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死の予測 ~流れ着いた先は敗戦寸前の国でした~  作者: リザイン
第1章 漂流、そしていきなり戦場
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間章 ルークラトスの戦い



 ハルトとリエルがエルメタをひきつけている間、ルークラトスは敵陣の大将めがけて一直線に向かっていた。

 精鋭(エース)達数名もその横に続く。


「ルークラトス様! 雑兵は我々に任せて、大将の元へ!」


「うむっ! 頼んだぞっ」


 エルメタを突破したとはいえ、周囲には何千もの兵達が控えている。それらをたった数名で突破するのは事実上不可能。

 しかし、ルークラトスにはベネストレアの加護の1つ、“脚力強化”がある。

 四方八方から降り注ぐ兵士達の攻撃を、ルークラトスは軽々と躱していくと、


「邪魔だあぁぁぁどかんかっ!!」


 まるで鋼のように固くなった脚で敵兵めがけて蹴りを放つ。

鎧を軽々と粉砕しながら、敵兵は吹っ飛ばされていった。

 その余波で、周囲にいた敵兵も倒れていく。

 たった1人でそれに立ち向かうルークラトスは、さながら鬼神のようであった。


「くっ……なんだあの爺は!」


「知らねぇっ! 老いぼれの分際でしゃしゃり出てくんじゃねえ!!」


「誰が老いぼれじゃっ! 小僧達めが!」


 周囲の敵兵を蹴散らしながら前へとすすむルークラトス。

 ルークラトスは後ろから奇襲をしかけようとした兵士をねじ伏せると、声高々にこう叫んだ。

 

「私の名は、ルークラトス=エッジ! 我が敬愛なるレイナ=クラリスの護衛にして、現最上級騎士……。

 我々の領土を侵略しようとする不届き者達よ!!

 ここを通りたければ、私を倒してからにしろっ!!!」


 ルークラトスの片眼鏡がきらりと輝く。

 鋭い眼光で周囲の兵士を威嚇すると、ルークラトスの強さを目の当たりにした敵兵たちは明らかに萎縮する。


「お、おい……エルメタ様はどこいったんだよ! あんなの、勝てるわけないぞっ」


「しらねーよ! 勝手にどっか行ったんだよ!」


「はぁああ!? 戦時中なのに何やってるんだよあの人は!!」


 敵兵たち焦る声がルークラトスの耳に響く。


(ほう……)


 ルークラトスは更に横から襲いかかってくる兵士を蹴りとばすと、前進していく。

 精鋭たちの援護は期待できないだろう。

 ここから先、大将を討ちとれるかどうかはルークラトスに全て委ねられている。

 

「ふんぬっ!」


 “脚力強化”を使い、敵兵の骸の山を踏み台に、大きくジャンプする。 

 弓兵の遠距離攻撃を剣で撃ち落としながら、前へ、前へ。

 剣同士のかち合う金属音。

 耳をつんざくような、兵士達の轟声。

 それらを聞きながら、ルークラトスはふと後ろを振り返った。


(よく戦っておる……)


 遠くの方で、エルメタとハルトが交戦していた。

 ハルトは果敢に攻めていくものの、どれも空をきるか、受け止められるかどっちかだった。

 すぐに倒されるかと思ったものの、ハルトは意外にも善戦している。エルメタの重い攻撃を無理に受け止めようとせず、回避することに全力を注いでいるのは正解といえる。

 過去にエルメタと戦ったことのあるルークラトスだからこそわかることだった。

 しかし、ルークラトスにはある疑問も浮かび上がってくる。


「本当にあの小僧は何者なのだ……」


 突如、海から漂流してきて、オルパ王国という聞いたことのない国からやってきたというハルト。

 最初は、何をふざけたことを言っていると思っていた。絶対に敵の手の者に違いない――と。

 しかしそのハルトは現在、劣勢とはいえエルメタ相手に時間稼ぎをしてくれている。

 もし仮に敵だとするならば、そんなことを引き受けるだろうか?

