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死の予測 ~流れ着いた先は敗戦寸前の国でした~  作者: リザイン
第1章 漂流、そしていきなり戦場
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1-5 レイナの温情

「―――それで、気がついたら砂浜に打ち上げられて、無様に倒れていたというわけだ」


「へえ……そんな酷いことをする輩がいるのね」


「ああ。だから本当にこの国については何も知らない。

 どうやってここに漂流してきたのか……それさえもな」


 そう言うと、ハルトは最後に残ったサラダを一気に口に入れる。

 

「ご馳走様、美味しかったよ」


「お礼ならシエルに言って。料理を作ったのは彼女だから」


「そうだったな。シエルありがとう」


 ハルトが言うと、シエルはそっぽを向きながら、


「別に……お嬢様の命令だから」


 と言ってそのまま奥へと引っ込んでしまった。

 

「何か、今日のシエルは少し気が立っているわね」


「そうなのか?」


 てっきりこれが素だと思っていたリゼルは思わず聞き返す。


「まぁいつも通りと言えばそうなんだけど、でもなんだかそう見えたの」


「それはきっとこの小僧のせいでしょうな。

 いきなり屋敷に入られていい気はしないでしょう。

 それに今この地域は……」


「ああ……そうだったわね。ハルトとの出会いが衝撃的で忘れかけていたわ……」


 というと、ルークラトスもレイナも表情に影を落とす。

 さっきまで明るかったレイナが見せる、初めての表情だった。

 ……が、すぐにその表情を取り消すと、


「それでハルト、これからどうするの?」


「え? どうするもなにも、俺は一応侵入者になってるしな」


 シエルが言っていたように、ここの領主であるレイナに、ハルトの命はかかっている。

 逆に言えば、レイナの命令一つで簡単に死んでしまうのだ。

 が、話している感じだとレイナはそんな非道な人間には見えない。

 レイナは、微笑むと、


「ふふ、別に私はハルトの事をどうかしようとかは考えていないわ。

 少し話しただけだけれど、ハルトは悪い人じゃないようだし」


「お嬢様、それが甘いというのです。

 だから、アルテミシア王女にいいように使われて――」


「ルークラトス、黙りなさい。

 アルテミシア王女もきっと考えあってのこと。それに、これは辺境伯として私の問題でもあるのよ。

 それを糾弾する権利はないと知りなさい」


「っ……。

 ――申し訳ございません」


 それはレイナが初めて見せる、怒りの感情だった。

 きっと彼女には彼女なりの考えがあるのだろう……。

 しかし、ルークラトスもきっとレイナの事を心配して言っていることは間違いない。

 だから、レイナもそれ以上怒ることはなかった。 


(思ってた通りレイナが俺のことを拘束するとかは考えてないようで本当に良かった…)


「――っと、ごめんね、話がそれたわ。

 とにかく、私はハルトを牢に入れようとかそういうことか考えていないから安心して」


「ありがとう。まぁでも、とりあえず近くで何か仕事でも探すしかないな……」


 とりあえず何をしようにもお金が必要だ。

 とはいえ、剣を振ることしか能のないハルトができる仕事など、力仕事か傭兵ぐらいしかない。


「この辺で、傭兵か何か雇ってるいい仕事はないか?」


「傭兵? ハルトって剣を振れるの?」


「当たり前だ。何のために腰に剣ぶら下げてるんだよ」


「それもそうね。けれど傭兵かー……」


「お嬢様」


「……わかってるわ」


 ルークラトスの睨むような目つきに少し苛立ちながら答えるレイナ。

 

(今何を言おうとしたんだろう)


