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酒は命の水だよな!

やっと酒を飲みます


「旅立つことになった」とは言っても、旅から旅への風来坊でもない限り「じゃあ、今すぐ」とか「明日の朝一で!」とはいかねえもんだ。

 

 俺にしたって鍛冶屋をやってる訳だし、タヌキはタヌキで何やら準備があるらしい。

 戻りがいつになるかもわからねえし、鉱山の中で鍛冶場を作れる場所も限られてる。

 ずっと使わずにいれば色々とガタが来て、戻って来た時に結局作り直しなんてこともあり得る。

 腕の方には問題無くても場所が無くて独立してねえ若いのも居る。

 ま、そんな訳で修行で世話になった親方のところに挨拶に行って、後を託す奴にも一声かけておきてえところだな。

 

 俺は、鍛冶場を簡単に掃除すると(いや、毎日きちんと掃除してるから、そんなに手間はかからねえんだよ)、置いてあった自分の道具と独立した時に貰ったオイルランプを手にそこを後にした。

 このオイルランプは灯りとしては大して役に立たない、長時間保つことを主とした作りになってる。

 親方のところから独立する時にもらったもので、ドワーフの鍛冶職の間では「種火分け」と言われてる。

 親方のところの種火を分けてもらって、独立した鍛冶場に最初の火を移すところから職人としての独り立ちが始まるってわけだ。

 料理人ののれん分けに近いな。


 独立してからずっと消えない様に保ち続けていたこの種火だが、流石に旅に持って出る訳にも、そのまま後に使う奴に渡す訳にもいかない。

 てなわけで親方のところにいっぺん返すってことにするわけだ。

 思い立って冒険者になるとかいう鍛冶屋もいねえわけではねえし、こういうのもちゃんと前例がある。

 勝手に適当にやっちまうわけにはいかねえってこったな。

 この辺がきちんと出来るか出来ないかで、結構まわりからの信頼とかは変わってきちまうもんだからよ、自分の興味のあること以外は面倒くさがりの多いドワーフでもちゃんとする奴が多いな。



 親方のトコに顔を出すと見習いやら、下働きやら、注文に来た穴掘りの連中やらでただでさえ暑い鍛冶場はサウナどころじゃねえ状態になってた。


「おう、親方は居るかい!」

「親方は外の商人の注文の品を届けるついでに次の注文の話し合いに……あ、戻ってきました!」

「おう、ゲッタじゃねえか! なんかおばば様に頼まれたんだって?」

「ええ、ま、良く分からねえけど、タヌキのお守りみてえなもんです」

「今日は鍛冶場の話か?」

「ええ、いつ戻れるんだか分かっちゃいねえんで、ここは若いのに譲って、戻ってこれたら自分の分はその時にでも考えりゃいいやってこって」

「おう、そうか、そっちは種火か、ま、それも預かっておくわ。若えのなぁ……そういや、セッタの奴がそろそろ独立してもいい腕になってたな。お前ぇの弟だし、ちょうどいいんじゃねえか!?」

 セッタかぁ……。

 いや、雪駄とはなんも関係ねえよ?

 俺の父親がダッタ、兄貴がバッタ、弟がセッタで一文字変えただけって、あんま親父が考えてねえでつけた名前ってのが丸分かりだろ?

 弟のセッタは悪ぃ奴じゃねえんだけどよ、なんつうの? 俺のことを過剰に尊敬してやがんだよ。兄貴のバッタが問題アリだった分、余計によ。

 馬鹿にされるよりはいいけどよ、こう、傍にいるとちょっと息が詰まるっていうか、鬱陶しいっていうか、向こうに落ち度が全くねえってのがこれまた余計厄介でなぁ……。


「親方の方で問題無ければ、それで構いませんや。にしてもセッタの奴が独り立ちねぇ、なんか祝ってやらねえと……」

「おう、あいつならお前ぇがくれたもん拝みかねねぇけどな。まあ、兄弟仲良くていいことだよな!」

 兄貴は惚れた女の尻追っかけて別な鉱山行ったっきり音信不通だけどな。

 親父はいいにしろ、お袋に心配かけたままってのはなぁ、褒められたもんじゃねえわな。

 今回の旅で見かけることがあったら、ぶん殴ってやらねえとな!


