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死の予測 ~流れ着いた先は敗戦寸前の国でした~  作者: リザイン
第1章 漂流、そしていきなり戦場
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1-11 エルメタ=バリアン

 遠くに聞こえていた喧騒は段々と近くなり、次第に戦況がはっきりと見えるようになってきた。 

 右翼ではリエルと同じぐらいの背の小さな少女が、体に見合わない大きな剣を持って、兵士達を次々と薙ぎ倒していく。

 金色の長い髪に、鋭い目つき。

 胸には隠すためだろうか、サラシできつくしめられており、白いジャケットを深々と来ている。しかしその白いジャケットは返り血で赤く染まっていた。

 

――あれがルベライトの狂犬エルメタか……。


「おらおらおらぁああっ! もっと根性出せやあああァ!!」


 そんな叫び声を上げながらエルメタが兵士達を次々に屠っている。

 その攻撃には全くためらいがなく、彼女が殺すということをなんとも思っていないことを示していた。

 横で並走するルークラトスが憎しげに彼女の方を睨んだ。


「まずいな……兵士たちが完全にエルメタに引け腰になっておる」


 敵兵を相手にしながらエルメタを警戒しないといけないという恐怖に、実戦経験のあまりない兵士は完全に戦意を失いかけている。

 中には逃げ出そうとする者もいるが、兵の小隊長の掛け声でなんとか士気を保っているにすぎなかった。

 しかしこのままでは右翼が崩壊するのも時間の問題。

 既にあのエルメタとかいう少女のおかげで半壊しかけている。

 今からハルトはあの化物のような少女に、リエルと共に戦わなければならない。

 後ろを見ればリエルが付いてきているが、その瞳には光がないため表情を読むことはできない。彼女にとっては、あの眼帯が人格を入れ替えるスイッチか何かなのだろう。

 その冷酷な瞳は、明るかったリエルとのギャップが極まって、ハルトの背筋が凍りそうになるほどだった。



 そしてハルト達十数名が馬を走らせてきたことに、ついに気づくエルメタ。


「あん……? また応援でも呼びやがったのか」


 エルメタは足元で苦しげに呻く兵士にとどめをさすとこちらを振り向いた。 


「気付かれたな。小僧、もう後戻りはできんぞ……。

 覚悟はいいか?」


 ルークラトスからそう言われ、ハルトは頷く。

 これからルークラトスが総大将を討つまでの間エルメタや他の兵士達を相手にしなければならないのだ。緊張が高まる。


(ふぅ……よしっ)


 そのまま乱戦の中へと突っ込んでいく。

 馬に驚いた敵兵たちが道を開けるものの、敵の攻撃が馬に命中し俺達は馬を失った。そしてそのまま地面に着地する。


「爺さん、行けっ!」


「ああ、頼んだぞ小僧っ」


 ルークラトスは馬からジャンプすると、そのまま脚力強化を使い一気に突破を試みた。

 しかし……


「へぇ、そういうことか」


 エルメタは不敵に笑むと、突破を図ろうとするルークラトスの目の前に現れた。

 ルークラトスとエルメタはまだ少し距離があったはずだ。

 その上脚力強化でかなり速度を上げていたはず。

 それなのにエルメタは一瞬にしてルークラトスとの距離を詰めたのだ。


(……なんだ今の速さ!?)