「傭兵は紹介できないけれど、ここからずっと北に行ったところにとても大きな街があるわ。

 そこにいけば、いい条件での仕事があるはずよ」


「北……か。なるほど、わかったよ」


 ハルトは立ち上がる。


「待って、行く前に私が地図を描いてあげるわ!」


 そう言うと、レイナは何処かに行ってしまう。

 そしてすぐに紙と羽ペンを持っててくると、地図を描き始めた。


「ほんと、何から何まで助かる……」


「いいのいいの。

 ちょっと待っててね………………これでよし、と」


 そう言って地図を描いたあと、折りたたんでハルトに渡す。

 つづいて布袋も渡してきた。

 中を見ると、そこには数枚の金貨が。

 慌てて突き返そうとする。


「いや、流石にこれは受け取れない」


 助けて治療してくれただけでなく、ご飯をご馳走してくれて、更に北の街までの地図を描いてくれて、更には路銀までくれようというのか。

 その気持ちはとても嬉しい。

 だが、流石にここまでお世話になるわけにはいかないと思ったハルトは拒否した。 


「そうですぞレイナお嬢様。こんな小僧に路銀など渡す必要ありませんぞ」


「けれど、収入を得るまでのお金も必要でしょ?」


「俺は大丈夫。数日ぐらいなら、水さえあればなんとかなるし」


「それは絶対にダメ。せっかく元気になったのだから、無理しないの」


「だが……」


 渋るハルトに、レイナは苦笑すると、


「じゃあそうね……。じゃあこれは、貸すということでどうかしら?」


 貸す……つまり、後で返すということか。

 まぁそれなら……。


「わかった。じゃあこのお金はきっと2倍にして返すよ」


「ふふ、別に大丈夫よ。でもありがとう」


 そう言ってレイナは破顔した。

 彼女の笑った顔は、とても神々しく、そして美しかった。

 思わず見惚れそうになるのを顔をそらしてごまかす。

 ハルトの顔は少し赤くなっていた。


「と、とにかくお世話になったな。この恩は絶対に忘れない……。

 必ずいつか、返しに来るよ」


「ありがとう。見送りはリエルとシエルにさせるわ。2人共、ハルトを送ってあげて」


「はーい!」

「かしこまりました」


 そうしてハルトは2人に連れられて食堂を後にした。

 そのままエントランスを抜け、入口の大きな扉を開けばそこに広がっていたのは大きな庭だった。

 2人の後ろを歩きながら、周囲を見渡す。

 きちんと庭木は手入れされており、遠くに見える花畑はカラフルで実に綺麗だ。

 そうして進んでいくと、大きな鉄柵が見えてきた。軽く3メートルはこえている。どうやら屋敷の周囲はこの鉄柵で覆われているようだった。


「ここまでで大丈夫だ」


「そう、それは良かった。じゃ、もうここには二度とこないことね」


「おいおい、つれないな」


「これは別に貴方が嫌いとか、そういうことも含めた警告でもあるわ」

 

 あぁ、嫌いってことも含んでるのね……。

 ハルトは思わず苦笑した。

 

(警告……?)

 

「おねぇちゃん、そんなこと言ったらかわいそうだよ。

 じゃあねーおにーちゃん! またどこかで会ったら遊ぼうね」


 そう言うとリエルは俺の手を握ってきた。


「おう、そのうちな。お前も、レイナの護衛頑張れよ」


「うん!」


「……リエル。戻るわよ」


 そうして強引にハルトとリエルを引き剥がすと、シエル達は屋敷の中へ戻っていく。


「わわっ!? おねえちゃんそんな強く引っ張らないでよーー」


「……」

 

 それを見届けると、屋敷の外へと出た。

 少しの間だけどお世話になったレイナの屋敷に一礼すると、その場を後にする。



「えっと……確か北に行けばいいんだよな」


 ハルトはレイナの地図を開き、街までの経路を確認しようとする―――ーが。


「…………え?」

 

 そこに描かれていた地図は、なんというかやばいものだった。

 なにがやばいって、まず描いてあることが読めない。

 加えてこのミミズのような道をどうやって読めと言うんだ……?

 その上なぜか所々に、『ここが目印☆』と描いてくれてるのはいい。

 しかしいかんせん読みにくすぎた。

 果たしてこの地図で北の街に到着できるのだろうか……。


「い、いや。せっかくレイナはここまで親切にしてくれたんだ。こんなことで文句を言っていてはダメだな」


 ハルトは、少し不安を抱えながらも、北の街へと向けて出発したのだった……。 

 

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