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死の予測 ~流れ着いた先は敗戦寸前の国でした~  作者: リザイン
第1章 漂流、そしていきなり戦場
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間章パンツ

 エントランスにまで向かうと、リエル達が壊れたシャンデリアの後処理をしていた。


「ハルト、傷は大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。俺も手伝うよ」


 大きい破片は、シエルが持ってきたゴミ箱の中に入れ、小さな破片はちりとりと箒で掃いていく。


「しばらくエントランスが暗くなるわね」

「ああ。だけど、どうして急に落ちてきたんだろうな」


 ハルトは天井を見上げる。 

 シャンデリアはワイヤーで吊るされていたはずだったが、それが落ちてくるなんて……。

 その時ハルト何か異変に気づくと共に、頭の中にまるで吸い込まれるかのように、その情景が浮かび上がってきた。


(――――!!)



 そうだ……。さっきレイナはこのシャンデリアで―――。

 ハルトは自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、レイナの方に顔を向ける。

 彼女はリエルやシエルと色々話しながら、一緒に掃除を手伝っていた。 その様子を見て、安堵する。

 もし、あの場にハルトがいなかったらレイナは死んでいただろう。

 その後に聞こえてきたシエルの狂ったような声がハルトの頭の中に響く。


「……」


 どうして急にそんなものが見えたのだろうか。

 あれは、予知夢だったのか。それとも、何かの未来を予測したのか……偶然なのか……。

 いや、偶然という道に逃げるのはよそう。

 けれどとにかく、レイナを助けられることができて本当に良かった。

 せっかく敵が退いてくれてレイナが死ぬことはなくなったのに、その矢先にこんなことで死んでいたらたまったものじゃない。


 一通り掃除を終えると、ハルト達は食事をとった。

 正直さっきのことが衝撃的すぎて味なんてわからなかったものの、無理やり腹を満たした。

 そしてさっさと風呂を済ませると、部屋に戻り泥のように眠った。

 本当は、日課の鍛錬などが残っていたが、疲れでそれどころではなかった。

 レイナやシエルも、そんなハルトを見かねてか特に何もトガめるようなことはしなかった。

 そして次の日。

 早朝に目が覚めると、早速日課の鍛錬を行うため、屋敷の外へ出ようとしたところ、シエルとばったり遭遇した。

 両手で大きなカゴを持っている。


「おはよう」


 そう言うと、シエルはカゴからひょいと顔を覗くようにしてこう言った。


「随分早いのね。まだ朝の五時なのだけれど」


「ああ。昨日は寝た時間が早かったからな。とりあえず、外でちょっと体を動かしてこようと思って」


 昔から、どれだけ疲れていようが一晩寝れば全回復する体質のおかげで、ハルトは有り余るぐらいに元気だった。

 シエルにきちんと手当してもらったおかげで、背中の傷も全く痛くない。


「そう」


 シエルは特に興味を示さず、一言でそう切った。


「シエルこそ、朝早いじゃないか」


「当たり前じゃない。今から洗濯と朝食の支度をしないといけないし。

 じゃ、私急いでいるから」


 そう言ってシエルは足早にハルトの元を去っていった。

 その際に、カゴから何かを落としていく。


「おーいシエル何か落として―――」


 しかしシエルは既にいなく、その声が届くことはなかった。


「なんだこれ……」


 白い布のようなものを落としていったのでそれを拾い上げ、広げてみると、


「なっ――」


 それは誰かのパンツだった。

 (そ、そうか。あのカゴは洗濯カゴだったのか。納得納得。 

 ってそうじゃない!)