 相手はあのエルメタである。

 戦えば、生きて帰ることはほぼ不可能だ。

 ルークラトスはハルトに対し、複雑な思いを抱いていた。

 レイナお嬢様は、ハルトの事をあまり疑っていないようだった。だから、自身がきっちりと見極めなければならない。

 レイナお嬢様に害なす者は全て排除する。今までずっとそうしてレイナお嬢様を守ってきた。

 それがルークラトスに課せられた任務でもあった。


(私は、奴を信じても良いのだろうか……)


 ルークラトスは、2人の戦いを見ながらそんなことを考えていたが、やがて目の前に“その者”が現れると、思考を遮断する。


「へぇ~、ここまでたどり着くなんて驚きだわ」


 ルークラトスがたどり着いた先は、敵陣の核――つまりは大将の元だった。

 他の兵士達と違い、ほとんど武装しておらず、露出度も高い。

 長くて黒い髪は束ねられていないため、風で無造作に動いている。

 キツネのような、鋭い目つきが特徴の女だった。

 その女はルークラトスをじっと見据えながら、ゆっくりと椅子から立ち上がる。


「私も驚いた。まさか、大将が貴様のような女だったとは」


「あら……それを言うならそっちも同じじゃない。レイナ…っていうんだったかしら?」


 女は口元を歪ませながらそう言った。


「軽々しくお嬢様の名を口にするでない、この醜女(シコメ)が」


 すると、女の眉が明らかにピクッと釣り上がった。


醜女シコメ……? く……ふふ、ふふふ……」


 女は傍に置いてあるルークラトスの身長ほどのある大きな斧を軽々と両手で持ち上げると、睨みつけた。



「今一番言ってはいけないことを言ったわね……。覚悟はできているのかしら?」


「ほう……このような安い挑発に踊らされるとは。所詮は貴様もその程度――」


 ルークラトスが言う前に、女が大きな斧を振りかざしてきた。それをかわすと、斧が地面に大きなヒビをいれ、そこから地割れが起きる。

 その地割れは、敵兵もろとも巻き込んでいった。


「仲間をそのような目に合わすとは……正気か?」


「ふん、そこにいたから悪いのよ。むしろ、人生の終焉が私だったことに感謝して欲しいぐらいね」


「狂っておる……」


 ――こいつは危険すぎる。早いうちに、倒しておかないと、のちのち面倒なことになりそうだ。


 ルークラトスは内心でそのように結論づけた。


「エルメタといい、貴様達には良心というものが感じられぬ。私が教えてあげる故、感謝するが良い」


 そう言うと、ルークラトスは構えを取る。周囲の兵士たちは、ルークラトスの威圧感に、一歩も動けないようだった。

 自分達では太刀打ちできない――そう学習したのだろう。


(上の者より、下の者の方が学習するとはまさにこのこと……)


「あいにくだけど、そんなもの私には不必要ね!」


 と言って斧を振り回してきた。

 流石は大将というべきか、その一手一手は非常に重く、ルークラトスですらまともに受け止めれば腕を痛めるのは間違いないだろう。

 再びかわすルークラトスに、舌打ちする女。

 すると、斧で攻撃することは諦めたのか、手数の多い短剣に持ち直した。


「はあっ!」


 女の鋭い一撃を全て受け止めるルークラトス。


「なんだ、そんなものか? これならリエルの方が全然強いの……」


「ちっ……老いぼれが粋がってんじゃないわよ!」


「ふん!」


「きゃあああぁっ!?」


 ルークラトスの“脚力強化”を受けた鋼のような脚に蹴飛ばされ、女は後方の兵士達めがけて突っ込んでいった。


「私は老いぼれではない!! まだまだ現役だっ」


 そう叫ぶと、女は兵士達に支えられるようにして立ち上がる。


「クレア様、大丈夫ですか?」


「ええ……大丈夫よ」


 クレアと呼ばれたその女の額からは一筋の血が流れて出ていた。

 激昂するかと思われたが、意外にもクレアは冷静にこう告げた。


「しかし、あんた達も幸運よね……。アリサ様に目を付けられているのだから」


「何のことだ?」


 眉をひそめ、聞き返すルークラトス。


「あら、知らないの? でも教えてあげなーい」


 クレアは意地悪そうな、嘲るような笑みを浮かべる。


「貴様らの目的は何だ? どうして我らの国を侵略しようとする」


「そんなこと教えれるわけ無いでしょう? その腐った脳みそで永遠に考えているといいわ。

 けれど、そうね……かわいそうだから、この拠点を征服したらどうするか、だけ言っておこうかしら。


「そんなことはどうでもよい」


 しかし、ルークラトスの言葉を無視し、クレアはこう言った。


「……まずは、街全体を焼け野原にしようかしら。

 そして、レイナとかいうムカつく女は男共に襲わせましょう。他の女達も同様ね。

 あれだけ高貴な女なら、きっと男達はよだれを垂らして喜ぶでしょうね」


 クレアは続ける。


「散々おもちゃにした後は、見せしめに、町民達の前で公開処刑でもしましょうか。そうすれば、私達に刃向うものは減るでしょうね……。

 そうね……全身の皮でも剥ごうかしら。

 知ってたかしら? 全身の皮を剥がれると、長時間苦しんだ後死ぬの。すぐ死ねないのよ?

