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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

オオカミの嫉妬

作者: はるな


「あんたのこと、興味ないから」


(うわ、またこのセリフだよ。)


学校の裏庭の噴水前。有名な告白スポットだ。


その近くの木の陰から、沙月さつきは見ていた。


「・・・そう、ですか。」


「終わり?じゃぁ、俺行くから。」


告白されていた少年は何事の無かったかのように、校舎の方へ歩いて行った。


(なんてまぁ、ばっさり切っていくのだろうね、あいつは)


一人残された少女は、少年を追うこともなくとどまっていた。


うつむいた頬に光るものが伝っているのが、沙月からも見えた。


気の毒だと思う。ほんと、心から思う。


沙月は音をたてないように、慎重にその場を去った。




教室に帰ると、予想通り、不機嫌顔のアイツが待っていた。


「告白記録がどんどん伸びますねぇ、流石我が学園が誇る王子様。」


「沙月、お前また見てたのかよ・・・。そんなに俺のこと気になんの?」


「アホか。俺は巨乳好きじゃ、ボケ!」


鳴海響なるみ ひびき、沙月たちが通う学園で今一番モテている男だ。


女子からの告白記録は本日のを加えて100回は超えている、女子曰く「王子様」。


ちなみに男子からの告白も数回あった。性別を超えたモテ男。


深い闇色の髪を適当に、けれどおしゃれに肩まで伸ばし、お祖父さんから受け継いだという青眼は鋭く光る。


シャープな輪郭には気品が、意地悪く笑う唇には色気が漂っていた。


全く憎たらしいくらいの美しさだ。


見ているうちに面白くなくなってきて、沙月はじとっと睨み付けてしまっていた。


「何だよ。」


「別に・・・。」


頬をふくらまして、そっぽを向いた。


沙月は響とは違って、いたって普通の男子高校生だ。黒い短髪に黒目の一般的な日本男児だ。そりゃヤキモチの一つや二つする。全くどうして自分とこの男が友人関係でいるのか不思議なほどだ。


その時突然、響は沙月の膨れた頬を長く綺麗な指で突っついた。


「いって!何!!」


「ハムスターみてぇ。」


クスクス笑って言う。


ちきしょう!そんな姿も絵になるっっ


「あのなっ・・」


「おい、沙月。ちょっといいか?今度の会議のことなんだけど・・」


響に食って掛かろうとしていた沙月は動きを止め、振り返った。


滝沢たきざわ。あぁ、いいよ。」


生徒会の庶務仲間・滝沢明彦は、両手いっぱいに抱えた資料の束をぎゅっと抱きしめ、笑った。


「悪いな。」


「気にすんな。どうせ暇だし」


そう言って席を立とうとすると、突然、腕を誰かに引っ張られた。


なんだよ、と悪態をついて振り向くと、響がものっすごい不機嫌顔で沙月を睨んでいた。


「離せよ、響。大事な用なんだ。」


「今、俺と話してんだろ?暇じゃないじゃん。」


「暇だから話してたんだろ!生徒会の話なんだ、お前との話より大事だわ!」


きつく握られていた手を振り払って、沙月は滝沢と一緒に少し離れた席に行った。


「で、何?」


「これだよ。こないだの学内アンケートの結果なんだけど、僕なりにまとめてみたんだ。どうかな?」


言いながら沙月に資料を手渡した。


ざっと資料に目を通し、沙月は感心した。


「すごいな滝沢。めちゃくちゃ解りやすいよ!!」


目を輝かして資料を見ている沙月に対し、滝沢照れくさそうに口元を緩ませた。


「それほどでもない。いつも沙月にまかせっきりだからな。資料作りくらいは・・と思ってさ」


確かに。滝沢はいつも部活動が忙しくて、ほとんどの仕事(とはいっても雑用だが)は沙月がこなしていた。


それにしても、だ。


「でも滝沢、今度の日曜試合あんだろ?こんなの作ってる暇あったの?」


滝沢の眼前に資料を突きつけて言う。


滝沢は学園で最も活発な部活、バスケ部に所属していた。その中でも彼はレギュラーに選ばれるほどの実力の持ち主だった。ちなみに、この学園での彼のあだ名は「フレッシュボーイ」。基本素直で爽やかな滝沢にはぴったりなあだ名だった。


「平気だよ。ちゃんと計画的に作ってたから。ちょこっとずつなら練習にも響かない。」


「ほんとか?」


「ああ。」


「これでお前がレギュラー落ちになったりでもしたら、シャレになんねぇからな!」


沙月は唇を尖らせて、滝沢の肩に軽くパンチをした。音もしないようなその攻撃に、滝沢は楽しそうに笑った。


そして、まだキラキラした目で資料を眺めている沙月に、滝沢は意を決したように言った。


「沙月、そんなに僕を心配してくれてるんだったら、お願いが・・・あるんだけど。」





「んで?なんでそれでお前が滝沢の応援に行くことになるわけよ?」


日曜日、滝沢達バスケ部の練習試合・当日。響は沙月の付添で市内の体育館を訪れていた。


「しょうがないじゃん、約束しちゃったんだもん。」


あの日、滝沢は次の試合に応援に来てくれと沙月に頼んできたのだ。沙月にしてみれば断る理由もないし、資料を作ってくれた恩もある。


「それより、何で響まで来る必要があったんだよ?」


体育館内のキャットウォーク、手すりに顎を乗っけて沙月が睨んできた。


「別にいいだろ。暇すぎて死にそうだったの。」


沙月の睨みなどまるで無視して、響は手すりによっかかった。下では赤いユニフォームと白いユニフォームを身につけた選手たちが、熱い攻防戦を繰り広げていた。ちなみに、響達の学園は赤いユニフォームだ。どうやら今は赤が優勢のようだった。