 セッタの祝いには、俺の使ってるピックアックスを作った時に一緒に作ったもので、出来はいいのにしっくりと来なかったバトルハンマーをくれてやろう。

 直接顔を合わしてってのもなんだからな、鍛冶場に手紙と一緒に置いておけばいいだろう。

 

 さて、後は荷造りといったトコなんだが……。


「さて、ゲッタの旅立ちとセッタの独立となっちゃ、飲まずにいる訳にはいかねえよな! おう、ダンド、奥から樽を引っ張り出して来いや!」


 まあ、こうなるわな。

 嬉しいことも、悲しいことも、目出度ぇことも、辛ぇことも、全部ドワーフにとっちゃ酒の肴だ。


「女衆に頼んでなんか作ってもらってきますね!」

「おう気が利くな! 頼むわ!」

「親方、これ、どっちの樽ですか?」

「どっちもこっちも両方飲んじまえばいいだけだろうが!?」

「お、セッタ、来たな!」

「兄さん! 旅に出るとか聞いたんですけど?」

「おう、おばば様に言われちゃ仕方ねえわな。それでもって、お前が俺の鍛冶場の後を継ぐことになったからな? まあ、何回か遊びに来てたから勝手は分かんだろ? 足りないもんや分かんねえもんは親方や兄弟子を頼れや!」

「おうし、セッタも来たところでまずは乾杯といくか! ゲッタの門出とセッタの独立に乾~杯~!」

「「「「「乾~杯~!!」」」」


 おわっ、親方いい酒引っ張り出してきたな、おい。

 くぅーっ! こりゃ、髭に飲ませちまうのがもったいねえぞ!

 どうしてもモジャモジャ髭のドワーフは飲み物飲むと口の周りの髭にいくらか取られちまうんだよな。

 酒がねえ時に口ひげしゃぶるいじ汚ねえドワーフも居るんだぜ、冗談抜きに。

 カァーっ、きくねぇ、お、セッタ、コップが空じゃねえか、飲め、飲め!


 おう、返杯か、にしてもセッタもでかくなったもんだよなぁ。

 親父やお袋もって、おう、そうだ、誰かに伝えてもらわねえとよ、な、そうだろ、セッタ。

 下働きの、ゴイツの弟、なんってったっけ?

 モイツか、おう、モイツ、お駄賃あげるから、ウチんとこの親父とお袋によ、セッタが独立することに決まったって伝えてきちゃくれないか?

 おう、なんだ、これ飲んでみてえのか?

 じゃ、軽くな?

 途中で寝てたなんてのは洒落にならねえからな?

 そんなに弱くねえってか?

 まあ、あと一杯分は確保しといてやるから頼むわ!


「ここかい、飲んべたちが飲む理由見つけて燥いでる場所ってのは!」

「おう、食い物だ、食い物だ!」

「おら、そこ、下空けろ、皿置けねえだろ!」

「熱いから気を付けるんだよ!」

「いただきまーす!」

「まだまだ運んでくるからね、あんまがっつくんじゃないよ!」


 おお、鹿の腿の削ぎ焼きか?

 鶏のローストもあるな!


 ドワーフってのは食い物に五月蠅くないけど五月蠅い。

 どういうことかってえと、腹を膨らますための食い物には五月蠅くないが、酒をおいしく飲むための食い物には五月蠅いってこった。


 人間は酔っぱらうと味覚とかいい加減になって、塩っ気が強けりゃそれでいいって感じになっちまうんだが、ドワーフの場合は舌が冴えるんだよ。逆に酒無しならそんなに敏感じゃないんで、腹いっぱい食うことを主目的にする場合は味はあまり必要ねえんだ。

 

 酒場で一番味に五月蠅いのがドワーフだって話だ。

 エルフの連中は素材には五月蠅いが調理法にはあんまこだわってねえらしい。

 まあ、塩、時々香辛料って味付けだからなぁ、大抵の料理は。こだわりようが無えって言えば無えんだけどな!

 味噌と醤油なぁ……ありゃぁ嬉しいけどねえもんは仕方ねえよな?

 菌の概念が無えし(その癖、酒や酢はあるんだよな)、もし似た菌とか酵母とかあっても元の世界とは同じはずがねえし。

 魔力もあるし、モンスターも居るんだぜ?

 同じだって考える方がおかしいだろ?


 ウルトラセブンかなんかに体に入っちまう、すげえちっこい怪獣とか居たけど、そんな感じですげえちっこい菌のモンスターとか居るかも知れねえだろ?

 まあ、せっかく旅に出るんだから、なんかいい調味料とかも探してみてえとは思うがな?


 あー、セッタが潰れちまったか。

 真面目にいちいち注がれるのを飲み干してたんだな?

