意に声をかけられ振り返ると、そこにいたのはリエルだった。

 手には紙袋を掲げ、そこから果物がはみ出している。

 どうやら買い物帰りのようだ。


「リエル。ちょうどよかった、屋敷の中に入らせてくれないか?」


「いいよー! あ、でもちょっと待ってて、おねえちゃんに知らせてくる!」


 そう言うと、リエルはジャンプして鉄柵を軽々と越えると、中に入る。

 そしてそのまま走り去っていった。

 ハルトはその様子を口を開けっ放しにして見ていた。

 いくらなんでも3mはある鉄柵をジャンプで超えるなんて……恐ろしい身体能力である。

 やはりレイナの護衛だけあって、かなり強いのだろう。



 馬を触りながらしばらく待っていると、ハルトがシエルを連れてやってきた。

 柵越しに、シエルはこう言った。


「あなた……向こうに行ったはずじゃなかったの?」


「ああ、行ったよ。だけど、街の人達から色々聞いてね。レイナが危ないっていうじゃないか」


 そう言うと、シエルは露骨に舌打ちした。


「はぁ……救いようのない馬鹿ね。せっかくお嬢様が逃がしてくれたというのに」


「知ってるさ。でも放っておけないだろ?」


「だからって戻ってくる馬鹿は普通いないわ。貴方は究極の馬鹿よ」


 そう言いながらも、鍵を開け、鉄柵の中に入れてくれる。


「そういうぐらいだから勿論強いのよね? もしこれでただのお荷物だったら私、本気で怒るわよ」


「う……ま、まあ腕にはそれなりの自信はあるつもりだ」


「ふーん……まぁいいわ」


 そう言うと、シエルは先に行ってしまった。

 ハルトとリエルはその後に続く。


「お兄ちゃんも、レイナ様を守るのー?」


「そうだよ。レイナは俺を助けてくれた恩人だからな。どこまで役に立つのかはわからないけれど」


「じゃあ私と同じだ!」


 そう言って、なぜかハイタッチさせられる。


「けれど、こんな大きい屋敷によく4人で生活していたな」


「それは、レイナ様が避難させたからよ。もうすぐここは戦場になるから―――という理由でね」



「どうしてレイナは避難しないんだ?」


 俺が言うと、シエルは一瞬沈黙した後、


「……お嬢様は、この屋敷で死ぬつもりだからよ」


「…なんとなく、想像はついていたが……」


「今現在、ルベライトとの兵士達との交戦が続いているけれど、そう長くは持たないわ。

 お嬢様の持つ独自の兵士の軍勢はおよそ1万と傭兵3千。それに大して向こうの軍勢はおよそ5万。

 昔から、敵との戦いにおいてまず最も重要なことは相手よりも多くの兵士を配備すること。いくら1人1人が強いからといって、数の暴力には勝てない。だから、今回の戦いはほぼ負け戦よ」


「王都からの応援は要請できないのか?」


「……それは難しいわね。元々、ミトス王国は兵士の数はそこまで多くない。それに、もし今王都から兵士達を呼び寄せれば、その隙を狙って隣国のメルト王国が攻めてくる可能性すらある。そんな状況で兵をください、なんて言えると思う?」


「……」


「それでもアルテミシア王女は特別に兵士を約1万程こっちに向かわせているみたいだけれど、相手の軍勢には遠く及ばないわ」


 さっきの兵士たちのことを言っているのだろう。

 しかしこっちに着くまでにはまだ少しかかる。



 ――今回の戦いは負け戦……か。


 確かに、兵の数では負けているかもしれない。しかし、だからと言って過去に起きた戦争で兵士が多い方が必ず勝ったとかそういったことはないはず。

 倍以上の差があったとしても勝てる、そんな方法があればいい。

 そうして考えているうちに、屋敷の前へとたどり着いた。近くの馬小屋に馬を入れた後、扉を開けて中に入る。

 1日ぶりだが、まるでもっと長い期間レイナの屋敷にいなかったような、そんな気がした。


「お嬢様は今、書斎でルークラトスと話しているわ」


 そう言ってハルト達は書斎の中へと入る。

 そこには、険しい表情をしながら紙を読んでいるレイナの姿が。その隣にはルークラトスもいた。


「こ、小僧!? 貴様なぜここに」


「え……ハルト!?」


 持っていた紙を離し、驚くレイナ。


「よっ。1日ぶりだなレイナ」


「貴様その口の聞き方、何度言えば―――」


 レイナは手で制止すると、こちらに歩いてきた。


「ユンウィルに行ったんじゃなかったの……?」


「行ったさ。だけどそこで、色々と話を聞いてね」


 そうしてハルトは自分が今知り得る全ての情報をレイナに伝えた。

 レイナは話の腰をおることなく静かに聞いていた。 


「レイナ、シエルから聞いたよ。君はここで死ぬつもりだって。本当なのか?」


 ハルトが言うと、レイナはきっぱりとこう言った。


「そうよ」


「どうしてだ? 逃げ出すこともできるはずだ」


 その言葉に、首を横に振る。


「……ハルト、貴族には貴族としてのプライドというものがあるの。

 たとえ負けるとわかっていても、ここで逃げ出すわけにはいかないの。その結果、死ぬことになってもね」


 それは本心ハルトなのか、虚勢をはっているのかはわからない。

 しかし、ハルトには彼女がどこか無理をしているように見えた。


「爺さん達は? レイナを守るのが仕事じゃないのか」


 レイナを守る爺さん達なら当然逃がすことを優先する。

 そう思ったんだハルトだったが。


「我らが言ったところでレイナお嬢様は動かない。それならば、我らにできることは、君主と共に華麗に散っていくことだ」


「なっ……本気か、爺さん……? どうしてそんなに死ぬ気満々なんだよ!」


 しかし、ルークラトスは答えない。


「それに、もし私が逃げればミトス王国の名誉に泥を塗ることになるわ。辺境伯というものは、それだけ責任が重いの」 


「……」


 そう言って、表情に影を落とすレイナ。

 それを見て、ハルトはもう何も言えなくなってしまった。

 レイナだって、本当は死にたくないはず。しかしその弱音を吐いても、それは皆にも伝わる。だからそれだけは決して言ってはいけないことなんだろう。

 そこでハルトはふと、ここに来た目的を思い出す。


(そうだ……何を弱気になっている。レイナを助けると決めたんじゃないか)


 目の前で表情を暗くするその少女を笑顔にしたい。

 ハルトはそう思っていた。


「そうか、わかった」


 そうしてハルトは皆をぐるりと見渡すとこう言った。


「俺もその戦いに参加させて欲しい」


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