 しかし、驚いている場合ではない。

 リエルは、馬から飛び降りると両手に持った短剣で次々と敵兵の急所を刺していく。ほとんどの敵兵はリエルに為すすべがなく一撃で死んでいった。

 ハルトはエルメタと対峙する爺さんの元へと駆け寄る。

  エルメタは、躊躇せずルークラトスに攻撃を仕掛けた。


「させねぇよっ!」


  ハルトがすかさず爺さんの前に割り込み、両手でその攻撃を受け止めた。

 その衝撃で思わず剣を持つ手が痙攣ケイレンを起こしたかのように大きく震える。


「ぐっ!! なんて重い一撃だ……」


 エルメタが片手で放った一撃を両手で受け止めなければならないほどの強い攻撃に、ハルトは思わずそう呟く。


「あん? ……なんだお前」


 割り込んできたハルトに、不審な目を向けるエルメタ。

 目だけで殺せそうなぐらいの殺気だった。


「爺さん、今のうちに行け!」


「ああ!」


 ルークラトスはそのままハルト達を飛び越えると、先へと進んでいった。


「あってめ、待ちやがれっ!」


 後を追おうとするエルメタだったが、その先にはリエルが待ち構えていた。


「……」


 リエルは冷酷な瞳でエルメタを見ている。

 顔には敵兵からの返り血がかかっており、相当数の敵を倒したことは明らかだった。


「おい、てめぇ。邪魔だ、どけよ」


 しかしリエルは答えない。


「オレはガキだろうが容赦しねぇぞ!」


 エルメタがリエルに斬りかかった。 

 リエルは、素早くその攻撃をかわすと、その後ろから自身を攻撃しようとしてきた敵兵を躊躇チュウチョなく斬った。


「うわあああっ!? な、なんだっ目が―――!?」


 どうやら五感消失が発動したらしい。腹部を斬られたのに突然目が見えなくなったことに驚く兵士。

 これであの兵士は戦闘不能も同然だろう。


「……?」


 エルメタも訳が分からずにその様子を見ていた。

 ハルトはその隙を見図らい攻撃を仕掛ける。

 しかし、まるで背中に目でもついてるかとおもうぐらいに素早くかわされてしまった。 


「っ! 不意打ちとは卑怯じゃねえか!!」


「戦場において不意打ちも糞もあるかよ!」


 今度はエルメタの牙がハルトに向いたようだ。

 リエルを見れば、さっきから湧き出てくるように増える敵兵に手こずっているようだった。

 ここにいるのは、このエルメタとかいう少女だけではない。味方もいるが、敵兵も当然たくさんいる。

 リエルがこちらに戻ってくるその間までハルトが相手になるしかないだろう。

 エルメタはハルトを激しく睨むと、その大きな剣で真っ二つにしようとしてくる。

 しかし、何処に攻撃が来るか未来予知により頭の中に情報として入ってくるため、ハルトはその猛攻撃をかわしていく。


(右――胴、そして首元と思わせておいて腹―――)


 しかし、ほんの少しでもタイミングがずれればその瞬間終わりという紙一重の戦いだった。

 その上相手の攻撃が速すぎて、もはやこっちは避けることが手一杯。なかなか攻めることもできない。その上時おり敵兵から横槍を入れられることもあり、かなり厳しい戦いだった。


「はははははっ! おら、どうした。逃げてばっかじゃいつまでたってもオレを倒せねーぞ!?」


「くっ……」


 大きな剣をまるで軽い棒切れのように振り回すエルメタに、為すすべのないハルト。

 何度か攻撃をしかけてみるも、全て空を切ってしまう。

 ルークラトス達が恐れるのも無理はない実力の持ち主だった。 

 エルメタの攻撃を受け止めるのは非常に危険だ。下手をすれば防御しても後方に飛ばされてしまう。

 もし、あれが片手からでの攻撃ではなく、両手からだったらと思うと、ハルトは身震いする思いだった。


(だが……)


 ハルトは生活のほとんどを剣術に捧げてきた。

 そして、国の代表として戦ったという誇りがある。

 だからこんなところで負けてはいられない。それも相手は小さな少女なのだ。

 ハルトは再度自身の闘志に火をつけると、果敢に攻めていく。

 彼の一撃がエルメタの胴に入ろうかと思った瞬間、彼女は咄嗟に剣の柄でガードした。金属特有の甲高い音が鳴る。


「ふーん、お前中々やるな。オレはなんだか楽しくなってきたぞ! 」


 エルメタは、この状況下で笑っていた。


「この狂人め……」


「狂人? 失礼なこというんじゃねぇ! オレにとってはこれが普通なんだ――よっ!」


 再度斬りかかるも、剣先同士がかち合う。

 そしてそのままつばぜり合いになる。

 両手がその衝撃に震え、段々と力の感覚がなくなってくる。

 ハルトは歯をくいしばって押されないようにしながら、次の一手を考えていた。

 だが……。


「じゃあこれはどうだ? おらよ!!」


「―――」


 エルメタは渾身の力を込めて蹴りを放ってくる。

 しかし、それを読んでいたハルトは横にそれると、更に追撃で背中を斬ろうとしてくるエルメタの方に素早く振り返り思い切り剣を上へと薙いだ。

 その衝撃波でエルメタはそのまま上へと飛ばされる。


「おおぅ!?」


 エルメタは5メートル程上に飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられる。

 すぐに立ち上がるも、その額からは一筋の血が流れていた。

 激昂するかと思いきや、エルメタの反応は意外なものだった。


「は、はははは!! いいな、お前。オレとここまで戦える奴なんか久しぶりだぜ」


 と言って破顔した。

 それは年頃の少女の笑みとなんら変わりない屈託のない笑みだ。

 鋭い目つきのエルメタしか見ていなかったためか、ハルトはここが戦場であるにもかかわらず彼女のことを少し可愛いと思ってしまった。


「今回の戦では暴れられずに鬱憤(ウップン)が溜まってたんだ。だから、お前のような強い奴と戦えてオレは嬉しいぜ……」


「それはありがとう。だけど、早く俺を倒さないと、爺さんがお前んとこの総大将を倒しちまうぞ?」


「ふん、その時はその時だ。ただ、オレは今、目の前にいる強い奴と戦えればそれでいいんだから、よっ!!」


 と言ってエルメタが凄まじい速度で攻撃してくるのを、ハルトはかわす。

 彼女の攻撃はまともに受けては身が持たない。だからこうしてかわさなければならない。

 だが、エルメタはこっちに気を取られているおかげで、ルークラトスの方にまでは気が回っていないようだった。

 ハルトは連撃を加えるも、どれも寸前のところで躱されてしまう。

 気のせいか、エルメタの速度が更に上がっているような気がした。


(ほんっっっとに化物だな、こいつ)


 ハルトは、国の存亡をかけて戦った時の相手よりも一回り、いや、二回りは上回っているであろう強さをもつエルメタにもはや笑うしかなかった。


 ――と、その時、ハルトの隣に誰かが立つ気配がした。

 振り向くと、そこにいたのはリエル。

 どうやら、敵をあらかた倒してきたようだ。

 リエルは両手に短剣を持ったままエルメタの動向を伺っている。


「ほぅ、そのガキも中々強いようだな。こりゃ面白いぜ……

 2対1か。いいぜ、それぐらいハンデ背負ったほうが、燃えるってもんだよなァ!!」




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