 その辺の狡さが無い点が長所でもあり、欠点でもあるんだよな、こいつは……。

 まあ、いい鍛冶屋にはなるんじゃねえか?


 親方はご機嫌だな。

 セッタの独立が気にかかってたのかもしれないな。

 目途がついてほっとしたってところか?


 俺の心配?

 俺はなんでか知らねえけどよ、周りの奴から「殺しても死なねえ奴だ」って思われてんだよな……。

 ドワーフに生まれてから、幼児期は分からねえけどよ、お袋以外からなんかまともに心配してもらったって経験ねえんだよ。

 親方も「ゲッタなら心配要らねえ」ってなんの根拠もなしに思ってるんだよなぁ……。


「はいお待ち!」

「おい、直接フォーク突っ込んでんじゃねえぞ!」

「ん、揚げた芋の匂いが!」

「ほら、空いた皿は寄越しな! でもって新しい料理だよ!」


 トカゲのスープに芋のフライか。

 洞窟暮らしのドワーフにとっちゃトカゲも貴重な蛋白源だからな。

 ガキの頃、ご馳走だって喜んでたんで、抵抗感とかねえな。

 いや、ファンタジー定番のドラゴンステーキだって、でけえトカゲじゃねえか!


 あーあ、セッタが隅に転がされて、主役の一人じゃねえのかよ!

 しゃあない。

 親父とお袋に挨拶するついでだ。

 俺が背負って寝床に運ぶか。


「ちょっとセッタを寝床に放り込んできます」

「おう、セッタは潰れたか! いい酒飲ませ過ぎたか? ガッハッハッハハ……」


 あんまり変な酔い方をドワーフはしねえんだが、やっぱ素面の時に比べると4割増しくらいに馬鹿になってるな。

 みんな馬鹿な時に醒めちまうとキツいんだよなぁ……。

 俺はドワーフの中でも特に肝臓が強いみてぇでな?

 他の奴より酔いが醒めるのがはええんだわ。

 今日はまだ、そんなに飲んでねえしなぁ。


 ……セッタの奴も重くなったなぁ。

 まあ、前におぶったのなんかガキの頃だしな。

 比べもんにはならねえわな。

 ちっちぇ頃は「冒険者になってドラゴンを倒す!」とか言ってやがった癖に鍛冶屋になっちまうとはなぁ……。

 俺の後なんか追いかけたっていいことねえのによ。


「おう、お袋居る?」

「ゲッタかい? あらあらセッタは潰れちゃったのね、この子はお父さんに似てお酒強くないから」

「寝床放り込みに来た、あー、あと聞いてはいると思うけどよ、おばば様に言われてタヌキのお守りをすることになってな」

「ムジーナ様でしょ? 大事なお仕事みたいだし、頑張るのよ」

「あ、ああ。親父は?」

「セッタのことが嬉しかったらしくてね、一人で酒盛りやって寝ちゃったわ」

「あー、そっか、ま、そんな訳でちゃんと顔見せに来れるか分からなかったからよ、この後。こいつ送るついでに顔見せに来たんだけど、ま、いっか、よろしく伝えといてくれよ」

「あー、ちょっと待ちなさい。セッタをとりあえず寝かせたら少し待ってて頂戴」

「あ、ああ、じゃ寝かせてくる」


 ……まあ、なんつうか、本当に寝るためだけの場所だな、おい。

 ガキの頃はこのせまっちいとこに兄弟三人で居たなんて信じられねえよな?

 こいつも独り立ちしたし、所帯でも持てばここを出てくことになるんだから、構わねえのか?


「はい、これ。肌着縫っといたから……。あんたは平気で穴開いたの着るからね、たぶん、まともなのないでしょ?」

「いや、たまに買ってるぞ?」

「いいから持っていきなさい!」

「あ、ああ、ありがとな」

「気を付けていくのよ、外で危ないことしないのよ、元気でね!」

「お袋も体大事にしろよ! だんだん無理がきかなくなるんだからな! でもってセッタこき使えよ!」


 酒盛りに戻る前に寝床に寄って道具と一緒に置いてくか……。

 前世でまともに親孝行出来なかった分も、こっちでは孝行したいと思ってたんだがなぁ、相変わらず心配かけっぱなしか……。

 親ってのは有り難えよな……。


 ……おう、お待たせ!

 駆けつけ三杯ってか?

 おいおい、樽で三杯は流石に無理だぞ?




まだ旅立ってません(;´Д`)

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