 どれだけ美しい女でも、皮を剥がれればそれはもう、ショッキングな姿になるわ……ふっふふふ」


 クレアは、いったい何が面白いのか腹を抱えて笑い始める。

 ルークラトスはあまりの残虐極まりない発言に思わず激昂しそうになったものの、明鏡止水の心でなんとか自制心を保った。

 剣の刃をクレアに向けると、ルークラトスは、


「やはり貴様の存在は、レイナお嬢様にとって害となる……だからここで死んでもらう」


 あまり時間もない――そう判断したルークラトスは一気に決着をつけるべく、本気でクレアに立ち向かった。


「くっ!」


 クレアはルークラトスの攻撃を受け止めていくものの、徐々に押され始める。

 それを見ていた敵兵は、


「クレア様! 助太刀いたしますっ!」


 そう言って、敵兵達が横槍を入れてくるものの、


「邪魔を……するなあああぁぁぁ!!」


 と言って、ルークラトスは回し蹴りを放ち、敵兵を吹っ飛ばしていく。

しかしその際に生まれた隙を、クレアは見逃さなかった。


「残念だけど、終わりね――――」


 そう言って、クレアが首に剣を突き立てようとした――が、


「――――こんな簡単な陽動に引っかかるなんて、非常に残念じゃ……」


「え……」


 ルークラトスは体制を崩したかのように思えたものの、それは単なるフェイクに過ぎなかった。

 そして、


「さらばだ――ぬおおおああああぁぁぁっ!!」


 雄叫びのような声をあげて、ルークラトスは懇親の一撃を込めて蹴りを放つ。

 鎧をも貫通するほどの威力を持つルークラトスの重い一撃。

 それは、ほとんど武装していないクレアの腹を貫通するのはあまりにも容易い事だった。

 腹から大量の血しぶきをあげ、ルークラトスは返り血を浴びる。


「う……あ…ぁあ」


 声にならない声を上げながら、クレアは一歩、一歩後退していく。その度に地面が赤く染まっていく。

 クレアは腹に手を当て、べっとりと付着する血を見ながら、


「アハ……アハハ…………、アリ……サ様……申し訳……ありま――ごふっ!!」


 クレアは口から大量に吐血すると、そのまま崩れ落ち――――息絶えた。

 周囲の喧騒が、一瞬にして消えたかのように感じられる。



 そして慌てふためく敵兵達に、ルークラトスはこう叫んだ。


「見よ! 貴様達の大将は私が討ち取った!! それでも尚、我々に歯向かおうというのか!? さぁ選ぶが良い。このまま私と戦い、無力にひしがれながら死を遂げるか、それとも撤退という賢き選択をするのか!!」


 ルークラトスがそう告げたのと同時期に、敵兵達からこんな声が上がった。


「報告! エルメタ様が捕虜にされたようです! この戦いは我々の負けですっ撤退しましょう!」


「な、なんだと!?」


 敵兵の兵長が頷くと、敵兵は鏑矢を放った。


「て、撤退だ! この戦は負けだ! 皆、一旦撤退しろ!」


 そう言うやいなや、敵兵達は一斉に後退していく。

 ルークラトスは、自陣へと走っていきながらこう告げた。


「皆の者、大将は私が討ち取った。故に敵は撤退を選んだようだ!

 逃げる者は捨て置け! 我々とて、全員を相手にしている余裕はない!」


 そう言うと、味方の兵士達から歓喜の声が上がる。


(小僧……やってくれおるな)


 ルークラトスはそういうものの、内心ではハルトの事を賞賛していた


――サフィラ。見ておるか……私は、護ってみせたぞ――

   

 そうしてルークラトスは無事、自陣へと戻ることに成功する――――。








 

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