「あ、滝沢!」


沙月のその声に、特に興味もなく試合を見ていた響は反応した。


その時ちょうど、赤いユニフォームの10番がスリーポイントシュートを決めた。


フレームにかすることもなく綺麗に入ったシュートに、観客が沸き立った。


なるほど、確かに上手いと思ったので、響はその選手が誰か気になり、顔を見た。


「げ」


「すごいな、滝沢。さっきから全然外さないし、めちゃくちゃ綺麗だぜ!」


沙月はすっかり興奮して、身を乗り出して試合に見入っている。


あー、面白くない。




「やったな、滝沢!!こんなに点差つけて勝つなんて。」


沙月は興奮冷めやまない様子で、滝沢にハイタッチをした。


響の眉がぴくりと動く。


「いや、沙月の応援があったからだよ。ありがとな、本当に来てくれて。」


滝沢は自分より少し小さい沙月の頭を軽く撫でた。


「約束だからな、当然だよ。」


一仕事したとでもいうように自慢げに、沙月は答えた。


滝沢はまだ撫でるのを止めない。


流石の我慢も限界だ。今日一日でどんだけ「滝沢」という単語を聞いたと思ってる!


「沙月、なんか飲み物買ってきてやれよ。滝沢に勝利の祝いだ。」


「なんで俺が?響が自分で行けばいいじゃん。」


「俺、今日金ない。勝つと思わなかったから。」


突っぱねるように言うと、計算通り、沙月は頬をめいいっぱい膨らませてずんずんと足音を立てながら飲み物を買いに行った。


沙月がいなくなり、滝沢のまとう空気が変わるのを響は感じ取っていた。


「・・・・お前さ」


「何」


「・・・沙月のこと」


「好きだけど?君には関係ないだろ、ただのお友達。」


「あ゛?!」


とうとう正体現したか。


沙月は自分のことをまるで解っていない。


いつもいつも響を羨ましがっているが、響からすれば意味不明だ。


沙月の瞳は一般的な黒目だが、くりくりとしていて愛らしい。顔も特別綺麗なわけではないが、ころころと変わる表情には引かれるものがあるのだ。昔っから変態どもに狙われていたという隠れた過去もある。(そのたびに響が排除していたため、沙月は気付いてないが)


何事も一生懸命に真面目にこなす姿には、保護欲と支配欲が刺激される。


「関係、か。確かに〈ただのお友達〉である俺にはなんの権利もない。だが、同情は出来る。」


「同情・・・・だと?」


訝しげに滝沢は響を見た。


「あぁ。沙月のやつ、たぶん、全く気が付いてないぞ。」


「え?」


キョトンとする滝沢に、少しばかりの優越感を得て、響は満足そうに笑う。


「どんなにアプローチしても沙月には伝わらないぜ。」


「フっ・・負け惜しみかい?学園の王子ともあろう人が。」


「じゃなくて・・・」


響が続きを言おうとしたとき、タイミングよく沙月がペットボトルを両手に抱えて、帰ってきた。


睨み合っている二人を見て、何事かと駆けてくる。


「何話してたの?」


「別に。そんなことよりさ、沙月・・・」


重そうにしていたペットボトルを何本か受け取り、響は沙月の耳元にかがみこんだ。


「好きだぜ。」


不意打ちの告白。


間近にいた滝沢は先を越されたことに、色を失った。


だが、


「知ってるよ。これで何回目だよ、響。ガキじゃないんだからそんな冗談やめろよな!全く。」


もう驚かないぞ、とでも言うように、腰に手をやりふんぞり返る。


ああ、やっぱりこの反応なんだな・・・


「冗談・・・ね。」


「あ、しまった!小銭取り忘れたっ。ちょっと取ってくる!」


沙月は慌てて来た道を走って戻って行った。


その様子を見て、滝沢は唖然としていた。


そんな滝沢を響は憐みの目で見る。


「わかったろ?俺は小学校の頃から言ってるが、これだ。あいつはスーパー天然ボーイなんだよ。」


はは、と軽く笑う。


「・・・・相手にとって不足なし。」


滝沢は眉間にしわを寄せ、重苦しい声を出した。


敵ながらにわかるぜ、その気持ち




小動物はいつまでも小動物のまま、狙われてることにも気が付かず、今日も放し飼いにされている。


そうして俺は今日も、近づく一つ一つに、嫉妬するのだ。


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