「シエ――」


 と、言いかけてハルトは口をつぐんだ。

 パンツ落としたぞーなんて言えば、一体何を言われるかわかったもんじゃない。

 これは、後で風呂場の洗濯カゴに入れておけば大丈夫だろう……。

 そう思い、そのパンツをポケットの中へと突っ込むと、屋敷の外へ出た。

 外は明るくなってきているものの、まだ薄暗い。

 遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくるのを感じながら日課の鍛錬に勤しんだ。

 そして、2時間程みっちり練習をして汗を掻いたあと、屋敷の中へ。

 するといい匂いが俺の鼻をかすめ、それ同時にお腹が鳴った。

 汗を拭くためタオルを取りに行ったあと、レイナが2階の部屋から出てきた。眠そうに目をこすりながら、ゆっくりと螺旋階段を下りてくる。


「ふぁ……おはようハルト」


「おはよう」


 タオルで汗を拭きながら、ハルトは食堂へ入っていく。レイナは顔を洗うため、洗面所にまで行ったあと、食堂に入ってきた。

 爺さんがいないためか、食堂は静かだったものの、リエルとシエルが調理場から戻ってくると、少し騒がしくなった。

 全員が席に着くと、俺達は食べ始める。 

 リエルやシエル達も一緒になって食べ始めたので、一瞬驚いたものの、厳しいルークラトスがいないから特別に、とのことらしい。

 食べながらレイナにこんなことを言われる。


「昨日はバタバタして詳しく聞けなかったんだけど、一体どうやってエルメタを捕まえたの?」


「それは少し私も気になる」


 珍しく、シエルまで興味を示してきた。


「えっと……まぁほとんどリエルのおかげのようなものだ。リエルの五感消失で一気に五感を奪ったんだよ」


「お兄ちゃんがいなかったらあの人を仕留めるのは絶対無理だったよっ! だって、お兄ちゃんがあの人とつばぜり合いになってなかったら、隙を見つけることもできなかったもん」


「あのエルメタとつばぜり合いにまで持ち込んだの!?」


 レイナは飲んでいたコーヒーをテーブルに置く。


「うんっ。敵兵さん達と戦いながら、お兄ちゃんの方が心配で視線を送っていたんだけど、互角に戦ってたからわたしもビックリしちゃった!」


「え、ええ……嘘でしょ?」


 半信半疑のシエル。

 シエルがそう思うのも無理はない。

 ルークラトス曰く、彼女の強さは人間離れしている。実際ハルトも、未来予知が無ければ瞬殺されていただろう。そのぐらいエルメタの攻撃には力強さと速度を持っていた。

 リエルと共に戦ってようやく勝てたのだ。

 できることなら、もう相手にしたくはない。


「もしかして、ハルトのいた国ではハルトと同じぐらい強い人がいっぱいいたの?」


「ん? ……まぁ、そうだな。いっぱいって言うほどではないけど、互角に戦える人は何人かはいるよ」


「す、すごい……。相手はあの騎士団長だというのに」


 ああ、そうか。エルメタは騎士団長だったんだな。


「私は、この目で見ないことにはなんとも言えないわ」


 と言って、疑念を拭えないシエル。


「まぁお姉ちゃんもそのうち絶対わかるよ~」


 と言って笑うリエル。


「それはともかく、レイナ。これからどうするんだ?」


「そうね……。とりあえずルークラトスから何か報告がないとなんとも言い様がないわ」


 つまり、暫くはここで待つしかないというわけだ。


「だから、ハルト。ルークラトスが戻ってくるまでは、屋敷にいてもらえないかな?」


「もとより、そのつもりだよ」


「え、お兄ちゃんまだ屋敷にいるの!? やったやった~」


 歓迎してくれているようで、俺は嬉しくなった。


「えー……まだいるの?」


 (……まぁ、そうじゃない人もいるみたいだけど)


 なにはともあれ、ルークラトスが戻ってくるまではレイナの屋敷にいることになる。

 その先は……。

 

 (今は考えるのはよそう。その時はその時だ)


 ハルトは、サラダを口に放り込んだあと、水を飲んだ。


「ところで1つ聞きたいのだけれど」


 シエルの発言に皆の視線が集まる。


「私のパンツが一つ足りないの。心当たり無い?」

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